表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

11.暁2013(2)

 溜息をつきながらリビングに入る。

 とりあえず、ソファにごろんと横になった。


「暁、アイスティー飲む?」

「飲むー」


 台所に居たばめちゃんがオレに声をかけたので、横になったまま手だけ上げる。

 ……何か疲れた。


「どうしたの、暁。女の子たち、何だって?」


 同じくソファに座って本を読んでいた朝日が、ちょっとこっちを見てのん気にそう言った。


「クラスでブールに行こうとか何とか……」

「行ったらいいじゃない」

「やだ。めんどくさい」

「……」


 朝日は本をパタンと閉じると、ちょっと強い口調で

「暁……また仏頂面で『無理』とか言ったでしょう」

と言った。


 去年のバレンタインデーにわざわざオレの家に来た子がいて、その子を泣かせちゃったんだけど(もちろんたたいたりしたわけじゃなくて、迷惑って言っただけ)、朝日にそれを見られちゃったんだよな。

 それ以来、朝日は「言葉にもう少し気をつけなさい」「人の好意にはちゃんとお礼を言いなさい」と口うるさく言ってくる。


「だって無理だもん」

「……暁、変なところユウに似てるのね……」


 朝日はそう言うと、溜息をついた。

 アイスティーを持ってきたばめちゃんが

「もう少し笑顔でお話しするようにした方が、いいわよ?」

となだめるように言った。

 オレは起き上がってばめちゃんからアイスティーを受け取ると、一口飲んだ。


「女子の集団はすぐつけあがるからヤダ。男はまだいいけどさ」


 言いながら……ふと、去年テスラで会った子たちを思い出した。

 初対面だったけど、全く嫌な感じはしなかった。

 そうだ……何て言うか、醸し出す雰囲気というか……こういうの、波長が合うって言うんだっけ?


「あのさ、こっちの人とテスラの人って違うんだよ」

「そりゃ違うでしょうね」

「そうじゃなくてさ。オーラが違うっていうか……テスラの人の方が波長が合うんだ」


 思い切ってこの言葉を使ってみる。


「朝日は感じたことないの?」

「全然……そもそも私、日本育ちだし」

「オレだってそうじゃん」

「……」


 朝日があれっというような顔をする。

 そして振り返ると、台所に戻ったばめちゃんに

「パパってどうだったの?」

と聞いた。


「ヒロは……私に対しては、最初から特に何もなかったというか……人懐っこかったわよ。でも、確かに……外に出ても、私以外の人に話しかけることは、殆どなかったわね」

「そっか……ママに一目惚れだったって言ってたもんね」

「それは、すごーく奇跡的なんだと思うな。ばめちゃんが特別なんだよ」


 オレが何気なく言うと、ばめちゃんが嬉しそうに笑った。


「本当? ありがとう、暁」

「??」


 何にお礼を言われたのかわからない。

 けれど、ばめちゃんはすごく機嫌がよくなって、鼻歌まで歌ってる。

 だから……ま、いいか。


 朝日はオレに向き直ると、

「じゃあ、何? 学校に居ると、居心地悪いの?」

と真剣な顔で聞いてきた。

 ちょっとオーバーに言い過ぎたかな、と思って、オレは

「……っていうより、テスラの子達の方が居心地がいい」

とだけ答えた。

 あんまり心配させちゃ、駄目だし。


「――考えたことなかった。ユウも……そうだったのかな……」


 ぶつぶつと独り言を言っている。


「まぁ、とにかくさ」


 これ以上この話はやめた方がいい気がして、オレは大きい声で言った。


「この夏はずっとテスラに行くって言ってたじゃん。オレ、すごく楽しみなんだ。理央姉ちゃんがフィラを案内してくれるって言ってたし」

「まぁ……ね……」


 朝日はまだ何か考え事をしている。

 オレは畳みかけるように

「それに夜斗兄ちゃんは必殺技教えてくれるって言ってたし。そっちのが大事」

と力強く言った。


 朝日はぎょっとしたような顔をして

「必殺技って……夜斗、何を教えるつもりなのよ」

と言った。


「内緒」

「何で? 私にも教えてくれればいいのに」

「朝日を倒すための必殺技だもん」

「何よ、それー!」


 そう言うと、朝日は本を放り出してオレの腕を掴まえた。


「わー、離せー!」

「ほーら、逃げられない」


 あっという間に羽交い絞めにされる。


「私を倒すなんて十年早いよ」

「くそー!」

「ほらほら二人とも、ソファで暴れないの!」


 リビングにオレ達三人の声が響く。

 こんな家族が……オレはとても好きだ。

 ――絶対、言ってやらないけど。



 次の日になって、オレと朝日はテスラに行った。

 ユウの顔をちょっと見たあと、オレはテスラの子たちが修業している部屋に連れて行ってもらった。

 朝日は女王さまとか図書館に居る女王さまのお母さんと話があるらしく、離れ離れになった。


 神官のおじさんに連れられて部屋に入ると、子供たちが一斉にこっちを見た。

 ……オレより大きい子の方が多い。

 テスラではオレが生まれる前に戦争があって、この子たちはそのときに親が死んだり、事情があって育てられなくなったフィラの子たちだって、朝日が教えてくれた。

 エルトラの女王さまの元で暮らしてるんだって。

 みんなは、オレが日本……えっと、こっちでは何て言ってるんだっけ……ミューなんとか……。

 まぁとにかく、日本から来てることは知らなくて、すごく遠く離れた島に住んでいる、ということになってるらしい。

 だから、日本のテレビとかゲームとかそういうテスラにはないものの話をしちゃ駄目だって朝日が言ってた。


「アキラだー」

「元気だった?」

「いつまでいるの?」


 みんなが一斉にオレに話しかける。でも不思議と……うざい感じはしない。


「1か月ぐらい。オレ、修業するの初めてだから、いろいろ教えてね」

「えー、そうなんだー!」

「でも、アキラってフェルティガすごく持ってるよね」

「そうなの?」

「うん。だから、そういう子は特にちゃんと修業しないと駄目なんだって。力が暴走したら危険だからって」


 この中では一番年上らしい男の子が丁寧に教えてくれた。確か……去年も会った気がする。


「僕はヨハネーリュンっていうんだ。ヨハネでいいよ」

「よろしく、ヨハネ」


 ヨハネはオレより2つ上の11歳だった。黒髪で、背も大きい。

 どことなく夜斗兄ちゃんに似てるな、と思ったら、ピュルなんとかっていう血を引いていて、夜斗兄ちゃんと理央姉ちゃんの遠い親戚にあたるらしい。

 修業では呼吸法を学んだり、イメージトレーニングみたいなことをしたりした。

 合わせて、体術もした。体力をつけて正しい型でフェルを使った方がうまく使えるようになるんだって。

 オレは朝日と一緒に空手道場に行ってたから、体術の方は得意だった。でも呼吸法とかはちょっと難しい。すぐ気が散っちゃって。


 ヨハネはどっちもすごく上手で、みんなの手本になってた。小さい子の面倒とかもよくみてるし。

 聞いたら、大きくなったら夜斗兄ちゃんみたいになりたいんだって。

 12歳で基礎は終わるから、普通はフィラに帰るらしい。フィラは戦争で大部分が焼け野原になったんだけど、もうかなり復旧してるんだってさ。

 だけどヨハネはエルトラに残って修業を続けるって言ってた。


「何でヨハネはフィラに帰らないの?」

「ヤトゥーイさんがエルトラに残ってるから。エルトラとフィラをつなぐ仕事をしてるんだって。僕もそうなりたいんだ」

「ふうん……」

「アキラは将来、何になりたいの?」

「う……」


 急に聞かれて、戸惑ってしまった。そんなこと、全然考えてなかったし。

 そっか……。そもそもオレは、こっちの仕事をしたいのかな? それとも朝日みたいに大学とか行って、あっちで仕事する方がいいのかな?


「まだ、わかんないや。いろいろ見てから考える」


 正直にそう言うと、ヨハネは「それでいいと思うよ」と言ってにっこり笑った。

 そんなヨハネを見て……先のことはわからないけど、オレもこんな風に、オレより年下の子たちに頼られるようになりたいな、と思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「旅人」シリーズ

少女の前に王子様が現れる 想い紡ぐ旅人
少年の元に幼い少女が降ってくる あの夏の日に
使命のもと少年は異世界で旅に出る 漆黒の昔方
かつての旅の陰にあった真実 少女の味方
其々の物語の主人公たちは今 異国六景
いよいよ世界が動き始める 還る、トコロ
其々の状況も想いも変化していく まくあいのこと。
ついに運命の日を迎える 天上の彼方

旅人シリーズ・設定資料集 旅人達のアレコレ~digression(よもやま話)~
旅人シリーズ・外伝集 旅人達の向こう側~side-story~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ