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4.まとめと雑感

 以下に、今まで確かめたことから主なものを列挙します。

 なお図表は全て、前回までに掲載したものの再掲載です。


・サイトの多様度指数① ジャンルでの比較(ジャンル統合によりサイトの差を吸収して調査)


 大ジャンルレベルの大きな括りでは、『なろう』の多様性は他と比べて劣っていない。


表3: 多様度の比較 ジャンル別集計(ジャンル統合済み)

挿絵(By みてみん)



・サイトの多様度指数② 人気キーワードでの比較


 キーワードレベルの括りでも、『なろう』の多様性は他と比べて劣っていない。


表5: 多様度の比較 人気キーワード別集計

挿絵(By みてみん)



・サイト別 ジャンルの特徴


挿絵(By みてみん)



・サイトの傾向


 『なろう』は男女双方向けの作品があり、異世界系寄り。

 ただし『なろう』の異世界傾向はアルファポリスほど極端ではない。


図1: 各サイトの「男女」「異世界/非異世界」傾向

挿絵(By みてみん)



・『なろう』で流行している傾向の、他サイトの状況


 表7: 「異世界 転生 チート ハーレム」と「悪役令嬢」検索結果(サイト別)

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



・備考 調査時のサイト別作品数


なろう: 288,319作品

カクヨム: 72,630作品

アルファポリス: 26,623作品

エブリスタ: 652,512作品



挿絵(By みてみん)


 大ジャンルレベルやキーワードレベルで確認しても、『なろう』の多様度指数は良好。

 『なろう』には、男性向けと女性向けの作品が双方とも豊富。傾向としては幾らか異世界寄りだが、最も偏っているわけではない。

 『なろう』の男性向け流行「異世界 転生 チート ハーレム」は、男性向けのカクヨムと同程度の割合。同じく『なろう』の女性向け流行「悪役令嬢」も、女性向けのアルファポリスと同程度の割合。


 多くの作品があり、男女双方の傾向が揃い、多様性も他に劣らない。こう書くとサイトは非常に良好な状態となりそうです。

 しかし本当にそうでしょうか? 理想のサイトなら、なぜエッセイや感想欄に不満が記されるのでしょうか?


 私個人としても、他と遜色ない多様な作品傾向であるのは否定しません。

 しかし今回の調査で4サイトのランキングや検索機能を使った結果、『なろう』の劣る点を見つけました。必要な項目を調べるための限定された操作にも関わらずです。

 そこで以下では、満足度に関係しそうな点を中心に所感を記します。書き手として、あるいは読み手(読むために探す場合)として「これでは不満が生じるのも理解できる」と思った事柄です。



挿絵(By みてみん)


・『なろう』はランキングの掲載数が少なすぎ


 カクヨムでは、ジャンル別ランキングが1000位まで表示されました。最も作品数が多い「異世界ファンタジー」は14,340作品でしたから、およそ7.0%の作品がランクインできます。

 ちなみに、なぜか総合ランキングは500位まででした。しかしジャンル別に乗れば人目に触れる機会が一つ増えるので、書き手としてはそれでも構わないでしょう。


 これが『なろう』だと最多は「恋愛」の「現実世界」で異世界転生転移を除外しても3万3千以上、ランキング100位に入れるのは0.30%ほどです。

 ちなみに総合ランキングに入れる率は『なろう』が0.10%でカクヨムが0.69%です。作品数は『なろう』が4倍多いだけなのに、ランキングだと7倍や20倍以上の差があるわけです。


 書き手は人目に触れる機会が減り、読み手も下位を探せないので同じ作品ばかり目にする。どちらも不満が溜まるのではないでしょうか?


 なおアルファポリスのランキングは総合とジャンル別の双方で全作品を列挙、エブリスタの総合ランキングは8850作品(295ページ)まで、ジャンル別は1266作品(43ページ)まで表示されました。

 もちろん最後まで見る利用者は稀でしょうが、読みたい作品を発見できる可能性は僅かながらでも増えるでしょう。


※追記 2019年3月

 2019年2月の変更で、「異世界転生/転移」ランキング内の小ジャンルが300位まで表示されるようになりました。



・『なろう』は検索結果の表示数に制限がある


 カクヨムには、検索結果に何作品までという制限はありませんでした。しかし『なろう』は2000作品までです。

 検索しても表示されない。これで人目に触れる機会が一つ失われたと考えることもできます。あるいは熱心に探す読者の視点で、未知の作品と出会う機会が減ったとも解釈できます。


 なおアルファポリスも検索結果の表示数に制限はなく、エブリスタは1万件まで表示できるようです。


※追記 2018年10月

 カクヨムの検索結果画面に修正が入ったようで、現在は検索結果の表示が50ページまで(1500作品まで)になっています。



・人気キーワードなどの掲載順が同じ、一覧で全て表示されているから人目を惹かない。


 これは長短の双方があります。

 カクヨムやアルファポリスは検索画面にランダム表示されていたので、検索が特定の傾向に偏らないと思います。今回のようなデータ収集では何度も同じものが出て困りますが、ランダム表示で様々な作品に誘導しているのだと思われます。

 サイトが推奨するキーワードのみにする、出現率を調整するなど、意識的な誘導があるかもしれませんが、そうだとしてもサイト運営として有効な手段かもしれません。



・検索時に該当数が出る


 これのどこが悪いのか、とお思いになるかもしれません。しかし、なまじ正確な数を見てしまうから、余計に不満を感じるときもあると思います。

 「私の好きな傾向より、この傾向は十倍もある」とか「こんなに沢山あったら読んでもらうのは無理だ」とか。ユーザにストレスを溜めさせない意味では、下手に出さないほうが良いのかもしれません。


 カクヨムは検索に該当した数を表示しません。そのため検索結果の画面数を数える羽目になりました(もちろん頭から見ずに推測を元に数回で結果を得ています)。そのとき、もしかすると「後発で作品数が少ないのを知らせたくないのでは」と感じました。

 確かに馬鹿正直に情報公開するのも良し悪しでしょう。


 こうやって解析する場合は簡易に数を把握したいですし、『なろう』がAPIなどデータ取得の手段を用意しているのも大変ありがたいです。

 ただ、人によっては数字という現実を重く感じることもあるでしょう。



・ランキングや検索結果にサムネイル(作品紹介の小さな画像)がない


 探しているとき思わず目を惹かれるかもしれません。絵が描ける人、友達などに頼める人、それが駄目でも写真やフリー画像でも興味を感じる可能性はあります。

 実際、今回の調査でも思わず読んでみようかと開いてみたものもありました。



・検索時にポイントの上限設定、下限設定ができない。


 「一定以上しか見たくない」という場合だけではなく、「上位は見飽きたから今回は対象外にする」という場合もあるはずです。


※追記 2018年8月

 2018年7月31日の検索フォーム変更で、ポイントの上限設定と下限設定が可能になりました。



挿絵(By みてみん)


 多くの場合、問題となるのは「多様性」よりも「機会均等性」だと思います。これは「書き手が自作を人目に触れさせる機会」の他に、「読み手が新たな作品を発見する機会」も含みます。

 誤解を恐れずに言えば、『なろう』の多様性を高くするにしろ保つにしろ、本気で考えているのは収入に直結する運営者のみでしょう。

 ユーザが気になるのは利便性であり、その一つに「より望ましい機会獲得」があると考えます。



挿絵(By みてみん)


・「多様性」について


 今まで主に「多様性」という言葉をどこまで『なろう』に適用できるか、また実際に適用した例を見てきました。

 ジャンルやキーワードなど検索で容易に個数を収集できる対象なら、学術的な意味での「多様性」や「多様度指数」を用いるのも簡単ですし議論も正確性の高いものになるでしょう。

 しかし割合を計算できないものや特定の種類の多寡を論じたものは、本来の意味から外れています。このような場合、一種の「バズワード(もっともらしいが実際には定義や意味があいまいな用語)」となりかねません。


 更に言えば、自説を通すために敢えてバズワードとして用いるケースも考えられます。

 今までわざと触れませんでしたが、「多様性」は「ダイバーシティ」という耳触りの良いカタカナ語と同義です。

 『なろう』のダイバーシティが高い(あるいは低い)から云々……ちょっとカッコ良く聞こえませんか?


 少々横道に逸れますが、「テンプレ」や「チート」もバズワードの一種と言えそうです。どちらも「もっともらしいが実際には定義や意味があいまい」ですし、「類型的」や「絶対的強さ」など従来の言葉で表現しても良いのに注意を惹きやすいカタカナ語を用いるところも共通しています。


 話を戻しますが、もっともらしく「多様性」の高さや低さを語る人がいたら「多様度指数は?」と聞いてみたら良いでしょう。答えられなければ単に雰囲気で使っているだけですし、答えが返ってきたら議論をしてみるのも面白いかもしれません。



・「機会均等性」あるいは「ユーザの満足度」について


 『なろう』はカクヨムやアルファポリスに比べ、遥かに多くの作品が掲載されています。具体的にはカクヨムの4倍、アルファポリスの11倍近くです。

 これは喜ばしいことですが、その一方で人目に触れにくい作品を多く生み出してもいます。


 書き手は「見つけてもらえない」、読み手は「探しにくい」、これでは不満が溜まるのも仕方ありません。また「異世界 転生 チート ハーレム」や「悪役令嬢」のように割合が他サイトと同等でも絶対数の多さが目に付いたら、嫌いな方からすれば不満の元凶の一つでしょう。


 運営側の大変さを承知で記しますが、4倍や11倍の量を抱えているなら他より探しやすい仕組みが必要です。ところがランキングや検索結果の表示数が他より遥かに少ないように、単なる数量の増加で解決できることすら滞っています。


 もちろん運営側も手をこまねいてはおらず、ジャンルを再編して区分を増やしたりアンケートを取ったりと動いてはいます。それに最近は異世界系以外の書籍化コンテストを実施するなど、一極集中を避ける取り組みもしているようです。

 ただし個人的には、他サイトの研究が足りないと思います。私が少々調べた程度で浮き出る違いすら、まだ改善していないのですから。

 運営会社は小規模ですし他にも課題は多いでしょうから、着手していないだけだと思いますが……。



 「多様性」はあるが「満足度」には不満が残る。しかし無料サービスですし、使う側の努力や理解も必要だとは思います。

 その際、今回のエッセイで示したデータや手法が役に立てば、これほど嬉しいことはありません。


 これにて終わりにいたします。

 お読みいただきありがとうございます。


 なお、同じように統計情報を用いたエッセイが、目次画面の最上部のリンク「物語以外(検索除外含む)」の先にあります。

 内容は作品の文字数(最も読まれやすい長さ)に関するものですが、本エッセイと同様に図表を多用して数字を元に話を進めています。

 よろしければ御覧になってください。


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