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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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雨音と進級 /その2




「納得がいかない。何でお前が雨音に勉強を教えるんだよ」


「ついてくるなよ、図々しいな」



 雨音とあいつの後を追って、たどり着いたのは校舎の隅にある謎の部屋だった。表に、演劇部って書いてあった気がする。部室?でもうちの学校、演劇部存在しないじゃん。何この空間。沢山の衣装や小道具が並んでいて……ああ、もしかしてこいつの変なコスプレはここの……いや、そんなのは今どうでもよくて。

 こんな密室に雨音を連れ込んで、何をするつもりだ。あ、勉強か。そうか。机を並べて、教科書開いて……うん、普通に勉強会が始まったな。……でも、一緒に勉強するのは俺でいいじゃん?何でお前なの?俺、今この空間で図々しい?そんなことってある?いや、ないはずた。だって俺、雨音の彼氏だし。



「普通に考えて、図々しいのはお前だろ。今回は、お前の出る幕はないと思う。勉強なら俺が教える。雨音、これはこーやってこう。そんな感じで、これやっといて。……大体、俺と雨音は付き合ってるんだしさ。お前はとっとと身を引いた方が」


「関係ないね」


「は?」


「付き合ってるくらいで調子に乗るなよ、青葉七色。たかが、付き合ってるくらいで。そんなもの、これから始まる僕と雨音さんのラブストーリーの障害物にすらならない」


「いや、でも……雨音と付き合ってるのは凄くない?正直、お前も羨ましいんじゃないの?」


「羨ましくなんかないし!そういうのを調子に乗ってるって言うんだよ!!大体学生カップルなんて、大概が破局するんだ。お前はせいぜい、刹那の幸せを噛み締めるがいいさ。最後に勝つのはこの僕だ!……あ、でもたかが付き合ってるだけの分際で雨音さんに手を出そうものなら殺す。まじで殺す。さすがの救世主(メシア)もこればかりは許さない」


「…………」



 随分物騒な救世主(メシア)だな。

 それに手を出すなとか言われても……最近は雨音に過剰にスキンシップを拒まれていて、なんというか、手を出す以前の問題というか。前はハグまではいけてたと思うんだけど、最近は手を繋ぐのすらたまに拒まれているような気が……何で?俺が悪いのかな?それとも、女子って付き合うとみんなこんな感じなの……?わ、分からない。



「急に黙り込むなよ、気持ち悪い。やっぱりこいつはやめた方がいいと思いますよ、雨音さん。こいつの本性は、ただの性癖異常者だ。無理。キモい。穢らわしい。いい加減、邪魔者はさっさと消えやがれ。土に還れ!」



 散々罵倒された挙句、塩を撒かれた。やめろ、つぶつぶする。何なんだこいつ。



「やっぱりどう考えても邪魔なのはそっちというか。雨音は俺と一緒に勉強したいって思ってるはずだし。俺は彼氏だから、彼女である雨音の面倒を見る責任があるし」


「お前調子乗りすぎでほんとムカつく」


「雨音からも何か言ってやれよ。これじゃ勉強に集中できないだろ。なあ、雨音?……雨音?…………寝てる!」


「寝顔も美しいです雨音さん」



 いや、確かにそうだけど。そんな呑気なこと言ってる場合じゃなくない?



「雨音!起きろ!起きろって!お前……進級かかってるんだぞ!?寝てる暇ないって!!」


「うーん……おはようございます……」


「はい、おはようございます雨音さん」


「一問も進んでないし。さっき俺が説明したとこも全然できてないし……」


「ご、ごめんなさい」


「謝ることないですよ、雨音さん。勝手に割り込んできたくせに、教えるのが大層下手なこいつが悪いだけなんですから」


「はあ?そんなはずは……」


「………………」



 雨音は、少し困った顔をしている。えっ、嘘、俺教えるの下手だった?



「さあ、雨音さん。今のとこ、僕と一緒にやってみましょう。最初は解説を見ながらでもいいので。ゆっくり解きましょう」


「うん……」


「……ていうか、お前1年じゃん。2年の内容分からないのに教えられるのかよ」


「僕もゼロから一緒に勉強すればいいだけだ。分からないくらいがちょうどいい」


「はあ?」



 俺が抗議の意味を込めて朝日を睨みつけると、朝日も負けじと俺を睨み返してきた。



「お前は本当にムカつく野郎だな。いいか、はっきり言うぞ。お前は人に勉強を教えるのに向いていない!何故だか分かるか、青葉七色?」


「分かりません……」



「お前は、勉強ができない人の気持ちが分からないからだ」



「…………」


「できました!」


「あ、惜しいです雨音さん。ここだけちょっと違うと思います。そうですそうです、そんな感じです。さすが雨音さん。自力でちゃんと解けましたね、えらいです」


「えへへ」


「………………」



 ……確かに、雨音に勉強を教えるのは、あいつの方が向いているような気がしてきた。俺はそんな風に辛抱強く待ったり、いちいち褒めたりとかはできないと思う。

 今回に限っては、俺にできることはないのかもしれない。



「……分かったよ」


「七色……?」



 不安ではあるけれど、俺はその場を去ることにした。

 あ、でも雨音は少しさみしそうだな。

 やっぱり俺がいないと……!



「雨音さん、あいつのことは放っておいて。今はこの僕を……あなたの救世主(メシア)だけを見て」


「はい……」



 …………あれ?

 え、俺先に帰っちゃうけど……いいの?


 二人は黙々と勉強を続けている。

 あいつら、結構真面目だな。そっか、雨音は俺がいなくても大丈夫なのか。そうか。


 あれ、なんかすごく辛くなってきた。

 俺、今回本当に邪魔者?役立たず?

 どうしよう、俺はどうすればいいんだろう。


 とりあえず、帰るしかないか。うん。



 …………?

 ほんとにいいの……?雨音、俺ほんとに帰っちゃうけど……?



「さっさと帰れよお前」


「七色、とりあえずお帰りください」


「はい……」




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