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花は君のために  作者: 須田昆武
本編
10/132

番外編 球技大会の話

1話と2話の間の出来事。




「さっそくだけど雨音さん、お願いがあるんだけど」



 新しい学校に入って、2日目のこと。短い髪の毛の元気そうな女の子が私に話しかけてきた。



「来週の球技大会、うちのクラスは女子バレーの人数足りなくてさ。雨音さんに入って貰えると助かるんだ。あ、自己紹介がまだだったね。あたしは水原あかね!一応、部活でもバレーやってます。分からないことがあったら教えるし、サポートもするから!お願い!」


「わかった、私で良ければ……」


「よし、ありがとう!じゃあ放課後、他の部活が基礎トレしてる間だけ体育館のはしっこ借りてるから、そこで練習ね!他のメンバーの紹介もするから!んじゃ、また後で!!」



 女の子……えっと、あかねちゃんは走ってどこかへ行ってしまった。何かのお手伝いをすればいいのかな。バレーって何だろう。体育館ってどこだろう。他のメンバーって、誰のことだろう。まだまだ何も、わからないことだらけ。


 ……早く、慣れたいな。友達、できるといいな。




♢♢♢♢♢




「やほーみんな!紹介します、新メンバーの雨音さんです!」


「よ、よろしくお願いします!」



 あかねちゃんは勢いよく体育館の扉を開けると同時に、私の紹介を始めた。扉の側にいた、ふわふわした雰囲気の女の子と目が合う。



「あ〜、転校生のかわい子ちゃんだぁ。はい、飴ちゃんあげるね。あ、わたしのことはマキちゃんって呼んでねー」


「ありがとう、マキちゃん」



 マキちゃんという子がカラフルな飴玉をプレゼントしてくれた。いい人だ。



「ねぇ……他のみんなは?」


「りょーちゃんは合コンで、さーやは被服部の買い出し、るぅちゃんはよく分かんないや」



 マキちゃんはそういいながらカバンを手に持って、体育館の外に出た。



「んで、わたしはこれから彼氏とデート♡じぁあね、あかねっちとあまねっち。練習がんばってねー」


「あ、こら!」



 マキちゃん、帰っちゃった。他のメンバーの子もいないみたい。

 あかねちゃんは小さくため息をつく。



「……仕方ないなぁ。ごめんね、雨音さん。あの子たちいつもこうなの。球技大会まであと少ししかないのに、一度もまともに練習できてなくて」



 あかねちゃんは残念そうだ。私も少しさみしい。



「ん〜、今日は2人でやれることをやろう!雨音さん、バレーやるのは初めてなんだよね。まずは基本から教えるから」


「はい!よろしくお願いします!」



 とにかく、がんばろう。バレーができれば、みんなと仲良くなれるはず!



♢♢♢♢♢




「……これは凄い逸材を見つけてしまったかもしれない!」



 あかねちゃんが興奮した様子で何か言っている。



「練習3日目にしてこの精度、とても初心者とは思えないよ!雨音さん、あなた最高!」



 あかねちゃんの言うとおり、ボールを打っていただけだけれど。褒められた。あかねちゃんは褒め上手だ。あ、今は師匠だった。



「えへへ……師匠の教え方が上手だから」


「くぅ〜!かわいい弟子め!このままバレー部入りなって」


「部活は事情があって入れなくて……でも、球技大会はがんばるね!」


「そっかー、それは残念」



 バレー部に誘われたのは、とても嬉しい。でも、ごめんね。部活には入っちゃだめって言われてるの。バレーを教えてくれた師匠のために、せめて球技大会では役に立ちたい。



「……あぁ、もったいないなぁ。この才能をみんなに見せつけてやりたい。初戦敗退で地味に終わるなんて、あたし、そんなの耐えられない………………勝とう、やればできる、できるできるできる」


「師匠?」



 師匠が何かぶつぶつ言っている。様子が変。



「目指すは!優勝だーーーーーーーーーーー!雨音っ!」


「は、はい!」


「……明日から、メンバー全員揃えるから。楽しみにしておいて」



 ちょっとびっくりした。師匠、すごい熱気。本気モード。みんなと練習できるの、私も楽しみだな。




♢♢♢♢♢



「わたしこれからみぃくんとデートなんだけど〜」


「その彼氏さんは買収済みよ。さっきデートは中止ってメール来たでしょ?マキちゃんも今日は練習に専念しましょう」


「ひど〜い、みぃくんの裏切り者〜〜」


「……これでようやく全員揃ったね」



 師匠に引きずられて、マキちゃんが到着した。放課後の体育館に集まったのは、私も入れて6人。6人でやるバレーだから、これで全員だね!



「早く帰りたいんですけど」


 少し不機嫌そうな派手で綺麗な女の子、りょーちゃんさん。


「お腹すいたー、マキちゃんお菓子もってなーい?」


 小柄で、大きなリボンがおしゃれな女の子、さーやちゃんさん。


「あるよ〜」


 マキちゃん。今日もかばんにたくさんお菓子を持ってるみたい。


「………………」


 静かでかっこいいメガネの女の子、るぅちゃんさん。

 みんな、同じ2年A組のクラスメイトです。



「えっと、新入りの花園雨音です。よろしくお願いします」



 師匠以外のチームのみんなとは、クラスではまだあんまり話をしたことがない。少し緊張。



「さて、球技大会は来週の土曜日。練習できるのはあと何回でしょう」



 師匠が先生モードで質問する。



「えっとー、今日は前の週の金曜だから、来週の放課後全部でぇ、あと5回」


「はいさーやちゃん、違います。来週の早朝、昼休み、放課後、それに今週土日の空いた時間全て足したら答えは、無限だーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「なんだこいつウザ」


「あかねっち怖いよぉ〜」


「……付き合ってられない、アタシは帰る」



 みんなびっくりしてる。うん、私もちょっとびっくりした。るぅちゃんさん、帰っちゃうのかな。



「ふふ、帰ってもいいわよ。ただし、このサーブを受けることが出来たらね。出番よ、雨音っ!」


「はい、師匠!」



 師匠とはもう、打ち合わせ済み。誰かが帰ろうとしたら、私の出番。今こそ特訓の成果を見せる時ですね、師匠!



「ごめんなさい、るぅちゃんさん。勝負です」


「……面白い、望むところだ」




♢♢♢♢♢




「勝者、愛弟子の雨音!」


「く、悔しい!」



 勝ちました、師匠!どういうルールで勝ったのかは分からないけど、ボールを打っていたら勝てました。すごくうれしい。



「ボール強くてめっちゃ怖いしー!手に当たっても変なとこに弾かれちゃうしー!何あれー!」


「バケモノかあいつは……」



 みんなもなんだか褒めてくれている。ちょっと照れちゃう。師匠は、わしゃわしゃと頭を撫でてくれた。



「雨音はこの3日間、凄く頑張った!初心者で何も知らなかったのに、ここまで強くなった!あたしは雨音にサーブの才能を見出した!だから、ひたすらサーブの練習をさせた!」



 師匠はわしゃわしゃを続けながら私をさらに褒めてくれた。えへへ。



「ので!雨音はサーブしか出来ない!!!!」


「へい、レシ〜ブ、ト〜ス」



 マキちゃんがこっちに向かってボールをふわっと投げる。あわわ。レシーブ、あれっ、トス、あれれっ。

 ボールはよく分からない方向に飛んでいった。



「だめだこりゃ!」



 ごめんなさい、師匠。サーブ以外わかんないです。



「でもあたしは雨音と、それからみんなの力を合わせれば、球技大会で優勝できると思ってる。みんなそれぞれ、忙しいのは分かってる。だけど1週間だけ、みんなの力を貸して欲しい。……お願いします!」



 師匠はみんなに深々と頭を下げた。私は知っている。一番頑張っているのは私じゃない、師匠だ。私も師匠のために、できることをしたい。みんなと一緒に、バレーをしたい。



「お願いします!」



 私からも。どうかみんな、力を貸してください。

 バレーはチームのスポーツだから、私だけでは何もできないの。



「土日はバイトだから無理」



 りょーちゃんさんが、最初に口を開いた。



「……でも、平日の練習くらいなら付き合ってやる。朝、早く起きれるかは分かんないけど。新入りに負けたみたいで、なんか悔しいし」


「同感。あんたのサーブ、凄かった。アタシはあんたに勝つよ、雨音」


「るぅちゃんさん……!」



 るぅちゃんさんは、私に手を差し出した。握手。

 これが、勝負の後の友情ってやつですね!師匠!



「うちは被服部で頼まれてた仕事終わったから、もう暇だよー。練習やるやるー」


「さーやちゃんも!」


「な…………仲間はずれはいや〜!わたしも、ちょっとくらいなら、がんばるからぁ」


「マキちゃんさん……!」


「みんな、ありがとう!」



 師匠、うれしそう。私もうれしい。これで、みんなと一緒にバレーができる!



「よーし、じゃあさっそく特訓だ!まずはウォーミングアップ、校庭10周!」


「おー!」


「ええ〜」「まじ?」「やっぱり帰ろうかな……」



 スポーツは、まずは基礎体力から!ですよね師匠!




♢♢♢♢♢




「そういえば、あんた、あの後七色には会えた?」



 走り込み中、りょーちゃんさんが話しかけてくれた。七色……青葉くんのことだ。

 転校初日、隣の席の人のことを聞いたら、親切に教えてくれたのがりょーちゃんさんだった。



「うん、会えたよ。屋上にいた。あの時はどうもありがとう」


「いいえ。わざわざ探して挨拶しに行くなんて、あんたも変わってるね」


「え、えへへ」


「褒めてはないよ」


 

 りょーちゃんさんは前を見て走りながら、話を続けた。



「……あいつたまに授業サボっていなくなるからさ。教科書借りたい時とか、何か困った時に頼りにならないだろ。そういう時はさ、あたしも席近いから。頼っても…………いいからな」


「りょーちゃんさん……!」



 りょーちゃんさん、やっぱり優しい。



「別にさん、とかいらないよ……えっと…………雨音」


「…………!りょーちゃん!」



 やっと名前、呼んでくれたね!名前で呼ばれるの、私好きなんだ。名前は私だけのものだから。仲良くなれたみたいで、すごくうれしい。少しくすぐったい気分。

 りょーちゃん。りょーちゃん。ふふふ。うれしいな、ちょっとぎゅっとしたい。



「うわっ、ひっつくなって」


「こらー!そこ!真面目に走るー!」


「はーい!」




♢♢♢♢♢




 それから、師匠の厳しい特訓が続いて1週間。私たち2年A組女子バレーチームは、とても強くなりました。今日はいよいよ球技大会。がんばるぞー!おー!



「……さて、今年の球技大会も大盛り上がりです。いかがでしょう、解説の佐々木さん」


「今年はそれぞれの種目にスター選手がいて、とても見応えがありますね。しかしながら。やはりこういった行事は大番狂わせが面白い。僕は、女子バレーの試合に期待しています」


「女子バレーですか。ここは毎年、3年が強いイメージがありますが。今年は一体何が違うんでしょう」


「注目すべきは、現在準々決勝まで勝ち進んでいる、2年A組でしょうね。2年生で、しかもバレー部が1人しかいない即席チームでありながら、見事な連携を見せています。……中でもついこの前転校してきた、花園雨音さん。すっかりチームに馴染んで、ムードメーカーとしての役割を果たしています。そして見てください、あれ!あの殺人サーブ!凄い!」


「怖いですね。試合は連続して行われていますが、全く威力が落ちていません。おーっと!2年A組、またしても得点です。けれど、少し疲れが見えますね。今度はラインギリギリを攻める。ああ!手元が狂ったか?これは大暴投!」


「あっ」


「サーブは見事に観客にクリーンヒット!人が……………死にました…………!」


「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか!?」



 ボールが予想外の方向に飛んで、誰かにぶつかってしまった。人が倒れている。どうしよう。



「医務班が手当てするので、大丈夫でーす。試合続行して下さーい」



 倒れた人は、あっという間に保険係の人たちに運ばれていってしまった。



「ごめんなさい、後でお見舞いに行きます……!」


「はい、ここは係に任せて、試合を続けて貰いましょう。いやー、騒ぎを聞きつけて、敗退して暇になった生徒たちが続々と応援に集まってきました」


「会場はかつてない盛り上がりを見せています!」


「球技大会、楽しいですねぇ!」




♢♢♢♢♢




 私たちはそのあとも勝ち進んで、見事優勝しました。優勝商品は、お菓子の詰め合わせ。マキちゃんは備蓄が増えるって、よろこんでた。


 表彰が終わると、私たちはすぐに保健室にやって来ました。倒れた人は、ここにいるみたい。大丈夫かな、私のせいだ、すごく心配。



「なんだ、倒れたのはこいつか」


「あ、青葉くんだ……」



 保健室のベットで寝ていたのは、青葉くん。ボールがぶつかったところかな、顔が少し赤く腫れている。

 ごめんね。痛そうだね。



「すやすや寝ちゃって〜かわい〜」


「これ、いつもみたいに寝不足だっただけじゃね?」


「だな。雨音は悪くない」


「で、でも、頭ぶつけてたから、何かあったら心配……」



 頭をぶつけるのは良くないって、前、先生が言ってた。脳みそも一応、大事な部分だから。



「大丈夫大丈夫。こいつの家、病院だから。何か異変があっても、まあなんとかなる」


「そうなの……?」



 お医者さんはすごいから、頭の怪我も治せるのかな。でも、うぅ、頭の手術は聞いたことがないよ。

 脳みそはさすがに、あげられないよね。どうしよう。


 不安な私の気持ちを和らげるように、りょーちゃんは頭をぽんぽんと撫でてくれた。

 それから、窓の外を眺めて、何かを見つけたみたい。あっ、あれは師匠!あかねちゃんだ。



「……それにしても、あかねの奴、薄情者だよなー!あいつ、あんなに優勝にこだわってたの、男と付き合うためだったとか!」


「ね〜。しかもさっそく新しく出来た彼氏ともう帰っちゃったし」



 師匠は球技大会で優勝したら、好きな男の子に告白するって言ってた。うまくいったみたい。



「うちら利用されただけって感じー」


「…………まあ、楽しかったけどな」


「うん、楽しかった。私、みんなと友達になれてうれしい」



 師匠の、あかねちゃんのために優勝できて良かった。そして何よりも、みんなと友達になれて良かった。

 私、また友達ができるか不安だったの。



「今日は本当にありがとう。あの、ね……球技大会が終わっても、私と仲良くしてくれますか?」



 学校には、友達がいないとさみしいって私、知ってるから。少しの間だけど、私も友達を作って、仲良くなって、時音に楽しいって心から言える学校生活にしたい。



「もちろんだよ〜あまねっち!わたしたち、厳しい特訓を耐え抜いた、戦友だもん〜」


「だな」「うん!」



 るぅちゃんも、うんうんと頷いている。みんな、ありがとう。すごく優しい人たち。



「うぅ……」



 びっくりした。何の声かと思ったら、青葉くんだ。ちょっと忘れてた。なんだかうなされてるみたい。やっぱり頭、痛いのかな。



「ごめんね、痛い?大丈夫?」



 青葉くんの頭を優しく撫でる。痛いときは、こうすると痛くなくなるんだって。

 ……効いたかな?しばらくすると、青葉くんはまたすやすやと穏やかな寝息をたてはじめた。



「あれれー?雨音もしかして、七色のこと気になっちゃってる感じ?」


「まじ?」「やめときなよ」



 さーやちゃんがそう言うと、りょーちゃんとマキちゃんがいつもと違う低めの声で注意してきた。



「や、やっぱり悪い人なの?」


「悪い奴…………ではないけど。あたしたち近所でさ、幼稚園の頃からこいつのこと知ってるから…………ねえ?」


「そのヘタレっぷりやら〜、残念っぷりやら〜、知ってるから……ねえ?」


「……まあ、うちはよく分かんないけどー。高校から急に髪染めたのは、ウケるー(笑)って感じだよねー」


「タイプではない」



 みんな、青葉くんのことを口々に言い始めた。青葉くんのこと、みんなはよく知ってるみたい。

 愚痴とか、恥ずかしい話とか、色々言われて……あ、青葉くんまたうなされ始めた。なんか、かわいそうだね。



「お菓子、お裾分けしてあげよう……」



 6等分してもらった優勝商品のお菓子。私の分は少しでいいから、半分、枕元に置いておくね。

 今日はごめんね。災難だったね。



「まあ、でも見てる分には面白い、良い奴だからさ。仲良くしてやってよ」


「…………うん!」



 優しいりょーちゃんがそう言うなら。あなたもきっと優しい、いい人。そんな気がする。




♢♢♢♢♢




「おとなり、いいかしら」


「……どうぞ」



 球技大会の振替休日が終わって、次の日。

 青葉くんが授業を抜け出して屋上に向かったので、私もついて行った。

 もう具合は、大丈夫かな。まだ少し、心配。



「…………花園さんはさ、こんなとこでサボってて大丈夫なの」



 青葉くんが話しかけてきた。少し、緊張してるのかな?変な感じ。

 そっか、まだ私たち、友達じゃないもんね。



「雨音でいいよ、七色」



 少しずつでいい。私、あなたのことが知りたい。

 あなたと、仲良くなりたいな。




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