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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
59/81

59◆旅行の計画

 モンテニオ銀行へとやってきた。

 

 台車をごろごろ転がす。布が被さって中は見えないようにしていた。

 応接室に入ると、


「アリトさん、お疲れさまでした」


 小さな女性が満面の笑みで俺を迎えた。丸メガネをかけた銀行員のサマンサさんだ。


「どうでしたか?」


 緊張した面持ちでの問いに俺は笑みで答えた。


「なんとかご満足いただけましたよ」


 すると後ろから入ってきたシルクハットの紳士が言う。


「満足も満足、こちらの要望以上の出来だったよ」


 アイテム商店ギルドのギルマス、オレマンさんだ。

 今日は銀行経由でギルドから依頼を受けた新アイテムを披露した。街の外でひと通りのプレゼンをして戻ってきたところだ。


 台車の布を取る。

 二つの棒をロープでつなげたアイテムが姿を現した。この棒を地面に突き立て、ロープを張る。ロープからは魔物が嫌がる臭いが出て、ロープを張った周辺が安全になるという代物だ。

 その名も『立入禁忌ロープ』。


===========

名称:立入禁忌ロープ

属性:闇


S1:◆◆◆◇◇(闇)

S2:◆◆◆◇◇(火)

S3:◆◆◇◇◇(風)


HP:155/155

性能:C+

強度:D+

魔効:C


【特殊】

 不寄ガス噴霧

 接近者検知

 塗装自動解放

 切替スイッチ

===========


 

 ただこの臭い、人でもけっこう強烈だ。もとは『ぼっちガス』という、体にふりかけると虫だろうが魔物だろうが人だろうが近寄ってこない残念なアイテムだった。

 それをロープに染みこませ、特殊なコーティングをして臭いを閉じこめる。使うときには寄ってきた何かに向けて臭いをじわじわ放出する、というものだ。


 細かい機能の調整に苦労したものの、よいものができた自負がある。ちなみに強化が中途半端なのは俺以外が強化した場合を想定したからだ。


「いや驚いたよ。使い道のない『ぼっちガス』をこんな風に活用するとはね」


「これで旅商人さんたちが野営するとき、安心してお休みいただけますね」


 野営地をぐるりと取り囲む必要はない。一定の距離を開けて複数置けばそれで足りるのは証明された。洞窟の入り口に設置して中で休むのもいいだろう。

 ただし上空からの侵入には弱い。そっちは棒を長くする対策を検討中だ。まあ、空飛ぶ魔物は数が限られているから、出現する場所に近づかない方法もあった。


「農場や牧場からも問い合わせがくるだろうな。需要はかなり高い」


 オレマンさんが商売人の顔になった。


「強化で【闇】属性を付与する以外に作るのはそんなに難しくないですから、大量生産はできそうですね」


「うむ。素材も稀少な物がないからね」


 顔を綻ばせたオレマンさんに、俺はちょっと申し訳なく思った。というのも、


「前回はその……すみませんでした」


「ん? ああ! いや、そんなつもりで言ったのではないよ」


 実はこの依頼の前に、俺はとある依頼に失敗していた。農場で水を撒くのに使う用途で開発を進めていたものだ。

 でも毎回毎回うまくいくとは限らない。

 素材に高級な物が必要でコストパフォーマンスが悪く、量産には至らなかったのだ。


「しかし、アレはアレで銀行が買い取ったそうだが?」


「そういえば、あれって何に使うんですか?」


 二人でサマンサさんに視線を向けると、


「ふふふ、内緒です。そのうちお披露目しますから期待してくださいね」


 サマンサさんが悪戯っぽく笑う。何かは気になるけど今ここで訊くのは野暮だな。


 俺は紙を取り出してオレマンさんに手渡した。『立入禁忌ロープ』の材料や作り方、アイテム強化の組み合わせを記したものだ。

 今回は俺にしか作れないアイテムじゃない。一人で抱えてもパンクしちゃうだろうから、積極的に公開するつもりだった。


「うむ。報奨金は期待してくれたまえ」


 俺自身が作って売らなくてもお金がたんまり入ってくるのはすごく嬉しい。

 それにみんなが喜んでくれるのも。

 俺はここ数日の疲れが落ちるのを感じながら、ウキウキ気分で帰路に着いた――。





 家に帰るとお客さんがいた。

 リビングのテーブルを囲んで何やら真剣に話をしているのは義妹のリィルと、彼女の友人でエルフのカタリナちゃんとエリカだ。そして子どもバージョンのベリアルがいる。

 


「あ、お兄ちゃん、お帰りなさい」


 リィルがにぱっと俺を迎える。


「お、お兄さん、こんにちは」


 カタリナちゃんは焦った感じでぺこぺこする。


「お邪魔していますわ」


 エリカはぷいっと横を向く。なんか顔が赤いけど大丈夫かな?


「ただいまリィル。二人はいらっしゃい。みんなで集まってなんの相談?」


 俺は彼女たちの空になったカップにお茶を注ぐ。


「もうちょっとしたらね、学校が一週間、お休みになるの」


 そういえば聞いていたような。もうじき街を挙げての大きなお祭りがあるのだけど、学校側がもろもろ準備をするうえで一週間ほど学校をお休みにするとのこと。


「それでね、せっかくだからみんなでどこかへ旅行に行こうかなって」


「えっ、リィルたちだけで?」


 子どもだけでは危険が危ないのでは?


「引率は、わたし」


「いや、たしかにベリアルは大人なんだろうけど……」


 カタリナちゃんとエリカには実年齢を曖昧にしか話していないけど、二千歳を超えるのだ。でも見た目はお子様だしなあ。魔力をたっぷり摂れば大人のお姉さんになるんだけど。


「どこへ行くかは決まったの?」


「決まらないから悩んでいるのですわ」


 エリカが肩を竦める。


「クラスの他の子たちは何をするのかな?」とリィル。


「里帰りする子が多いみたいですわね」


「エリカとカタリナちゃんはエルフの国に帰らないの?」と俺。


「えっと、その、遠いので……」


 カタリナちゃんがしゅんとうつむく。

 どうやら往復でも一週間以上かかる場所らしい。


 それぞれ意見を交わしているうち、リィルが元気よく手を挙げた。


「リィルね、海に行きたい!」


「海水浴? うん、楽しそう」


 カタリナちゃんも前向きだ。でもなあ。


「この街は内陸。海までも遠いですわ」


 エリカの言うとおり、往復で一週間なんて吹っ飛んでしまう。


 しょんぼりするリィルとカタリナちゃん。エリカもため息をついた。俺が来るまで散々悩んだ挙句のアイデアだったのだろう。みんな疲労が顔に滲み出ていた。


 海。海かあ……。


「本物の海じゃないけど、近くに海岸はあるんだよなあ」


 俺がぼそりとつぶやくと、三人の目の色が変わった。


「あるんですか!?」

「どこどこ!?」

「近く? 本物じゃないってどういう意味ですの!」


 ものすごい食いつきだ。


「ギルラム洞窟の第五層が海岸マップになってるんだよ。けっこう広かったし、波も穏やかで海水浴には向いてると思う」


 以前、ダルクさんに連れられて行ったことがあるのだ。


「面白そう!」

「で、でも、魔物も出るんですよね?」

「そうですわ。ダンジョン自体は楽しそうではあっても、ギルラム洞窟の第五層なら、きっとわたくしたちでは太刀打ちできませんもの」


 たしかに一般の海水浴場だったら弱い魔物しか出ないし、安全対策もしてくれている。

 ギルラム洞窟の海岸には危険度C以上の魔物が出るから、ベリアルだけで三人を守るのは難しいだろう。仮に護衛をお願いしても楽しむどころではない。


 しかし、である。


「実は魔物を遠ざける新アイテムを開発したばかりなんだ」


「お兄ちゃんすごい!」


 リィルがぱたぱた尻尾を振る。


「それなら安心、かな?」


「まだ商品にはなってないけど効果は実証されてるからね。ただ――」


 難点がひとつ。浜辺はそれでいいとして、海の中では効果が怪しいのだ。


「その辺り、安全性を確かめに行ってくるよ」


「いいんですの? お忙しいのでは……」


「乗りかかった舟だからね。でもダメかもしれないから、他に候補を考えておいてよ」


 せっかくなら楽しんでもらいたい。


 俺はさっそく準備をして、次の日にはギルラム洞窟へ向かうのだった――。


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ひょうし
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