ポートフォリオ /おまけ
「次回の特集は、これにしましょう。美少女のブラの肩紐チラ見えコレクション。この間の雨音お姉ちゃんの写真も混ぜて――」
「犯人はお前だな、笑夢」
「お兄ちゃん!?何故、この場所に……!?」
夕日の沈む教室のとある一室に、その犯人の姿はあった。
身内の犯した悪事は、家族である僕が責任をもって裁かなければならない。
「この、旧校舎のオカルト研究部の部室は、数年前に新聞部があった場所だ。印刷をするための設備は整っている。おまけに、オカルト研究部は現在休部状態で部員はいない。好き勝手に写真や冊子を印刷するなら、この場所しかないと思ったんだ」
「………………」
「事件は、今年の春から発生していた。ちょうど、お前が入学してきた頃からだ。……まさか、連続盗撮犯が実の妹だったとはな」
「…………ええ、確かに『美女週報』の編集長はこの私。校内にいる私のファンを使って写真を大量に撮影し、裏で販売していたのもこの私よ」
笑夢は動揺する様子もなく、自分のしてきた悪事を淡々と述べる。
「でも、それの何がいけないの!?」
「美しい者は、たくさんの人の欲望の的になるからこそ美しいのよ!そうやって多くの人に愛されてこそ、真に価値があるの!私は、その手助けをしてるだけ。そうでしょ、お兄ちゃん!笑夢は何も悪いことなんてしてない!」
「お前は間違ってる、笑夢」
「間違ってなんか――!」
「雨音さん、閉じこもってたあの時、泣いてたんだろ。恥ずかしいって。あんなに目を腫らしてたから、お前だって気付いたはずだ。……お前が今やってることは、あの時雨音さんを泣かせたのと同じ行為だ。雨音さんだけじゃない。お前が美しいと思った人達、全員の尊厳を踏みにじる最低な行為なんだよ」
「だって、笑夢は……これが良いことだと…………笑夢だって、自分の写真も他の子と同じように載せたし、美しさやかわいさを他者に評価されることは、みんなも嬉しいと思って……それが駄目なことだなんて……笑夢には、わからないもん。人からの評価も、欲望も、浴びれば浴びるほど、人気になるのよ。価値があるのよ。みんなから愛されるって、素晴らしいことでしょう?」
「みんなから愛されたって、意味が無いだろ」
……笑夢は、僕よりも早く芸能活動を始めて、小さい頃から大人たちに商品のように扱われて育った。美しさに価値が置かれ、過剰にもてはやされるあの業界で、笑夢は自分でも気が付かないうちに歪んでいってしまったのかもしれない。
「……それに、そんな薄っぺらいものは、愛じゃねーよ」
「お兄ちゃんに何が分かるの!」
「分かるよ。少なくとも僕は、雨音さんを愛しているからな」
「笑夢だって……!」
「じゃあ、お前でも理解できるだろ。雨音さんを悲しませるのが、お前の愛なのか?」
「それは…………違う…………」
「……反省したなら、今まで盗撮した写真のデータも、発行した冊子も、全て処分しろ。いいな?」
「はい……」
笑夢は力なく肩を落として、部屋に置いてあるパソコンへと向かった。……ちゃんと、今までの写真のデータを消去しているみたいだ。
きっとこれで、もう大丈夫だろう。
「沙亜耶先輩と百合子先輩に分けてもらった、この前のえっちな撮影会の写真データだけは取っておいてもいい……?」
「それも処分だ!!」
♢♢♢♢♢
「いやー、残念です。佐々木が愛読していた『美女週報』、廃刊になったんですって。朝日くん、相沢くん、もしかして君たち、犯人捕まえちゃいました?」
「ああ。事件は解決した」
「えっ、俺何もしてないんだけど」
「お前がいなくても、犯人を捕まえる程度のこと僕一人で充分だ」
「じゃあ何で手伝わせたんだよ」
「まあまあ、喧嘩しないで。それより、見てくださいこれ。『美女週報』が置いてあった場所に、新しい雑誌が置かれてたんです。その名も『月刊百合乙女』!」
「「…………はぁ?」」
「以前の写真主体の情報誌とは打って変わって、百合をテーマにした小説だけを掲載した雑誌に生まれ変わったみたいです。特に、この巻頭の話なんかすごいですよ。人妻で女子高生で百合という、衝撃の設定なんです!主人公の少女が、更衣室で憧れの先輩のえっちな下着姿を見てしまう所から始まるんですけど」
「待って。その設定は、思い出してはいけないものを思い出してしまう」
「あいつ……!」
懲りているのか、いないのか。とにかく笑夢には、今後も厳重注意が必要そうだ。