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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
6/81

06◆15歳の俺、旅立った直後に謎スキルを得る

 

 15歳になった俺は、村を出る決意をした。

 大きな街へ行き、現役のアイテム強化職人に師事して、修行を積むためだ。

 

 俺は全属性をコンプリートし、【アイテム強化】スキルは最高のランクS、しかも超役に立つ限定スキル【解析】まで持つ、史上最高のアイテム強化職人になり得るとの自負がある。大量のスキルポイントもほとんど使わずに貯めてるし。

 

 でも、残念ながら俺には決定的に足りないものが二つあった。

 

 知識と、経験だ。

 

 ド田舎の村には、【アイテム強化】を持っているのが一人しかいなかった。

 ドワーフ族のトムおじさんだ。

 でもトムおじさん、散々大きなことを言っていたくせに、実はアイテム強化職人としての実務経験はほとんどなかったことが発覚した。俺が12歳のころだ。

 

 見習いレベルの知識と、経験。それでも俺には必要だから、彼の下でいろいろやっていたのだが、もう限界だった。

 

 特に知識面で、ものすごく遅れているんじゃないかとの不安がある。


 アイテム強化は、対象のアイテムと属性付与の組み合わせで様々な強化パターンがあった。

 それこそ膨大な量の強化の仕方(レシピ)が存在する。

  

 三度の冒険者人生で、酒のツマミ話に聞いたあやふやなレシピをぼんやり覚えてはいるけど、我ながらめちゃくちゃ怪しい。

 実際に試したかったが、村にあるのは農具とかそんなのばっかで、強化用のスロットが一個しかないから試しようがなかった。

 幸か不幸かこの村の周辺には魔物が出没しないので、タヌキとかの害獣くらいしか戦う相手がいないのだ。

 

 生まれた直後にアイテム強化職人を志した俺は、時間的アドバンテージがあると高を括っていた。

 だが、都会っ子やお貴族様はきっと、最先端のレシピに触れる機会がたくさんあるに違いない。

 

 というわけで俺の次なる目標は、都会に出て最先端の知識レシピを吸収することに定めた。

 

 独立できるくらいのレシピを、できれば2年以内に自分のものにしたいものだ。それくらいやれば、経験も伴ってくるだろう。

 

 そういえば、俺は目標を立てるたび、いつの間にか実現していたな。

 ま、さすがに知識は無理か。書物に記したとしても、けっこうかさばるしね。




 

 

 春先。ある晴れた日。旅立ちのときがやってきた。

 

「アリト、元気でな」と父。

「くじけるんじゃないよ」と母。


 他にも村人がほぼ総出で、俺を見送ってくれた。


「これは餞別じゃ。大事に使うんじゃぞ」


 村長さんが俺に小袋を差し出した。

 受け取ると、ずしりと重かった。中は、銀貨や銅貨がたっぷり入っている。

 

 幼いころから『アイテム強化職人になるっ』と宣言していたからか、みんな応援してくれている。目的の都会の街までの旅費と、1週間ほどは街で暮らせるお金も用意してくれたらしい。

 貧しい村なのに、たった一人の少年のために、みんなが少しずつ出し合ってくれたお金だ。

 

 俺、四度の人生合計で135年生きてきて、こんなに優しくされたの初めてかもしれない。

 

 実を言うと、10歳のころに【火】と【土】の属性を持っていると村の人たちには告白していた。

 ホントは全属性コンプリートだけど、それはさすがに騒ぎになるからナイショなのだ。

 

 二つの属性を持つというのも、かなり珍しい。二万人に一人くらいだろうか。村には例外的にすごいのが一人いるが、それくらい。

 だから俺には、けっこうな期待が集まっていた。

 

 でも、前世や前前世みたいなちやほや感とは違う。

 あの頃は打算というか、『こいつを若いときに世話してやったらあとでオイシイ』的な雰囲気をビシバシ感じた。

 でも村の人たちの優しさは、人情をものすごく感じる温かいものだったのだ。

 

「ありがとうございます。俺、絶対に成功して帰ってきますからっ」


 俺は強い決意を言葉にする。

 そんな俺の前に、神父さんが進み出た。

 

「私からは、これを」


 差し出したのは、ちょっと古い感じの剣。【解析】で確認すると、『銅の剣』だった。

 

「以前、旅の冒険者が教会に寄付してくれたものです。隣町まで危険はありませんが、そこから先は弱いながらも魔物が出ます。基本、逃げることを推奨しますが、どうしてもというときは使ってください。君は、その……ステータスが同年代に比べて貧弱なので」


 ありがたい。ありがたいが、『貧弱』は余計ではないだろうか? 

 ちょっとしょんぼりな俺に、今度はトムおじさんが寄ってきた。


「俺からはこれだ」


 ……『お鍋のふた』? ああ、いちおう【土】属性を付与して硬度を増してるのか。でも木製のふたをちょっと硬くしてもなあ。

 

「いいか、魔物が出てもまずは逃げることを考えんだぞ? どうしてもってときは、これを投げて牽制しろ」


 盾代わりに防ぐんじゃないのか……。

 

 俺はバカ正直にステータス値だけは申告しているので、弱いと思われている。

 目指す街まではそれほど強い魔物は出てこないのだけど、寄ってたかって『逃げろ』と言われるとは……とほほ。

 ま、弱いなりに対策はしっかりしておこう。とりあえず、『銅の剣』は隣町に着いたらなんとなく強化しておくか。

 

 ちなみに一応の旅の準備として、HPを増やしておいた。

 HPやMPは、何もしなければ上がらない。代わりにステータスの上昇に応じて『限界HP』や『限界MP』が増えていき、スキルポイントを消費することでこの値まで最大値を増やせるのだ。

  

 やや気勢が削がれてしまったが、俺はめげずに旅立った。

 でも、ちょっとだけへこんでもいる。

 見送りにきてくれた村人は、ほとんど全員。足が悪かったり、病気がちの人たちを除けば、一人以外は、みんなだ。

 

 その一人に、別れが告げられなかった。

 それが心残りだった――。

 

 

 

 

 夕方には、隣町にたどり着けた。


 旅立ってから最初の夜。

 野宿しなくて済んでよかったね。とはいえ、村のみんなからもらったお金は無駄遣いしたくない。夕食は携行食で済ませたし、寝るだけだから、馬屋でもいいんだよなあ。

 

 町は俺の住んでいた田舎村に比べれば大きいが、そこは辺境の町だ。宿屋なんて1軒だけ。

 

 以前、一度だけ父親と一緒に来たときの記憶を頼りに、宿屋へ向かっていたら。

 

 

 

「そこな少年よ、前途に悩みを抱えておるな?」




 偉そうな声が俺にかけられた、らしい。

 通りに人はまばらだが、その人は俺にまっすぐ顔を向けていたので間違いなさそうだ。

 

 灰色の髪をした、妖艶な美女だった。

 大人びてはいるがギリギリ十代という感じ。体のラインがくっきりわかるぴっちりロングドレスは巨大な胸の中ほどでひっかかっているだけっぽい危うさ。髪と似た色のふわふわな襟巻きを身につけ、胸を支えるように腕を組んでいた。


 こんな小さな町にも娼婦がいるのか、と失礼ながら思う。それにしては容姿レベルが高すぎやしませんかね?

 

 しなを作って近寄ってくる彼女に、俺は心臓が跳ね踊った。


 三度の転生を経て135年。これだけの美女にお目にかかったことはなかったのだ。たぶん……。


 妖艶なお姉さんは薄く笑みをたたえて俺の前に立つと、怪訝そうに眉をひそめた。

 

「なんと……。彼奴きゃつらめ、すでに接触済みであったか。我が一番出遅れたとはな」


 お姉さん、俺を見つめつつも俺をほったらかしにして独り言を続ける。

 

「しかし、これは……。ふむふむ、なるほどのう。そういうことか」


 いったいどういうことでしょう? もしかして、美人局つつもたせですか? 俺は怖いお兄さんたちが潜んでいないか、辺りを見回した。いなさそうで安堵する。

 

「となると、我が与えられるものはアレしかないのう。それに彼奴らと違って、我は此度の人生ですでに恩恵を授けておる。『一度の人生で一度きり』の掟を破るには、アレしか手がないが……、うーむ……」


 お姉さん、俺のあずかり知らぬところでお悩み中。てか、『アレ』とか『アレ』とか曖昧に言われてもさっぱりですよ。

 

「そも、そこまでの義理があるか?との疑問がある。しかし、彼奴らがやっておるのに、我がしないというのも悔しいものだ。うむ、ここは腹を括るか」


 お姉さん、何やら納得した様子で俺の手を、取った……?

 

「とはいえ、この場ではさすがにためらわれる。ついてまいれ」


「は? いや、あの……?」


 お姉さん、有無を言わさず俺を引っ張っていく。ものすごい力で振りほどけない。というか、柔らかいので振りほどきたくないっ。

 

 あれよという間に、宿屋に到着。一番いい部屋に通された。俺のお金で……。

 

 一番といっても田舎町だ、そこそこ広い部屋にそこそこ大きなベッドが置いてあるだけ。

 

 というか、あれ? これって……。

 

「何をしておる? はよう服を脱がぬか」


「ってなんで脱いでるんっすか!?」


 すでにすっぽんぽんなんですけどっ。おっぱいでけえ! なのに垂れてねえ! 腰ほっそ! お尻もぷりんぷりんじゃないですか!

 しかしあまりに堂々としていらっしゃるものだから、まったく性的ないやらしさがない。

 

「なぜ、とな? ヤルことをヤルに決まっておろう」


「ヤ、ヤル……?」


 それって、アレをソレして致すってことですか?

 しかし相変わらず堂々としていらっしゃるものだから、腕立て伏せでも始めるんじゃないかと思ってしまう。

 

 俺はわけがわからないまま、ベッドに押し倒された。

 頭が沸騰しそうだ。

 あ、あれ? 実際、意識がぼんやりしてきたぞ……? 体の感覚というか、何をしているのかさえ理解できない。お姉さんの声が、反響して聞こえてくる。

 

「本来、神に連なる(・・・・・)我が恩恵を与えられるのは、一度の人生で一度きり。先の転生ですでに我はそなたに【混沌】を授けておる。ゆえに掟を破り二度目を授けるには、直接の絆が必要である。もっとも、これで本当に最後であるがな」


 なんか、朦朧としてきた……。

 

「我は、現世の知識をそなたに与えよう。が、それはこれまで先達が発見した知識のみ。7つをそろえたそなたならば、未知なる強化を探し当てもできよう」


 何、を……?

 

「最後に、そなたにとって最高の一夜は、煙のごとく記憶から消えゆく。誠に残念であるな。ちなみに、我は初めてであるので、ちょっとは優しくせんか、ばか者……」 


 だんだんと、お姉さんの美貌が霞がかっていき――

 

 

 ………………………………

 

 

「――――はっ!?」


 俺は目を覚ました。

 あれ? なんで俺、ベッドで寝てたんだ? しかも裸で。

 

 むくりと体を起こし、記憶をまさぐった。でも――思い出せない(・・・・・・)。誰かに会ったような気がするけど、誰だかは覚えていなかった。

 

 手持ちのお金を確認する。この部屋の料金を考えれば、妥当な金額だけ減っていた。なにやってんのよ、俺。大事なお金を……。

 

 だがこのとき俺は、不思議な感覚に囚われていた。

 

 なんか、妙に頭がすっきりする。

 

 あれ? 知らんはずの強化の組み合わせ(レシピ)が浮かんでくるんだけど……?

 

 まさかっ! 知力がものすごく上がってるんじゃ?

 

 俺はウキウキしながらステータスを開いた。


==================

属性:火、風、水、土、聖、闇、混沌

 

HP:150/150(150)

MP: 30/ 30(30)

体力:E+

筋力:E

知力:E

魔力:E

俊敏:E+

精神:E


SP:27,655


【スキル】 

 強化図鑑:Limited

 解析:Limited

 アイテム強化:S

==================

 

 知力、増えてねえっ!

 

 しかし、相変わらずステータス低いな……。もうちょっと体とか頭とか鍛えたほうがいいかも。

 

 ではなく。

 

「【強化図鑑】ってなんだよっ!?」


 思った瞬間、その解説が表示される。

 

 どうやら、アイテム強化のレシピをいつでも参照できる限定スキルらしい。そんなの存在したのか……?

 

 図鑑にはけっこうな数が登録されているが、中には『未登録』の組み合わせもある。実際にやってみて、効果を確認できたら登録されるのだとか。

 

 でも聞いたことないスキルだし、本当に役に立つのか疑わしい。


 だったら試せばいいじゃないっ!

 

 ということで、俺は神父さんからもらった『銅の剣』に手を伸ばした――。

 

 

 

 

 

 その前に、服でも着るか。

 


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ひょうし
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