3.キーワードによる作品分類と、その多様性
「大ジャンル」レベルでの多様度は測れましたが、作品の傾向の多様度を測定するには少々括りが大きすぎます。
そこで今回はキーワードを用いて調べました。対象は前回と同じ4サイト、データ取得日も同様です。
選出したキーワードはカクヨムの「人気のタグ」とアルファポリスの「人気タグ」から双方に共通する語句を選びました。両サイトともタグがランダム表示されるため、無作為抽出または人気度の高い順の抽出になると考えたからです。
表4a: 「小説家になろう」の人気キーワード別集計
Simpsonの多様度指数=0.860
表4b: 「カクヨム」の人気キーワード別集計
Simpsonの多様度指数=0.865
表4c: 「アルファポリス」の人気キーワード別集計
Simpsonの多様度指数=0.818
表4d: 「エブリスタ」の人気キーワード別集計
Simpsonの多様度指数=0.786
キーワードは同じ作品に多数設定できるため、複数の種類にカウントされる作品があります。
そのため『なろう』の合計のように、元々存在する作品数を超えたものも存在します。
表5: 多様度の比較 人気キーワード別集計
※塗りわけ例
上記で見る限り、『なろう』は最も良いカクヨムに比べると0.005劣りますが同程度、続いてアルファポリス、エブリスタとなります。
なお選択した人気キーワードは、ライトノベル系として妥当なものだと思います。したがって、それなりに意味がある値と捉えて良いでしょう。
ちなみにエブリスタですが、キーワードがファンタジー系に寄った分、不利になった可能性があります。つまり「学園」「ラブコメ」など汎用的に使えるライトノベルのキーワードが目立った結果、多様度が低くなったという解釈です。
「大ジャンル」レベルでの比較との違いは、エブリスタが他と比べてファンタジーが少ないからであれば、四つのサイトにさほどの差はないのかもしれません。
しかし、これだけでは少々寂しい結論ですので、以下は考察や多様性以外の観点を添えてみます。
まず人気キーワードから特徴を探ってみます。
人気キーワードだけあり、サイトごとの差が如実に現れたようです。ただし私は『なろう』のみで活動しており、他サイトについては多分に推測を含んでおります。
・「転生」「異世界」と「魔法」
『なろう』とアルファポリスは、残る2サイトより明らかに「転生」「異世界」が多いです。それでいて「魔法」では『なろう』とカクヨムが多いあたり、アルファポリスでは魔法自体を売りと考えていない作者が多いのかもしれません。
あくまで一つの仮説ですが、アルファポリスでは「異世界に転生しても魔法は重要な要素にならない」作品が多い可能性があります。
・「日常」「ほのぼの」
「日常」が多いのは『なろう』、アルファポリス、カクヨムの順ですが、それでいて『なろう』はカクヨムより「バトル」が多いです。このあたりからすると『なろう』には様々な要素の入った作品があるのかもしれません。
「ほのぼの」はアルファポリスのみが低いのですが、上記集計のみでは特別な理由が思い当たらないのでコメントを避けます。
・「主人公最強」
アルファポリスの「主人公最強」が多いのは、アルファポリスの人気タグは「最強」であり、他の「○○最強」が混じった可能性があります。ただしタグで最強と付ける場合、主人公やパートナーくらいだと思いますが……。
・「美少女」
「美少女」が『なろう』に少ないのは意外でしたが、もしかすると「○○系」のように細分化されているのかもしれません。
・「学園」「ラブコメ」
「学園」「ラブコメ」が多くファンタジー系が少ないエブリスタは、やはり現実世界系と解釈して良さそうです。
カクヨムも「学園」が多いですが「異世界」も多く、対象となる場が異世界系と現実世界系の双方の可能性があります。
アルファポリスがジャンルで「恋愛」が多いのに「ラブコメ」が少ないのも興味深いです。「ほのぼの」が少ないことと合わせると、アルファポリスの作者はスリリングな恋愛を好んでいる……のかもしれません。
・「剣と魔法」
「剣と魔法」は『なろう』のみが少ないです。あくまで個人的意見ですが、こういう表現をする方は少し年齢層が高いように思います。良く言えば「伝統的」、悪く言えば「古典的」なイメージかもしれません。
下記の配点表を設定します。
※異世界度算出のための配点表
そして表5の「多様度の比較 人気キーワード別集計」の割合と掛け合わせて、更にサイトごとに合計値を算出します。
表6: 異世界度(表5と設定した配点により算出)
最初に断っておきますが、選んだキーワードの影響も大きいと思います。
その上でコメントするなら、アルファポリスの異世界度は他をかなり引き離して高く、続いて『なろう』と少し下回るカクヨム、そして大きく離れて最も異世界的ではないエブリスタ、となるようです。
同じように表3の「多様度の比較 ジャンル別集計(ジャンル統合済み)」から恋愛ジャンルの割合を男女傾向として用い、以下のように視覚化してみました。
図1: 各サイトの「男女」「異世界/非異世界」傾向
※参考情報(表3から恋愛ジャンルの割合のみ抜粋)
なろう: 18.9%
カクヨム: 8.9%
アルファポリス: 31.6%
エブリスタ: 30.9%
おおまかですが「男女」「異世界/非異世界」の傾向を示せたと思います。
『なろう』で人気といえば、やはり「異世界 転生 チート ハーレム」と「悪役令嬢」だと思います。
ちなみにチートはスラングで、意味は「ゲームなどで不正な改造をすること」です。しかし『なろう』内での「チート」は、「ズルいと思ってしまうほどに強い」という意味で充分な共通認識を得たようです。
実は『なろう』で「異世界 転生 チート ハーレム」をキーワード限定で検索すると2,600作品ほどが得られますが、「チート」を「最強」に置き換えると約1,300作品に減ってしまいます(ノンジャンルを除外すると2300少々と1100少々になります)。
そのためスラングを使う是非は置いておき、ここでは上記を調査対象として採用しました。
表7: 「異世界 転生 チート ハーレム」と「悪役令嬢」検索結果(サイト別)
それぞれの下段は、表1a~dの最下段に記載した各サイトの全作品数に対する割合です。以下にサイト別の全作品数のみ再掲載します。
なろう: 288,319作品
カクヨム: 72,630作品
アルファポリス: 26,623作品
エブリスタ: 652,512作品
それはともかく、
となりました。
つまり、『なろう』に関して以下が言えそうです。
・『なろう』には「男女双方」の「ライト異世界ファンタジー層」向け作品がある。
・しかし同層が多いサイトに限れば、他の「男性向けサイト」や「女性向けサイト」と同程度の割合。
俗に「テンプレ作品」と称されるものですが、ここではスラングめいた表現を避けて「類型的な作品」と呼びます。
『なろう』でいうところの「類型的な作品」には「不出来」という意味も含まれているようです。つまり「どこかで見たことがあり、固有の工夫がない」作品です。
類型的、つまりパターンで表せるものなら、推理小説など大抵は「誰かが死に」「名探偵が登場し」「なぜか捜査機関にも信頼されて名探偵が活躍し」「名探偵の推理で事件が解決する」……そういった類型で括れます。個々の推理も密室モノ、入れ替わり、などパターン化できます。
しかし作品ごとに固有の、あるいは極めて個性のある工夫をしているから、新たな作品として評価されるのでしょう。
時代小説も同様です。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康など多くの作家が取り組んだ有名人でも、今なお主人公とした新作が生まれます。これもピックアップするシーン、心理や行動の解釈、作者固有の表現……などに独自のものがあるから読み物として成立するのでしょう。
しかし作品の「個性」や「出来の良さ」を定量化するのは容易ではありません。
もし「類型的な作品が多い(少ない)」という議論をするなら、設定やストーリーの類似、登場人物や描写のパターンを「形態素解析」などにかけて比較することになるでしょう。
あるいは複数サイトを利用している何百人かにアンケートを取り、ある程度の客観性を持たせた統計情報を得るなどです。
それらを実施し、他サイトと比較して、初めて議論する価値が生まれると思います。
したがって、ここでは充分な根拠もなく「多様性」と結びつけることはしません。
次話では「まとめと雑感」として掘り下げてみます。