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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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バレンタイン当日編 /その2




「雨音さん!」


「あなたは……」


「お久しぶりです、僕、朝日圭です。直接会うのはこれで4回目ですね。……僕のこと、覚えてますか?」



 放課後、人の少なくなった学校の廊下で、かっこいい男の子に声をかけられた。この子とは前に一緒にお話したことがある。「テキサス警察24時」というドラマを知っていて、俳優になるのが夢で、1つ下の学年の……私は、そんな朝日くんのファン1号ということになっている。



「うん、もちろん覚えてるよ。朝日くん」


「あ、名前でお願いします」


「圭くん」


「……やばいめちゃくちゃ好き」


「?」


「ごめんなさい、何でもないです。……で、本題なんですけど。今日は、文化祭の時の続きをさせて下さい」



 文化祭……あ、そういえばステージの時に色々あったような……えっと……確か……………あっ、そうだ!返事!



「雨音さん、初めて見た時から好きでした。よければ……お友達からお願いします!!!!!」



 圭くんはそう言うと同時に、私に向かって勢いよく手を差し出した。



「……僕、一人で勝手に舞い上がってただけで、雨音さんのこと本当は何も理解してなかったって、反省したんです。だから、隠れてこそこそ付きまとうのは、もうやめます」


「雨音さん。僕は、あなたと仲良くなりたい……です」


「…………圭くん」


「!」



 ……差し出された手と、手を繋いで、握手。これで私たち、友だちになれたかな。



「私もあなたと仲良くなりたい。これから、よろしくお願いします」


「……末永く、よろしくお願いします!」



 圭くん、なんだか笑顔が眩しい。きらきらしてる。とてもかっこいい。あれ、でも少しこの前と違う?どこだろう……あ、制服の乱れ?



「そういえば、今日はボロボロだね?それと、ちょっと疲れてる?どうかしたの?」


「今日はバレンタインなので、チョコを渡そうとしてくる女の子たちに朝から追いかけ回されて。結局毎年こんな感じになっちゃって……今日は僕、サバンナで女豹に狙われたアルパカの気持ちです」


「かわいそうに……」



 そっか。圭くんも、先週のテキサス警察24時のサバンナ回見たんだね。

 あれは、とても衝撃的だった。テキサスで犯罪を取り締まっている一方で、サバンナの大自然ではあんな命のやりとりが繰り広げられていたなんて……私、思わず号泣しちゃったもの。

 圭くんも、今日はそんな過酷な状況を生き延びたんだね。すごい。



「これ、たぶんまだ予備があったはずだから……どうぞ、お見舞い品です」



 圭くんに、多めに作って余っていたチョコカップケーキを差し出す。

 サバンナは弱肉強食。けれど、傷ついた者には優しくするのがルール。そうやって仲間と手を取り合い、この厳しいサバンナを今日も生きていく……(ここでテーマソング)



「あ、でも今日はもうチョコたくさんもらってるから、こういうのは嫌だよね。待ってね、何か別のもの……」


「い、いえ!それ、欲しいです!」



 そう言うと、圭くんは私の手から急いでカップケーキを奪い取った。そんなに焦らなくても、ここはサバンナじゃないから獲物は逃げないよ……?



「……普段は、手作り品は何が入ってるのか分からなくて危険なので、受け取り拒否してるんですけど…………雨音さんのは、特別です。すごく嬉しいです。ありがとうございます」



 圭くんとてもうれしそう。よかった、私もなんだかうれしくなっちゃう。えへへ。



「それにしても、今日はあいつ、いないんですね。最近はうざいくらい雨音さんにびったり張りついてたのに」


「えっと……七色は今日は、ふてくされちゃってて……教室でも目も合わせてくれなくて……うーん……」




♢♢♢♢♢




 放課後の教室。ふてくされ七色は机に突っ伏したまま動かない。今日は授業中もずっとこうだった。めんどくせーやつ。



「お前まだそーやっていじけてんの?」


「……いいよな、了は。雨音からチョコ貰えて。俺はまだ貰えてないのに」



 正確にはチョコカップケーキだけどな。雨音から貰ったカップケーキを取り出して、七色の目の前で食べる。これ見よがしに。



「あーうまいなー。雨音から貰ったカップケーキ。あいつ料理上手だなー」


「最悪……なんで俺だけ…………」



 確かに、お前だけ雨音から貰えてなかったな。雨音は、朝のうちに友達やお世話になった人にカップケーキを配っていたが…………七色には、何も渡さなかった。こいつはその事にだいぶショックを受けたみたいだけど。……それは逆に、意味があると思うぞ。

 まあでも。はたから見たら惨めで無様な負け犬だな、お前。



「ほら、これやるよ。あと、こっちはマキから」



 2つのチョコ菓子を七色に投げ渡す。お前にはこれで充分だ。



「……コンビニの安い既製品チョコもらっても嬉しくない」





「でも食べる」


「そういうとこ素直だなお前」



 七色は受け取ったチョコ菓子の1つをバリバリと食べた。

 …………ちっ、ハズレか。実は、既製品のパッケージは七色を騙すためのダミーだ。中身はマキとあたしの共同制作の別物。このチョコはどちらか1つが激辛スパイス入りの、2分の1ロシアンルーレット仕様になっている。



「そういえば、お前とマキは地味に毎年チョコくれるよな。思いっきり義理だけど」


「……幼なじみの情けだよ。感謝しろよ?」


「へいへい、ありがとな。……うわっ、何これ!?辛っ!!!?!!」



 2分の1だから両方食べれば確実に当たるってことだ。お前にかける情けはない。



「……言っておくけど。雨音のこと泣かせるような真似したら、あたしとマキでお前のことぶっ殺すから。ちゃんと肝に銘じておけよ」


「な、何だよ。こえーよ。あとすごく辛い…………」


「お前にも、はっきり言わないと伝わらないからな……」


「?」


「それと、盗んだ雨音の体操着。返すのは……キモいから、ちゃんと弁償して謝れよ。ほんとあれはマジで無理、キモすぎて引く。二度とやるなよ。犯罪だからな?」


「だからそれは冤罪だって。なんで俺そんなに信用ないの………?」



 信用?ある訳ないだろ。お前には常に色々な悪評が……まあ、それは今どうでもいいか。



「さて、あたしは帰るかな。もう遅いし」


「結局俺は、雨音からのチョコはなしか……」


「…………そうとも限らないんじゃないの? まあ、もう少しそこでいじけとけよ。じゃあな」


「………………」



 めんどくさい幼なじみを置いて教室を後にする。

 その後すぐ、廊下で雨音とすれ違った。

 早く行ってやんな。あいつ、お前のことずっと待ってたんだから。



「七色!……お、お待たせしました」



 雨音はぱたぱたと慌ただしく、教室に入っていく。


 …………明日は、七色からうざいノロケ話を聞かされなきゃいけないんだろうな。あー、めんどくせー……。




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