09◆再会&遭遇
『銅の剣』に【闇】と【混沌】属性を付与したら、
============
名称:銅の魔剣
属性:闇、混沌
S1:◆◆◆◆◆(混沌)
S2:◆◆◆◆◆(闇)
HP:27/250
性能:A-
強度:C+
魔効:C
【特殊】
自爆剣
毒斬り+
============
しょっぱい魔剣ができました。
いや、しょっぱいと言っても『性能』のA-ってかなり強いぞ? たぶん、岩も簡単に斬れる。
『強度』とともに最大HPも上がったから、修理すればかなり長く使えるしね。『自爆剣』を使わない限り。
『魔効』も普通レベルに足を突っこんでくれたから、『毒斬り+』とかいうのもそこそこ使える。まあ、俺はMPが少ないから一日に一回しか使えんけど。(武器や防具の特殊効果はMPを消費するのだ)
【混沌】属性を他の属性と組み合わせると、フルチャージしたときで『性能』、『強度』、『魔効』がそれぞれ4,4,4上がることはわかっている。(あくまで『銅の剣』の場合ね)
で、【闇】単体では4,1,3と上がるので、全体では8,5,7ほど元の『銅の剣』から上昇していた。
スロットが二つだけなのを考えても、やっぱりお得だよな。
とりあえず、道中の魔物は弱いから、この魔剣さえあれば低スペックの俺でも楽勝だ。当てれば倒せる。当てれば、ね。
ちょっと不安になってきたので、もうひとつの贈り物である、『お鍋のふた』を手に取った。
スロット数は1。【土】で強化してるけど、チャージレベルは1だから、ほぼ強化されていないに等しい。トムおじさんェ……。
とりあえずチャージレベルをマックスの5にすればいいのだろうけど、俺はここで、『それじゃあ面白くないな』と考えてしまった。
防具に【土】属性を付与するなんて、オーソドックスもいいところ。やはりロマンを求めたい。
となれば単体では使い物にならない【混沌】を除けば、レア属性の【聖】か【闇】。防御を考えれば【聖】が妥当なところだろう。
それも、なんかつまらないと思ってしまう俺。
ベースが木製の鍋ぶたなのだから、ステータス値がちょっと上がったところでどうしようもない。
ちょっとトリッキーなことがしたくなった。なので【風】を付与してみよう。
================
名称:お鍋のふた → 疾風の鍋ぶた
属性:― → 風
S1:◆◆◆◆◆(風)
HP:42/50 → 70
性能:E- → E+
強度:E → E+
魔効:E-
【特殊】
飛行+ ←new
================
名前が微妙にカッコいいな。
ステータスはさほど上がらんけど、『飛行+』てのが面白い。遠くに飛ばせる特殊効果だけど、狙ったところに命中させることもできるようだ。
トムおじさんが『投げて牽制しろ』と言ったとおりの用途が現実のものとなった。嬉しくない。
まあ、どのみち他属性を付与しても本来の役割(鍋のふたになる)以上には使えないわけだし、これでいこう。
俺は最終決定をして『疾風の鍋ぶた』を手に入れた。
んじゃ、携行食を買って旅を続けるとしますかね。
俺は魔剣を腰に差し、鍋ぶたを反対の腰に引っかけて、宿を後にするのだった――。
――で、三日が経った。
山を越え、川を渡り、街道をひたすら歩いて夜は野宿して、陽が大きく傾いた夕方手前。
両サイドは木々が生い茂る山道を下っていたら。
「ウォオオオーンッ!」
犬の遠吠えらしきが聞こえた。どこか聞き覚えがあるのはなぜなのか?
そろそろ弱い魔物が出そうな辺り。野犬や狼もいて不思議はない。ややしょっぱいとはいえ魔剣を持つ俺なら、まあ問題はないとは思うが警戒しつつ前進した。
何度か同じ遠吠えが聞こえ、それがだんだん近くなっている。
それだけではない。
どすんっ、どしんっと地響きのような……え、これ、足音ですか?
この辺りに巨大な魔物は存在しないはずだが……。
俺は恐々としながら、音が近づくのを聞いていたら。
ガサガサガサガサッ!
「うおっ!」
ぴょーん。ぴょーん。ぴょーん。
でっかいウサギが一匹、二匹、三匹と飛び出した。
真っ白な毛と赤い目をしたウサギは大型犬サイズ。その愛らしい容貌に反し、鋭い前歯で小動物を襲う『カニバラウサギ』という凶暴な魔物だ。
単体能力は野犬とさほど変わらない。だからこそ、複数が相手だと俺程度なら文字どおり餌食にされてしまう。
でもこいつら、群れなんて作らないよな?
疑問を浮かべる間にも、ウサギさんたちはぴょーんぴょーんと街道を横断し……がさがさっと反対側の茂みに突っこんだよ?
俺は眼中にないご様子。
それもそのはず。
いまだ大地は揺れている。カニバラウサギが逃げ惑うほどの、たぶん大きな魔物によって……。
俺は街道を駆け抜けるか引き返すかの選択に迫られた。
ウサギさんたちが目の前を通過したことを考えれば、進んでも戻っても大差ないに違いなかろう。
というわけで、俺は一目散に前へ駆け出した――ところで。
「うわーーーんっ!」
茂みを飛び越え、涙目の女の子が現れたではないか。
澄んだ湖を思わせるような青い髪はお尻まで伸び、頭の上にぴこんと耳が立っている。髪と同色のふさふさの尻尾が恐怖からか逆立っていた。
布を巻きつけたまっ平らな胸には見覚えがある。
ショートパンツや、肘までのジャケットにも。
というか顔を見た瞬間、彼女が何者か俺はすぐにわかった。
空中を流れていく女の子と目が合う。
ハッと驚いた表情をした彼女は、いっそう目を潤ませて、
「お兄ちゃぁーーーんっ!」「ぶべっ!」
なんと空中で身をひねって俺に飛びかかってきたっ。
ぷにっとしたお腹を顔面で受け止める。そのまま二人、ごろごろ転がった。
「うわーん! お兄ちゃんお兄ちゃんアリトお兄ちゃぁーんっ!」
俺の頭にしがみつき、俺を『兄』と連呼するこの少女は、リィル。
狼人族だが、その中でも偉大なる青大狼の血を受け継ぐ超稀少な一族なのである。
平凡な人族の俺とは、もちろん血がつながっていない。
俺が3歳のころ、村外れで俺の母親が傷ついたワーウルフの男を見つけた。その男が大事そうに抱えていた、生まれたばかりの赤ん坊がこいつだ。
男は看病のかいなく、三日後に死んでしまった。死に際に俺の母さんに託したので、リィルは養女として俺の家族に引き取られたのだ。
だから義妹、ということになる。
小さいころから俺に懐いていたけど、俺が旅立つときは見送りに来てくれなかったんだよな。
「ぶはっ! リィルお前、なんでこんなとこに?」
「アリトお兄ちゃんが村を出るって言ったから、リィルもついて行こうと思って……。でも『絶対ダメ』って言われると思ったから、黙って後を追いかけたの」
俺が何も相談しなかったから、てっきり怒ってるものだと考えていたが、どうやら違ったらしい。
涙目でしゅんとするリィルの頭をそっと撫でる。相変わらずふわふわで気持ちいい。
そこまで想ってくれているなら、拒む理由はない。
だって可愛いし。俺の通算四度の人生において、間違いなくダントツトップの美少女だ。……あれ? なんか『他にもいたような?』って気がするのは、なんでだろう?
まあ、それはそれとして。
「出たあーっ!?」
どしんどしんとした揺れがすぐそばまでやってくると、めきめきっと木がなぎ倒され、見上げるほどの巨人が姿を現した。
毛むくじゃらの巨人は7メートルほどもある。ごっつい顔の額部分に、ぽっこりした盛り上がり。
慌てて【解析】スキルを発動する。
==================
名称:ひとこぶオーガ
属性:土、闇
HP:355/560(1020)
MP: 80/ 80(150)
体力:B
筋力:B+
知力:D
魔力:D+
俊敏:D
精神:C
【スキル】
剛腕(鬼):C
硬化:C
==================
こんな辺鄙な場所にいるはずがない、危険度ランクBの魔物だった――。