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花は君のために  作者: 須田昆武
本編
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番外編 青葉七色という男



「何?そんなにそわそわして。もしかして俺に恋愛相談?」


「……別に違うし」



 最近遅めの反抗期に入った俺の幼馴染、青葉七色が久しぶりに買い食いしに行こうなんて言うから、のこのこついて行った。まあ近頃の様子を見るに、こいつのことはなんとなく察しがつく。



「ふーん。なるほどねー。相手は誰?まさか、花園雨音?」


「………………」


「あー。わかるー。お前好きそうだもんな、あーゆータイプ」



 6月頃に転校してきた花園さんは、容姿端麗、スタイル抜群、品行方正、スポーツ万能、成績……はよく分からんが、とにかくすごいメインヒロイン、いや、高嶺の花みたいな人だ。

 正直、俺も初めて見た時はちょっとテンションが上がった。高校で転校してくる人なんて珍しいし、何より美少女だ。学校中の男共がお祭り騒ぎで盛り上がった時期もあった。

 ……まあ、花園さんの周りにはいつも怖い女子たちがいて、男共はあまり近寄ることができずに事態は落ち着いたのだが。


 こいつは花園さんの隣の席だから、お近づきになる機会も多くてまんまと落とされたという訳だ。耐性無さそうだもんなー。まあ男として気持ちは分かるけど。あんな高嶺の花をねぇ。ふーん。



「んで、どーすれば付き合えるかとか考えてる訳だ」


「そ、そんなんじゃないけど。一応、参考までに?たまにはカズの意見でも聞いてみようかと思っただけだし」


「俺はお前とは違ってモテるからなー。参考にはなんねーぞ」


「そんなのは分かってるけど……」



 とき●モで例えると、初見プレイで藤崎●織に挑んで撃沈する、お前はそんな奴だ。実際にやらせたらそうだった。まさか現実でも同じ道を辿ることになるとは。



「まずさ、お前。花園さんと仲良いの?」


「……まあ、それなりには」


「花園さんのどのへんが好きなわけ?」


「それは、話せば長くなる」


「じゃあパス。めんどくさ」



 目の前の幼馴染は露骨にショックを受けた顔で固まっている。おもしれーなー、こいつ。



「嘘だって、ナナちゃん。ほらほら、大親友の鈴木一真(すずきかずま)様に話してみ」


「ナナちゃんって呼ぶな!」



 ほら、このへんが反抗期。んで、青葉七色の長々とした回想が始まるのであった。




♢♢♢♢♢




 放課後、校庭から屋上を見上げると人影が見えた気がした。屋上へ続く校舎内の階段……はいつも鍵がかかっているので、外側の非常階段から侵入する。これがいつものルート。たどり着いたその場所には、やっぱり雨音がいた。



「……こんなとこで何やってんの?」


「うーん、パトロール?」


「なんだそれ」


「さっきまで、晴れてたから…………それに雲が、変な形だなーと思って。ほら、あれ」


「ほんとだ。ちょっと暗くなってきた気もするし、雨が降るかもな」


「……あ、もう降ってきた」


「強くなる前に戻ろうぜ」


「うん」



 少し歩いたところで、雨音は思い出したように呟いた。



「今日、傘持ってきてないや」


「…………俺は、あるけど」



 これは、もしかして。フラグというやつでは。



「雨音、良ければ一緒に帰――」


「ひゃぅ!」



 空が明るく光った。すぐにゴロゴロと大きな雷鳴が轟く。雷はだいぶ近いみたいだ。雨音は目の前で小さく縮こまっている。



「大丈夫か?」


「ちょっと、びっくりした……」


「一気に天気悪くなってきたし、これはたぶん」



 言い終える前に、バケツの水を一気にひっくり返したみたいな土砂降りの雨が降ってくる。



「…………ゲリラ豪雨」



 ああ、もうこれ、傘どころじゃないな……。




♢♢♢♢♢




「つめたっ!」


「すごい雨だったね」



 俺たちは走って校舎の中に戻ったが、もう手遅れだった。全身ずぶ濡れで、冷たいし気持ちが悪い。



「……………うわ」



 ふと、隣を見ると。まあ、察してほしいんだけど。雨に濡れて制服が張り付き、色々と透けていらっしゃる雨音がいた。

 …………ピンクか。あれ、雨音って細く見えるけど、もしかして意外と胸でかい…………?

 凝視していたせいで、雨音とばっちり目が合う。



「ご、ごめん!何も見てないから!」


「…………七色のえっち」


「ほんと、ごめんなさい」


「……これはちょっとよくないね」



 ちょっとどころか、大変よろしくない。いや、とてもいいんだけど。健全な男子高校生には少しばかり刺激が強すぎる。



「着替え取ってこなきゃ」



 そう言うと、雨音は教室に向かって歩き出した。



「待て!雨音!」


「?」


「……その格好で歩き回るのはやめた方がいいと思います」


「えー、でも教室にジャージが」



 えー、じゃない。放課後とはいえ、部活で残ってる生徒は沢山いる。それこそ、健全な男子高校生がうじゃうじゃと大量にいるんだぞ。分かってるのか? ……分かってなさそうだな。



「それは俺が取ってくるから!そのへんで隠れて待ってて!じっとしとけよ!」


「……はーい」




♢♢♢♢♢




 そこから先は、実は俺も知っている。

 七色がちょうど花園さんのロッカーからジャージを持って走り去るのを、影で目撃していた。偶然居合わせたバレー部の水原さんと共に。



「か、一真くん。今、あたしは見てはいけないものを見てしまったような気が」


「奇遇だな、水原さん。俺もだ」


「あれ、雨音のロッカーだよね。どうして青葉くんが雨音のロッカーから体操着を……?」


「きっとそういうお年頃なんだ。好きな子の体操着を盗まずにはいられなかったんだろう。あいつは昔からそういう奴だった……」


「そんな…………なんてこと………………!」



 七色は女子の体操着を盗むような人間ではない。そんな度胸はあいつにないからな。おそらく理由があってのことだろうが……まあ、面白いからなんでもいいや。



「あいつの罪は幼馴染の俺が償わせる……だから、このことは秘密にしてやってくれないか」


「分かった。このことは誰にも言わない。あたし、青葉くんはやり直せるって信じてる。いつかはきっと、真っ当な人間になれるって」



 この時は笑いをこらえて真顔を保つのに苦労した。俺はよく耐えたと思う。ちなみに、水原さんが部活に行った後すぐ、俺はジャージ姿の花園さんが廊下を歩いているのを見かけている。なるほど、これでさっきの七色の話と繋がるって訳だ。


 ……んで、大変なのはここから。声のでかい水原さんによって噂は一瞬で広まった。怖い女子たちによる男子への当たりが強くなったのもこの頃からだと思う。


 次の日、花園さんが珍しく体育を見学して「昨日家でジャージを洗濯したら、持ってくるを忘れました……」なんて元気なく言うもんだから、噂の信憑性も更に高まった。犯人の七色は風邪で学校休むし。言い逃れが出来ないような状況が完成していた。俺は爆笑した。


 七色は自分のことに疎いから、未だに噂にも人の目にも、何も気づいていないようだ。うん、面白いからもう少し黙っておこう。




♢♢♢♢♢




「で、その時に雨音が……おい、お前聞いてないだろ」


「あー、ごめん。飽きてた」


「………………」


「拗ねんなよナナちゃん」


「ナナちゃんじゃない」


「ぶっちゃけ、そんな話はどうでもいいじゃん?」


「お前が聞いたんだろ」



 人のノロケ話なんてつまらないもの、長々とは聞きたくないもんだ。大してエロい話でもないし。前半の濡れ透け制服でピークは終わっている。



「まあ、要するに。客観的に見て脈があるかないか、冷静に判断して欲しいんだろ? なら、たぶん大丈夫だよ。可能性は充分にある」


「…………そう思う?」


「思う思う。まずは当たって砕けろだ」


「砕けたくはないんだけど……」


「お前ならすぐ立ち直れる」


「砕けるの前提かよ!…………でもそうだな。まずはやってみなきゃ分からないよな。ありがとう一真。俺、頑張ってみる」


「ああ、頑張れよ」



 グッドラック、七色。俺は期待しているぞ。


 ……そして夏休みに突入して1週間くらい経った頃。七色から、花園雨音に振られたとの報告が入った。細かく聞くと、見事な玉砕っぷりで爆笑した。さすが期待を裏切らない男、青葉七色。




♢♢♢♢♢




 時は流れて、今は文化祭前日。作業で夜遅くまで残っていた俺は、教室の前で固まっている花園雨音に遭遇した。



「あれ、雨音さんどうしたの?」


「な、なんでもないよ」



 そう言うと、彼女は廊下を走り去って行った。教室の中には七色と、それからクラスメイトの渡瀬雪(わたせゆき)ちゃん。ああ、そういうこと? へえ…………なんて思ってたら、七色も走って行ってしまった。おいおい、まじかよ。


 取り残された雪ちゃんは、その場に座り込んでいる。



「…………おーい、大丈夫?」


「ありえない……」



 返事はある。大丈夫そうだ。



「女の子の告白放置して、他の女を追いかけていくとか、ありえる!?ありえなくないですか!?」


「あー、だよなー。まじありえないと思う」


「ほんっと、なんなの…………」



 俯いていて顔は見えないけど、泣いてるんだろうな。声が震えている。



「あいつ、悪気は無いんだけどさ。フラグクラッシャーなとこあるから。逆に告白するとこまでいけた人は初めて見たよ」


「意味わかんない…………」


「ムカつくよな、腹立つよな。わかる。一発くらい殴っても許されると思うぞ」


「…………」


「……」


「家の教えで、試合以外では人に暴力はだめって言われてるけど……今日だけは、いいかな……?」



 物騒な展開になってきた。面白そうな予感がする。



「ちなみに渡瀬さん、お家は……」


「総合格闘技のジム」


「わお」



 小柄で女の子らしくて、動物で例えるとうさぎみたいな雪ちゃんだが、そんな隠し球があるとは知らなかった。いいね、そういうの。

 耳を澄ますと、遠くから近づいてくる足音が聞こえてくる。



「あ、やべ。七色戻ってきた。じゃあ俺、影で見守ってるから。一発かましてこい!」



 そして俺は物陰へ。さて、どうなるかな。



「ごめん、さっきは。えっと、で……なんだっけ…………」


「あなたのことはもう好きではなくなりました」


「え」


「歯ぁ食いしばりなさい!」



 ズドンと重く響く暴力の音が聞こえた。

 ……いいパンチだ。俺は絶対に食らいたくないね。


 七色はそのまま倒れて動かなくなった。あっ、みぞおちやられたのか。ご愁傷さまです。



「おーい、大丈夫かー、七色ー」


「痛い……動けない……助けて……………」



 うん、大丈夫みたいだな。

 雪ちゃんはすっきりした顔で七色を見下ろして、それから何故か俺の腕に抱きついてきた。



「そんな人、構う必要ないですよ。さ、行きましょう一真くん」


「え、何処へ」


「夜道は怖いので。家まで送ってください」



 …………いや、あんな強いのに怖いものなんてなくない?

 どうやら俺は、いつの間にか雪ちゃんに懐かれてしまったようだ。



「……ま、そういうことで。じゃーな、七色。がんばれよー」


「お、お前って奴は…………」



 そして俺は雪ちゃんと仲良くなったとさ。めでたしめでたし。

 あいつ、俺がどういう仕組みでモテてるか気づいてないんだろうなぁ。めっちゃウケる。



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