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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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時音と広瀬/その1



「時音、何書いてるの?」



 バレンタインの日の午後。作ったチョコを冷やしている間に、時音が手帳に何かを書いていたので覗き込んだ。手帳には、番号と一緒に箇条書きで文字が並んでいる。

 


「これ?これはね、やりたいことリスト。私もそろそろ人生の指針が欲しくて……」



 時音はそう言って照れたように笑う。リストの1番最初には、"学校に行く"と丁寧な字で書いてあった。



「雨音とは1年遅れるけれど、私も来年には通信の高校の卒業資格が取れるの。そしたら、受験をして大学生にでもなろうかなって」


「いいね。時音は頭がいいから、きっと受験もなんとかなるよ」



 私が分からない学校の宿題も、時音はいつもスラスラとあっという間に解いてしまう。大学のことは詳しくないけれど、時音なら難しい学校にも行けそうな気がする。

 


「受験と言えば……青葉くんは1次試験が終わって、もうすぐ2次試験?」


「そうなの。2次試験は来週くらいかな? 1次試験の結果発表がもうすぐで、たぶん大丈夫って七色は言ってるけど。私の方が緊張しちゃう」


「ふふ、青葉くんなら問題なさそうね。それにしても……雨音が読んでいるのは何の教科書?」



 時音はそう言って首を傾げる。私は一度教科書を閉じて、車のイラストが描かれたピカピカの表紙を見せた。



「これはね、この前教習所で貰った交通ルールの本!3月には私も18歳になって、仮免許の試験が受けられるから。早めにテストのお勉強」


「雨音が運転免許って……少し、意外よね」


「そうかな?お花屋さんのお仕事では、車を使うことも多いから。あった方がいいのかなと思って」


「……みんな、どんどん前に進んでいて。私は取り残された気分」



 時音は窓の外を見て、小さくため息をついた。その表情は少しだけ憂鬱そうだ。



「時音はたくさん入院してやっと元気になったんだもん。これからだよ。焦らなくたって大丈夫!」


「少し前まで雨音も焦っていたのに。……やっぱり私も、自分のやるべきことを見つけてがんばりたい。そのためにも、家に篭っていないで積極的に外に出るべきだと思うの。進学はいい機会になると思うのだけれど……」



 時音はまたため息をつく。時音が考えていることは私にも想像がつく。



「お父様と広瀬さんがうるさいだろうねぇ。二人とも、時音には過保護だから」


「そうなの、説得が大変そうで……あら?雨音、電話がきてるみたい」



 時音に言われて耳を澄ませると、隣の部屋から小さく着信音が聞こえた。この時間に電話が来るってことはたぶん……



「七色からだ!試験の結果出たのかな、ちょっと聞いてくるね!」



 私は急いで部屋を出て自分の携帯を取りに行った。早く、七色の声を聞いて話を聞いてあげたい。



「……今のうちに、お父様と広瀬にも話をしてみようかしら」



♢♢♢♢♢



「だからね、私も高校卒業の資格が取れたら受験をして、大学生になろうと思うの」



 雨音が青葉くんと通話している間、書斎にいたお父様と広瀬に、私の今後について考えていることを話すことにした。お父様と広瀬を説得するための大学の資料も、進学を考え始めた時からこっそりと準備してあった。



「今まで学校には行けなかったけれど、勉強はちゃんと続けてきたから、試験はなんとかなると思う」


「それは構わないが……どこの大学で何を学びたいんだ?」



 お父様は優しく私の話に耳を傾けている。進学自体を反対されることはないとは分かっていたけれど、たぶんここから交渉が必要になる。



「それは……ここの学校の経営の学科で……」



 私は大学のパンフレットを机に並べた。お父様は資料を手に取って眺めようとしたけれど、広瀬は表紙に書かれた大学名を見ただけですぐに口を開いた。



「駄目です」


「私ね、忙しいお父様のお仕事をちゃんとお手伝いできるようになりたくて。だから、経営のことを学んで少しでもお父様の力になれたらって」


「時音様、志は素晴らしいですが。私は反対です」



 広瀬は頑なに私の考えを否定する。私の進学先についてお父様が意見を言うならしっかりと話し合おうと思っていたのに、広瀬の話し合いすらも許さないような態度に私は苛立ちと少しの悲しみを覚えた。



「もう!どうして広瀬が口を出すのっ!この学校、広瀬も通っていたのでしょう?名門で、必要な知識はしっかりと学べる良い学校よ。貴方もここなら問題ないと分かるでしょう?」


「問題ありまくりですよ。あそこは……」



 広瀬は少し言い淀んでから、言葉を濁すように呟いた。



「男女比が……」


「一理あるな」



 お父様も同意するようにうんうんと頷いている。男女比?それがどうかしたのかしら。確かに資料を見ると、付属の男子高が隣に併設されていて、内部進学が多いという理由から生徒の約8割は男性であるとは書いてあるけれど。



「少し、男の子の数が多いくらいじゃない。雨音も共学だったんだし、何も問題は……」


「あります」


「あるな」



 広瀬とお父様は、同時に声を上げた。二人とも真剣な表情をしている。


 何がそんなに気に食わないのかしら。勉強をするための場所で、男女比なんて大事な事ではないのに。それに私は、広瀬が通っていた学校に、行ってみたいだけなのに。



「……もうっ!二人には今年はチョコ、あげませんからっ!」



 私はそれだけ告げて、書斎から勢いよく飛び出した。



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