雨音と進級 /その1
ある日の放課後。といっても、今日は授業が少し早く終わったので、まだ明るい時間帯。
こういう時は、学校帰りに寄り道して……放課後デートとか。そういうのもいいかもしれない。だってほら、せっかく……つ、付き合ってるんだし。よし、そうしよう。
なんて思っていたら、雨音の方から声をかけられた。
「……七色に大切なお話があります」
「え?……雨音、お前何そんな深刻な顔して……ま、まさか別れ話!?もう!?お、俺は嫌だからな、絶対嫌だ!何がなんでも別れるもんか!雨音、お願いします、俺のこと捨てないで!」
「そういう話じゃなくて、これを見てください」
「? この前のテストの結果?」
「そう。七色ならこの点数を見て、何かお気づきになることがあるのではないでしょうか……」
雨音から、期末テストの結果がまとめられた用紙を受け取る。どれどれ、端から順に12点、5点、16点、7点……うわ、相変わらずひどいな。雨音、1つも赤点超えてないじゃん。どうやったらこんな点数が取れるんだ。
さすがにこれは留年にリーチかかって……ん?
「……まさか、留年?」
「その一歩手前、崖っぷち雨音です。……えへへ」
「笑えない……」
♢♢♢♢♢
とりあえず非常事態なので、今日はそのまま教室に残って緊急会議を行うことになったのであった。
「そうだよな、お前、勉強どころじゃなかったもんな」
「七色も同じくらいそれどころじゃなかったと思うんだけど……どうしてこんなに差があるんだろう、納得いかないなぁ」
俺の方は、今回のテストの結果が悪いとか、そういうのはなかった。まあ、いつもどうり。そんな感じ。
「俺はほら、勉強は得意だから。雨音もさ、体育は成績いいじゃん。体育だけはさ」
「えへへ……私は元気だけが取り柄だからね。担任の先生にも、それだけは褒められた」
「他は壊滅的だからな……で、ちゃんと進級できる可能性はあるのか?」
「うーんと、そうだね。可能性はゼロではないよ。この前校長室に呼び出された時に色々聞いて……」
「え? 校長室?」
「うん。校長室にお父様と一緒に来て下さいって連絡が来て。校長先生と学年主任と担任の先生に囲まれて、色々と難しい話を……」
「思ったよりも深刻な留年の危機だ!」
「お父様にも、ちゃんと勉強しなさいって怒られちゃった。えへへ」
「なんでちょっと嬉しそうなんだ……」
「お父様も同じ感じで頭抱えてた」
「だろうなぁ……」
「とにかく、進級の条件を七色にも教えておくね」
雨音、曰く。
ある程度の科目は先生の温情により、出席や提出物、追加課題、補習などで赤点を補うことが可能である。しかし、それでも点数が低すぎて何ともならない英語、数学、物理は……1週間後に追試を受けて、3つとも赤点の30点を越えれば留年回避、ということになったそうだ。
「これは、余裕なんじゃ……あ、でも雨音は今まで一度も赤点を超えたことがないから、難しいのか……?」
「未知の領域」
「だよなぁ。……そもそも雨音がこの学校にいるのも、ちょっと謎というか。いや、会えて嬉しいんだけどさ。結構ここ、入るの難しい学校だから……」
「そうなの? うーん、色々な力が働いたんじゃないかなぁ……あと、卒業生に研究の関係者がいるみたいだから、そういう都合なのかも」
「納得って感じだ。でもまあ、とりあえず。追試まであと1週間あるし。勉強は俺が教えるから、一緒に頑張ろう」
「それはやめておいた方がいいですよ」
俺と雨音の会話を遮るように、ある男が割って入ってきた。
「うわっ、お前は……」
「圭くん」
突如教室に現れたのは、謎の……神父?宣教師?みたいな格好をした変な男。何その衣装。
「こんにちは、雨音さん。あなたの救世主、朝日圭です」
「どういうキャラなんだよそれは」
「僕には視えます。雨音さんがそいつと一緒に勉強することで訪れる未来が」
「無視すんなよ」
「このままでは、雨音さんは留年してしまうでしょう。僕は雨音さんと一緒の学年になれるので、その方が嬉しいんですけど。でも雨音さんのためを思うなら、僕は私利私欲を捨てなければならない。なぜなら僕は、救世主なのだから……」
こいつ、だいぶやばい奴だな。そんな気がする。
雨音、あんまりこういうのとは関わらない方がいいぞ。
そんなことを考えながら、ふと隣の雨音の様子を見ると……雨音はきらきらと目を輝かせて……ん?
「かっこいい……!」
「え、これが?嘘だろ?目を覚ませ雨音」
「さあ、お嬢さん。この手をとって、一緒に行きましょう。僕とともに、未来を変えるために!」
「はい……」
「え?は?ちょっ、ふざけんなお前」
雨音は、あいつに手を引かれてあっという間にどこかへ連れ去られてしまった……。
「あ、雨音を返せーーー!!!!」
せっかく、雨音と二人で勉強会……とかそういう流れだったのに!邪魔すんなよ!!




