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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
55/81

55◆失われたアイテム


 常に腹ペコのベリアルちゃんを助けたい。

 彼女は長きにわたる異界生活の末、この世界での魔素の吸収が上手くできないでいるらしく、ゆえに常に腹ペコなのであった。

 

 そこで俺は考えた。

 足りない魔力――MPを別の何かから奪えばよいのだ、と。

 

 もちろん他人から奪うのはよろしくない。

 なので魔物からMPを拝借する武具なりを作ろうと思った次第。

 

 需要がないからMPを大幅に奪う武具は流通していない。

 だからアイテム職人である俺が、そういった武具を作ればいいやと考えた、のだが。

 

「うーん…………ないな」


 俺は店の裏手にある工房で腕を組んで唸った。

 限定スキル【強化図鑑】でふさわしい武具を探してみたけど、見当たらない。

 

「いやまあ、あるにはあるんだけど……」


 たとえば『魔力吸収のナイフ』なんかは、その名のとおり魔力吸収に特化した武器で、攻撃が当たればMPを100も奪うことができる。

 

 1ヒットで100奪えれば十分、だとは思う。

 けど魔力吸収に特化しているだけあって、性能は最低のE-。さらに強化しても高が知れていて、ろくにダメージを与えられないのだ。

 強度もHP低いから、堅い相手なら数撃でぽっきり折れちゃうかもしれない。

 さらに作成のための素材も稀少なものが多く、コストパフォーマンスがめちゃくちゃ悪いのだ。

 

 そして【強化図鑑】は強化パターンをたくさん網羅した超便利なスキルなのだけど、ひとつだけ弱点というか、どうにもならない問題があった。

 

 本来は人が持ちえない【混沌】属性の強化パターンがほぼほぼ載っていないのだ。俺が見つけたものが新たに登録されているだけ。

 

 素のステータスが高い武器に【混沌】を付与すれば魔力吸収系の特殊効果が付く可能性がある。

 でも載っていないものはそうほいほいと試せない。それこそ見つけるまでに資金が底をついてしまうかも。

 

 困った俺は、人に訊くことにした。

 

 

 

 店を出て、街の中心部へ。

 大きな建物に入って受付で用件を伝えると、突然の訪問なのに快く応接室へ通された。

 

 待つこと五分。

 燕尾服を着た中年男性がにこやかに現れた。

 

「やあ、待たせてしまったかな。君が訪ねてくるとは珍しいね」


「アポなしですみません、オレマンさん」


 俺は立ち上がって頭を下げる。

 片眼鏡の紳士はオレマン・シュナイダーさん。アイテム商店ギルドのギルマスさんだ。俺の知らない武具やアイテムを知っているかもしれないと思い、俺はやってきたのだ。

 

 俺は単刀直入に、Bランク以上の性能でMPを数十以上奪うアイテムがないか訊いてみた。

 

「ふぅむ。また妙な依頼を受けたものだね」


 対面のソファーに座ったオレマンさんは腕を組む。


「武器の種類にはこだわらない、というのがまた逆に難しくはあるな」


 いくつか候補を上げてくれた。

 残念ながら【強化図鑑】で確認済みで没にしたものばかり。

 

 俺たち二人はあーだこーだと話し合う。

 

「よく考えたら、武器でなくてもいいですね。効果が重視されているので」


「ふむ。であれば、『魔力貯蔵の籠手』をぱっと思い浮かべたが……ダメだな」


「それってMPを籠手に溜めておいて、都度引き出すものですね。たしかに今回の用途からは外れます」


 と、俺はここでハタと気づく。

 

「す、すみません。相談に来ておきながら、ダメだダメだばかり言ってしまって……」


 恐縮した俺に対し、オレマンさんはにこやかに返す。

 

「ははは、気にしなくていいよ。いや、実のところ驚かされてばかりだ。私もアイテムには精通しているつもりだったが、君の知識量には舌を巻く」


「いえ、そんな……」


「まだ十代なのだろう? いったいどこでそれほどの知識を?」


「ぇ、ええっと、いろいろ、独学で……」


 いつの間にか得ていた限定スキルでカンニング中、とは言えない。

 

「ははは、すまない。詮索はよくないな。どうにも興味があると前のめりになっていけない」


「ははは……」


 俺も笑ってごまかしておこう。

 

 と、オレマンさんが急に真面目な顔つきになった。

 

「ひとつ確認なのだが、君は『冥府の大鎌』を知っているかね?」


 名前からして仰々しいが、知らないので首を横に振る。

 

「そうか。君ほどの者でも知らなかったか」


「どんな武器なんですか?」


「魂の管理者たる死神が持ち、命を刈り取る武器とされている」


 てことは、即死効果とかがあるのかな? もしくは性能がS+を超えるEXとか?

 俺が求めるものじゃないけど――いや、ここで話したのには意味があるはず。続きを聞いた。

 

「要するに、伝説上の武器であったのだよ」


「……あの、俺が欲しいのは実在する武器とかアイテムなんですが」


「まあ聞きたまえ。長らく架空の武器、あるいは未確認の魔物が持つ武器とされていたのだが、二十年ほど前に、実在が確認された」


 おおっ、と俺は身を乗り出す。

 

「とあるSランク冒険者が、混沌の古竜(・・・・・)より授かった武器が『冥府の大鎌』だったのだよ」


「その効果は? なんなんですか?」


 ワクワクが止まらない俺に、オレマンさんはちょっと困ったような顔になった。

 

「いくつかある中で特徴的なものとして、『魂喰い』がある。対象を撃破した際に、対象の残りMPをそっくり奪い取る、というものだ」


「おおっ! 性能は高いんですか?」


「HP、性能、強度、魔効、いずれもトップクラスだ」


「それ! それがいいです! 今どこにあるんでしょうか!?」


 現物は貴重なものだろうから手に入れるのは無理でも、【解析】スキルで作成用素材や強化方法はわかるはず。

 

 期待に胸を膨らませる俺とは対照的に、オレマンさんはやはり困ったような顔で口ひげをいじくった。

 

「実は……もうないんだ」


「へ?」


「今言った特殊効果には大きな問題があってね。そのせいで使用者が戦闘中に死亡してしまった。残った魔物が激しく攻撃し、大鎌は消滅してしまったのだよ」


「消滅、ですか……。あれ? でも『特殊効果の問題で使用者が死んだ』ってどういう意味ですか?」


「MPの過剰取得は体によくないのだよ。MPが最大の状態で10や20を得ても、さほど影響はないのだがね。この武器を使うと一度に数百……下手をすれば1000ほども体に取りこむことになる」


 だから人間の体では耐えきれないのだとか。

 

「混沌の古竜はその辺り注意するよう言っていたらしいが……人が扱うには過ぎた武器だったのだろうね」


 しんみりしたオレマンさんは突如くわっと目を見開く。

 

「ところがだ!」


 びっくりしたあ……。

 あ、でもわかちゃった。

 

「その問題を解決するために、『魔力貯蔵の籠手』が開発されたんですね」


「はっはっは、さすがだね。再び『冥府の大鎌』かそれに近いアイテムが現れるかもしれないからね。いや、君が作ってしまうかもな」


 あくまで参考程度としてオレマンさんは語ったようだけど、けっこう貴重な話だったな。

 

 

 オレマンさんにお礼を言って別れ、俺は家路を急ぐ。

 

 使用者が魔神であるベリアルちゃんなら、大量のMPを一度に奪っても大丈夫だと思う。いちおう『魔力貯蔵の籠手』を装備しておけば、最悪の事態にはならないだろう。

 

「でも、やっぱり現物を見なくちゃなあ……」


 もしくは、作った本人に聞く以外ない。

 問題はどこに混沌の古竜がいるかわからないことと、

 

「俺、ドラゴンとは相性が悪いからなあ……」


 なにせ三度も轢かれて死んでいるのだ。そのうちのどれかが混沌の古竜だったりするんだろうか? 轢かれた直後はほとんど覚えていないんだよね。

 

 会おうとしてまた轢かれるのは嫌だ。

 

 はてさてどうしよう? と困った顔で店に入ると、

 

「なんとも不景気な顔をしておるな。悩みなら我に語ってみるがよい」


 クオリスさんが待ち構えていた。

 

 俺はオレマンさんとした話を伝える。

 すると、クオリスさんは実にあっけらかんと言った。

 

「『冥府の大鎌』の作り方なら知っておる」


「は?」


「理由は訊くな。いちいちアレをやるのは面倒なのでな」


 なんだかわからないが、光明がすぐそこにいた!

 

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ひょうし
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