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花は君のために  作者: 須田昆武
本編
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番外編 俺たちの戦いはこれからだ!その2



「ええ……俺、ほんとに図書室出入り禁止なの……?」


「すみません、相沢さん。僕たちも先輩の命令には逆らえなくて……しばらくは当番にも来なくてもいいので……ご退出下さい」


「そんな……」



 授業が午前で終わったある日のこと。俺は図書委員の当番のために図書室へ向かったものの、入口で後輩に追い返されてしまった。よく見ると、扉に貼られた「図書室出禁リスト」に俺の名前が書き加えられている。ああ、これ先輩の字だ。先輩、出禁の人増やすのもはや趣味なんじゃないかな……?この張り紙ももう3枚目で、述べ50人以上の名前が連なっている。俺もついにこれの仲間入りかぁ……。この図書室では、誰もあの先輩に逆らえない。



「困ったな、どこで時間潰そう……」


「おい!」



 扉の前で途方に暮れていると、あの男に背後から声をかけられた。



「お前、雨音さんに会ったか!?」


「…………急に何?雨音さんとはまだあれから会ってないけど……」



 ……文化祭の時に因縁が生まれた例の変人、朝日圭。

 態度がでかいのは相変わらずだけど……今日は少し、様子がおかしい。



「馬鹿野郎!僕は、今週仕事で海外にいたから雨音さんの様子見れなかったんだよ!」


「それがどうかしたの」



 君のことなんて、俺には関係ないけど。

 ……雨音さんに、何か関係あるのか?



「雨音さん、今週に入ってから一度も学校に来てなかったんだ!何か、重い病気なのかもしれない。お前、何で知らないんだよ!好きならそれくらい、把握しとけよ!」


「え…………?」



 そんなの、知らなかった。俺は雨音さんとクラスも離れてるし、廊下で会う以外に関わりはないし……そんなの、知る術なんて…………いいや、違う。本当は雨音さんに会う勇気がなくて、いつでも会えるはずなのに避けてた。だから俺は、雨音さんに会わずに済んで、この一週間ほっとしてて…………でもその裏で、雨音さんは学校に来てなくて、雨音さんの身に何か起こってて……?



「とにかく、僕は雨音さんの様子を見てくる。何か、嫌な予感がするんだ」


「ちょっと待って!」



 ……俺は、雨音さんの異変に気がつけなかった。自分のことばかり考えて……好きとか、それ以前に。友達として、俺、最低最悪だ。



「俺も行かせて欲しい。……雨音さん、実は文化祭前から元気なくて……でもそれが深刻なものだとは、俺、気づけなくて……嫌な予感がするのは、俺も同じなんだ。このまま放っておいたらいけない気がする。俺も、雨音さんに会いに行く」


「……余計な邪魔はするなよ」


「分かってる」



 今はこいつに対抗心を燃やしたり、くよくよと色んなことを考えている場合じゃない。

 とにかく、純粋に雨音さんのことが心配で、雨音さんに会いたい。


 ……こいつも、それは同じみたいだ。


 とりあえず、色々な因縁はなかったことにして。

 俺たちは雨音さんの様子を見に、雨音さんの家に向かうことになった。



「…………そういえば雨音さんの家、怖い人がいて、近づくと追い返されるんだけど……大丈夫かな」


「ああ、使用人の人だろ?気にすんなよ、あんなの。僕も何度警察を呼ばれかけたことか」


「……ちょっと待ってそれ、どういうこと?もしかしてストーカーって、君のことなんじゃ」


「おい、見ろよあれ」



 俺の言葉を遮って、朝日はとある人影に向かって指を指す。



「……今職員室に入っていった人?あの人が何?」


「あいつは、雨音さんと同じクラスの青葉七色って男だ。憎たらしいことに、雨音さんの隣の席でもある。そいつが職員室に入っていった、それがどういうことか分かるか?」


「全然分からない……」


「担任に雨音さんのこと、聞きに行ったんだよ。そうに決まってる。あいつは、雨音さんの体操着を盗んだことがあると噂されているやばい奴だ。おそらく、雨音さんにプリントを届けに行くとかそういう設定で、雨音さんの家に押し入ろうと計画しているに違いない」


「そ、そんなにやばい人なの?あのエセ不良みたいな人が?」


「ああ、そうだ。だいぶ有名な話だぞ。……お前、情報に疎すぎないか?友達いないの?」


「君が詳しすぎるだけだと思うけど……」


「とにかく、もう少し近くで様子を見よう」



 こいつ以上にやばい人間がいるなんて、思わなかった。もしかして雨音さん、変な人に好かれやすいのかな……?

 あ、でもそれだと俺も同類ってことになるの?それは普通に……普通に嫌だな。


 職員室の扉を少し開けて中を覗くと、2年A組の担任と揉めているように見える青葉七色の姿が見えた。微かではあるが、話している内容もここから聞き取れる。


 あっ、今住所って言った。あと、プリント届けるって。



「…………確かに、君の予想通り。雨音さんの住所を聞き出そうと必死だ」


「あいつは黒だな。あんな奴を雨音さんに近寄らせる訳にはいかない。僕が雨音さんを守らないと……!」


「うーん、そうだね。あの人は怪しい。挙動不審だし……プリントを届けに行くと言って何か企んでいるのは明らかだ」




「……でもそれって、逆に利用できないかな」


「どういうことだ?」


「あいつは正当な口実を盾に、何がなんでも雨音さんの家に行って雨音さんに会おうとするだろ。たぶん住所が分からなくても、家を特定するのは時間の問題だ」



 やばい人なら、住所の特定くらい執念で何とかしてしまうだろう。現に、俺も朝日もそれぞれ雨音さんの家の場所を知っている。……俺は雨音さんの忘れ物を届けただけであって、自分がやばい人間だとは認めたくないんだけど。


 あっ、今、郵便番号だけでもって聞こえた。あいつ、しらみつぶしに探す気だ。怖っ。



「……一番危ないのは、あいつを一人で泳がせることだと思うんだよね。窃盗の噂があって、雨音さんに危害を加える可能性だってある訳だから。だけど今なら俺たちがいるから、最低限雨音さんの安全は守れる」


「つまり、あいつを巻き込んでしまえば。雨音さんの家を教えてしまうことにはなるけど、俺たちも一応正当な口実を得て雨音さんに会えて、尚且つ雨音さんをあの変態から直接守ることができる。これはチャンスかもしれない」


「なるほどな。確かにリスクはあるが、悪くはない」



 担任から住所を聞き出すのに失敗した様子のあいつは、こちらの方へ戻ってきた。そろそろ隠れないと。

 それにしても、先生、ナイスです。あんな奴に住所を教えなくて正解です。体操着を盗んだ噂がある野郎とか……たとえ噂だったとしても、全く信用できない。できるはずがない。あなたの教師としての勘は正しい。



「じゃあ、さっきの方針で決定ってことで。今から、俺があの変態ゴミ屑野郎と交渉するから――君はしばらく黙っててね。君は口が悪いから、喧嘩になったら大変だ」


「お前もだいぶ悪いと思うけど……」



 今のはうっかり口が滑っただけだよ?


 とにかく、雨音さんを守り、そして雨音さんに会うために。



 作戦実行だ!




そして8話に続く。

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