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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第二章:順風なる職人ライフ

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49/81

49◆珍客、来訪

 

 開店直後に来訪したお客さんに、俺は戦慄を覚えた。

 

「ふぅん、ここがアイテム強化専門の店? 地味ね」


 金髪サラサラヘヤーの小柄な美少女。Sランク冒険者のバネッサだ。

 まさか、謎の黒騎士が俺だと気づいて……という不安は、すぐに払拭された。

 

「あんたが店主? ほんとに若いのね。まあいいわ。これ、ちょっと見てもらえる?」


 どうやら俺の噂を聞きつけてやってきたらしい。

 ずいっと片手で軽々差し出してきたのは、ハルバードと呼ばれる斧みたいな槍みたいな武器だ。

 

「えっと、強化ですか?」


「それ以外に用なんてないわよ」


 バネッサはごとりとカウンターに斧槍を置くと、店内をきょろきょろし始めた。なんだかそわそわと落ち着きがないような?

 

 気にはなるけど横に置き、俺は斧槍を【解析】で確認する。

 

===========

名称:爆裂ハルバード

属性:火

S1:◆◆◆◇◇(火)

S2:◆◆◇◇◇(火)

S3:◆◆◆◇◇(土)

S4:◆◆◇◇◇(火)


HP:422/840

性能:B

強度:B-

魔効:C


【特殊】

 爆裂突き

 火炎壁

===========


 おおー。なかなかの武器だな。でも強化が中途半端すぎる。既存のものをフルチャージし直すだけで、かなりの代物になりそうではあるけど……。

 

「これ、ずいぶん痛んでますね」


「へう!?」


 声をかけたら、飛び上がらんほどに驚いた様子。

 

「な、なに?」


「驚かせてすみません。いい武器ですけど、痛んでるなあって」


「ああ、かなり使いこんでるからね。何度か修理にも出したから、劣化は仕方ないわ」


 答えつつも、店内、特に入り口辺りを気にするバネッサ。なんなんだろうなあ?

 そういえば、この人ってB級アイテムを集めるのが趣味なんだっけ? 直接聞いたわけじゃないけど、そんな素振りをみせていたのを思い出す。

 

「なにか、気になるものでも?」


 店内に飾られているのは他の店にも卸しているものばかりだ。もしかしたら、掘り出し物がないか俺に尋ねたがっているのかもしれない。

 

 バネッサが目を見開いた。


「くっ……こいつ、やっぱり……」


 ん? ものすごい睨まれてるんですけど?

 

「黒の騎士って――」


「っ!?」


 いきなりなぜ謎の黒騎士の話が? もしかして、その正体が俺だと気づいたのか!

 

「あんたの知り合いなの?」


 違ったらしい。あーびっくりした。でも、なんでそんな話に?

 

「よくこの店に商品を持ってくるそうじゃない」


 あー、なるほど。けっこう噂になってるみたいだな。

 俺はそう吹聴したことはないけど、一部の勘のいい人たちは、俺が扱う謎商品を謎の黒騎士が持ってきていると考えている。

 巡り巡ってバネッサにも届いたのだろう。でも、不思議だな。

 

「黒い騎士が気になるんですか?」


 その理由がわからない。

 

「なっ!? べ、べつに気になるとかそんなんじゃないわよ!」


 じゃあどうして? と小首をかしげてみる。

 

「しょ、正体がわからないって気持ち悪いじゃない。あいつとは絡む機会もあったし……それだけよ!」


 バネッサはカウンターにバンと手をつき、俺に迫る。

 

「で? あんた、あいつの正体知ってるの?」


「知りません」


「商売相手の素性くらい把握しなさいよ!」


 なんか怒られてしまったぞ。

 

「仮に知っていたとしても、お客様の情報を他人にお伝えするわけにはいきません」


「むっ……。そ、そうよね。たしかに」


「そんなに彼が気になるんですか?」


「だだだだから! べつに気にしちゃいないわよ!」


 よく考えたらこの話題は俺的にも避けたほうがいいんだよな。

 じゃ、仕事の話でもするか。

 

「このハルバードなんですけど、強化する前に、一度きちんと鍛え直したほうがいいですね」


「は? ああ、そっちの話ね。んー、でも修理なら先月したばかりよ?」


「ただの修理じゃなくて、新品とかそれ以上に回復させましょう。強化するなら、その状態でやったほうが絶対にいいです」


「まあ、たしかにね。相当ガタがきてるし。でも、それって時間かかるでしょう? 下手したら一週間はこっちが暇になっちゃうわ」


「腕のいい鍛冶職人を紹介しますよ。手が空いていれば、ずっと早く対応してくれると思います」


「そう? じゃあ場所を教えてよ」


 紙とペンを用意しようとして、手が止まる。

 この高飛車な人を、一人であの職人さんのところへ行かせてよいのだろうか? あっちはあっちで、わりと好戦的だしなあ。

 

 と、いうわけで。

 心配になった俺は、バネッサを連れ立って〝彼女〟の工房へと向かった――。

 

 

 

「うっせえ誰だよやかましい!」


 家の前で大声を張り上げると、ドアを蹴破らん勢いで大柄な女性が現れた。

 ハーフドワーフのギネさんだ。

 

「こんにちは。今って忙しいですか?」


「なんでえ、アリトじゃねえか。今日はどうした?」


 俺は横にいたバネッサを紹介し、ハルバードを鍛え直してほしいとお願いする。

 

 睨み合う二人。

 いやだから、どうしてガンを付け合ってるのさ!

 

 片やSランク冒険者。片や武闘派鍛冶屋。

 ハラハラしながら見守っていると、互いにニヤリと笑みを作った。

 

「いい得物持ってんじゃねえか。こいつは叩きがいがあるぜ」


「ろくな出来じゃなかったら、銅貨一枚だって払わないわよ?」


「はっ、誰に口きいてんだ、テメエ」


 またも視線で火花を散らすお二方。このノリ、付いていけない!

 

「あまり時間をかけたくないんですけど、どのくらいで出来上がりますかね?」


「ん? ああ、今はちょうど手透きだからな。夕方取りに来い」


「半日で!?」とびっくりしたのはバネッサだ。


「じゃあ、それでいいですよね?」とバネッサに俺が問う。


「ほ、ほんとに大丈夫なんでしょうね?」


「ギネさんは超一流ですから」


「おう、任しとけ!」


 ギネさんはハルバードを奪うと、軽々と肩に担いで家の中に戻っていった――。

 

 

 

 夕方、完成した品物は俺が受け取った。料金は言い値だったけど、バネッサなら大丈夫だろう。きっと。

 斧槍はめちゃくちゃ重いのでひいこら言いながら店に帰ってくる。

 事前に聞いていたオーダーのとおりに強化したところで、バネッサが来店した。

 

「できましたよ」


「これ……すごいわね。新品……いいえ、それ以上だわ」


「特殊効果がひとつ追加されてます。あと――」


 俺は強化後のステータスを写したメモを見せながら解説する。(強化スロットの話はしないけど)

 

===========

名称:炎天のハルバード

属性:火

S1:◆◆◆◆◆(火)

S2:◆◆◆◆◆(火)

S3:◆◆◆◆◆(土)

S4:◆◆◆◆◆(聖)


HP:1150/1150

性能:A

強度:A-

魔効:B+


【特殊】

 爆裂突き+

 火弾乱舞

 聖炎壁

===========


 出来上がったのはこんな感じだ。

 ステータスも大幅に上がり、『爆裂突き』は『+』にアップ。『火弾乱舞』という範囲型中距離攻撃の効果も付き、炎壁の守りは【聖】属性の効果も加わっていた。


「へえ……」


 バネッサの瞳が輝く。プレゼントをもらったときのリィルみたいに嬉しそうな顔だ。が、

 

「って、ちょっと待って。あんた、ハルバード(これ)を受け取ってきたのはついさっきよね? これだけの強化を、この短時間でやったわけ?」


「プロですから」


「す、すごいのね……」


 勢いで言いくるめられた。この人ってわりとチョロイかも。

 

 とにもかくにも、これでバネッサの依頼は無事終了。Sランク冒険者の上客も捕まえられたっぽい。でもね。

 

「今度、うちの豚も連れてくるわ」


 あのドMお兄さんとは関わりたくないんだけどな。そんな風に思う俺でした――。



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ひょうし
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