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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
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79◆決闘(?)を申し込む


 翌日、協力者のセイラさんに誘導してもらい、フェイラスと対面した。念のためベリアルも一緒だ。彼女が側にいないと今まさに襲われかねない。

 

「ここで会ったが百年目、ですわね」


 すでに戦う気満々だった。


「ちょっと待った。街中で戦うのはマズい。まだ異界への道が見つかってない状況でお尋ね者にはなりたくないだろう?」


「ふぅむ、たしかにいろいろ面倒そうですわね」


「だからさ、この際だから正々堂々、勝負しない?」


 むむ? とフェイラスは片眉を跳ね上げる。


「街の中央広場で、お祭りのイベントとしてやるんだ。それなら街の人たちも君を犯罪者扱いはしないよ」


「事故に見せかけて貴方を殺せばよいと?」


 えぇ……殺す気も満々なのか。


「それはちょっと後々困る。だから勝負は賭けってことにして、君が勝てば君の望みを叶えるよ」


「ベリアルお姉様をくださいまし!」


 まあそうくるよな。


「いいよ」


「やりましたわやったーっ!」


 もう勝った気でいる。


「で、俺が勝ったらだけど――」


「あり得ませんわ! けれどいちおう聞きましょう」


 余裕の笑みをたたえる彼女にずびしっと言ってやる。




「俺と一緒に夜のパレードを見てもらう!」




 お祭り最終日の夜に、街を南から北へ行進する最後にして最大の催しだ。

 フェイラスがジト目を飛ばしてくる。


「……それだけ、ですの?」


「うん。それだけ」


「他には何も?」


「うん。他には何もしなくていいよ」


 顎に手を添え何か考えている風のフェイラスは唐突に笑い出す。


「おーっほっほっほ、『ベリアルお姉様に付きまとうな』などと言われたら、万が一わらわが負けた場合は即刻約束を反故にするつもりでしたけれど、それなら問題ありませんわね。なんなら指切りして差し上げましてよ?」


 卑怯なんだか何なんだか……。


「ん、じゃあ指切りね」


 小指を絡ませぴんと離す。


「約束は守ってよ?」


「くどいですわね。この程度の約束なら問題なく履行いたしますわ」


 これで前提条件はクリアだな。


「ところで俺がすごく弱いのは知ってるよね?」


「お姉様の鎧がなければスライムにも劣るのは見てわかりますわ」


「いちおう装備は充実させるつもりだけど、ベリアルとダルクさんもこっち側ってことでいい?」


「ハンデ戦を自ら申し出るとは情けないですわね。まあ、問題ありませんわ。こちらには切り札がありますし」


 魔鎧と大鎌を盗む気も満々、と。ここまでは想定どおり。

 この面子なら前回とほぼ同様。体調が万全でないのを加味しても魔鎧と大鎌が自身に渡れば実力差が大きく開くと考えるはずなのだから。

 さて、最後の関門だな。


「何度も言うけど決闘はお祭りの一環だ。見物人に被害が出るとややこしいことになる。安全対策としてセイラさんに【破邪の聖域】で会場を包んでもらうけど、いいかな?」


 フェイラスが眉をしかめた。さすがに難色を示したか。【破邪の聖域】内では【闇】属性の力が弱まる。彼女自身と、盗んで装備した魔鎧に直で影響するもんな。


「ベリアルが魔鎧を装備すると呪いの霧が発生するでしょ? その対策だよ。こっちのベリアルとダルクさんは【闇】属性だし、相対的に俺のパフォーマンスが上がっても誤差みたいなもんだし、条件はほぼ同じだと思うんだけど」


 みんなの力が弱まれば、勢い余って見物人に被害が出る危険も減る。


 フェイラスはむむむと考えこむ。むむむ、むむむむぅ……って長いな!

 堪らず声をかけようとしたところで袖を引っ張られた。ベリアルがふるふると首を横に振る。


「…………いいですわ。さして実害はありませんし、その条件を呑みましょう」


 なるほど。邪魔しなければ面倒くさくてどうでもよくなるんだね。もし負けても『次』があるのがいい方向に彼女の感情を向かわせたようだ。


「それじゃあ最終日に。ああ、そうだ」


 俺は今思いついた風に言う。


「明日は俺、用事があってベリアルが一人ぼっちなんだ。一緒にお祭りを回ってあげてくれない?」


「喜んで!」


 食いつき早っ!?

 明日の待ち合わせ時間と場所を取り決めて、この日はセイラさんに彼女を丸投げした。


 さあ、忙しくなるぞ。



        ☆



 嫌いなのではない。

 ただ苦手なのだ。

 その理由もわかっている。


「さあさあベリアルお姉様、あちらから何やら楽しげな音楽が聞こえてきましてよ?」


 フェイラスがぎゅっと抱きつき、ずりずり引きずっていく。

 この有無を言わせぬゼロ距離感。さらに相手の返事を待たず一方的な提案だけで巻きこむ身勝手さ。


 アリトやこの街の人たちはけっしてそんなことはしない。

 必ずベリアルに許可を取ってから、適切な間合いで接してくる。手を引くときにもまずは差し伸べ、彼女がその手を取ったうえで急がず焦らずペースを合わせてくれる。


 だというのにフェイラスときたら。


「あら、踊っていますわね。まったく優雅の欠片もないですわ。けれどそれもまた一興。さあお姉様、一緒にお手本を見せて差し上げましょう」


 むんずとベリアルの手をつかみ、踊りの輪の中に入っていく。

 自分はただ眺めるだけでいいのに。


 派手な衣装で軽快に舞うフェイラスに注目が集まる。周囲の興奮が一気に高まり、歓声が巻き起こった。


「お姉さんかっこいー」

「腰つきがヤベえぞ!」

「姉ちゃんイケてるねえ」


 囃し立てる声と楽器の音色が不思議な調和を奏で、先ほどまでとは違った、一層の盛り上がりを見せた。


「誉め言葉が陳腐ですわよ? もっとわらわを讃えなさいな!」


 フェイラスもノリノリである。


「お姉様、いかがですか? まだ足りなさそうですわね。ではこうですわ!」


 何も反応せずにいると、フェイラスは飛んだり跳ねたり大暴れだ。いちおう周りの人にぶつかってはいないが、突然舞い降りたウサ耳美女に目を丸くする者もいた。


「おーっほっほっほっ! たーのしー、ですわ」


 ベリアルは呆れて眺めていた。

 だというのに――。


「はうっ!? ベリアルお姉様がわらわを慈しむように微笑んで! ひゃっほーぅ!」


 おかしなことを言う、と思ったものの。


(あれ? わたし、ホントに笑ってる……?)


 わずかに頬が緩んでいると感じた。


「やはりお姉様はわらわと共にいるのがよいのですわね。あのちんちくりんの男などよりも!」


 きっとアリトと一緒のときのほうが笑っている、と反論する間もなく。


「さあ次はどちらにまいりましょう? おや? あちらに妙な物体がありますわね」


 とある銀行の前にある奇妙な形をしたモニュメントだ。

 フェイラスは一度見ているはずだが忘れているのか、


「噴水ですわ、お姉様。ちょっと見ていきましょう。水に濡れてもわらわが隅々まで拭いてさしあげますので!」


 じゅるりと涎を垂らしそうな勢いに辟易する。

 相も変わらず返事を待つことなく。

 またも腕をつかんで引きずっていった。


 わかっている。


 フェイラスがどうしてそこまで身勝手に振舞うのか、理由は明らかなのだ。


 それはベリアルが拒否しないから。

 ではなぜ、自分は彼女に拒絶を突き返さないのだろう?

 自問して、気づく。


 きっとアリトはこれに気づかせるため、フェイラスと一緒に行動させたのだ。


 彼女のゼロ距離感、その身勝手さは苦手だ。苦手ではあるけれど、フェイラスの横暴を拒まない理由、それは――。





 ――だってわたし、嫌じゃないもの。



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ひょうし
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