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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
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80◆今度こそ決着




 今日はお祭りの最終日。

 みんな寂しい思いを抱きながらも、最後の最後まで楽しもうという気持ちが街にあふれていた。


 そして今日は決戦の日でもある。

 迷える魔神フェイラスとの決着を付けなければならなかった。


 最終決戦を前に、俺は方々に手を尽くし、拝み倒して最強の守りを手に入れた。

 借り物の『聖騎士の鎧』を身に着け、こちらも借り物の『竜鱗の大盾』を持つ。腰にはいちおう『鋼の剣』を差してるけど、たぶん使うことはないだろう。

 ベリアル(大人形態)とダルクさんを引き連れ、いざ決戦の場へ。




 街の中央広場に大きな円状にロープが張られていた。もともと広い場所だけど、直径が百五十メートルはある大きさだ。

 簡易闘技場、といったところか。ロープの外側にはすでに人だかりができていて、飲み物や食べ物を売り歩く人までいた。


 そして闘技場の中心には、フェイラスが待ち構えていた。


 彼女の足元には漆黒の鎧と大きな鎌。

 昨日、俺の家から盗まれたものだ。ちなみに魔鎧は本物だけど大鎌は偽物。どうせ彼女は大鎌を使わないだろうとすり替えておいた。


「あー、なくなったはずの大鎌と魔鎧があんなところにー」


 棒読みになってしまったけど俺は驚いた演技をする。


「くそぉ。魔鎧を装備されたら俺たちじゃ歯が立たないよー。返せー」


「おーほっほっほ、言いがかりはよしてくださいまし。これは拾ったのですわ。セイラの協力を得ましてね。所有者が立証されるまではわらわのモノですの。最低でも明日の朝までは!」


 セイラさん、『偽りとはいえ盗みに加担するなんて』と嘆いていたっけな。

 そのセイラさんは虚ろな目で会場入りする。


「えー、では、急遽企画されました『魔神さんとの戦闘演武』を開催します」


 わーっと歓声が上がった。

 俺はベリアルとダルクさんを残し、一人で前に進み出た。


「なんのつもりですの?」


「三人同時じゃなくて、一人ずつやらせてもらうよ」


 フェイラスは小首をかしげる。直後に高笑いを上げた。


「おーっほっほっほっほっほっほぉ!」


 いつもより長いな!


「舐められたものですわね。わらわと一騎打ちで勝てるとでもお思いで?」


「いいんだよ、これで」


「ならばその愚行、後悔させて差し上げますわ」


 フェイラスは魔鎧を装備する。兜は被らず、大鎌と一緒にどこかへ消し去った。そしてどこからともなく釘付きこん棒を取り出す。【収納】スキルか。便利だな。


 セイラさんが錫杖を地面に突き立てた。

 そして特殊効果を発動する。


「なっ――ッ!?」


 驚くのも無理はない。

 セイラさんが発動したのは【破邪の聖域】ではなく、【破邪の聖大域+】。事前に俺が彼女の錫杖を強化して、上位の特殊効果のさらに+効果にまで高めたものなのだ。


 ふはははは! これで彼女は並程度の力に――。


「猪口才な、ですわ!」


 びゅびゅんと迫りくる黒い影。あれ? めっちゃ速くない?

 

 俺は慌てて大盾を構えた。

 ガッキーン、とものすごい衝撃。すばやく【土】と【聖】をてんこ盛りにして防御を最大にしたおかげで、どうにか弾き飛ばされずにすんだ。


 にしても【破邪の聖大域+】内でもこれだけの力があるのか。ぶっちゃけSランク冒険者と遜色ありません。


 でもここは逆に考えよう。

 魔神を『人』レベルまで落とせたんだ。びっくりはしたけどガチガチの装備で俺でも十分に戦える。


「そらそらそらそらそら! ですわ!」


 猛烈な攻撃を盾で防ぐ。実のところ動けないのだが、フェイラスが息をついたその一瞬を狙い、俺は鎧を【風】で強化して身を軽くした。


 すたこら逃げる。逃げながら『魔力回復薬』をがぶ飲みした。

 俺の素のMPはかなり低い。鎧や盾の特殊効果をちょっと使うだけでMPが空になってしまうのだ。


「お待ちなさい!」


 ずぎゅーんと迫る彼女のスピードは俺と同等。ひたすら逃げ回り、それでも追いつかれたらまた身を固くして防御に徹した。


「わらわの隙を狙うつもりですわね? そうはさせませんわ!」


 猛ラッシュに盾のHPがガシガシ減っていく。借り物を壊すわけにはいかない。

 俺は大盾を放り投げた。

 驚いた隙にまた逃げる。追いつかれたら今度は鎧で必死に防御。

 こちらもガシガシHPが減っていき――。


「ベリアル! お願い!」


「わかった」


 フェイラスの側面をベリアルが襲った。俺は二人から離れてダルクさんの下へ。


「お疲れー。けっこう粘ったね」


「マジで疲れました。あとはお願いします」


「はいよー。でもこの中、けっこうキツイんだよねー。ベリアルちゃん、ダイジョブかな?」


 俺は情けなくも腰を落として戦況を見守る。


 ベリアルは大鎌の代わりに長い鞭を持っていた。本物の大鎌はここへ来る前に活用したけど、今は盗まれたことになっているので使えない。急遽用意したので性能は大鎌に劣るけど、巧みな鞭捌きでまるで生きている蛇のようにフェイラスを翻弄する。


「これ! これですわお姉様ステキ!」


 まあ、魅了されている部分も多いんだけど。


「見事に釣れたねー」


「セイラさんが入手した情報です。助かりました」


 やはり【破邪の聖大域+】内ではベリアルの動きも鈍い。それでも敬愛するお姉様の鞭捌きに夢中でフェイラスも同じく本来の動きができていなかった。


「作戦どおりだね」


「はい。でも事前に確認した限りベリアルはもうそろそろ……」


 彼女の属性を弱める中での戦いは、当然消耗も激しくなる。ベリアルの体はどんどん縮んでいった。


「ダルクさん、そろそろお願いします」


「りょうかーい♪」


 軽い口調でダルクさんが飛び出した。しかしその赤い瞳は獲物を狙う獣のように鋭かった。


「貴女で最後ですわね。速攻で片を付けさせてもらいますわ!」


 ベリアルとは半ば遊んでいたフェイラスの目の色が変わった。ここからは本気でやるつもりのようだ。

 ただ事前に試したところ、ダルクさんもこの領域内では力を最大限発揮できない。


「ダルクさん、がんばってください!」


 声援を送るしかできない俺は不甲斐なく感じていた、のだが。


「よっしヤル気でた! チョー上がるぅー」


 大剣とこん棒の、苛烈極まる攻防。

 まるで竜巻が生まれたような風圧に、見物していた人たちも驚きに静まり返った。


「……事前に確認したときは、もっとダメダメな感じだったよね?」


 ふらふらと戻ってきた子どもバージョンのベリアルに尋ねると、


「わたしには、声援がなかった」


「へ? あ、ごめん。え、てかそれが理由?」


 そんなバカな。


「声援があったら、わたしももっとがんばれたのに」


 ものすごく哀しそうな顔をされて非常に申し訳なく思う。


 一方のダルクさんはめちゃくちゃノリノリだ。


「とりゃとりゃとりゃー」


「くっ、なんて力ですの? ならばわらわも!」


 目にも留まらぬ速さで繰り出される大剣の攻撃を、フェイラスは強引に弾き返す。

 ダルクさんも負けじと弾かれれば最小の軌道をたどってフェイラスに打ちこんだ。


 両者譲らず、互角の攻防。

 しかし――。


「うにゅぅ……疲れたー」


 ダルクさんの気力が萎えてきた!?


「がんばってください!」


「おっしがんばる!」


 再び押し返すダルクさん。


「もしかして、わざとやってないかな?」


「きっと、そう」


 俺たちのつぶやきは歓声にかき消された。


 滅多に拝めない、Sランクの真剣勝負。

 その終焉が、訪れたのだ。


 ガッキーン、と。耳をつんざくような音が響き渡る。

 空中をくるくると舞うのは、弾かれたこん棒。


「……ぇ?」


 無手となったフェイラスの体に、大剣が打ちこまれることもなく。


 がしゃり。

 鎧が地面を叩く音がした。

 フェイラスが仰向けになって倒れたのだ。


「ぅ、動けませんわ……。力が……」


 ようやく訪れたこの瞬間に、俺は疲れた体に気力で鞭打って彼女に近寄った。


「君の負けだよ、フェイラス」


「な、なぜ? どうしてわらわの負けですの?」


「だってもう、君は立ち上がれないよ。魔力切れでね」


 ベリアルの魔鎧に魔力を食い尽くすような負の特殊効果はない。けど魔神が装備すると使用時に大量の魔力が消費されるのだ。


「ベリアルは渾身の一撃で大人から子どもになるくらいだからね。君も見たよね?」


「そんな……。まさか、初めからわらわにこの鎧を装備させて……」


「まあ、騙したようなものだけど、それはお互い様でしょ?」


「ぬ、ぬぬぅ……」


 悔しそうに顔を歪めるも、悪態を吐く元気も残っていないらしい。


 セイラさんが高らかに宣言する。


「フェイラスさんは戦闘不能と判断し、戦闘演武はアリトさんチームの勝ちとします!」


 わーっと歓声が上がったのを確認して、


「はい、どうぞ」


 俺は腰のポーチから大きな肉まんを取り出した――。



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ひょうし
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