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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
122/132

今年のクリスマス(前編)



「どこも混んでるな……」


「クリスマスだからね」



 12月25日、クリスマス当日。冬休みに突入した俺と雨音は受験勉強の息抜きも兼ねて、久々にデートに出かけていた。


 とりあえず駅前に来たものの、この先のプランは実は何も決まっていない。当日になれば何か思いつくだろうと高を括っていたら、この有様だ。


 人混みに流されそうになりながら、街の観光案内板なんかを見て2人でどうしようかと頭を抱えている。



「うーん。どこに行こうか、迷っちゃう」


「正直、行き先はどこでもいいんだけど……知り合いとかには、絶対に遭遇したくない」



 なんて言っていると、それが悪いフラグでも立ててしまったのか。いやに聞き覚えのある声が背後から響いた。



「おやおやおや?そこにいるのは雨音さんとその彼氏さんではありませんか?」


「うげ」


「あ、佐々木さんだ」



 俺たちをひやかした声の持ち主は佐々木とかいう同学年のくせに年齢は年上で、何故か雨音にしょっちゅう絡んでくる、正直どう扱っていいか分からない厄介な人物だった。


 明らかにデートなんだから放っておいてくれればいいのに、この人は全く空気を読まずに俺たちに話しかけてくる。



「これからクリスマスデートですか?いいですねー、リア充は。佐々木はこれからバイトだというのに。こんなとこでぼーっとしてないで、さっさとデートスポットにでも行ったらどうなんです?」


「それが、どこに行くかまだ決まってなくて」



 雨音は無視すればいいのに、佐々木に律儀に返事をする。それを聞いた佐々木は驚きながら、煽るような視線を俺に向けた。



「えっ? クリスマスなのにノープランなんですか?せっかくのクリスマスなのに??」


「忙しくて考えてる暇無かったんだよ」


「佐々木さん、どこか楽しい場所ないかなぁ?」


 

 雨音は首を傾げながら佐々木に尋ねる。佐々木は雨音と同じように首を傾げて、少し悩む仕草をした。



「んー……思い当たる場所がないわけではないんですけど……」


「雨音、この人に聞くのはやめとこう。絶対テキトーな場所言うに決まってる」


「そうかなぁ?佐々木さんは案外、的確なことを言ったりもするよ?」



 そんな訳ないだろ。この人の日頃のふざけた言動に振り回されている人間を、俺はよく見かけるぞ。

 それに、いつも何考えてるかよく分からないし。正直、ちょっと不気味に思う。


 俺がちらりと佐々木の方を見ると、奴はわざとらしくニヤついて笑った。




「佐々木の言葉は自由に解釈してくれて構わないですよ。次の提案に乗るも乗らないもあなた方次第♪」



 この様子を察するに、やっぱりろくでもないことを考えているに違いない。それなのに、雨音は期待に満ちた表情をしていてるので少々腹立たしく感じる。


 佐々木はこほんとひとつ咳払いをしてから、俺たちのクリスマスデートプランについて提案した。

 



「さて、おふたりとも……今から僕のバイト先についてきますか?」



 行くわけないだろ。



♢♢♢♢♢



 と思ってたのに。雨音に押し切られて、佐々木のバイト先とやらについていくことになってしまった。


 どうしてだよ、雨音。せっかくのクリスマスデートなのに、こいついたら邪魔じゃん。俺は雨音とふたりきりが良かったのに……なんてモヤモヤは正直残る。そもそも、雨音がどうしてこいつにある種の信頼を置いているのか理解できない。こいつも雨音のことが好きだったらどうするんだよ。

 たとえそうでも雨音がどうもしないのは分かっているけれど、俺は心配で仕方がない。


 佐々木に言われるがままバスに乗ってしばらく経つと、大きな建物の前で停車した。どうやらここで降りるようだ。



「バイト先って……スケート場?」



 市内にあるのは知っていたけれど、実際に来るのは初めてだった。入口からは中央のリンクの様子が伺え、沢山の人が楽しそうに氷の上を滑っているのが見える。

 


「まだ仕事の時間まで余裕があるので、佐々木が案内しますね。雨音さん、たぶんスケート初めてでしょう?」


「初めて!七色は?」


「俺もやったことない……」


「記念すべき初滑りですね。受験前に思いっきり滑っておくといいですよ。思いっきりね」


「嫌がらせか……?」



♢♢♢♢♢



「佐々木さん、スケートって何をどうすればいいのかな?」


 

 入場を済ませてリンク横の準備スペースに来た俺たちは、手持ち無沙汰に辺りをきょろきょろと見渡した。雨音はやる気十分といった感じで佐々木に次の指示を仰ぐ。



「そうですね、まずはスケート靴を借りましょう。靴はぴったりのサイズのものを選んでくださいね。靴紐は上まできつくしっかり結んで、足首がぐらぐらしないようにすると良いです」



 佐々木は予想外にも丁寧に俺たち初心者の面倒を見てくれるようだ。早速靴を借りてきた俺たちは言われた通りに靴紐をきつく結び、ぐらぐらと体をふらつかせながら地面の上に立った。スケート靴の細い刃の上に体重を乗せる感覚が、どうにも慣れない。


 そのままよたよたと歩き、氷の上へ向かう。あれ、今の段階でバランス取れないのに大丈夫かこれ?不安になってきた。



「リンクに出る時は、事故防止のために手袋を……と、それはもう大丈夫そうですね」



 俺たちの手元に視線を向けて佐々木はそう呟いた。すかさず俺は、手袋を見せびらかすように体の前へ持ってくる。


 実はこれは、今朝雨音からクリスマスプレゼントで貰った手袋なのだ。そして今、雨音がつけている手袋はなんと、俺が同じように今朝クリスマスプレゼントとして渡したものだ。デザインはどちらも似ていて、色違いのお揃いのように見える。


 偶然にもプレゼントが被るなんて、この以心伝心ぶり、凄いだろう。と、あいつは知る由もないが心の中で自慢をしておく。


 俺と雨音は慣れないスケート靴にバランスを崩しながらも、互いに手を取り合ってリンクの入口へ向かった。

 


「では、早速リンクの上に立ってみましょう」



 先に移動してリンク内で待っていた佐々木が、俺たちを氷の上に立つように促す。


 1歩足を踏み入れた瞬間、俺はどこに体重をかければいいのか分からなくなり、リンク横の壁にしがみついて動けなくなった。雨音も同じように、転ばないよう壁にくっついて必死にバランスを取っている。



「無理だ、あ、足が滑る……!」


「あ、歩けない……こわい……」


「産まれたての小鹿みたいですね、微笑ましいです」



 佐々木はそんな俺たちの様子を見てくすくすと笑っている。何であいつは普通に立ててるんだ、くそ、悔しい。



「最初は氷の上で足踏みして、靴と氷に慣れるところから始めましょう」


 

 佐々木はそう言うと、片足を交互に上げてその場で足踏みをした。俺たちも真似しようとするが、そもそも氷の上で片足を上げること自体が怖くて難しい。足を何ミリか上げて……下ろす。何ミリか上げて……下ろす。足を氷に乗せた瞬間に変な方向に滑るので、その場にうまく留まってもいられない。



「えっ、無理……」


「できた!」



 ふと横を見ると、雨音は佐々木と同じように足を上げてしっかりと足踏みすることに成功していた。



「ふむ、雨音さんは筋がいいですね。じゃあ少し、佐々木と一緒に一周してきましょうか」


「あ、ちょっと!」



 俺の抗議の声が届くよりも先に、佐々木は雨音の手を引いてそのままリンクの中央へと連れ去ってしまった。


 追いかけようにも、俺はここから動くことすらできない。くそ、嵌められた!


 二人の様子を目で追うと、雨音はパニックになりながらも徐々にコツを掴んだのか、氷の上を自然と滑れるようになっているようだった。

 そしてあいつ、佐々木は……なんか、異様に上手くないか?雨音の両手を引きながらずっと後ろ向きで滑ってるし、滑り方を教えながら他の客にぶつからないように自然に避けていて……普通に感心してしまった。


 そして一周して戻ってくる頃には、雨音は手を引かれなくても一人で氷の上を動けるようになっていた。



「滑れるようになったよ!」


「早……」



 そういえば雨音は、運動神経が俺よりも良いんだったな。最近体育の授業がないからすっかり忘れていた。


 雨音は自信がついたのか、得意げな顔で俺の手を引く。



「七色、私に捕まってね。一緒に滑れば、すぐできるようになるよ!」


「いや、俺はちょっとまだ自信が無……うわー!!どーやって止まるんだこれー!!」


「わー!!!」


「あっ!転ぶ時は膝を曲げてしゃがむ感じで!」



 壁から離れた瞬間、俺たちは勢いよく氷の上を滑ってそのままバランスを崩して転んだ。佐々木に言われた通りとっさにしゃがみこんで倒れたが、氷は固く、体が受けるダメージはなかなかに大きい。


 

「大丈夫ですか?怪我はなさそうですかね。じゃあ、次は転んだ時の立ち上がり方です」



 佐々木は俺たちの顔を覗き込んでそう言った。

 その後、すっと自力で立ち上がった雨音と、5分以上かけてやっと転んだ体制から立ち上がれた俺とで、レベルの差がどんどん開いていったことは言うまでもない。


 これは、雨音が運動神経良すぎるのか、俺が悪すぎるのか……どっちなんだ!?



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