追補2.『なろう』ポイント範囲別の作品傾向と多様性
2018年7月31日の検索フォーム変更で、『なろう』はポイントの上限下限を設定して検索できるようになりました。
それ以前だと同様の結果を得る場合、APIで対象の小説情報を全て取得してから選別しました。つまり対象範囲を『なろう』全体にすると六十万近く、このエッセイのようにノンジャンルを除外しても三十万以上を扱うため、そう簡単には手を出せません。
もちろんAPIを使ったプログラムを作成すれば手間は大幅に減りますが、その場合でも『なろう』に過度の負荷が生じないように調整するなど、それなりの知識と経験が求められます。
しかし新たな検索フォームおよびAPIでは、ポイントの範囲を設定した抽出が極めて容易です。そこで本エッセイでも、『なろう』全体のポイント範囲別の変化を追ってみます。
なお以下では、2018年10月頭に取得したデータを用いています。
本論の「3.キーワードによる作品分類と、その多様性」や前回のマグネットを加えた図と同様に、「男女」「異世界/非異世界」の傾向を以下のように可視化しました。
ゼロから100ポイント未満、100ポイントから500ポイント未満……と来て5万ポイント以上までの七段階で、どのように傾向が変わるのか示しています。
図3: 『なろう』ポイント範囲別の「男女」「異世界/非異世界」傾向
後で示しますが「0以上~100未満」は『なろう』の86%強、「100以上~500未満」は8%弱を占めます。つまり大半の作品を平均化すると、男女や異世界/非異世界の偏りがない非常にニュートラルな状態です。
しかしポイントが増えると、まず女性向け作品の率が上がり、1万ポイントを超えたあたりで急激に男性向けに戻ります。しかも一貫して異世界度が上がっていきます。
そして最終的には「男性向け異世界系」に落ち着くわけですが、これは累計ランキングなどから受ける印象に近いと思います。
比較のため前回の「図2: 各サイトの「男女」「異世界/非異世界」傾向(マグネット追加)」を同一スケールにして以下に示します。
図4: 各サイトの「男女」「異世界/非異世界」傾向(マグネット追加・スケール調整済み)
※マグネットのみ2018年9月下旬、他は同年3月下旬のデータ
上記の図だと『なろう』は極めて中立的な位置でしたが、それは大半を占める低ポイント作品によるものだと分かりました。
そしてポイントが上昇すると、他サイトに比べても随分と極端な値を示します。
しかし他もポイント(に相当する評価値)ごとに集計したら、同じように特化していくのでは、と考えます。他サイトは全作品の集計でも中央から離れていますし、更に外側に移動すると考えるのが妥当でしょう。
ちなみにカクヨムは星(ポイントに相当)で検索範囲を設定できますが、他の3サイトは評価値による検索機能が無いようです。したがって、ここでは確認不可能として推測のみに留めます。
図のみだと、正しく計算したか読み取っていただけません。そこで今回も、図作成に用いたデータを多少のコメントと共に記します。
まずはジャンル別作品数についてです。
表14: 『なろう』ポイント範囲別のジャンル別集計(実数)
上記の通り、ランキングなどに上がるだろう高ポイント作品は非常に少ないです。
この数量の差を表現するため、図3のマーカーの面積を該当する作品数に比例させてみます。
図5: 『なろう』ポイント範囲別の「男女」「異世界/非異世界」傾向(マーカーの大きさは作品数に比例)
見ての通り上位は非常に少なく、そこのみを眺めていては『なろう』の全体的な傾向を掴めません。
そこでポイント範囲別にジャンルの割合を示したのが下記です。
表15: 『なろう』ポイント範囲別のジャンル別集計(割合)
※塗りわけ例
低ポイント作品と高ポイント作品では、全く傾向が異なるのが分かると思います。またSimpsonの多様度指数で示した通り、ポイントが上がるにつれて多様度は急激に下がります。
それと図で示した通りですが、中間では恋愛ジャンルの割合が高く、45%にも達します。しかし更に上位になるとファンタジーの一強状態になっていきます。
また文芸は「0以上~100未満」だと多いものの右肩下がり、歴史やSFなどは全体平均より中間が高いなど、ジャンルごとの特徴も読み取れます。
同様にキーワード別のデータも掲載します。
表16: 『なろう』ポイント範囲別の人気キーワード別集計(実数)
こちらもポイント範囲別に割合で示した表を示します。
表17: 『なろう』ポイント範囲別の人気キーワード別集計(割合)
※塗りわけ例
キーワードについてですが、多様度の低下は少ないです。
しかし最上位で10%を超えているキーワードを多い順に並べると「異世界」「転生」「魔法」「主人公最強」と俗に『なろう系』などと呼ばれるものになっており、なかなか興味深いです。
また「0以上~100未満」だと上から「日常」「異世界」「魔法」「バトル」と、同じ異世界系でも随分と印象が変わります。
更にキーワード別の集計結果を、異世界度を測る配点表で処理します。
※異世界度算出のための配点表
表18: 異世界度(表17と設定した配点により算出)
上記の最下段、合計の数字が異世界度の元となるものです。見ての通り、ポイントが上昇すると異世界度が増していくと分かります。
これは「日常」など現実世界にある項目の配点をゼロや1にしており、異世界系の数値のみが結果に残るためです。
なお男女傾向は表15の恋愛ジャンルの割合が元ですので、これで一番上の図が描けます。
以上の調査結果から『なろう』をポイント範囲別に見た場合、
・上位は「男性向けの異世界系」が大半
・中間は「女性向けの異世界系」が多い
・その他は様々で平均化すると「極めて中立的」
と分かりました。
そして最後の「その他」が圧倒的に多いため、全体としては充分に多様な作品群に見えます。
全体としては多様でも、ランキングに挙がる作品は似た傾向。しかし大抵のランキングは、そういったものです。したがって『なろう』のみを批判するのは間違っているでしょう。
ただし現状はジャンルや傾向により作品数が大幅に違い、かつ評価する読者の数も大きく違います。これでは人気ジャンル以外の作品を探すとき、総合ランキングは役に立ちません。
もし各ジャンルそれぞれの活性化を望むのであれば、ジャンルごとの探しやすさを向上させるべきでしょう。もちろん『なろう』の運営主体が、そういう方向を意識するのであれば、ですが。
個人的には「ジャンル別の累計ランキングがあれば」と思っています。
多くの方はランキングから探すと思います。しかし年間までしかないジャンル別ランキングだと、一年以上前の名作を見逃す可能性が高くなります。
そして人気ジャンル以外で総合の累計ランキングに載っている作品は、極めて僅かでしょう。
他にも色々な改善方法があると思いますが、本エッセイはデータの解析と提示を目的としていますし、これにて終わりとさせていただきます。
お読みいただきありがとうございます。
※追記 2018年10月8日
図5を挿入、合わせて前後の文を若干変更。