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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
56/81

56◆みんなで作ろう伝説の大鎌


 俺は買い物メモを手に、街の北門付近にやってきた。

 

 腹ペコ魔神ベリアルのため、魔力をたくさん吸収できる武器『冥府の大鎌』を作る素材を手に入れるのが目的だ。

 中にはギルラム洞窟やなんかで魔物がドロップする素材もあるのだけど、稀少な物はドロップしにくい。

 時間をかければそれだけベリアルが辛い時間を過ごすことになるので、ここは少々値の張る素材でも、金を惜しまず時間を短縮すべきなのだ。

 

「でもまあ、一番厄介な『混沌竜の鱗』が手に入ったのは大きいよな」


 なぜかクオリスさんが持っていた。

 一般には流通していないし、カオス・ドラゴンなんてどこにいるかわからないし、いやホント、クオリスさんには感謝しきれないよ。

 しかもタダ。『魔神に恩を売るのも悪くない』って言ってたけど、なんだかんだで優しいよなあ。

 

 大きなアイテムショップに入る。素材を扱うコーナーに直行。店員のお兄さんにメモを見せた。

 

「ふぅん、また妙な物ばかりだなあ。『闇鋼』と『光鋼』はどっちも必要なのかい?」


「はい。それを絶妙に混ぜ合わせると、『混沌鋼』になるらしいです」


「え? ああ、そういえば聞いたことあるな。でもかなり高ランクの素材加工スキルが必要だったはずだよ。『混沌鋼』単体があまり流通してないのは、そのせいだって話だ」


 俺は限定スキル【素材加工(匠)】があるから、なんとかなる。

 

「んじゃまあ、それ以外のも合わせて、ちょいと色を付けまして……っと、これでどう?」


 お兄さんはギリーカードをぴぴっと操作し、金額を提示した。

 

 う、やっぱりお高い。

 でもまあ、仕方ないよなあ。

 

 と、お兄さんのギリーカードににゅっと小さな手が伸びた。細い指がぴぴぴっとギリカの上で踊る。

 

「……これで、どう?」


 勝手に金額を書き換えたのはベリアルだ。自分のことだから、と買い物に付いてきた次第。

 しかし色を付けてもらった上に三割もまけてってのは無理があるぞ。

 

「いや、『どう?』って言われてもなあ。せめてこれくらいは――」


 お兄さんはぴぴぴと変更。

 

「もう、ひと声」

 

「うぅ~ん…………じゃあ、これでどうだ!」


 えいやっとお兄さんはまたも金額を変更した。当初提示額の二割引き。

 

「買った」


「とほほ……。オーナーにどやされるかもなあ」


「あの、すみません。連れが勝手なことを……」


「ははは、いいっていいって。アリト君は常連だからね」


 お兄さんはちょっと小声になって、

 

「その代わり、いい商品を開発したらこっちにも回してよ」


 そのお願いは断れないな。

 転んでもただでは起きない。商魂たくましいお兄さんだった――。

 

 

 

 必要な素材を買いそろえ、店に帰っていろいろ準備をするのに丸一日。

 

 俺は材料を『異次元ポーチ』に押しこんで、街の東ブロックへとやってきた。ここには一風変わった職人さんがいるのだ。

 

「ほぉん、『混沌鋼』に『混沌竜の鱗』かよ。また面白れえモンを持ってきやがったなあ」


 褐色肌にムキムキの筋肉。大きな女性はギネさんだ。タンクトップが破れんばかりの大きな胸に気圧される。

 ゼクスハイムで一番と言っても過言ではない職人さんだ。

 

「で、作るのが大鎌ってか。がっはっは、相変わらず変わってんな、テメエはよ」


「今って忙しいですか?」


「ん? ああ、おかげさんでな。けどまあ、こんなスゲーの見せられちゃあ、仕方ねえ。他はほっぽって、こっちに集中してやるよ」


 ああ、また先客の方々にご迷惑を……。ごめんなさい。

 

「んで? こりゃ誰が使うんだ? 例の黒騎士か?」


「それ、必要な情報ですか?」


「そりゃオマエ、どんなヤツが使うかある程度はつかめないとな。テキトーにゃ作れねえよ」


「ええっと……」


 俺は横に目を流す。今日も付いてきたベリアルが、控えめに手を挙げた。

 

「わたし」


「……マジか」


 ギネさんは頭をぼりぼり掻いて、工房の奥へと向かった。壁に立てかけてある大きなハンマーを手にして持ってくる。

 カタリナちゃんが使うよりも大きな、巨躯のギネさんにぴったりの巨大ハンマー。

 

「これ、持ってみな」


 無造作に置いたハンマーは、ぴんとまっすぐ立っている。

 

 俺が先に持ってみた。めちゃくちゃ重い。どうにか浮き上がりはしたけど、先端が極端に重いハンマーを振り回すのは無理だ。

 

「大鎌はこれよか軽いが、戦闘に使うとなりゃ、これくらい楽に振れねえと話になんねえぞ。わりいが、使えないモンを作る気はねえ」


 おっしゃるとおり。

 失敗したなあ。いくらなんでも非力なベリアルが、大鎌なんて振れるわけ――。

 

 びょおん!

 

 室内なのに風が舞った。

 

 ベリアルが片手で巨大ハンマーを持ち上げ、ひと振りしてみせたのだ。

 

「おおっ! すげえぜちっこいの」


 が、ベリアルはハンマーを丁寧に床に下ろすと、ぱたりと倒れてしまった。

 

「ちょ、大丈夫!?」


「おなか、すいた……」


 そういえば。

 彼女は瞬間的に魔神本来の力を発揮できるとかなんとか言ってたな。でもそれをやると、ものすごくお腹が空いてしまうらしい。

 

 俺は『異次元ポーチ』から肉まんを取り出して小さな口にあてがった。一瞬で消え去る。ギネさんもびっくりだ。

 

「――なるほどねえ。けったいな体質してんだな、オマエ」


 魔神がどうとかは伏せておき、『冥府の大鎌』で腹ペコ問題が解決すると説明した。

 

「けどよ、一度に大量のMPを取りこんじまうと、体に毒だって話もあんぞ?」


 オレマンさんも言っていたな。

 

「それもいちおう、対策がありまして」


 俺は別のメモをギネさんに見せた。

 

「へえ、魔力を貯めるガントレットか。吸い取った魔力はこいつにまず貯めんなら、たしかに安全だな」


 半端ない腹ペコ少女には無用かもしれないけど、念のため。他の人に疑われないようにするためでもあった。

 

 ギネさんはじっとメモを眺め、何やらぶつぶつ言ってから。

 

「うし! こいつもオレに任せな。ちっこいのが成長しても使えるようにしてやるよ」


 リィルのグローブを作ったときの応用かな?

 

「お願いします!」


「おう、任せとけって。んじゃ、明日の昼に取りに来い」


「早っ!?」


「こういうのは勢いだかんな。徹夜してでも一気にやっちまうぜ」




 ――で、翌日。

 

「ど、どうよ? いい出来だろうがよ」


 目の下にクマを作ったギネさんは疲労困憊ながら胸を張る。てか寝てください!

 

 しかし実際のところ、出来はすごくいい。

 刃もすべて黒く光沢をにじませた大鎌は、鳥肌が立つほど禍々しかった。

 

 でもこれ、まだ完成じゃないんだよね。

 

「とりあえずオレが作った『死神の大鎌』は完璧だ。あとはテメエの領分だぜ、アリト」


 そう。

 これを強化して、『冥府の大鎌』に進化させるのは俺だ。

 

「んじゃ、支払いは明日でいいからよ。オレは、寝る……ぐぅ……」


 ギネさんはバタンと突っ伏して、工房の床で寝息を立ててしまった。大柄な彼女を俺とベリアルの二人で寝床まで運ぶ。

 

 そうして、二人でお礼を述べたのち――。

 

 

 

 店に戻り、裏手の作業スペースで強化を開始。

 

===========

名称:冥府の大鎌

属性:混沌

S1:◆◆◆◆◆(闇)

S2:◆◆◆◆◆(闇)

S3:◆◆◆◆◆(闇)

S4:◆◆◆◆◆(混沌)

S5:◆◆◆◆◆(混沌)


HP:1500/1500

性能:S

強度:A+

魔効:S



【特殊】

 魂喰い

 即死+

 深淵の領域

 二重斬撃

===========


 ヤバい物ができてしまった……。Sランクの武器って初めて見たぞ。

 

 特殊効果の【魂喰い】が俺たちの本命。倒した相手の残りMPを根こそぎ奪うものだ。


 他もすごいな。

 【即死+】は、低確率で攻撃時に即死させるものだ。元の確率がかなり低いけど、+に強化されているからそこそこ実用レベルになっている。

 【深淵の領域】は【闇】と【混沌】の属性強化領域を作るもの。武器そのものとベリアル自身とも相性がいい。

 で、【二重斬撃】はひと振りで二回の攻撃ヒットになる。よっぽど固い相手でない限り、実質、攻撃力が二倍になるのだ。

 

 ついでに『魔力貯蔵の籠手』を『魔力大貯蔵の籠手』に進化させて。

 

「よし、さっそく試しに行こう!」


「うん」


 俺は黒騎士モードになり、ベリアルと一緒に街を飛び出した――。

 


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ひょうし
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