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12.暁2013(3)

 2週間ぐらい修業を続けていると……何となく、自分の中にあるフェルティガを感じられるようになった。

 オレの力は『闇の浄化』と『模倣』なんだって。

 どっちもかなり珍しいらしんだけど、その分フェルティガを使うからちゃんと修業しないと駄目だよって先生に言われた。

 『模倣』は要するにモノマネだから、修業しなくても見たり技を受けたりすればすぐできるんだって。

 でもその力加減はオレ次第だから、ちゃんと基礎がないと威力が大きすぎてすぐ疲れたり、逆に小さすぎて何にもならなかったりする……ということだった。

 それに、忘れるのも早くなるらしい。

 まぁ、日本では使う用事もないしね。別にいいんだけど……。

 ……でも、夜斗兄ちゃんや理央姉ちゃんと話せるようにはなりたいけどなあ……。


「あ、暁」


 今日の修業が終わって庭で休憩していると、何冊かの本を抱えた朝日が現れた。


「今日も図書館?」

「そう。アメリヤ様の許可をもらってね……テスラの歴史を学んでるの」


 朝日って、大学の医学部を卒業してお医者さんの資格も取ったのに、まだ勉強したいことがあるからって理学部の大学院に入り直した。

 それなのに、テスラでもまた別の勉強をするんだ。

 将来のテスラのためとか言ってた気がするけど……こういうところは、素直にすごいと思う。

 正直オレは、あんまり勉強は好きじゃない。学校の授業と宿題でもうたくさん。

 朝日は、今はそれでいいけど中学生とか高校生になったらそれじゃ駄目だって言ってた。


 朝日がオレの隣に座った。ボーっと西の塔を見上げている。

 ……何かを思い出しているのかな。


 修業をしてみて、みんなが朝日は特別だって言っていた意味がちょっとわかった。

 フェルティガエの人って多かれ少なかれその雰囲気を漂わせてるんだけど、朝日からは全く感じない。

 朝日は自分の中に相当な量を蓄えることができて、今の時点でもかなり貯め込んでいるはずだって話だったのに。

 つまり……底が知れない、らしい。


「あのさ……ユウってどんなフェルティガエだったの?」

「……闘う人」

「……闘う……?」

「テスラは長い間戦争をしていたって言ったでしょ? フェルティガエ同士の闘いもあったの。ユウは、そのエキスパートだった。多分……最強だと思う」

「誰も勝てないってこと?」

「そう。夜斗は……1対1なら私しか相手できないだろうって言ってたかな」

「……朝日って闘う人だったっけ?」

「私はフェルを吸収するからね。フェルの攻撃は効かないから」

「はー……」


 そうか。オレの両親ってテスラではそんなスーパーな人達だったのか。

 じゃあオレも、負けないように頑張らないと。


「……ユウの顔を見に行こうかな。暁も来る?」

「うん」


 オレ達は立ち上がると、王宮の中に入った。東の塔の一階――大広間からすぐ近くの部屋だ。

 この部屋はフェルティガで鍵がかかってて、朝日と許可された神官しか入れないようになっているらしい。

 部屋に入ると、オレ達二人はガラスの棺の傍に座って、ユウの顔を覗きこんだ。


「――!」


 オレはぎょっとして思わず後ろに仰け反った。

 なぜって……ユウの左肩に、黒い塊が動いていたから。


「暁? どうしたの?」


 朝日が不思議そうにオレの顔を見た。


「え、朝日、見えない?」

「何が?」


 全く分からないみたいだ。

 ひょっとして……これがオレのフェルティガなのかも。


「肩……左肩に、黒い塊がうごうごしてる」

「えっ……」


 朝日の顔が真っ青になった。


「これ、何? オレにしか見えないの?」

「待って……ちょっと待って」


 朝日は少し考え込むと、急に立ち上がり「暁はそこで待ってて!」と言い捨てて部屋を出て行った。

 不安を感じながら待っていると、わりとすぐに、朝日がフレイヤ様と一緒に現れた。

 フレイヤ様は先代の女王さまで、滅多なことでは北の塔から出て来ないらしい。

 オレは、テスラに初めて来た日に面会したっきりだった。

 そのときはわからなかったけど……今は分かる。すごい力を持ったおばあちゃんだ。


「アキラ。今も見えるか」

「あ……はい」

「どんな状態か説明するのじゃ。われには見えんからの」

「えっと……」


 オレはガラスの棺を覗きこんだ。左肩のところでうごうごしている。


「真っ黒い塊で……左肩のところにあって……左胸の方に行こうとしてじたばたしてるけど行けない、みたいな……」

「――闇じゃな。多分……間違いない」


 そう言うと、フレイヤ様が何か結界のようなものを張った。


「よく聞け、アキラ。今から闇の浄化をしてもらう」

「えっ! オレが?」

「お前にしか出来ぬ」


 フレイヤ様がずばっと言い切る。

 びっくりしていると、フレイヤ様は朝日の方に振り返った。


「アサヒ、お前は少し離れていろ。蓋を開けたらフェルティガを吸収してしまうかも知れん。アキラの浄化が終わったら、再び棺にフェルティガを満たすのじゃ。どうしても漏れ出てしまうだろうからの」

「……わかりました」


 朝日が青い顔のまま、扉のところまで離れた。胸のところで両手を握りしめている。


「よいか、アキラ。修業の呼吸を思い出せ。われが蓋を開けたらその見えている黒い塊に触れ、消えるところを想像するのじゃ」

「……はい」

「必ずできる。そして消えたらすぐに言うのじゃ。……よいな」


 何が起きてるのか全然わからないけど――今ユウを救えるのは、オレしかいないんだ。

 オレは目を閉じると深呼吸をした。最近ずっと習っていた……あの呼吸法を繰り返す。

 だんだん心が落ち着いてきた。

 自分の身体が、何かに覆われている感じがする。


「……いくぞ」


 フレイヤ様の声が聞こえた。

 オレが再び目を開くと、フレイヤ様が蓋を開けたところだった。すかさず両手をユウの左肩の上に重ねる。

 温かい……だけどその奥に、嫌な気配が伝わる。


 ――消えろ……!


 目を閉じる。さっき見た黒い闇が泡となって弾けるイメージをする。

 その雫がオレの手に纏わりつく。払いのけたい気持ちをぐっとこらえて、その雫が蒸発して消えていく様子を想像する。


 ――ミ……カッ……!


 黒い闇が何か言ったような気がしてぎょっとなった。

 目を開くと、オレの手の下にあった闇は消えていた。


「消えた!」


 慌てて叫ぶと、朝日が傍に駆け寄り、両手をかざした。身体の前面からフェルティガを放出しているのが分かる。


「――十分じゃ」


 フレイヤ様が蓋を閉めた。オレは思わず尻餅をついた。何だかくらくらする。


「暁……大丈夫?」


 朝日がオレを抱き寄せると、膝枕をした。


「え……何?」

「じっとしてて。回復するから」


 回復……?

 でも確かに、今は起き上がるのもしんどい。

 そのまま目を閉じて寝転がっていると、何だかポカポカしてきた。

 そして――そのまま眠ってしまった。



 目が覚めると、テスラでいつも寝起きしている部屋だった。

 傍には朝日がいて「昨日はお疲れさま」と言ってにっこり笑った。

 でも……何だか元気がない。

 そのことを言うと、朝日が少しずつ説明してくれた。


 ユウは左肩から腕を切り離される大怪我をしたんだけど、どうやらそのときに闇を取り込んでしまったんじゃないかってことらしい。

 意識がなくずっと眠ってたからとり憑かれることはなかったけど、身体がある程度治って、精神がちょっと目覚めたらしい。

 その隙に闇が活動を開始したけど、ユウに阻まれていたみたいだ。

 だから……ひょっとしたら、精神の中でユウは闇と闘っていたのかもしれない。

 目覚めると逆に危険だから、目覚めなかったのかもしれないって、フレイヤ様は言っていたそうだ。


「でも……あのまま放っておいたら、ユウの精神がもたなかったかも知れないの。暁のおかげだね」

「……修業しておいてよかった……」

「そうだね」


 多分、修業したから見つけられたんだよな。そうか……。


「ただね……闇が動いていた間は身体を治す方に力を回せなかったみたいで……ユウが目覚めるまでには、まだ時間がかかるみたいなの」

「ふうん……」

「ユウが独りで闘ってたのに……全然気付かなくて……何もできなかった……」


 朝日はそう呟くと、深い溜息をついた。

 そっか……それで元気がなかったんだ。


「仕方ないよ。朝日には見えないんだもん。闇の浄化はオレの役目だし」

「……」


 朝日は少し驚いたようにオレを見た。

 オレは背伸びをすると、ベッドから飛び下りた。


「朝日はフェルティガをあげるっていう重要な役目があるじゃんか」

「……そうだね」


 そしてちょっと笑うと、ぎゅっとオレを抱きしめた。


「だから、暑い……」

「暁ぁ、二人で頑張っていこうねー!」

「わかったから、離してよー!」


 じたばたしてみたけど、朝日の力は強くてびくともしなかった。

 ……でも、ちょっと身体が震えてる気がした。泣いてるのかもしれない。

 そう思って、オレはしばらくの間、されるがままになっていた。

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