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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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お弁当

いわゆる2期。Season2!始まります。18話の少し前くらいの時系列です。




「昴くん、最近ちょっと痩せた?」


「え、そう?」


「というより、やつれた?」


「…………冬、だからかな」


「冬は、太りやすいって聞いたことあるけど」


「うーん、俺の場合逆なのかも……正月痩せ? 不思議だよね」



 年明け。俺、相沢昴の冬休みは特に何も無く過ぎて。

 また新しい一年が始まった。


 前と少し変わったことと言えば。

 秋の終わりあたりの頃から、毎日雨音さんと一緒にお昼を食べるようになったこと……くらいだろうか。


 暖房のよく効いた教室の片隅。雨音さんが今日もやってくる。

 ……俺はやっぱり、雨音さんの友達でしかないんだけど。

 少しだけ。二人で過ごすこの何気ない時間に……小さな幸せを感じていたりする。


 やっぱり冬はいいな。今日も肉まんがおいしい。



「……原因はそれだよ!」


「え?」


「昴くん最近、その肉まんしか食べてない気がする!」


「そ、そんなことないよ。カレーまんの時とかもあるし……」


「味の話じゃなくて!そういえば、昴くんはいつもコンビニのおにぎりとか、パンばっかり。今は肉まんだけど……」


「たまに学食でラーメンとかも食べるよ?」



 俺がありのままの食生活を告げると、雨音さんは体をふるふると震わせ少し怒った様子で口を開く。



「……栄養が、良くないんだよ。それじゃ、炭水化物とか、炭水化物ばっかりで、ビタミンが全然足りてない。お肌の調子もメンタルの調子も、悪くなっちゃう!健康の基本は、まずは栄養バランスから、なんだから!」


「うーん、じゃあ足りない栄養素はサプリとかで補うとして」


「その考え方がよくないよ!もっとこう、バランスのいいお弁当作るとか……」


「お弁当かぁ……俺、料理得意じゃないし、朝起きるのも苦手だし……」


「……! 私が作ればいっか」


「へ?」


「私が毎日食べているこのお弁当、実は早起きして自分で作っているのです」



 雨音さんはそう言うと、綺麗に彩られたお弁当を得意げに見せびらかした。



「え、そうなの?上手だね」


「でしょ、たくさん練習したもの」



 ……意外だなぁと思った。雨音さんはお嬢様だから、お弁当なんかもお家にいる執事さんとかメイドさんが用意してくれているのかと思っていた。

 


「一人分を作るのも、二人分を作るのも、手間は変わらないから。明日から、昴くんの分も作ってくるよ」



 雨音さんはそう言ってにっこりと笑う。

 ……あれ?いつの間にか何かとんでもないことになってる……?



「楽しみにしててね」


「あ、ありがとう……」




♢♢♢♢♢




「はいこれ、どーぞ」


「ほんとに作ってきてくれたんだ……」


「さあさあ、お口に合うかしら」


「……いただきます」


「………………おいしい?」


「うん、すごくおいしい」


「よかったぁ」


「なんかおいしすぎて、ちょっと涙腺にくる……」


「そんなに……?」


「……誰かにお弁当作ってもらうの、久々だなぁと思って。小学生の頃とかは、姉ちゃんが作ってくれてたんだけど。姉ちゃんがいなくなってからは、そういうの全くで…………ありがとう、雨音さん」


「昴くん……遠慮しないで、たくさん食べて!明日は、何がいい? やっぱりハンバーグ弁当とか、そういうのが好きかなぁ?」


「雨音さんの作ってくれるものなら、何でも好き……」


「ほんと? ピーマンの肉詰めとかも、嫌いじゃない?」


「……がんばって食べる」


「うんうん、作りがいがあるよ」


「……俺、雨音さんの作ったお味噌汁が毎日飲みたいなぁ」


「お味噌汁かぁ。水筒使えば、いけるかな。明日からそれも持ってくるね!」


「ありがとう、雨音さん。大好き」


「えへへ、よろこんで貰えてうれしいよ」


「……ちょっと待った、雨音」


「?」


「それはおかしくない?」


「どうしたの?七色?」


「こんにちは、青葉くん。何か用?」


「………………」




 ……雨音が昼休み、いつもどこかへふらっと出かけるもんだから、気になって後をつけた。

 そしたら発覚した、衝撃の事実。


 他の!!!!男!!!の!!所!!!に!!いる!?!!!!


 なんで……雨音、そんな…………俺というものがありながら…………!?


 そしてちゃっかり、地味なあの……何だっけ、えっと……相沢に。お弁当とか渡してるし。


 お弁当…………雨音………………




「俺の分は!?!?」


「七色は、自分のお家のお弁当があるじゃない」


「それはそうだけど……そういう問題じゃなくて!」



 雨音は不思議そうに首をかしげる。まさか、この事態の異様さに気がついていないのか!?……なら、今この場ではっきりと言う必要がある!



「……なんでそいつとイチャイチャしてんだよ!!!」


「? …………別に普通だよ?」


「いつもこんな感じですけど、何か?」


「お前なぁ……!」


 

 何食わぬ顔で雨音のお弁当を食べ続ける目の前の男のふざけた態度に、俺は堪忍袋の緒が切れた。


 雨音は悪くない。雨音はあれ、たぶん素でやってる。仕方ない。

 だから悪いのは、こいつ!!えっと誰だっけ!!!えっと、そう、相沢!!!!こいつが確実に確信犯!!!!!!!


 胸ぐらを掴みかかると、奴はそれでもなおもぐもぐと口を動かしながら食べ物を飲み込み、俺に悪態をついた。



「邪魔しないでくれるかな、青葉くん。食べにくいんだけど…………雨音さんが作ってくれたお弁当が」


「こ、このやろ〜!」


「七色、昴くんをいじめちゃだめ!」


「いや……だって、おかしいだろ、こんなの!」




「雨音の彼氏は俺なのに!!!!」




「……せっかく付き合ってるのに、昼休みも一緒に過ごせないなんて。それどころか、よく分かんない男にお弁当作ってくるとか…………ありえないだろ。こんなのおかしい、間違ってるよ雨音」


「七色…………」





「私たちって、付き合ってるの?」




「は?」


「え、雨音さんこいつと付き合ってなかったの?」


「うん」




「え…………嘘だろ、ちょっと待ってよ」


「だって、今まで散々……え?何で?どういうこと?」


「えっ?俺たち付き合ってなかったの?まじで?あんなに告白して、色々あったのに?この前一緒に初詣とか行ったのに??……そんなことってある????」



「じゃあ、雨音さん……俺、まだ雨音さんのこと好きでいてもいいのかな……?」


「昴くん…………?」


「おいそこ!いい感じの雰囲気になるな!馬鹿!」




「まじでどうすればいいの、俺」



 ――――発覚した、衝撃の事実。


 俺はまだ、雨音と付き合っていなかったらしい……?




「俺、また一から?そういうこと?……どういうことなんだよーーーー!!!!」


「うるさいよ、七色…………」





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