78◆お祭り中の魔神対策会議
お祭りに浮かれていた俺に、セイラさんから連絡があった。
フェイラスが俺をぎったんぎったんにしたいと息巻いているそうな。
理由はわかる。わかりすぎる。でも話を聞く限り彼女はその理由を自覚していない。
自身の本当の感情を知らないまま、単に俺が気に食わないから襲おうとしているのだ。
「そこを自覚してもらえたら解決策もあるんだよな」
逆に自覚させなければ、今回は対処できてもまた彼女は俺を襲うだろう。それは嫌だ。面倒くさすぎるし命が危ない。
「――というわけで、みなさんに集まってもらいました」
夜、成り行きで当事者になってしまったセイラさんに加え、元から当事者のベリアルと、ダルクさん、クオリスさんを呼んで自宅で作戦会議を始める。
「そなたも面倒事によく足を突っこむのう。今のあやつは万全には程遠い。前回と似た策で沈黙させることは可能であるぞ?」
「でもキリがありませんし」
「魔神の力そのものを封印する手立てがなくもない。が、そなたは選択せぬのだろうな」
「ま、そこがアリトくんのいいとこだよー」
力で押さえつけても解決には至らないと思う。彼女にはぜひとも『納得』してもらいたいのだ。
逆に彼女の性格からすれば、ひとたび納得してくれれば以降の危険はなくなると確信している。
そんなわけで俺は考え抜いた作戦を説明した。
最終的にはフェイラスと戦い、彼女を打ち負かしたのちに説得する。
そのためにも――。
「俺から彼女に『正々堂々戦おう』って提案しようかなって」
しんと静まり返る。最初に口を開いたのはクオリスさんだ。
「あやつが応じるかな?」
「たぶん大丈夫だと思います」
「たぶん、か。まあ、そなたのことだ。秘策があるのだろうな」
そんな大層なものじゃない。彼女はそれで受けてくれるとの確信があった。だってあの魔神さん、素直なんだもの。
「勝負はお祭りの最終日。場所は街の中央広場です」
みんなが一斉に驚く。
「ちょ、街中で戦うのですか?」
「無茶じゃね?」
「何を考えておる、アリトよ」
普通に考えたら一番避けなきゃいけない場所だもんな。
「フェイラスはまだ街の一員とは言えません。だから危険視する人も多い。その状況で俺を襲おうと考えていると知られれば『排除すべし』との声が上がると思います」
たとえ俺が戦いを挑んだ体を取り繕っても、彼女の口から俺を敵視している言葉が出ればどうしようもない。
「だから――」
「「「だから?」」」
ベリアルを除く三人が身を乗り出す。俺は静かに告げた。
「お祭りのイベントにしちゃいます」
「「「……はあ?」」」
果し合いではなく、お祭りの一環――魔神さんとの戦闘演武だと街の人たちをも騙す作戦だ。
「もちろん街の上層部の一部には真意を伝えて協力してもらいます。みなさんにもいろいろ手伝ってもらわないといけないんですけど……」
俺は詳細を語った。
できるできないの問題ではなく、必ず成功させる意気込みで。
みんな静かに聞き入っていた。事前準備にいろいろ奔走しなくちゃだけど異論はないようだ、と思ったらセイラさんが手を挙げた。
「あの、本当に魔鎧と大鎌を盗ませていいんですか?」
それだとこちらの戦力が大幅にダウンするから危惧するのは当然か。
「大丈夫です。むしろ彼女には盗んでもらわないと困るので」
理由を話すとみんな『なるほどー』と納得してくれた。
「で、セイラさんは引き続き彼女の協力者として貼りついてください。それから、こちらが指示したタイミングで魔鎧と大鎌をフェイラスに盗ませましょう」
「他者を騙すのみならず、犯罪の手助けまで……。わたくしにできるでしょうか?」
「その辺りはクオリスさんの得意分野ですから、都度相談すればいいと思います」
「ふふ、信頼されるのは喜ばしい反面、内容に納得がいかぬなあ」
とりあえずがんばってくださいとしか。
「わたしはどうするの?」
「どこかで一日、フェイラスと一緒にお祭りを楽しんでほしい」
あからさまに嫌そうな顔をされた。気持ちはわかる。
「時間稼ぎに加えて、最終的に彼女を説得するのに必要なんだよ。それに、君もそろそろフェイラスと真面目に向き合ったほうがいいと思う。きっと何か見つかるよ」
「わかった……」
渋々といった表情を崩さないベリアル。ここもがんばってくださいとしか。
「他の日は、アリトと一緒でもいいの?」
「俺の時間が取れたときはね。いや、なるべく一緒にいられる時間は取るよ」
「なら、いい」
ベリアルの表情が緩んだのでホッとする。
「アタシはどうしよっかな? 最後まで出番ナシってのもつまんないし」
「俺はフェイラスの目を盗んでもろもろやらなくちゃいけませんから、その間にセイラさんと一緒に彼女の気を引いておいてください。タイミングはこちらで指示しますので」
「ん、りょうかーい」
これでだいたいの役割分担は決まったな。
「でも大丈夫でしょうか?」
セイラさんは暗く目を伏せる。
「魔鎧を彼女に渡してしまえば、呪いの霧が街中で発生することになります」
「そこは考えてます。セイラさんの協力が不可欠なんですけど――」
俺が説明すると、
「なるほど。それなら大丈夫ですね」
安心したように微笑んだ。
ただ失敗は許されない。街の人たちの安全が第一だから、そこだけは十分に注意しないと。
こうして俺たちの作戦は始まったわけだが。