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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
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08◆ドラゴン格差(幕間)


 アリトが魔剣を作り上げていたころ。

 

 彼が滞在する町の近く。森の中を流れる小川で、茶髪で褐色肌の美少女が釣りをしていた。あぐらをかいて釣り糸を垂らす彼女の背後で絶叫がこだまする。

 

「は、破廉恥ですっ。不潔ですっ。聞いているのですかっ、クオリスさん!」


 白い神官服を着た金髪美少女が憤慨していた。

 声を飛ばす先は、昨夜アリトとお楽しみだった美女だ。

 

「そう怒鳴るな、えーっと……今の名はセイラだったか? 仕方なかろう。我が彼奴きゃつに何かしら与えるには、直接肉体をつなげるしかなかったのだ」


「ちょくっ、にくっ……」


「その意味では、お主らがもう一度、彼奴の力になれる道を拓いたのだ。どうだ? セイラもやってみては」


 神官服の女性――セイラは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている。

 見かねたのか、釣りをしていた少女が会話に割りこんだ。

 

「でもさー、仮にも女神が処女性失くしちゃうと、あとあと面倒にならない?」


「そ、そうですよっ。具体的に何がどうなるかはわかりませんけれど……」


「ふむ。今のところさして影響はないように思うがな。元の姿に戻れぬかもしれん程度だろう」


「めちゃくちゃ深刻じゃないですかっ」


「そうか? この姿のまま、星とともに朽ちるのも悪くはないぞ?」


「クオリスちゃんってマジ軽いよねー」


「ふむ。ダルクに言われると、深刻に受け止めねばなるまいな。まあ、ヤッてしまったものは仕方がない」


 セイラは脱力するも、すぐさま気を取り直してクオリスを非難した。

 

「だいたいですね、クオリスさんっ。新スキルを創造してまで彼に与えるなんて、えこひいきが過ぎませんか? ぶっちゃけてしまいますと、ずるいですっ」


「今回のために創ったのではないぞ? 100年ほど前に老職人が我を訪ねてきてな。そのときに我が試練に耐えた褒美として創造し、与えたものだ。彼奴が死に、我の手に戻ってきたのだが、使い道がなくてな。我は不要なものを与えたにすぎぬが……ダルクよ、お主こそ過分ではないか?」


 クオリスは釣り少女――ダルクに視線を流す。


「そ、そうでしたっ。ダルクさん、どうして自分の(・・・)【解析】スキルをあげちゃったんですか!?」


「セイラちゃん、口調が幼くなってない?」


「ごまかさないでくださいっ」


 ダルクは苦笑してゆるふわの茶髪をかき上げながら、

 

「ん~、べつになければないで、そんな困んないしね。あの子が幸せになれるんなら、いいかなって」


「まるでのっぴきならない事情で他家へ手放した我が子を慈しむかのような発言……」


「ギャルっぽい見た目に反し、母性にあふれておるなあ」


「見た目は関係ないし――おっ?」


 釣竿の先がくいっと引っ張られた。ダルクは舌なめずりすると、「ほいっ」と釣竿を持ち上げる。丸々太った川魚が水面から飛び出した。

 

「餌、つけてなかったですよね……?」


「コツがあるんだー」


 ダルクは魚の口から釣り針を抜くと、川へ魚を放した。キャッチ&リリースである。

 

「てかセイラちゃんってさー、もしかして、自分が大したものあげられなかったから、後悔してるの?」


「――っ!」


 明らかに『図星を突かれました』という顔をするセイラ。

 

「ふつう、減るものを恩恵には授けぬよなあ」


「はうっ!?」


 明らかに『ですよねースキルポイントのみってありえないですよねー』という顔をするセイラ。指先をつんつん合わせていじけてしまう。


 見かねたダルクがフォローする。

 

「でもさー、相手に選ばせるって意味では、よかったんじゃん?」

 

「そ、そうでしょうか……?」


「そうそう。スキルポイントは多いに越したことはないしねー」


 セイラはほっと安堵するも、

 

(よく考えたら【聖】属性だって、三つのレア属性の中では一番ありがたみがないじゃないですか。わりと授かる人が多いですし……)


 やはり自分だけアリトにさほど貢献していないとの感が拭えなかった。

 ならば、とセイラは決意する。

 

(お二人には抜け駆けするようで申し訳ないですけれど、彼の近くで活動して、それとなく助力しましょう。うん、そうしましょうっ!)


 さすがに『恩恵』レベルのものを与えられないが、彼がアイテム強化職人として大成するまで、影になり日向になり手を貸すくらいはできるだろう。

 

 なぜか上機嫌になったセイラを不思議に思いつつ、ダルクは立ち上がった。片手でぽんぽんとお尻をはたいて土を落とす。

 

「んじゃ、アタシは行くねー」


「あれ? そういえばダルクさん、今は何をやってるんですか?」


 ダルクはにっと笑って釣竿をくるりと回す。瞬間、釣竿は身の丈ほどもある大剣に成り変わった。切っ先が平らになったような、『斬る』というより『叩きつぶす』ための武器に思える。

 

「アタシ、冒険者やってるんだー」


「へ?」


「この姿だと力がかなり制限されちゃうけど、それが逆に楽しいっていうか」


 セイラはハッとして、もう一人へと目を向けた。

 

「あの、クオリスさんは、何を……?」


 クオリスはふわふわのショールをもてあそびながら、

 

「我か? 我は……そうだな。錬金術師にでもなろうかと考えている」


「……」


 ダルクが「んじゃねー」と立ち去ると、クオリスもまた、「ではな」とダルクのあとを追うように森へと姿を消した。

 

 二人が向かったのは、アリトが目指す街の方角だ。

 

 冒険者は、武具やアイテムを使う職業。

 錬金術師は、装備品やアイテムを作る職業。

 

 いずれも、アイテム強化とは深い関わりがある。

 

 と、いうことは――。

 

 

「抜け駆けずるいですっ!」



 セイラの絶叫が、森の中でこだました――。

 


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ひょうし
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