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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
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57◆魔神の正体


 俺たちはついに『冥府の大鎌』を手に入れた。

 腹ペコ魔神には一刻の猶予もない、こともないが、早く辛い思いから脱してほしい。

 

 というわけで、さっそく魔物狩りに出かけよう。

 

 ベリアルには肉まんを相当数食べさせて、『空腹』状態くらいにまで回復させておく。

 俺はベリアルの魔鎧を身に着け、もろもろを異次元ポーチに押しこんで、お隣りの工房へ。そこには転移門がある。いきなりギルラム洞窟は危険かと思い、初心者から中級者向けの街の南側平原へと転移した。

 

 すぐ近くに拠点の町があったけど、準備は整っているので寄らず、平原をうろうろする。

 

「お、いたぞ」


 最初に遭遇したのはスライムの上位種だ。成人サイズで真っ黒な色をして、ぷるぷる震えながら移動している。


 ボンバー・スライム。

 危険度はC。体をちぎって飛ばし、その肉片は当たると爆発する。さらに自身のHPが少なくなると自爆する厄介な相手だ。

 

 まだこちらに気づいていない。

 

 俺は体勢を低くしつつ、腰のポーチに手を伸ばした。

 

 にょっきりと飛び出す漆黒の大鎌。魔鎧で強化した俺でもけっこうな重さだったので、異次元ポーチに入れて持っていた。

 

「俺が注意を引くから、ベリアルは側面から襲いかかってよ。一撃で倒せなかったらいったん離れてね。爆発するかもしれないから」


「うん、わかった」


 ベリアルは武骨なガントレットを付けた手で受け取る。

 

「じゃ、いくぞ」


 俺はそろそろと黒いスライムの正面へ移動する。

 

 ぶるぶるぶる!

 

 急激に震えるボンバー・スライム。見つかった。警戒している動作だ。そして俺に注意が完全に向いている。

 

「今だ!」


 俺が剣を構えて叫ぶと、ベリアルが草むらから飛んだ。

 白いワンピースと銀髪をなびかせて、ビュンと一足飛びに肉薄するや、大鎌を軽々と振るう。

 この瞬間は魔鎧装備の俺以上の素早さ。しかし一撃で倒せなければ、もしかしたら空腹MAXで倒れ、逃げられないかも。

 

 遠隔攻撃の準備をして、ごくりとのどを鳴らした。

 

 ヒュォン。

 

 斬撃音にしてはささやかな音が風に溶ける。

 一瞬、真っ黒なスライムが白く光ったように見えた。そして魔物の頭上に『【即死+】発動』の文字が。

 

 しゅわしゅわとスライムが消えていく。

 

 いきなり低確率の特殊効果が発動したのか。

 HPを削るのではなく、【即死+】の効果で倒してしまった。

 

 と、消えゆくスライムから光の玉が飛び出し、ベリアルの大鎌に吸いこまれていく。

 

「お?」


 ベリアルの声。

 

「おお?」


 ふだんから表情に乏しい彼女が、目をぱちくりさせている。

 

「どんな感じ?」


 俺が駆け寄って尋ねると、

 

「うん、肉まんを五個くらい食べた感じ」


「それはすごいな……。てか肉まん比で考えてるのか」


 今のボンバー・スライムの残MPはほぼMAXの110ほどだった。MPを20奪うと肉まん一個くらいかな。


 でもまだ『空腹』状態を脱していない。

 

「いちおうお試しはできたけど、もっとやる?」


「うん」


 やる気に満ち溢れた瞳だ。この子にしては珍しい。

 

「んじゃ、周囲に注意しながら魔物を探そう」


 この辺りはボンバー・スライムの棲息地らしい。うろうろしてたらすぐに見つかった。

 

「うりゃ!」


 得物を見つけた彼女は速かった。まさしく食料に飛びつくように、赤い目をぎらつかせて飛びかかる。

 

 ザザンッ!

 

 ひと振りで斬撃音が二つ重なった。【二重斬撃】の特殊効果だ。一撃では倒せない相手でも、これだとちょうどボンバー・スライムのHPを根こそぎ消し去れるらしい。

 

「ドロップアイテムは『火薬玉』か」


 これ自体はしょっぱいけど、素材として加工すれば爆薬になるし、強化すればそこそこ使えるアイテムにもなる。集めて損はまったくない。

 

「まだまだ、やれるよ」


 おお、ベリアルのやる気もさらに上がったぞ。まあ、倒せば倒すほどお腹が満たされるもんな。そりゃあ、やる気にもなるか。

 ただ、ちょっと目が怖い。背筋がぞくっとした。


「んじゃ、俺がフォローするから、見つけ次第じゃんじゃか倒していこう」


 その後もベリアルは、ボンバー・スライムを狩っていく。

 俺、フォローどころかなんもしてないな。

 

 で、一心不乱に黒いスライムを葬り続けていると。

 

「おっ? 『空腹』状態じゃなくなってるぞ!」


 ぶっちゃけ初めて見たかもしれない。

 なんだか目頭が熱くなってきた。

 

「まだ、食べられる」


 魔物を倒す=食事になっているのがちょっとアレだな。間違ってないような気はするけど。

 

「でも、食べ過ぎはよくないよ?」


「腹八分で、止めるつもり」


 そこまでにも達していないということか。

 

「あっ。あそこにまた一匹」

 

 ベリアルはたったか駆けていく。その小さな後姿を見て、俺は妙な違和感を覚えた。なんだろう? 何かが、違うような……?

 

 彼女はまたも一撃で魔物を倒す。その後も、別の魔物がいたりしたがまったく問題なく、軽々と自身の魔力に変えた。

 危険度Cくらいだと彼女の相手にならない。一方的な殺戮だ。

 

「なんだか、足がむくむ」


 ベリアルは言って、靴を脱いでしまう。


「さすがにもうやめといたら? 魔力は十分でしょ?」


「……もうちょっと。ダメ?」


 上目にそうお願いされたらダメとは言えない。

 

「でも体調にちょっとでも違和感があったら、それでお終いだからね?」


「うん、わかった」


 ベリアルがにっこり笑うと、

 

「あっ、アリト見て。あんなにたくさんいる」


 珍しいことに、ボンバー・スライムが群れを成していた。十二匹もいる。

 

「さすがにあれは……って、ベリアル?」


 俺が待ったをかけるより早く、ベリアルはものすごいスピードでスライムたちに襲いかかった。

 

 まるで長年愛用した武器のように、軽やかに、舞うように、大鎌を振るう。

 さすがに相手の数が多いだけあって、中には体をちぎって投げつける個体もいた。

 けれど肉片が爆発するころに彼女の姿はそこになく、肉の欠けたスライムは次の瞬間、泡と消えた。

 

 すごいなーと。

 ぼんやり眺めていた俺の顔が、引きつった。

 

 最後の一体を即死で倒し、お肌つやつやで戻ってきた美女・・は、いったい誰ですか!?

 

「アリト、どうしたの?」


 きょとんする彼女は気づいていないのだろうか?

 

「いやどうしたもこうしたも。ベリアル、その姿……」


 ボンきゅっボーンな魅惑のボディ。身長が俺くらいの美女がいた。白いワンピースが大きな胸で持ち上げられて、ぴっちぴちのパンツが丸出しになっていた。


 ベリアルは小首をかしげたのち、我が身を確認する。

 

「お? おお?」


 本人も驚いているご様子。

 やがて俺に向き直り、ちょっと頬を赤く染めて、言った。

 

「元の姿に、戻ってる」


 へえ、そのナイスなバディの美女が、魔神ベリアル本来の姿なのか。

 

 びっくりである――。


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ひょうし
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