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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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青葉七色と秘密の部屋(前編)



『ラジオネーム、あめちゃんさん。"こんにちは。私の最近の悩みは、進路が決まらないことです。やりたいことが見つからなくて、困っています。どうすればいいでしょうか" はい、こちらですね。僕の回答は……そうですね。やりたいことがみつかるまで、何にでも挑戦するしかないと思います。そうすれば自然と、見つかるんじゃないですかね。朝日くんはどう思います?』


『僕の場合は……昔から好きだった、映画とか芝居とか。そういうのがそのままやりたいことに繋がってたんで。自分の好きなものや思い出を見つめ直してみる、みたいな。そういうアドバイスしかできないですけど』


『うんうん、まあ人それぞれですから。焦る必要はないんじゃないですかね。みんなまだまだ若いんだし。はい次!ラジオネーム、黒マスクさん。"彼女とイチャイチャできる場所がありません。どこかオススメはありませんか" くたばりなさい!はい次、ラジオネーム、湿気で憂鬱さん——』



 教室のスピーカーから、聞き慣れた声が聞こえてくる。そういえば、佐々木さんと朝日はお昼の校内ラジオをやってるんだっけ。……うちの教室のスピーカーは基本、お昼の時間は誰かに切られていることが多かったから。ちゃんと聞いたのは初めてだ。



「あの人たち本当にやってたんだね、お悩み相談コーナー……」


「お便り読んでもらうの、1ヶ月待ちみたいだよ」


「そんなに書く人いるの?」


「みんな、色々と悩んでるんだよ。昴くんは悩み事とかない?」


「悩み事…………」


 

 雨音さんは、様子を伺うように俺の方を見る。

 今あるのは悩み事というか、俺自身の問題というか。

 

 ……雨音さんから貰ったお弁当を一口食べて、少し考え込む。

 ()()()()も、そろそろどうにかしないといけない気がする。


 

「俺もちゃんと、自立しないといけないかなぁって……」


「?」




◇◇◇◇◇




「悩み……」



 放課後の掃除の時間。今日は大掃除デーらしく、普段は掃除しないような場所をわざわざ手分けして掃除しなければならない。俺とカズは、サボりやすいように旧校舎の今は使われていない化学室のエリアを担当している。


 そんな中俺は、化学室の隅に置かれた机の上で静かに存在感を放つ『お悩み相談Box』を発見した。

 確かこれに投書をすると、お昼の校内放送で悩み事を解決してくれるとかなんとか。そういう噂を聞いたことがある。こんな場所にも置いてあったのか。


 近くに紙と鉛筆も置いてあったので、興味本位で最近の悩みを書いてみる。



 "彼女と二人きりで過ごす場所がないです。前は屋上を使ってましたが、台風とこれからの冬の季節はどうしようもないです。どこかいい場所はありませんか"



「お前それ、今日似たようなお便りスルーされてたぞ。基本的に、リア充系の話は解決されないと思った方がいい」


「そうなの?ていうか、カズ。勝手に覗き見るなよ」


「いいだろ別に、大親友なんだから。それに、こんなのに頼らなくても。そういう悩みなら俺に聞けばいいだろうが」


「だって、どうせカズのは参考にならないだろ。でも…………カズはさ、家に弟たち多いのに。彼女と二人になりたいなーって時はどうしてるんだよ」


「どうも何も、ラブホとか行けばいいだろ」


「ら…………………………」


「冗談冗談!高校生は利用不可だよ、真似すんじゃねーぞ。あれだな、俺の場合は毎朝の早朝ランニング。デートとか二人でイチャイチャすることだけが、愛情表現じゃないからな」


「俺、朝苦手だし……やっぱり参考にならない」


「登下校とか、一緒にできねーの?」


「下校は途中まで一緒だけど、大通り通るからいちゃつくには人の目があるし……登校は雨音の方が朝早いのと、近所らしい朝日兄妹が何故か一緒みたいだし…………」



 つくづく俺、雨音と恋人らしいこと全然できてないなと思う。

 屋上で過ごしてた時みたいにさ。せめて二人きりになれる場所があれば、もう少し進展があると思うんだけど。



「…………なんかこう、秘密基地みたいな。そういうのがどっかにあればいいのに。こういうさ、棚の裏とかに……ん?」


「そんな場所都合よくある訳ねーだろ」


「いや……カズ、これ裏に何かある!この棚の1番下も、奥の板が動くようになってるし。たぶんここ外して……あ!動いた!これ、奥に部屋がある!どっかに繋がってるみたいだ!」


「はあ?どうせ資料室とかなんかじゃねーの」


「だと思うけど、こんな風にドアが塞がれてるのはおかしいだろ。俺、ちょっと見てくる」


「おいおい、大丈夫なのかよ」



 棚を動かして隙間を作ると、人が屈んで通れるくらいの空間ができた。そのまま奥の引き戸を開けて進むと、謎の小部屋に繋がっていた。



「うわ、カズ来てくれ!これ!」


「ったく、しょうがねーなー」



 俺の後に続いて、カズが部屋の中に入ってくる。



「げほっ、埃やべーな!どんだけ放置されてたんだ。それに隠し部屋じゃなくて、やっぱりただの資料室じゃねーか」


「でもここ、ちょっと違和感があるような……」



 改めて部屋の中を観察する。どうやらここは、他の教室の構造とは異なっているみたいだ。



「この部屋、廊下との出入り口がない。だから行き来できるのは、さっきのドアだけみたいだ。そのドアが棚で塞がれてたから、掃除されずに放置されてこうなってる」


「旧校舎の間取りなんか誰も気にしないから、部屋1つ潰れてても誰も気づかなかったようだな」


「いや、誰も気づかなかった訳じゃないと思う。なんというか、人が立ち入った跡というか。ある程度、使われてた形跡があるんだ」



 先程目に付いた設備の方へと足を運ぶ。部屋には何故かレンジや流し台があって、ただの資料室と呼ぶには余計なものがありすぎる気がする。



「例えばこのレンジ。そんなに古くなくて、まだ動く。それに、この蛇口とかも錆びてなくて一応水もちゃんと出る。こっちの机に放置されてるプリントとかの日付は、一昨年だし」


「……分かったぞ。この使われてない資料室を見つけた何者かが、ドアを隠して上手いことサボり部屋を作ったんだ。この部屋、妙に生活感があって居心地いいし。ちゃんと窓があって日当たりもいい」


「そんな感じだと思う。けど、数年前とかの単位じゃなくて、結構長い間この独立した空間は存在してたはずだ。その証拠にほら。放置された古い教科書とか、明らかに化学資料室とは関係ない古い部活の道具とかが沢山置いてある」


「家に持って帰んのがだるくて、ここを置き場にしてたんだろうな」


「古さがバラバラで色んな世代のものがあるから、数年に一度くらいの頻度でたまにこの部屋を見つける人がいたんだと思う。だから一番古い教科書に書いてある発行日とかを見れば、最初にこの部屋を見つけたか、棚で塞いで作った人の年代が分かると思うんだけど…………あった、たぶんこれが一番古い」


「どれどれ、発行日は…………20年以上も前か。だいたい今の校舎がそれくらいの築年数だった気がするから、新校舎ができて、こっちの校舎があんま使われなくなった頃ってことだな。…………ん?てかこの教科書、名前書いてあるじゃん」



 カズの言うとおり、教科書の裏表紙には持ち主の名前が書いてあった。その名前は……



「……………………」


「達筆すぎて読めねー。七色、分かるか?」


「……八乙女、薫」


「女子か?でも、女子っぽい字じゃないよな。ん、七色どうした?」


「いや、何でもない。…………それよりさ、カズ。せっかくだからここも掃除しようぜ」


「えっ、めんどくせ、やだ。俺早く帰りたい」


「じゃあカズは先に帰っていいよ。俺一人でもやる」




「………………ったく、しょーがねーなー。お前頑固だから、一度決めたら意地でもやり通すよな。仕方ないから手伝ってやるよ。たぶん今日一日じゃ終わんねーから、何日かに分けた方がいいぞ」


「……分かった、ありがとう」


「おう、いいってことよ」


「あと、カズ、あれ……………………」



 視線の先には、八本足のおぞましい生き物がカサカサと動いている。掃除……は、しようと思うんだけど……



「俺、虫無理だから。…………害虫の処理は、カズに任せた」


「お前、ちっちゃい蜘蛛くらいでビビってんじゃねーよ!よくそれで一人で掃除しようと思ったな!」


「無理なものは無理……」



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