1-6 王城潜入
「一応、城付近にはついたけど」
と、言い、シトは顔を引きつらせた。
「さすが、大陸第3位軍事国家だね」
城の警備は厳重。兵が終夜を問わず見回りしている。想像以上に大きい。
さらに、目には見えないが、結界が施されているらしい。
外からの魔法を避けるための。
シェリナさんが絶賛していた。
しかし、城への向けられる魔法を防ぐためのものであって、
人の侵入を拒むものではない。故に、シトは安全に侵入できる。
全身を黒いローブで包み、白い仮面をつける。
「隠密訓練みたいだなぁ」
高い城の囲いを蹴って、跳躍し、壁を越えた。音を何一つとして建てない着地。何から何まで慣れたような動きだった。
そして、そのあと、発したのがこの言葉だった。
夜空の星々を眺めながら、発した一言。それは、過去の出来事を顧みるかのような、しかし、良いものを見ているのではなく、怒りと寂しさの感情がそこにはあった。
「さて、王の寝室はどこかな?」
城の広さ、大きさは想像以上であり、見つけるのは容易ではない。
「こんな時のための魔法!!」
適当に兵を見つけ捕縛。あまりにも弱すぎたため容易だった。
茂みに隠れながら……。
―――――そして発動する。
シェリナさんが奇跡的に使うことのできる魔法の1つ。
【マニヒュレイト】
下位魔法であり、精神魔法。下位ながら使い勝手がいい、一度だけだけど、命令ができる。さらに、相手が気絶あるいは、寝ている場合でも使える。
そして魔法は、魔力を消費することで使える。逆に、魔力が少なければ強い魔法は使えない。努力を続ければ、魔力は大きくなる。しかし、努力し続けることは難しい。
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「今からマニヒュレイトと言う魔法を使いますの」
そうシェリナさんは、自信を持って宣言した。
そして、その魔法の説明を終えると、どこからともなく現れた生き物―――ネコと言うらしい―――に、両手を前へ突き出し、
ネコに向けて魔力を集中させ、目を見開き、
そして、
【マニヒュレイト】
唱えた瞬間弱い光が生じる。
成功したと言わなくてもわかるほど、振り返り満面の笑みを浮かべた。
「ジャンプ」と言うと言いなり。
ネコを操って見せた。
そして、子供が悪戯を仕掛けるが如く、嘲笑に近い笑いに変化した。
「さあ、あなたの番ですわ。簡単ですので唱えてくださいます?」
そう言われ、彼女を真似し、ネコに向けて手をかざし、魔力を集中させる。
体から微量の魔力が抜けていき、先に集まる感覚がわかる。
そして、
【マニヒュレイト】
先ほどと同じように弱い光が生じる。
「うそ」
と、シェリナさんが反射的に言った。
しかし、成功したか、どうかは命令を出さなければわからない。
とりあえず、
「ジャンプ」
すると、ネコはジャンプした。
「ありえ……ませんわ……まぐれ……ですわ、まぐれ……」
彼女は、驚きで声が途切れ途切れになっている。
彼女は、知っていた。魔法にはまぐれが、ないこを。
しかし、信じられない事実。数時間前まで知らなかった魔法を簡単に使った。話しているときに、わかっていた。本当に知らないのだと。
彼女のトラウマを、掘り返してしまったことにシトは気づいた。
彼女は、属性についてあまり話さなかった。
そして、魔法適正について話すときは、棒読みだった。
「あの魔法憶えるのに、私は2年かかったのですのよ!!!」
涙目で悲鳴とも取れる、大きな声で叫んでいる。
美人な顔が少し崩れている。
シトは慌てて慰める。
「シェリナさん!今のはまぐれです。奇跡が起こっただけです」
と、ここからは呪文だけ教えてもらい、実践はしなかった。
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とりあえず魔法は成功した。兵士は目を閉じたまま起き上がった。
「え、えーと、国王の部屋を指さして」
左側の三階を指さした。
そして、魔法が終わり兵士は倒れた。
「さて、行こうかな」
そう言うと、シトは城を駆け上がった。
目的の壁に着くが、鍵があり、さらに、窓が厚く二枚もある。
まぁ、とりあえず、
シトは、破壊の力を使い、鍵を消滅させる。音を立てることなく……
細心の注意を払い、部屋の中に入った。
そこには、大きなベットに眠っている人がいた。
この部屋は、間違いなく寝室だ。それも―――分かったから壁はとても豪華な装飾、テーブルを始め多くのものが良い値が付きそう、そして、とても広い――――王の寝室の可能性が高い。
つまり、
「当たりだ」
起こさないように、シトは静かに興奮した。
ベットの前まで行き、顔を拝見した。
顔にはシワがあり、髪の毛は白髪、下界の人はこの年ぐらいだと年の見分けがつかない。
天界だと、200歳相当?
すると、喜ばしい驚きがあった。
もちろん、国王の顔をシトは知らない。
しかし、善悪を見極める力。オーラを見る。
かなりの善人と言うことがわかった。
集めた情報だと、数年前の急な税金の上昇。命令を出したのが側近の誰かだった。それを、国王は止められない。そう考えると、この目の前の人は、やはり…………
とりあえず、起こそうと思う。
「おはようございます」
と、体を揺らし、夢の世界から現実の世界に引き戻そうと、試みる。
結果から言うと、起きなかった。
ありえないほどの深い眠り? 死んでいる?
死んでいるのはありえない。善悪を見極める力が発動した。
集中して見るとわかる死者でもわかるけど……
強く揺すった。
反応がまるでない。
脈があることで死んではいないことがわかった。
病気による昏睡状態。または、睡眠薬による強制的な睡眠……
――――などと、考えていると、
「す、すみません。すぐ起きます」
この人は国王なのだろうか? 敬語を使うだろうか?
「今日は、どのようなご要件ですか?」
「国王陛下でしょうか?」
「何故そのようなことを……てっ、き、君は誰かね?」
やっと気づいたようだ。
「私の名前はシトと言います。国王陛下を助けに参りました」
これでいいはずだ。慣れてないため、付け焼き刃だけど。
「う、うむ、ありがたいが私は逃げることができない」
「娘が地下に捕らわれている」
人質か……
――――――それ故に、何もできない。
地位的には上。しかし政治、政策は口出しできない?
もともと、僕は、悪政を終わらせるために来たんだ。
「僕がその方を助けます。その後で少しお願いがあります」
お願いの内容を話した。
「そうしたら、君が危険に……」
「大丈夫ですよ。ここまで、忍び込みましたから」
「わかった承諾しよう」
重い口を動かし、
「娘を頼む」
重い意志が込められた声で言葉を紡ぐ。
そして、深々と頭を下げられた。
「一国の国王が頭を下げるなど――――」
「――――いいや、王としてではない父親としてだ」
何も言えなくなり、どうしようもなくなると、やっと頭を上げてくれた。
よし、押し切れた。
効率よく行こう。全兵力無力化は正直手間だ。城が入り組んでいれば尚のこと。
「今から助けに行くのでその姫の特徴と道を教えていただけますか?」