表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第三章:神魔と過ごす職人ライフ
54/81

54◆腹ペコ解消法


 自宅のダイニングに腰を落ち着け、俺はベリアルと向き合う。

 俺の両サイドには付き添いでやってきたダルクさんと、この手の話のときにはどこからともなくやってくるクオリスさんがいる。

 

「まず問題を整理しよう」


 ベリアルは食費がかさむのを申し訳なく思い、冒険者になってお金を稼ぎ、すこしでも食費の足しにしようと考えた。なんて健気な魔神だろう。

 

 しかし、彼女は魔神であるがゆえか、とんでもない量の魔力を常に消費しているとのこと。

 そして自身の魔力が足りなくなれば空腹に陥ってしまう体質らしい。

 

 ぶっちゃけステータスは俺以下なので、魔鎧を装備しなければまともに戦えない。ところが魔鎧を装備するとさらに魔力消費がとんでもないことになり、すぐ空腹で動けなくなる。残念。

 

 ただし、魔鎧なしでも一時的に魔神の力を解放し、危険度Sの魔物にも対処できるのだとか。すごい。

 とはいえ、続けていればいずれ空腹で倒れる危険がある。

 

「根本の問題は魔力消費が激しいことだよね。消費を抑えるか、消費量以上に魔力供給を行うか、かな?」


 今のところは、後者を食事で賄っている状況だ。

 この辺りの仕組みは謎なのだけど、魔神だからしょうがない、とスルーしておく。

 

「消費を抑えるのは無理であろうな」とはクオリスさん。


「どうしてですか?」


「最低限に抑えるかたちが、今のこの幼い姿であろうからな」


 なるほど。ベリアル的には今が限界で、これ以上は無理ってことか。

 

「でも、不思議ですよね。いくら魔神でも、普通に暮らしててそんなに魔力を消費するものでしょうか?」


「神性を持つ者は、現世にかたちを成すことが不自然であるからな。存在自体が不安定であるのだ」


 だから形を保つために、魔力が通常の何倍も必要なのだとか。

 

「しかし、我も不思議であるな。そこまで神格を落としてなお、魔力が足りぬとは。そなた、きちんと魔素を吸収しておるのか?」


 通常、俺たちは魔法なりを使って魔力(ステータス上はMP)を消費する。回復するには魔力回復薬を飲んだりもするが、休息などでMPは回復するのだ。

 特に寝ている間は顕著で、そこらに漂う魔力の素――魔素を体内に吸収することでMPは回復していく。


 ベリアルはしばらくぬぼーっとしてから、小首をかしげた。

 

「おかしい。魔素を、吸収できてない」


「「「えぇぇ……」」」


 三人そろって脱力したものの、どうやら根本の原因を突き止めたらしい。

 クオリスさんが言う。

 

「回復手段が経口摂取に偏っておるのか。なるほど、それでは確かに、常時空腹であるのは仕方がない」


「でもさー、なんで魔素の吸収ができなくなってんの?」


 ダルクさんの疑問に、ベリアルはまたもぬぼーっと(たぶん考えている)してから、

 

「異界の環境に、慣れたからかも」


「ふむ。我はあちらを知らぬが、こちらとは魔素の質が違うのやもしれぬな。長きにわたり異界の環境に慣れ、こちらの魔素を自然吸収できぬ体質に変化したのであろう」


「てことは、こっちでしばらく生活すれば、体質も元に戻るんでしょうか?」


「ベリアルちゃんって、あっちにどのくらいいたの?」


「七百年くらい」


 はたして、こちらの環境に慣れるまで何百年かかるのか。

 

「体質が戻るのは期待しないほうがよさそうですね。となると、魔力を魔素以外から得る方法を考えないと……」


「アリトよ、自動回復薬のように、MPが減ったら即座に回復するアイテムを作れぬのか?」


「自動MP回復薬は作ってるんですよね。実用性があまりないので、たいして売れてないですけど」


 HPは不意討ちなんかで突発的に減ったりして、しかも命の危険に直結するので自動回復の需要は高い。

 対するMPは、魔法を不必要に連発しない限り0になることは滅多にない。冒険者ならMP管理は必須技能だから、需要はほとんどないに等しかった。

 

「常に減り続けてるベリアルにも、焼け石に水って感じですね」


 あれは一回飲んだら一回しか発動しないので、普通にMP回復薬を飲んだほうがいい。いや、値段が高いから食費がかさむほうがまだマシだ。

 

 クオリスさんが腕を組む。

 

「なんの対策もなしで冒険者になったとしても、稼ぎ以上に腹が減り、結果として収支がマイナスになりそうであるな」


 ベリアルがしゅんとうつむいた。表情の変化は乏しいが、そうとう落ちこんでいるようだ。


「ひとまず冒険者は諦め、他の方法で稼ぎを得るか、魔力を効率よく得る方法を考えるべきではないか?」


 うんうん、とダルクさんもうなずく。

  

 そういえば、『冒険者になって稼いだお金を食費の足しにする』って話が発端だったか。

 

 冒険者、冒険者……。

 何か、ひらめきそうだぞ。

 

 彼らは、様々な依頼をこなす。最近この街でもっとも稼ぎになるのは、ギルラム洞窟に潜って、魔物と戦って……。

 

「あ」


 ひらめいた。

 俺、いいこと思いついちゃった。


「ベリアル、冒険者になるのを諦める必要はないよ。いや、むしろ冒険者になるべきだ」


 きょとんとするベリアルに、俺はこぶしを振り上げて熱弁する。

 

「冒険者になって、魔物とバンバン戦うんだ。で、そいつらから魔力を奪っちゃえばいいんだよ!」


 おーっとベリアルが目を輝かせる。

 

 お腹が減るなら、たくさん食べればいいという発想。

 結局のところ、それと変わらないのだけどね。

 

「そいや、攻撃を当ててMPを吸収するタイプの武器とかあるよね」とダルクさん。


「しかし、その手の武具やアイテムで吸収できるMPは微々たるものであるぞ?」


 たしかに、MPを奪うタイプの特殊効果は、一回で多くても10程度のMPしか奪えない。

 

「でもそれは、あえてそうしてる(・・・・・・・・)からなんですよ」


 MP管理は冒険者の必須技能。

 中堅以上の冒険者なら、MPが一桁になる事態は想定しない。そんな事態に陥ってはならないのだ。

 そして中堅以下なら、俺みたいにそもそも最大MPが低いから、それ以上のMPを奪っても意味がない。

 

 オマケ程度にちょろちょろMPが回復してくれればいいや、的な。そんなのに性能を偏らせるなら、攻撃力や防御力、特殊効果を付与するようにしたほうがいいのだ。

 

 だから、大量のMPを奪う武具なりアイテムには需要がない。

 需要がないから、誰も作らない。

 だったら――。

 

「俺が作るよ。MPを奪うのに特化したアイテムを!」


 俺は限定スキル【強化図鑑】を紐解いて、彼女にもっともふさわしいアイテムを探し始めた――。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はいかがでしたか?
上にある『☆☆☆☆☆』を
押して評価を入れてください。


書籍版は好評発売中。おかげさまで1巻重版です! 小説は1巻から3巻まで発売中。
コミック1巻も発売しました!
↓の画像をクリックすると、公式ページに移動します。
ひょうし
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ