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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
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64◆イベントの終わり、そして新たなイベントへ


 自室に舞い戻ってしまった俺をダルクさんが迎えに来てくれた。俺たちは水着のままギルラム洞窟まで戻る。周りの視線が痛かった。

 

 翌日もみんなで楽しんだ。

 スイカ割りをしたり、砂のお城を作ったり。『立入禁忌ロープ』が倒れて魔物が侵入してきたときは肝を冷やしたけど、ダルクさんとベリアルが瞬殺していた。


 それぞれテントに入ってお休みの時間。


 明日は午前中ちょっと楽しんでお昼を済ませたらお開きだ。まだ残りがあるとはいえ、実に楽しかったと俺はタオルケットを被って目を閉じた、のだが。


 眠りに堕ちかけたところで、テントの入り口がしゅるりと鳴った。誰かが入ってきたらしく、俺の寝床にもぞもぞと潜りこんでくる。


 またクオリスさんか! と跳ね起きようとしたが感触が違う。


 もふもふとして気持ちいい。


「リィル?」


 にゅっとタオルケットから顔を出したのは、まさしく我が妹だった。


「どうした? 眠れないのか?」


「うん、ちょっとね」


「エリカたちは?」


 リィルは学友二人とベリアル、四人で一緒のテントを使っていた。


「みんな寝ちゃったよ。リィルも寝てたんだけど、目が覚めちゃった」


 それで俺のところに来たのか。なんだか久しぶりだな。


「今日で最後だし、お兄ちゃんと一緒していい?」


 断る理由はない。


 俺が「もちろん」と微笑むと、リィルは嬉しそうに俺の横に並んだ。


 しばらくは目を閉じる様子もなく、じっと俺の顔を見ていた。


「楽しかったか?」


 俺が尋ねると、リィルは一瞬だけきょとんとしてから、満面の笑みになった。


「うん! カタリナちゃんやエリカちゃんも、すっごく楽しかったって言ってたよ」


「そいつはよかった。いろいろ準備した甲斐があったな」


「ありがとうね、アリトお兄ちゃん。海に連れてきてくれて」


「どういたしまして。でもまあ、次は本物の海で遊びたいよね」


 ううん、とリィルは首を横に振る。髪の毛が首筋に当たってくすぐったかった。


「ここだって素敵な海だよ。お水は塩辛くて、お魚がいっぱいいて、砂浜もあって、リィルが思ってたとおりのとこだった」


「そうか。ならよかった」


 変に謙遜しても意味はない。俺たち兄妹はいつもこんな感じなのだ。リィルが喜んでくれたのならそれで満足なのである。


「お兄ちゃんはいつもリィルのお願いを聞いてくれるよね」


「そりゃあ可愛い妹のためだ。張り切るもんさ」


「えへへ。でもあんまり無理はしないでね? お兄ちゃんに何かあったら大変だもん」


 無理や無茶をしている自覚はないのだけど、傍から見るとそういう場合もあるのだろう。過労で倒れたこともあったしね。妹の諫言は素直に受け取ろう。


「わかった。注意する」


「うん♪」


 しばらくは俺も眠れずに、昔の思い出話なんかを二人でした。


 水関連で泳ぎの話だ。俺が生まれた村には川が流れていて、最初は俺がリィルに泳ぎを教えていたものだ。けれどあっという間に抜かされて、いつしか俺が教わる立場に。

 リィルは体を動かすことにかけては抜群の才能があるからね。


「でもちょっと寂しいね」


「楽しい旅行も明日で終わりだもんな」


 こういうイベントって終わりが近づくと楽しければ楽しいほどのちに訪れる喪失感を先取りして寂しくなっちゃうんだよな。

 でもまあ、イベントが終われば次のイベントが楽しみにもなってくる。


「もうちょっとしたら大きなお祭りがあるの知ってるよな?」


 三年に一度、ゼクスハイム全体の規模でお祭りがある。ちょうど今年がそうなのだ。


「うん。えーっと『冒険者大感謝祭』だっけ? 冒険者の人たちに感謝するのかな?」


「いや、逆だ。冒険者の人たちが、日ごろお世話になっている街の人たちに感謝を伝えるお祭りみたいだ」


 また志半ばで命を落とした仲間たちへの鎮魂の意味合いもあるのだとか。


 冒険者が主体であっても街を挙げての大規模なお祭りだから、住民も一緒になって準備をする。祭り自体もそうだけど、それまでの準備期間もなかなか賑わって浮ついた感じになるとか聞いたな。


「楽しみだね♪」


「そうだな。そのお祭りが終わっても、楽しいことはたくさんある。ひとつひとつで思い出を作っていこうな」


 リィルのふわふわの頭を撫でてやると、


「うん♪」


 くすぐったそうに妹は笑うのだった――。




 ところで。

 俺たちがダンジョン内で海水浴をしていた話が街で噂になった。

 バネッサたちが広めたんじゃなく、何人かの冒険者に見られていたのが原因のようだ。


 ある日話を聞きつけた商人がやってきて、ぜひとも海水浴場を正式にオープンしたいから協力してほしいと申し出た。

 断る理由はないので知り合いのギルドマスターさんたちに相談したら、あれよあれよという間に海水浴場がオープンしたそうな。


 あれ以来あの階層には行っていないけど、けっこう繁盛していると耳にする。

 よかったなあと思いつつ、俺もけっこうな収入になってほくほくでした――。




~~~




 ギルラム洞窟の奥深く。いまだ冒険者未踏の階層。

 光はなく、闇が支配するその中心部に、異変が起こった。


 天井が激しく内側から打ち鳴らされる。ドゴン、バゴン、と轟音が生まれるたびに階層全体が揺さぶられた。


 ピシリ、ピシリ。


 天井に亀裂が走り、殴打に合わせて広がっていった。

 やがて――。


「おーほっほっほっ! ついにやってやりましたわ! さすがわらわ、エレガントォゥ!」


 びゅんと何者かが飛び出した。


「わらわが来たからには『人に連なりし者』どもに未来はありません。七百年ぶりにこの世界を闇と恐怖に染め上げて差し上げますわ!」


 絶叫しながら、


「おや? 地面が、ありませんわね……?」


 ぴゅーと落っこちて。

 べちゃっ!


 汚泥にその身を突き刺すのだった――。



次回から新展開です。新キャラ登場&お祭り準備。


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ひょうし
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