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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第二章:順風なる職人ライフ
47/81

47◆ハーフドワーフの鍛冶屋さん


 ゼクスハイムの東ブロックは、リィルたちの学校がある区域であり、農業従事者が多く住まうところでもある。

 通常、武器や防具、アイテムを作る職人さんたちは、冒険者が集まる南北のブロックか、商取引の多い西ブロックに居を構えるのだが、目的の鍛冶屋さんは東ブロックの城壁近くにお住まいだった。

 この辺りからも、変わったお方であることが窺える。

 

 下町っぽい雰囲気の通りへやってきた。

 そろそろ陽が落ちる時間帯。農作業の人たちが帰ってくるためか、そこかしこにある酒場やなんかは店を開きつつある。

 俺は地図と【解析】スキルを頼りに通りから路地に入った。

 

 二階建てで石造りの家が隙間なく並ぶ中、しばらく進んで、俺は立ち止まる。


「本当に、ここなのか……?」


 他の家と変わらぬ建物を見上げてつぶやいた。看板も何もない。ただの家だ。でも住所は間違いないので、俺は入り口の扉を叩いた。

 

 反応がありません!

 

 留守かな? と思いつつ、扉に手をかけてみると、

 

「開いてるし……」


 不用心にもほどがある。ひとまず大声で呼びかけてみた。

 

「ギネさーん、いませんかー?」


 返事がない。留守のようだ。

 

 いないなら仕方がない。が、リィルのお誕生日は待ってくれないので、なるべく早く依頼しておきたかった。何度も足を運ぶには遠いところだし、ご近所さんに在宅してそうな時間を訊いてみるかな。

 

 そう思い、踵を返そうとしたときだ。

 

 ガッシャーン! と家の奥から大きな音が響いた。いや、これ地下かな? さらにさらに。

 

「だーっ、もうやってらんねー! 飯だ飯! 飯食ってクソしてもう一回だ」


 ドスドスッという荒い足音も鳴る。

 俺が呆然と入り口で立ち尽くしていたら、おそらく地下からの階段を上ってきた人物が廊下に姿を現した。

 

 でかい。

 

 ガイルさんを超えるほどの大きな人影。二メートル超えてるな。褐色の肌にぼさぼさの栗毛。

 そしてぴっちりしたタンクトップを盛り上げる、巨大な胸。

 筋骨隆々ながら、正真正銘女性である。


「ギネさん、ですか……?」


 俺が呼びかけると、その人はくるりと振り向いて俺をまじまじと見た。

 

「なんだぁ、テメエ?」


 ぎろりとにらみをきかせるおっかない女性。年齢は二十代前半で、よくよく見れば整った顔をしている。でも超怖いよ!

 

 ステータスを見ると、このお方がギネさんで間違いない。

 彼女はドワーフ族と人族とのハーフで、ふつうハーフドワーフはドワーフ側の影響を受けて小柄なのだけど、なぜだかめちゃくちゃ育ってしまったらしい。

 

 ギネさんはドスドスと大股で寄ってきて、片目をすがめて俺をじろじろ見る。マジ怖い帰りたい。

 

「えっと、その、俺はアリトって言います。ギネさんに依頼をしに来たんですが……」


「オレに依頼だぁ?」


 ドスの利いた声で言うと、一転してニカッと少年みたいな笑みを作った。


「なんだよ客かよ。最初から言えってんだ。がっはっは!」


 厚手の皮手袋をはめた大きな手で、俺の肩をバチンと叩いた。

 俺、よろめく。めっちゃ痛い。

 

「見ねえ顔だな。ずいぶんわけえしよ。まあいっか。で、オレに何を作ってほしいんだ?」


 ギネさんは皮手袋を取り、ズボンにねじ込んで腕を組んだ。気難しいという感じではないな。豪快すぎるけど。

 俺はメモ書きを取り出し、ギネさんに渡す。

 

拳闘僧モンク用の攻防一体型グローブなんですけど――」「けえんな」


 ギネさんはさらっと読んだだけで俺にメモ書きを押し返してきた。

 

「え、あの、何か問題がありましたか?」


「今は細けえ仕事する気分じゃねえんだ。大剣なり大盾なりをどっかんどっかん鎚でぶっ叩いてよぉ、わかんだろ?」


「いえまったく」


 あれ~? と首をかしげるギネさんは、またも屈託のない笑みになって言った。

 

「まあ、日が悪いってこった。わりいな。その気んなったらこっちから連絡してやるよ」


 話したかぎり、(見た目は怖いけど)悪い人ではない。ただ天才型の職人にありがちな、『その日の気分でやりたい仕事に没頭する』タイプのようだ。

 そして残念なことに、今は細かな作業をする気分ではないらしい。

 

「そこをなんとかお願いできませんか。実はちょっと急いでて」


「つってもなあ。オレ、気分が乗らねえとホントなんもできねえんだよ。納得いくもんが作れねえのも我慢ならねえしな。急ぎってんなら、他を当たってくれや」


「ギネさんでなければダメなんです!」


 自尊心をくすぐってみた。

 

「そ、そうかぁ?」


 お、まんざらでもない様子。実際、今から他の職人さんを探すのは時間がかかると思うんだよな。顔の広いガイルさんが真っ先に指名した人だ。むしろこの人以外にはあり得ない、と思う。

 

「でも無理なもんは無理だ」


 く……、ならば!

 

「どうすればこれを作る気分になりますか?」


 素直に訊いてみた。だってわからないんだもん。

 

「へ?」


 ギネさんが素っ頓狂な声を出す。

 

「オメエ、変なヤツだな。ふつうは怒るか諦めるかして引き下がるもんなんだが……。うーん、気分ねえ……」


 根はやっぱりいい人なんだな。腕組みして真剣に考え始めた。

 

「俺にできることならなんだってします!」


 嘘ではない。可愛い妹のためなら、ダンジョンの最下層にだって潜ってみせる。

 

「うーん、うーん、うーん…………うん、素材だな」


「素材?」


「そいつに合うとびきりの素材を持ってくりゃ、オレの職人魂にも火が点くってもんだ」


「たとえば、神位鋼ミスリルとかでしょうか?」


 ギネさんはがっはっは、と豪快に笑い飛ばす。

 

「んなモン持ってきやがったら、ケツにぶっ刺してお帰り願うとこだぜ」


 メモ書きをひょいと取り上げ、紙面を見ながら言う。

 

「こいつはガキンちょ用だろ? ちっこいし、あとからサイズ調整できるようにってオーダーだしな。ミスリルってのは軽いしかてえし万能に思えるが、特殊性能を最大限引き出すには、計算しつくされた『形』ってのがあんだよ。あとからちょろちょろ変えるなんて阿呆のするこった」


「となると、どんな素材がいいんでしょうか? 実はミスリルもそうですけど、あまりお高い素材は……」


 学生が使うものだし、他から浮いちゃわないものがいいのだ。


「オメエよぉ、そこはこだわろうぜ。オレがこしらえるのは一生モンどころか何世代も使えるんだ。いずれミスリル製のに買い替えるにしても、買値とほとんど変わらねえ値で売れるんだからよ」


 すごい自信だ。

 でも、言われてみればそうだな。一生物とは言わなくても、リィルが成長期を終えるくらいまで使う武具。周りの目がどうこうより、『本物』、『業物』を今から知っておいてもらいたい。

 

「けど、あー、ヤベえなこりゃ。気分が乗らねえときにあれこれ考えちまうと、むちゃくちゃスゲえのじゃねえと納得できなくなんだよなあ。てか、そうじゃないモンはもう作れねえ」


「えーっと……?」


 あれ、これって良くない流れだったりする?

 

「よしっ、リヴィア鋼持ってきてくれ」


 俺が【強化図鑑】で検索するより先に、ギネさんが恍惚とした表情で解説する。

 

「オーダーにある【水】と【聖】の属性を持つ鋼材だ。ちっとばかしクセがあるからミスリルにゃだいぶ劣るが、希少性でいやあピカ一だな」


 属性はどちらか(できれば【水】のほう)でいいんだけど……。


「でも、細かな加工には適さないんですよね?」


 遅れて【強化図鑑】から情報を引っ張ってくる俺。

 

「お、よく知ってんじゃねえか。だがな、そこはほれ、オレの腕の見せ所ってヤツよ」


 これまた大した自信だ。

 しかし、である。

 

「ま、でもありゃあ、とびきりの錬金術師じゃなけりゃ生成できねえ。オレの知る限り、そんなヤツはこの街にゃいねえんだよなあ……」


 無理難題を吹っかけたと思ったのか、ギネさんは「すまねえな」と頭をかいた。

 

 ふむ。『とびきり』の錬金術師か。

 失礼ながら『並』の錬金術師さんには心当たりがあるんだけど………………うん、ダメ元で聞いてみるかな。ステータス上はそれほど能力が高いとはいえないんだけど、あの人ってやたら物知りな感じだし、もしかしたら作れる同業者を知っているかもしれない。

 

「ちょっと、相談に行ってきます」


「ん?」


 俺はギネさんに別れの挨拶もそこそこに、自宅へとダッシュした――。

 

 

 

 

 実際に用があるのは俺の店のお隣。『並』の錬金術師さんのお店だ。

 

「クオリスさん、何やってんですか?」


 彼女のお店に入ると、いつものロッキングチェアではなく、カウンターにぐでーっと突っ伏していた。俺の声に、のそりと上体を起こす。

 

「……何も、思いつかぬのだ」


「リィルへの誕生日プレゼントですか?」


 こくりと、うなだれるようにうなずくクオリスさん。

 

「そんなに焦らなくても……あ、でもちょうどよかったかも」


「なにがちょうどよいのだ」


 クオリスさんは拗ねたように口をとがらせる。俺は慌てて説明した。 

 

「実は今、『リヴィア鋼』という素材を探していまして。リィルに贈る拳闘僧モンク用グローブを作るのに使いたいんです」


「ほう。リヴィア鋼か」


「それって錬金術師しか作れないそうなんですけど、もしクオリスさんが作れる同業者を知ってるなら、リィルへのプレゼントは――」


「我とそなた、二人の共同プレゼントというわけだな!」


 なんかものすごい食いついてきたぞ!?

 

「ふはははは、我を誰と心得る。久々に腕が鳴るのう。しばし待て。そこを動くなよ」


 クオリスさんは作業場に走った。

 五分で戻ってくる。

 

「できた! そら持っていくがよい」


「早っ!?」


 人の頭サイズの素材を俺に手渡す。

 水晶みたいに薄い青で透明感があった。これ、本当に金属なのだろうか?

 

「すごいですね。かなり高ランクの錬金術師でしか作れないって聞いたんですけど」


「ん? ああ、えーっと……そう! 以前知り合いから譲り受けたものだ。たまたま持っていたのだ。はっはっは」


 そうだったのか。錬金術師繋がりを期待したのは間違っていなかった。あれ? でも『腕が鳴る』とか『できた!』とか言ってたような?

 おや? クオリスさんの赤い瞳がいっそう深い色になっていって……。

  

「深く考えるでない」


「…………はい」


 うん、深く考えちゃいけないんだな。了解しました。

 

 そんなわけで――。

 

 

 

 陽はとっぷり暮れていたけど、その日のうちにギネさんのところにリヴィア鋼を持っていくと。

 

「マジか! しかもこの量、三つは作れんぞ」


 小躍りするギネさんの瞳が燃えに燃え、

 

「やる気出た! 他の仕事は全部ほったらかす!」


 他の依頼主さんにとても申し訳ないことをしてしまったが、三日後にはプレゼントが愛らしい包装付きで出来上がりました――。

 

 

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