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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
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62◆水泳教室


 海水浴の準備が整うと、さっそくみんなは遊び始めた。

 

 俺は念のため安全対策のチェックを繰り返す。海のほうはダルクさんとリィルが遠泳勝負がてら向かってくれたので、俺は砂浜側の『立入禁忌ロープ』を確かめる。

 あまり近寄ると臭いので、【解析】を使って離れて確認していると。


「あ、あの……お兄さん」


「ちょっとよろしいかしら?」


 カタリナちゃんとエリカに声をかけられた。


「どうしたの?」


「いえその、実はわたしたち、泳ぎが得意じゃなくて……」


「は?」


「ですから、二人とも泳げないのですわ」


 むっとするエリカを呆然と見やる俺。

 泳げないのに海水浴に? それって俺たち兄妹が無理に誘ったってことじゃないか。


「ゴメン! 俺、全然知らなくて……」


 楽しい旅行にするはずだったのに、なんて失態。謝って許されることじゃない。


「何を勘違いしているか知りませんけれど、わたくしたちはべつに来たくなかったわけじゃありませんわ」


「海は初めてですし、みんなと一緒は楽しいです」


「それにほら、海水はよく浮くのでしょう? ですからこの機会に泳ぎを覚えようかなとも思いまして」


 モジモジする様にホッと胸を撫でおろす。

 

「あー、もしかして俺に泳ぎを教えてほしい、と?」


 二人はうなずく。

 俺は子どものころからよく川で遊んでいた。リィルほどじゃないけど泳ぎはそこそこできる。

 でも俺じゃなくてもいいのでは? と思い見回すと。


 クオリスさんはビーチパラソルの下で酒をちびちびやっている。セイラさんとベリアルは食事の準備を始めたらしい。ダルクさんとリィルは沖合まで行ってるから、俺しか残ってないな。


「わかったよ。俺でよければ」


 ぱっと笑みを咲かせる二人を、絶対に泳げるようにしてみせるぞ!




 ――てなわけで。


 初心者にいきなり『泳げ』と言っても厳しい。二人は水に顔を付けるくらいはできたので、基本のバタ足からだな。


 腰辺りまで浸かるところまでやってきて、俺は手にしたモノを掲げてみせた。


「なんですの? その板は」


「キックボードだよ。バタ足の練習用具だね」


 さっきそこらの板で作った。【風】と【水】で強化して絶対に沈まないし進むのをサポートしてくれる。


 なぜかジト目のエリカ。カタリナちゃんも戸惑っているような?

 よくわからないが、二人に使い方を教えてレッツ・トライ。


「わ、わぷっ、わわわっ」


 カタリナちゃんは背を大きく反らして力強く足をバタバタさせている。ただどうにもバランスが取れていなかった。


「ふえぇぇ、難しいですね……」


 いったん足を海の底につけ、肩まで浸かってしゅんとする。しかし、である。


「わ、わわわっ」


 背中からひっくり返りそうになった。

 理由は確定的に明らか。


「これ! この大きな胸が浮き袋になっているのですわ!」


「ふわわっ、エリカしゃまぁ、やめてください~」


 エリカがわしわしとカタリナちゃんの胸を揉みしだく。


「ちょっとエリカ落ち着こう?」


 引きはがしつつ、今度はエリカに指導する。


「違う、違いますわ……こんな小道具につかまるのではなく、もっとこう手取り足取り……」


 手取り足取り?


「道具を使うのは不安なの?」


「そ、そうですわね。我が身ひとつで泳げるようになるためなのですから、道具に頼るという発想からして間違っているように思いますわ」


 カタリナちゃんもこくこくうなずく。


「そうか。効率は悪くなるけど……じゃあ、はい」


 俺が手を差し出すと、


「ほわっ!」


 なんかすごいびっくりしていた。恐る恐るといった風に俺の手を握る。柔らかいな。リィルとはまた違った感触だ。

 エリカの手をしっかり支えてバタ足を開始。なかなか筋がいい。


「むぅ……エリカさまずるい……」


 今度はカタリナちゃんがむくれてしまった。キックボードの人気のなさよ。

 俺は交互に手を貸すことにした。


「わ、わわわっ」


 カタリナちゃんはやっぱり胸が邪魔をしているのかバランスを取るのに苦労している。


 しかしあれだね。目のやり場に困る。

 一生懸命バタ足するたび体が大きく左右に揺れるのだけど、同じくぶるんぶるんと大きな胸も躍動する。


「どこを見ていますの?」


「カタリナちゃんのバランスを見ています」


 ジト目が痛くて敬語になる俺。いけないな。彼女たちが泳げるようになるために、しっかり指導しなくては。


「そんなへっぴり腰でどうする!」とか。

「もっと足を伸ばして!」とか。

「いいぞ! あと十往復だ!」とか。


 俺の指導にも熱が入る。

 そうこうするうち、二人のバタ足も様になってきた。


「わたし、疲れました……」


「だいたい、一日で泳げるようになるのは無理ですわよ……」


「いやいや、あともうちょっとだよ。がんばろう!」


 二人の上達に俺のやる気は最高潮。

 そこへ、すぅーっと水面を流れる何か。


「がんばっておるのう。うむ、若人の懸命さは周囲に活力をもたらすもの。善きかな善きかな」


 クオリスさんだ。俺が作った浮き輪にお尻を突っこんだ体勢でどんぶらこと流れていく。


「……あれ、いいですわね」

「……楽ちんそうです」


 あれぇ? 道具に頼るのは間違ってるんじゃないの?

 でも浮き輪を使って遠くまで行けたので、二人は満足そうでした――。





 洞窟内は外の時間に合わせるように、夕方になれば海の彼方が朱に染まり、夜になれば暗くなって丸い月を模した明るい部分と小さな星の煌めきが天井に現れる。

 

 その夜はバーベキューを楽しんだ。

 お肉や野菜を鉄串に刺して焼いて食べる。


「ん? カタリナちゃんどうしたの? あんまり進んでないっぽいけど」


「ふぇ!? ああ、いえ、その……なんと言いますか……」


 カタリナちゃんは鉄串を持ったままもじもじする。


「そうですわ。しっかり食べなければ大きくなれませんもの」


 横ではエリカがバクバクと食べている。今日はバタ足の練習でお腹が空いていたのだろう。


「どこを見ていますの?」


 胸は見てないよ?


「……でもエリカさま、食べすぎると太りませんか?」


 ぴたり。カタリナちゃんのつぶやきにエリカの動きが止まる。なんかぷるぷる震えはじめたので俺はフォローに入った。


「今日はたくさん動いたし、みんな育ちざかりなんだからいっぱい食べても平気だよ」


「そうだよあむあむ、このお肉とっても美味しいよもぐもぐ」


 リィルも寄ってきた。


「い、いえ、よく考えたらリィルさんやカタリナは前衛で動きまくるからいいですけど、わたくしは……」


 一番ちびっ子のエリカこそたくさん食べて大きくならないといけないんだけどなあ。


「だからどこを見ていますの?」


 だから胸は見てないよ?


「と、とにかくほら、ベリアルを見習って……」


 指差した先では、ベリアルが一瞬にして鉄串に変える芸を披露していた。


「あれをマネするのはちょっと……」


「ですよねー」


 ここで俺は思い出す。


「そういえば美容によさげな食材があったな」


 スタイルを維持する効果があるかは知らないけど。

 俺の声に反応したのは学生組ではなく、大人組だ。


「本当ですか!?」

「マジ!?」

「ほほう? 今のは話は聞き捨てならんな」


 みなさんちょっと必死過ぎない?


「海中に出現する『四つ目シャーク』って魔物のドロップ品で、『巨大フカヒレ』てのがあるんですけど、それを強化すると『高級美容巨大フカヒレ』に――」


「ダルクさん行きましょう!」

「了解セイラちゃんまっかせて!」

「連中は群れるそうだ。集めてから一網打尽にしてやろうぞ」


 めちゃくちゃ気合が入ってませんか?


「で、ベリアルは何を?」


 大鎌を持ち出してこちらもやる気が十分なわけだが。


「食べ物だけじゃ、足りない」

「あの魔物ってそんなにMPは高くなかったよ?」

「群れると聞いて」


 数で勝負というわけか。


「んじゃアタシが囮になるからセイラちゃんが集まってきた巨大ザメに大技食らわせてよ。で、止めはベリアルちゃんね」


 作戦も決まって目が血走る大人二人。ベリアルも珍しく薄く笑っている。


 で――。


「大漁たいりょー♪」


「さっそくフカヒレスープを作りましょう。明日の朝から最終日まで」


 虹色ドロップ品なのに十個くらい持って帰ってきたぞ。

 それだけ大量に魔物を狩ったら当然、


「ん、ちょっと水着がきつくなった」


 ベリアルはばいんぼいんの大人バージョンに成長してしまった。

 その姿を見て、エリカが目を輝かせる。


「わたくし、たくさん食べますわ」


 うん、まあ、あんな風になれたらいいね、と願わざるを得ない俺でした――。



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ひょうし
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