追補3.『なろう非主流系』ポイント範囲別の作品傾向と多様性
まず『なろう非主流系』ですが、これは私が今回定義したもので一般的な概念ではありません。
本エッセイの感想で「外れ値の影響は?」と質問いただき、今まで用いた手法で探るために定めた群が『なろう非主流系』です。
なお以下では『なろう非主流系』に、2018年10月上旬に取得したデータを用いています。
『なろう非主流系』ですが、「キーワードの異世界転生・転生、ジャンルの『異世界』『ハイファンタジー』『VRゲーム』を除いた作品群」と定義しました(選定理由には後ほど触れます)。
その結果、下記のような傾向となりました。
図6: 『なろう非主流系』ポイント範囲別の「男女」「異世界/非異世界」傾向
ちなみに除外前が下記です(以下では除外前の群を「全体」と呼びます)。
こちらは2018年10月頭に取得したデータですが、今回と数日の差しかないので再取得せずに比較対象としました。
図3(再掲載): 『なろう』ポイント範囲別の「男女」「異世界/非異世界」傾向
見事に上下に分かれました。
異世界要素を含むジャンルを除外したのが『なろう非主流系』ですから、当然の結果でもあります。ただ、ここまで非異世界系に寄るとは、思っていませんでした。
実は非主流系といいつつ、作品数は全体の68%強もあるのです。
表19: 全体に占める『なろう非主流系』の割合(作品数)
ただし上記のように『なろう非主流系』は高ポイントになるほど比率が下がり、最上位は8%弱になります。そのため数量ではなく人気度という意味では、非主流と言えます。
また測定用のキーワードに該当した率からも、傾向の違いが読み取れるように思います。
表20: 全体に占める『なろう非主流系』の割合(該当キーワード数)
『なろう非主流系』は作品数だと68%強もあったのに、キーワードの該当数は42%強です。つまり非主流系は、別のキーワードを設定している可能性が高そうです。
以下は『外れ値』についての説明です。ご存知の方、調査結果のみを御覧になりたい方は、次項にお進みください。
『外れ値』は、Wikipediaだと以下のように記されています。
『外れ値(はずれち、英:outlier )は、統計において他の値から大きく外れた値である。測定ミス・記録ミス等に起因する異常値とは概念的には異なるが、実用上は区別できないこともある。』(Wikipedia「外れ値」より)
上記のように、外れ値とは個々のサンプルを数値化した上で、その中で特異な値を示したサンプルを意味します。
たとえば年齢に伴う身長の変化を調査して、多くは平均的な伸びを示したとします。その中で年齢にそぐわない高身長あるいは低身長があれば、外れ値とされます。
注意したいのは、外れ値とは文字通り「多くのサンプルとの乖離を示しているだけ」ということです。
並外れた高身長の人はスポーツ選手になれるかもしれませんし、低身長でも競馬の騎手など小柄だからこそ活きる道もあります。つまり「乖離=悪」ではありません(当然ですが善とも限りません)。
そして小説など創作では「外れている=個性がある」ということでもあります。もちろん一定の読者が興味を覚える「外れ(際立ち)」でなければ、受け入れられずに終わるわけですが。
以下は『なろう非主流系』の定義自体や、定めた理由です。調査結果のみを御覧になりたい方は、次項にお進みください。
今回『なろう非主流系』を、全体(ただしノンジャンルは除外)から以下を除いた作品群としました。
・登録必須キーワード『異世界転生』または『異世界転移』を設定した作品
・『恋愛』大ジャンルの『異世界』ジャンルの作品
・『ファンタジー』大ジャンルの『ハイファンタジー』ジャンルの作品
・『SF』大ジャンルの『VRゲーム』ジャンルの作品
上記の通り『なろう非主流系』という分類は、『異世界系』の除外を意図したものです。
『VRゲーム』ジャンルは異世界ではなくゲーム内を舞台としていますが、実質的に異世界と変わらない場合が多いと考えて除外対象にしました。「ゲームからログアウトできない」など行ったきりのケースもありますし、行き来できる場合も大半がゲーム内の描写で、「仮想現実とはいえ現実世界と言いかねる」との判断からです。
また、これらのジャンルが圧倒的にポイントを得ているのも事実です。以下は私が投稿した別エッセイに掲載したデータです(調査時期:2018年5月上旬)。
表21: ジャンル別の総ポイント(連載中&完結済み10万~)
※塗りわけ例(割合)
※塗りわけ例(割合比)
※掲載元
『10万文字以上の作品、恋愛・ファンタジー・文芸・SFを全て調べた! 一話何文字が良いか? ポイントとの関連は?』の第19話『7.ジャンル別の違い』
上記のように、ポイントの大半は『ハイファンタジー』ジャンルが占めています。また恋愛では『異世界』ジャンル、SFだと『VRゲーム』ジャンルが、他より一桁多いです。
そして、この3ジャンルだけが表の右端「割合比②/①」で1以上の値を示しています。
この値は「該当ジャンルが1作品平均で、全体の1作品平均に比べて何倍ポイントを得ているか」を表すものです。つまり恋愛の『異世界』ジャンルの作品は平均すると、全作品の平均に比べ約1.5倍のポイントを得たことになります。
上記表は掲載元のタイトルが示すように「10万文字以上の作品」を対象としていますが、他の方の調査だと全作品を対象にしても同様の傾向を示しています。
ですから今回除外した3ジャンルを主流として他を非主流とする定義も、充分な意味があると考えます。それに他ジャンルでも、この3ジャンルと同傾向と思われる異世界転生や異世界転移をキーワードとする作品も省くべきでしょう。
なお、この『なろう非主流系』で『外れ値』を表せるかですが、実は不可能です。
主流となるサンプルを除外したので、外れ値が多く含まれているとは思います。しかし元々が群の特性を種別の数量で示した調査で、個々のサンプルを調べたデータではありません。
そのため『外れ値は?』に対する回答としては不適切ですが、出来る範囲で近づけた内容で代えさせていただきます。
まずはジャンル別作品数についてです。
表22: 『なろう非主流系』ポイント範囲別のジャンル別集計(実数)
上記について語る前に、全体の表を示します。
表14(再掲載): 『なろう』ポイント範囲別のジャンル別集計(実数)
二つを比べると全体の「0以上~100未満」は86%強なのに『なろう非主流系』だと91%強となります。他の範囲も同じで、全体より『なろう非主流系』がポイントを得にくいと分かります。
ちなみに全体に比べ『なろう非主流系』は恋愛の作品数は2万4千ほど減り、同じくファンタジーが7万ほど、SFは4千ほど減っています。恋愛は半分以上が残り、SFは三分の二以上が残ったわけですが、ファンタジーは三分の一以下しか残っていません。
このように最多を誇ったファンタジーですが、『なろう非主流系』における数は中堅ジャンルといった印象です。
以下では前回と同じく、数量の差を表現するため図6のマーカーの面積を該当する作品数に比例させてみます。
図7: 『なろう』非主流系ポイント範囲別の「男女」「異世界/非異世界」傾向(マーカーの大きさは作品数に比例)
今回は上位の割合が更に少ないため、途中のマーカーが目視しづらいほどとなりました。そこでマーカーを赤に変えています。
ポイント範囲別にジャンルの割合を示したのが下記です。
表23: 『なろう非主流系』ポイント範囲別のジャンル別集計(割合)
表15(再掲載): 『なろう』ポイント範囲別のジャンル別集計(割合)
※塗りわけ例
上で触れたように、ファンタジーが数量的に中堅ジャンルとなったため、多くの範囲で他ジャンルが最多となっています。ただし最上位に限っては、やはりファンタジーが強いと理解できます。
恋愛が中間に多いのは変わりません。しかし2つのジャンルのうち1つを抜いて作品数は6割程度になりました。
ただし各範囲ごとに算出した割合は、それほど減っていません。ファンタジーの作品数が大きく減ったからですが、『なろう非主流系』でも女性向け作品は大きな割合を占めています。
また歴史が上位になるほど割合を増やしていますが、これは逆行転生(または転移)の作品が多いのではと推測します。つまり現代の主人公が戦国時代や幕末などに転生や転移をする小説です。
他にも文芸が最上位以外では大きな割合を占めています。
これらの結果、『なろう非主流系』だとSimpsonの多様度指数は上位でもそれほど低下せず、最上位でも0.692と全体の0.375より遥かに高い値を示しています。
つまり『なろう非主流系』は全体に比べ、高ポイントになってもジャンルの多様性が相当に保たれていると分かります。
同様にキーワード別のデータも掲載します。
表24: 『なろう非主流系』ポイント範囲別の人気キーワード別集計(実数)
表16(再掲載): 『なろう』ポイント範囲別の人気キーワード別集計(実数)
こちらも二つを比べると全体の「0以上~100未満」は80%強なのに『なろう非主流系』だと89%強となります。ただし全体と『なろう非主流系』ではキーワードの付け方が違うようなので、まずそこを確かめてみます。
表25: 全体に占める『なろう非主流系』の割合(1作品あたりの該当キーワード数)
たとえば全体の最上位は2.205、これは1作品あたり上記の11個のキーワードのうち約2.2個があったことを意味します。
そして『なろう非主流系』は該当キーワード数が少なく、全体も含め低ポイントになるほど下がります。
元々これらのキーワードは、カクヨムの「人気のタグ」とアルファポリスの「人気タグ」から双方に共通する語句を選んだものです。つまり一部の人気のある作品群に共通するもので、全ての作品群を網羅するものではありません。
それらが上記表に現れたと考えて良いでしょう。おそらく『なろう非主流系』は上記の11個と異なるキーワードが多く、傾向の違う全体と該当キーワード数を単純に比べても意味がありません。
しかし1作品あたりや同じ傾向内の割合であれば、比較できると思います。
そこでポイント範囲別に割合で示した表を示します。
表26: 『なろう非主流系』ポイント範囲別の人気キーワード別集計(割合)
表17(再掲載): 『なろう』ポイント範囲別の人気キーワード別集計(割合)
※塗りわけ例
上記で見ると、全体と『なろう非主流系』で大きく傾向が違うのが分かります。
まず全体の「0以上~100未満」だと、10%以上を多いほうから並べると「日常」「異世界」「魔法」「バトル」です。
次に『なろう非主流系』の同範囲ですが、「日常」「ほのぼの」「ラブコメ」「学園」です。しかも「日常」が半数近くを占めています。
『なろう非主流系』の1作品あたりのキーワード該当数は0.654で、1作品に1つにも達していません。したがって、このキーワード通りの傾向とは思えませんが、それでも「学園の日常、ほのぼのラブコメ」という作品が一定数あるのかもしれません。
次に最上位に目を向けますが、全体は「異世界」「転生」「魔法」「主人公最強」と俗に『なろう系』などと呼ばれるものです。
それに対し『なろう非主流系』の同範囲は、「転生」「学園」「バトル」「主人公最強」となりました。
この4つを並べると「現代に転生した者達が学園に集ってバトルをする。ただし主人公が最強」といった感じになりそうです。「過去の英雄が現代に集う異能学園物」あるいは「異能者が集う学園に転生者が現れる」などでしょうか。
もちろん4つを兼ね備えた作品は少数でしょうから、全部を満たしたものがあった場合ですが。
この項に載せたのは、傾向を図とするための配点と計算結果です。したがって概要のみを把握する場合は飛ばして構いません。
※異世界度算出のための配点表
表27: 『なろう非主流系』異世界度(表25と設定した配点により算出)
表18(再掲載): 異世界度(表17と設定した配点により算出)
なお『なろう非主流系』の男女傾向は表23の恋愛ジャンルの割合が元ですので、これで一番上の図が描けます。
以上の調査結果から『なろう非主流系』をポイント範囲別に見た場合、
・上位は「男性向けで異世界/非異世界は中立的」が大半
・中間は「女性向けで非異世界系寄り」が多い
・その他は平均化すると「多少男性寄りで非異世界系」
・全体に比べると『なろう非主流系』は上位になってもジャンルの多様度が高い
と分かりました。
異世界系のジャンルを除外したから非異世界系に寄り、上位で最も多い『ハイファンタジー』ジャンルなどを除いたからジャンルの偏りが減って多様度が上がるのは当然です。
ただし『なろう非主流系』では全てのマーカーが中心より下に移り、最上位の多様度も倍近い値を示しました。これほど極端に違うと確かめられたのは、充分意味があると思います。
この全体と『なろう非主流系』の明確な違いは、2016年5月に実施された『なろう』のジャンル再編成が有効だった証と考えます。
『なろう非主流系』は「キーワードの異世界転生・転生、ジャンルの『異世界』『ハイファンタジー』『VRゲーム』を除いた作品群」ですが、これらを別ジャンルとしたのが2016年5月の再編成です。つまり、このときから異世界系を除いたランキングで作品を探せるようになったわけです。
私は異世界転移の作品も書いていますし、異世界系に対する偏見はありません。
しかし『なろう非主流系』は作品数で全体の68%強を占めており、当然ながら作者も多いはずです。その多数派に専用のランキングや検索方法が存在しないのは、ユーザ満足度が大きく下がるように思います。
もちろん最も多いのは読者のユーザですが、作者がいなくなれば小説サイトとして機能しなくなります。したがって傾向が違う群を分け、別々に閲覧できるようにしたのは正しい選択でしょう。
ただし5万ポイント以上の『なろう非主流系』は同範囲全体の7.63%です。つまり総合の累計ランキングに入る『なろう非主流系』は同じくらい少ないはずで、別の累計ランキングが必要だと思います。
『なろう非主流系』の累計ランキングとして1つだけ作るか、各ジャンルごとか。あるいは全く別の改善方法か。
どういう方式か別にして、ジャンルを問わず作者が創作意欲を維持でき、読者が自身の好みの作品を発見しやすくなる改善を期待したいところです。
お読みいただきありがとうございます。