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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
113/132

ハロウィーンより愛を込めて /その3



「……お前ら、昨日は街のハロウィンに行ってたらしいけど。大丈夫だったのかよ」



 教室で昨日撮ったらしい写真を見返してわいわいと騒いでいる了、沙亜耶、ルーシィの女子3人組に声をかけた。



「大丈夫も何も……」


 

 疲れた顔の了が何か言い終わるよりも先に、沙亜耶が興奮気味に話に割り込んでくる。



「七色も見てよこれー!3人で衣装着て撮った写真、イ○スタでめちゃくちゃバズった!さーや様の才能が世界に知れ渡ってしまうなー!」



 沙亜耶が無理やり見せてくる写真には、本格的な衣装を着てハロウィンメイクをしたゾンビ女子3人が写っている。背景には同じように仮装して繁華街に集まった大勢の人が映り込んでいた。

 酒に酔った大人や、馬鹿騒ぎする若者の集団、トラブルに対応する警察官など……とにかく治安は悪そうだ。



「衣装は良かったけどさ、人多すぎて疲れた。変なナンパ男ばっかいるし。素直に校内のイベントに行けばよかった」


「そうか?アタシは友人もできてなかなか楽しめたぞ。今度紹介しよう、チリ人のロドリゲスを」



「あのな……お前たち一応、女子なんだからさ。心配なんだよ。夜の繁華街とか物騒なんだし、お前らでも気をつけた方がいい」



 今更ながら親切心でそう言うと、何かが癪に触ったらしい了にヘッドロックで締められた。



「七色てめー、余計なお世話だ!そんな小言言うくらい心配なら護身用に付いてくるくらいの男気を見せな!」


「やだよ、だって俺よりもお前たちの方が怖くて強そうな見た目して……痛い痛い!ほら!!俺よりも強いじゃん!!!!」



 必死に抵抗しながらぎゃあぎゃあと言い争っていると、ドアがガラガラと空いて誰かが教室に入ってきた。昨日は珍しく了たちと行動を共にしていなかったらしい、マキのようだ。



「おはよ〜、あ。りょーちゃんが久々に七色絞めてる〜」


「おはよ、マキ。……!どうした、その顔!?」



 了がマキの異変に気がついてすぐに駆け寄り、俺は解放された。マキは目元が赤く腫れていて、泣いたのか目の調子が悪いのか、とりあえず目薬が必要そうだなと思った。

 


「やば、もうバレた?昨日めっちゃ泣いて腫れちゃって、恥ずかし〜ちゃんとメイクで隠せたと思ったのに〜」


「何があったんだ?まさか、あの彼氏?だから、あんな奴別れろって言ったのに!」



 了は何やらマキに説教をしている。恋愛のいざこざの話か?……だったら俺は口を挟まないでおこう。そういうのあんまり分かんないし。


 マキは何か言い返すかと思ったら、予想外に不敵な笑みを浮かべていた。



「ふふふ……だからね、わたしも前に進んだのだ!…………彼氏のこと、振ってやりました〜!わたしの方から振るのは人生初!」



 そう言ってマキはやたら元気にピースをする。どういう情緒? マキの感情がよく分からない。


 俺が怪訝そうな顔をしていると、マキはお構いなしに話を続けた。



「……泣いちゃったのはね、別れてひとりぼっちになるのが怖かったから。でもわたし、変わりたくて。本当にわたしのことを大事にしてくれる人のことだけ、好きになりたいって思ったの。だから、今は別れられてスッキリしてる!」


「そっか、なら良かった。マキなら絶対、いい人見つかるよ」


「振った側が泣くのはおかしくないか?」



 思ったことが素直に口から出てしまった。するとすかさず了のヘッドロックが飛んできた。



「余計なことは言わずに黙ってな!それに修学旅行の時の自分を忘れたのかお前は!」


「痛いっ!ごめんなさいっ!」



 技をかけられる俺を横目に、マキは席に座って参考書を開く。

 


「フリーになったから、すごく暇だな〜。勉強でもしよっと」



 その様子を見て、沙亜耶とルーシィが感嘆の声を上げる。



「すげー、マキちゃんが能動的に勉強してるの初めて見た!」


「アタシも。結局、親の言うこと聞いて大学行くことにしたのか?」


「んー、とりあえずはね。勉強してて損はないし。もちろんやりたいこと見つかったら、言うこと聞かないつもり〜」



 そう言ってマキはまたピースをして笑う。了はそんなマキの姿を見て安心したように胸をなでおろした。



「えらいな、マキ」


「そんなに偉くはな……あっ、わかった、黙るって」



 またヘッドロックを掛けてきそうな動作を察知して、俺は口を閉じた。

 一連の様子を今までじっとみていた一真は、何か言いたいことでもあるのか、ようやく口を開いて会話に混ざる。



「まあ、マキは現実的な目標見つけられて良かったんじゃねーの?それに比べて、誰かさんは無茶な目標立ててるみたいだけど」


「? 誰のこと?」



 一真はじっと俺の方を見ている。俺は辺りをきょろきょろと見回したが、誰かさんに該当しそうな人物は他に見当たらない。



「……えっ、俺!?」


「お前以外に誰がいるんだよ。お前の志望してるとこ、医学部の中でもとんでもねーとこだろ。偏差値も入試難易度も、国内最高峰のやべーとこ。この前の模試の結果、お前が()()()()()()、なんて言うからおかしいと思ったんだ。頭いい奴でも必死に努力しないと入れないようなとこ目指すなんて、お前らしくもない」


「…………」


「そんな無茶な賭けに挑戦しなくても。お前なら、医学部でももっと楽で確実に入れるとこなんていっぱいあるだろ。家継ぐだけなら、そこそこのとこ行って医師免許さえ取れればいいんだし。それなのに、何で? 何かそんなに必死になる理由でもあるわけ?」


「それは…………」



 理由はある。色々と説明しにくい理由は。まあでも、事実でもあり簡単に述べられるものを答えるとすると。



「……あの大学、家から通える場所にあるから」


「は??そんなふざけた理由???」


「別に、ふざけてはないだろ。この高校選んだのだって、家から歩いて通える距離にあるってだけの理由だったし」


「確かにそうだったけど……まあ、お前が言うならそうなのか」



 そうそう。それに、家から近いっていうのは最重要。地方とか海外とか、雨音と離れることになる場所は論外だ。雨音と過ごす時間も、これからの目標も。どちらも大切にするというのが俺の中で決まっている。




「……それに俺、無茶とは思ってない。あの人にできたことなら、俺にも絶対にできる。そうじゃないといけないんだ。これくらいのことすらクリアできないなら、俺は最終的な目標にも届かない。だからまず、あの最高峰の大学に現役で合格する。これは絶対だ」


「あの人って誰??」



「それは……先人というか、超えなきゃいけない人というか、ライバルというか……とりあえず、俺が知ってる中で一番とんでもない医者のこと!」


「じゃあ、最終的な目標って何だよ。お前にそんな大層なものあったか?」



「あるよ。俺にもできたんだ」



 雨音に出会う前の俺には、無かったもの。

 雨音と出会って、見つかったもの。

 夢と呼ぶにはまだふわふわしているけれど、今の俺は胸を張って、偽りのない自分の言葉で言うことができる。




「……俺は医者になって、大切な人を守りたい。医療の知識を身につけて、今はまだ治療法が見つかってない病気も治せるくらいの、凄い医者になって。この世界を誰も悲しまなくていい、ただ平穏で幸福な毎日が続いていくような、そんな世界にしたい」



「なんだよそれ。お前がそんな理想論語るなんて、勉強のストレスでどうにかなっちまったのか? もし、そんなことを成し遂げたとして。お前はこの世の救世主にでもなるつもりか?」


「別にいいだろ、目指すくらい」


「お前、変わったよ」


「それは俺が一番よく分かってる」




「……ていうか、あいつらどこ行った?」


「了たちは俺らがつまんない話してるから、雨音に絡みに行ったよ」


「……雨音さんの方は、大丈夫なのかよ。なんやかんやで、一番色々と決まってないのは雨音さんだろ?」


「雨音は今、あいつなりに悩んでる最中なんだ。心配ではあるけど……雨音ならきっと、大丈夫だよ」




♢♢♢♢♢




「雨音お姉ちゃん!昨日仕事だったせいで一日遅れましたが、ハッピーハロウィーンです!お菓子をくれなきゃイタズラしちゃいますよっ!」


「おはよう笑夢ちゃん。ごめんね、今日はお菓子もってないや」



 ハロウィンの次の日の朝。笑夢ちゃんが教室に来て、元気にお菓子をおねだりした。昨日圭くんから貰った飴は全て人にあげたり自分で食べたりしてしまったから、渡せるお菓子は無くなってしまった。


 笑夢ちゃんに申し訳ない気持ちでいると、笑夢ちゃんは嬉しそうに笑って私に近づいてくる。




「ふふ、では仕方がないですね。笑夢の愛のイタズラ、受け取ってください♡」



 そう言って笑夢ちゃんはゆっくりと顔を近づけると、私にキスをしようとした。



「…………駄目だよ、笑夢ちゃん」


「ふえっ」



 私は笑夢ちゃんの唇に指を当てて、それを止めた。驚いた表情の笑夢ちゃんに、私は拒んだ理由を説明する。

 



「そういうのは、浮気になっちゃうから。ごめんね」


「…………!」



 笑夢ちゃんを傷つけないように謝った……つもりだったけれど、あわわ、どうしよう。笑夢ちゃんはじわじわと目に涙を貯めて、泣き出してしまった。




「ほ、ほんとにごめんね、違うんだよ!笑夢ちゃんが嫌いなわけじゃなくて、むしろ大好きだから、な、泣かないで……!」


「いえ、私の方こそごめんなさい、少々、感動してしまって……」



「感動……?」



「はい。笑夢とのキスが浮気になるってことは、笑夢も他の男と同じように対等な恋愛の存在として、認識してくれてるってことですよね?女の子同士のキスって、遊びとかおふざけと捉えて、結構許しちゃう人は多いんですけど……雨音お姉ちゃんは笑夢の愛を真剣に受け止めているからこそ、拒んだんですよね。そうに違いないです」



「そ……そうなのかな?」


「そうですよ!笑夢には全てわかります!だから笑夢は、雨音お姉ちゃんがキスしてもいいと思えるくらい、キュンキュンさせてドキドキさせてメロメロにしてみせますから!ちょうど、昨日ケジメをつけて身軽になってきたとこですし。これからは笑夢のこと、もっと見ていてくださいね……!」


「……!笑夢ちゃ」



 笑夢ちゃんは早口でぺらぺらと喋った勢いのままに、私に抱きついて頬にキスをした。あれっ!?



「これは挨拶のキスとハグです。外国では普通ですから、浮気には該当しないですよ?」


「そう……なの?」


「はい、だから遠慮せず笑夢といっぱい友好を深めましょう♪」



 笑夢ちゃんは屈託のない笑顔を浮かべながら、何度も私の頬にキスをした。いいのかな、これ……?


 そうこうしているうちに、了ちゃんとマキちゃん、さーやちゃんやるぅちゃんも教室にやってきて私の周りで昨日のハロウィンの話を始めた。


 みんなずっと私にくっついている笑夢ちゃんのことは全く気にしてないみたい。い、いいのかな……?



 

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