07◆『銅の剣』を強化した
服を着て、俺はベッドの上であぐらをかいた。
『銅の剣』を前に置く。
【解析】でチェック。
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名称:銅の剣
属性:-
S1:◇◇◇◇◇
S2:◇◇◇◇◇
HP:27/100
性能:D
強度:D-
魔効:E-
【特殊】
なし
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けっこう痛んでるなあ……。教会に寄付された時点で使いこまれてたみたいだ。
などと俺が感じたのは、『HP』の数値を見たからだ。
HPは、人のステータスにあるHPと意味合いはほぼ同じ。
これの左の数値が0になると、いつ壊れてもおかしくない。
0になった瞬間かもしれないし、それからしばらく持つかもしれない。こればかりは運である。
逆に言えば、HPが1でも残っていれば、絶対に壊れない。
神々の恩恵で守られているこの世界は、そういうふうにできているのだ。
まあ、ドラゴンの突進を受けたら、HPが1,000あっても一瞬で吹き飛んでぶっ壊れるだろうけど。
で、HPの右側の数値――『100』は最大HPを意味している。修復すれば、この値を上限として左の数値が回復する。
アイテム強化によって『強度』が上がると、最大HPが増えていくのだ。
ちなみに人のHPには、最大HPをいつくまで増やせるかを示す『限界HP』がある。
今の俺のステータスは『HP:150/150(150)』となっているが、この()内の数値がそうだ。
この値は体力が増えれば上がっていき、スキルポイントを消費することでここまで最大HPを増やせるという仕組み。
HPの下にある『性能』は、アイテム本来の使い方をしたときの性能を表している。剣なら切れ味とか、そんな感じ。
『強度』はまんま、硬さとか耐久度合い。物理的な衝撃への強さ、ってところか。また、繰り返しになるが、これが上がると最大HPも上がる。
『魔効』は魔法効果の意。特殊攻撃の効果を上げたり、魔法耐性を強めたりする。モノによっては最大HPが上がることもある。
さて、いよいよアイテム強化を行うわけだが。
『銅の剣』のスロット数は2(S1とS2)。ま、妥当なところか。
そしてひとつのスロットには、5回分の強化が行える。『◇』は何もしていない状態。属性を一段階付与すると『◆◇◇◇◇』という表記に変わる。
ただし、同じスロットには同じ属性しか付与できない。だから、スロット1に【水】、【土】を一回ずつ付与するって芸当はできないのだ。
「とりあえず、スロット1には【火】かなあ?」
【火】は性能面を強化する属性だ。
基本中の基本、と言える。
ま、今回はお試しだ。
【強化図鑑】なるスキルで『銅の剣』に【火】属性を付与したらどうなるか?
そう頭に思い描くと、【解析】ウィンドウとは別のウィンドウが表示された。
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『銅の剣』
【火】
CL1:『性能』↑ 【属性】→火 (SP:1↓)
CL2:『性能』↑ (SP:2↓)
CL3:『性能』↑ (SP:4↓)
CL4:『炎斬り』 【名称】→『炎の銅剣』(SP:8↓)
CL5:『炎斬り』→『炎斬り+』 (SP:15↓)
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細かいことは後回し。さっそく強化を試みる。
俺は【解析】ウィンドウのスロット1を指で軽く触れた。
――付与する属性を選択してください。
とのメッセージ。ずらっと7属性も後に続く。
【解析】スキルを持つ俺は、こうしてアイテム強化が行える。めっちゃ便利。
他の人は【アイテム強化】スキルが専用のウィンドウを表示させるのだが、裏ステータスのスロットがどうのは表示されない。
適当にスキルポイントを指定して、それに見合った強化が行われるのだ。だから無駄があったり足りなかったりがある。
【火】を指先で触ると、次のような表示になる。
――チャージレベルを選択してください。
そして【解析】ウィンドウのスロット1にある、5つの◇がピコピコ点滅した。
◇を最初からゆっくりなぞると、ひとつひとつが◆という感じに塗りつぶされ、この状態で点滅する。
俺は一気に5つ分を◆で埋めた。
――チャージレベルは5でよろしいですか?(必要SP:30)
ここで【解析】ウィンドウ上、強化後のステータスもわかるようになった。
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名称:銅の剣 → 炎の銅剣
属性:― → 火
S1:◆◆◆◆◆(火)
S2:◇◇◇◇◇
HP:27/100
性能:D → C
強度:D-
魔効:E-
【特殊】
炎斬り+←new
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ふつう、強化後のステータスはわからない。
こんな表示になるのは、【強化図鑑】のおかげだろう。
名前が『炎の銅剣』(ちょっとカッコいい)に変わり、属性が【火】になり、『性能』がD → D+ → C- → Cと三段階上がり、特殊効果として『炎斬り+』が追加されるんだな。
【強化図鑑】のレシピどおりだ。
ちなみに『炎斬り+』は炎をまとった剣で斬りつけるという、まんまの技だ。ただ『銅の剣』は『魔効』が最低レベルなので、威力はお察しだろうな。
俺は『はい』を選択――――しようとして思いとどまった。
『銅の剣』を基本四元素で強化しても、そこそこの性能に上がるだけ。スロット2に別の属性を付与して組み合わせても、飛躍的な性能アップとはならない。同じ【火】で強化しても、倍までいかないのだ。
そう、【強化図鑑】が告げている。
ここはロマンを求めるべきではなかろうか?
稀少属性だけを、組み合わせてみては?
そんなささやきが聞こえた。
とはいえ、【聖】と【闇】は相克関係にあり、組み合わせると逆に性能が落ちる。【火】と【水】なんかもそうだ。
そこで登場するのが、【混沌】属性だ。
【混沌】は、人や亜人は持ち得ない。つまり、歴史上アイテム強化でこれを使った者はいなかった。
だからまったく未知の領域。
というわけで、好奇心から俺は試してみることにした。
まずは念のため図鑑をチェック。
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『銅の剣』
【混沌】
CL1:? (SP:3↓)
CL2:? (SP:6↓)
CL3:? (SP:12↓)
CL4:? (SP:24↓)
CL5:? 【属性】→混沌 (SP:45↓)
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『?』ばっかりだ。まあ、当然だね。あれ? でも属性が変わるのはチャージレベル5になってからか。
それにしても、必要SPがけっこう高いな。【火】のときの3倍。全部で90かあ……。
ふっふっふ、しかし心配ご無用。
強化を施せば、ちゃんと経験としてスキルポイントが入ってくるのだ。
だいたいトントンなので、やりまくってスキルポイントを稼ぐほどにはならないんだけどね。
仮に減ったとしても、スキルポイントは万単位で残ってるからヘーキヘーキ。
【解析】ウィンドウでスロット1に【混沌】属性をピピピピピッと埋めていくと、
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名称:銅の剣 → ???
属性:― → 混沌
S1:◆◆◆◆◆(混沌)
S2:◇◇◇◇◇
HP:27/100 → ?
性能:D → ?
強度:D- → ?
魔効:E-
【特殊】
???
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おおう? 『性能』と『強度』が同時に上がるのか。【聖】や【闇】は『魔効』も上がると図鑑にあったけど、ふーむ。
俺はえいや、と気合を込めて、『はい』を選択した。
ぴろりん♪と音が鳴り、『SP85を獲得しました』との表示が。
むむ、収支はマイナスか。しょんぼりするも、すぐさま気を取り直して強化の結果を見てみると――。
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名称:鈍らの銅剣
属性:混沌
S1:◆◆◆◆◆(混沌)
S2:◇◇◇◇◇
HP:27/50
性能:E
強度:E-
魔効:E-
【特殊】
自爆剣
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ステータス下がっとるやないけっ!
というか、名前からして『なまくら』って……。
特殊効果の『自爆剣』も怪しすぎる。
詳細を確認すると、どうやらアイテムの残りHPをすべて消費して特大ダメージを与えるらしい。剣は粉々に砕けてしまうとか。
う、うーん……。
ここぞの一撃として使えるかもしれないけど、なんか微妙。てか基本性能が『木の棒』並じゃあなあ。
【混沌】って実はダメ属性?
いや、そんなはずはないだろう。
俺も噂でしか耳にしたことはないけど、【混沌】属性をもつ武具やアイテムは破格の性能で、伝説級とまで言われるものもあったとか。
何かヒントがないかと、俺はたった今、登録されたばかりのレシピを確認する。
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『銅の剣』
【混沌】
CL1:『性能』↓ (SP:3↓)
CL2:『強度』↓ (SP:6↓)
CL3:『性能』↓ 『強度』↓ (SP:12↓)
CL4:『性能』↓ 『強度』↓ (SP:24↓)
CL5:『自爆剣』 【名称】→『鈍らの銅剣』
【属性】→混沌 (SP:45↓)
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名称もチャージレベル5で初めて変わるのか。
というか、CL5の段階のみ、デメリットがない。『自爆剣』がメリットかと言われると微妙だが、いちおう使いどころによっては有益だから、デメリットではないだろう。
……。
…………。
………………。
……………………これ、他の属性と組み合わせたらどうなるのん?
俺は好奇心に負け、【火】属性をスロット2にぶち込んだ。
結果――。
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名称:爆炎の銅剣
属性:火、混沌
S1:◆◆◆◆◆(混沌)
S2:◆◆◆◆◆(火)
HP:27/250
性能:B+
強度:C
魔効:D
【特殊】
自爆剣
炎斬り+
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おお~っ。けっこう上がったな。
性能的には中級~上級の冒険者向けだ。それで特殊効果が二つあるのはかなりの高額武器。三つのステータス全部上がってるし。
さっそくレシピを確認する。
ちなみに今回は【混沌】→【火】の順だったが、【火】→【混沌】の順でのレシピも登録されていた。
まずは今回の手順のレシピ。
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『鈍らの銅剣』
【火】
CL1:『性能』↑x8 『強度』↑x7 『魔効』↑x4
【属性】→火、混沌
【名称】→『銅の剣』(SP:1↓)
CL2:『性能』↑ (SP:2↓)
CL3:『性能』↑ (SP:4↓)
CL4:『炎斬り』 【名称】→『炎の銅剣』(SP:8↓)
CL5:【名称】→『爆炎の銅剣』
『炎斬り』→『炎斬り+』 (SP:15↓)
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続いて【火】を最初にした場合。
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『炎の銅剣』
【混沌】
CL1:『性能』↓ (SP:3↓)
CL2:『強度』↓ (SP:6↓)
CL3:『性能』↓ 『強度』↓ (SP:12↓)
CL4:『性能』↓ 『強度』↓ (SP:24↓)
CL5:『性能』↑x7 『強度』↑x7 『魔効』↑x4
『自爆剣』 【名称】→『爆炎の銅剣』
【属性】→火、混沌 (SP:45↓)
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どちらの場合も最終的には一緒。
ステータスは『性能』が7段階、『強度』と『魔効』が4段階上がっている。
で、俺は理解した。
【混沌】はスロットにフルチャージしたとき、かつ、他の属性と組み合わせたとき、初めて効果を発揮する、らしい。
他属性と組み合わせた場合、ステータスはそれぞれ4段階上がるようだ。あくまで『銅の剣』の場合だけど。
武器である剣を強化するにあたり、【火】を組み合わせるのは真っ当な判断だ。
でも、俺は7属性すべてを付与できる。
どうせなら、もっとハッチャけた性能にしたいものだ。
となれば、レア属性である【聖】か【闇】を試したいところ。
どっちにしよう?
特徴として、【聖】は『魔効』がより強化される。あとは『加護』的な意味からか、『強度』がアップしやすい。
対する【闇】は【火】に近く、性能アップが基本。魔効の強化も行われ、呪い系の特殊効果が得られる。
カッコよさそうなのは【闇】だよな。
というわけで、【闇】を組み合わせることにしました。
まず、スロット2の【火】を解除する。フルチャージしたときのスキルポイント30の半分、15を消費した。(でも獲得SPも15だったので実害なし)
さあ、空いたスロットに【闇】を付与して強化してみるぞっ。
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名称:銅の魔剣
属性:闇、混沌
S1:◆◆◆◆◆(混沌)
S2:◆◆◆◆◆(闇)
HP:27/250
性能:A-
強度:C+
魔効:C
【特殊】
自爆剣
毒斬り+
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なんと、『魔剣』が誕生してしまったぞ……。