49◆珍客、来訪
開店直後に来訪したお客さんに、俺は戦慄を覚えた。
「ふぅん、ここがアイテム強化専門の店? 地味ね」
金髪サラサラヘヤーの小柄な美少女。Sランク冒険者のバネッサだ。
まさか、謎の黒騎士が俺だと気づいて……という不安は、すぐに払拭された。
「あんたが店主? ほんとに若いのね。まあいいわ。これ、ちょっと見てもらえる?」
どうやら俺の噂を聞きつけてやってきたらしい。
ずいっと片手で軽々差し出してきたのは、ハルバードと呼ばれる斧みたいな槍みたいな武器だ。
「えっと、強化ですか?」
「それ以外に用なんてないわよ」
バネッサはごとりとカウンターに斧槍を置くと、店内をきょろきょろし始めた。なんだかそわそわと落ち着きがないような?
気にはなるけど横に置き、俺は斧槍を【解析】で確認する。
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名称:爆裂ハルバード
属性:火
S1:◆◆◆◇◇(火)
S2:◆◆◇◇◇(火)
S3:◆◆◆◇◇(土)
S4:◆◆◇◇◇(火)
HP:422/840
性能:B
強度:B-
魔効:C
【特殊】
爆裂突き
火炎壁
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おおー。なかなかの武器だな。でも強化が中途半端すぎる。既存のものをフルチャージし直すだけで、かなりの代物になりそうではあるけど……。
「これ、ずいぶん痛んでますね」
「へう!?」
声をかけたら、飛び上がらんほどに驚いた様子。
「な、なに?」
「驚かせてすみません。いい武器ですけど、痛んでるなあって」
「ああ、かなり使いこんでるからね。何度か修理にも出したから、劣化は仕方ないわ」
答えつつも、店内、特に入り口辺りを気にするバネッサ。なんなんだろうなあ?
そういえば、この人ってB級アイテムを集めるのが趣味なんだっけ? 直接聞いたわけじゃないけど、そんな素振りをみせていたのを思い出す。
「なにか、気になるものでも?」
店内に飾られているのは他の店にも卸しているものばかりだ。もしかしたら、掘り出し物がないか俺に尋ねたがっているのかもしれない。
バネッサが目を見開いた。
「くっ……こいつ、やっぱり……」
ん? ものすごい睨まれてるんですけど?
「黒の騎士って――」
「っ!?」
いきなりなぜ謎の黒騎士の話が? もしかして、その正体が俺だと気づいたのか!
「あんたの知り合いなの?」
違ったらしい。あーびっくりした。でも、なんでそんな話に?
「よくこの店に商品を持ってくるそうじゃない」
あー、なるほど。けっこう噂になってるみたいだな。
俺はそう吹聴したことはないけど、一部の勘のいい人たちは、俺が扱う謎商品を謎の黒騎士が持ってきていると考えている。
巡り巡ってバネッサにも届いたのだろう。でも、不思議だな。
「黒い騎士が気になるんですか?」
その理由がわからない。
「なっ!? べ、べつに気になるとかそんなんじゃないわよ!」
じゃあどうして? と小首をかしげてみる。
「しょ、正体がわからないって気持ち悪いじゃない。あいつとは絡む機会もあったし……それだけよ!」
バネッサはカウンターにバンと手をつき、俺に迫る。
「で? あんた、あいつの正体知ってるの?」
「知りません」
「商売相手の素性くらい把握しなさいよ!」
なんか怒られてしまったぞ。
「仮に知っていたとしても、お客様の情報を他人にお伝えするわけにはいきません」
「むっ……。そ、そうよね。たしかに」
「そんなに彼が気になるんですか?」
「だだだだから! べつに気にしちゃいないわよ!」
よく考えたらこの話題は俺的にも避けたほうがいいんだよな。
じゃ、仕事の話でもするか。
「このハルバードなんですけど、強化する前に、一度きちんと鍛え直したほうがいいですね」
「は? ああ、そっちの話ね。んー、でも修理なら先月したばかりよ?」
「ただの修理じゃなくて、新品とかそれ以上に回復させましょう。強化するなら、その状態でやったほうが絶対にいいです」
「まあ、たしかにね。相当ガタがきてるし。でも、それって時間かかるでしょう? 下手したら一週間はこっちが暇になっちゃうわ」
「腕のいい鍛冶職人を紹介しますよ。手が空いていれば、ずっと早く対応してくれると思います」
「そう? じゃあ場所を教えてよ」
紙とペンを用意しようとして、手が止まる。
この高飛車な人を、一人であの職人さんのところへ行かせてよいのだろうか? あっちはあっちで、わりと好戦的だしなあ。
と、いうわけで。
心配になった俺は、バネッサを連れ立って〝彼女〟の工房へと向かった――。
「うっせえ誰だよやかましい!」
家の前で大声を張り上げると、ドアを蹴破らん勢いで大柄な女性が現れた。
ハーフドワーフのギネさんだ。
「こんにちは。今って忙しいですか?」
「なんでえ、アリトじゃねえか。今日はどうした?」
俺は横にいたバネッサを紹介し、ハルバードを鍛え直してほしいとお願いする。
睨み合う二人。
いやだから、どうしてガンを付け合ってるのさ!
片やSランク冒険者。片や武闘派鍛冶屋。
ハラハラしながら見守っていると、互いにニヤリと笑みを作った。
「いい得物持ってんじゃねえか。こいつは叩きがいがあるぜ」
「ろくな出来じゃなかったら、銅貨一枚だって払わないわよ?」
「はっ、誰に口きいてんだ、テメエ」
またも視線で火花を散らすお二方。このノリ、付いていけない!
「あまり時間をかけたくないんですけど、どのくらいで出来上がりますかね?」
「ん? ああ、今はちょうど手透きだからな。夕方取りに来い」
「半日で!?」とびっくりしたのはバネッサだ。
「じゃあ、それでいいですよね?」とバネッサに俺が問う。
「ほ、ほんとに大丈夫なんでしょうね?」
「ギネさんは超一流ですから」
「おう、任しとけ!」
ギネさんはハルバードを奪うと、軽々と肩に担いで家の中に戻っていった――。
夕方、完成した品物は俺が受け取った。料金は言い値だったけど、バネッサなら大丈夫だろう。きっと。
斧槍はめちゃくちゃ重いのでひいこら言いながら店に帰ってくる。
事前に聞いていたオーダーのとおりに強化したところで、バネッサが来店した。
「できましたよ」
「これ……すごいわね。新品……いいえ、それ以上だわ」
「特殊効果がひとつ追加されてます。あと――」
俺は強化後のステータスを写したメモを見せながら解説する。(強化スロットの話はしないけど)
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名称:炎天のハルバード
属性:火
S1:◆◆◆◆◆(火)
S2:◆◆◆◆◆(火)
S3:◆◆◆◆◆(土)
S4:◆◆◆◆◆(聖)
HP:1150/1150
性能:A
強度:A-
魔効:B+
【特殊】
爆裂突き+
火弾乱舞
聖炎壁
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出来上がったのはこんな感じだ。
ステータスも大幅に上がり、『爆裂突き』は『+』にアップ。『火弾乱舞』という範囲型中距離攻撃の効果も付き、炎壁の守りは【聖】属性の効果も加わっていた。
「へえ……」
バネッサの瞳が輝く。プレゼントをもらったときのリィルみたいに嬉しそうな顔だ。が、
「って、ちょっと待って。あんた、ハルバードを受け取ってきたのはついさっきよね? これだけの強化を、この短時間でやったわけ?」
「プロですから」
「す、すごいのね……」
勢いで言いくるめられた。この人ってわりとチョロイかも。
とにもかくにも、これでバネッサの依頼は無事終了。Sランク冒険者の上客も捕まえられたっぽい。でもね。
「今度、うちの豚も連れてくるわ」
あのドMお兄さんとは関わりたくないんだけどな。そんな風に思う俺でした――。





