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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第二章:順風なる職人ライフ
45/81

45◆けっこういいチームになりそうだ


 ジャンボアントが現れた!

 ジャンボアントが現れた!

 ジャンボアントが現れた!

 

 草原の中、細い街道を歩いていたら、子どもサイズの大きな蟻さんが三匹飛び出してきた。

 

 リィルたち学生三人は臨戦態勢に入る。前衛のカタリナちゃんが前に出て、リィルはすすっと横に開き、エリカは弓に矢をつがえた。

 

「あの子たちの実力を計るにはちょうどいい相手ね」


 俺とバネッサは二十メートルほど後方でその様子を眺めている。

 

 ジャンボアントは危険度D。それほど強くないが、群れで行動するときの連携は抜群だ。個々の実力では大きく勝っている彼女たちだけど、連携次第では苦戦するだろう。

 

 ちなみに俺とバネッサは魔物に認識されにくいよう、『隠密』効果のあるカードを首に提げている。特別野外指導員の認識証にその効果が付与されているのだ。

 

「い、行きますっ」


 カタリナちゃんが気合いを入れる。巨大なハンマーをぐるぐるぐるーと振り回し、魔物の群れに突撃した。

 

「ひやぁぁぁ~」


 なんとも情けない掛け声もあり、ハンマーに振り回されている感がものすごいけど、実際には重心が安定していて、突進スピードも相当なもの。

 下手に近づけば吹っ飛ばされる、攻防一体の攻撃だ。

 

 ジャンボアントたちのど真ん中に突っこみ、さっそく一匹を撥ね飛ばした。会心の一撃で相手のHPは0になり、しゅわしゅわと姿を消す。

 まずは一匹。

 

 他の二匹は左右に分かれ、互いに距離が開いた。これでは連携も何もない。


 右からリィルが素早く一匹に肉薄し、『氷結蹴り』を食らわせる。大きな頭にヒットすると、ぴきんと涼やかな音が鳴って巨大蟻の表面が凍りついた。

 そこへ正拳突きを打ちこむと、こちらもHPが0になって消え去る。これで二匹目。

 

 左のもう一匹への対応はエリカだ。

 

「お覚悟はよろしくて? 『疾風の矢(ゲイル・アロー)』!」


 目にも留まらぬ速さで矢を撃ち放つと、矢に旋風がまとわりついて突き進む。

 ジャンボアントがぴょーんと真横に飛んだ。攻撃を察知し、回避行動を取ったのだ。

 

「甘い、ですわ!」


 ところが、直進していた矢が風にでも流されたように軌道を変え、広い側頭部へクリーンヒット。矢は弾かれたものの、HPは半分に減少した。

 

「ひやぁぁぁ~」


 そこへカタリナちゃんがぐるぐるやってきて、どっかーんと叩き飛ばした。最後のジャンボアントもやっつける。

 ぽわぽわん、とドロップ音がなり、『甘蜜』の小瓶がドロップした。

 

 戦闘終了。こちらの被害はまったくない、完全勝利と言える。

 

 でも、うーん……どうコメントしたものだろう?

 俺が頭の中を整理していると、すぐ横から弾けるような声が轟いた。

 

「ぜんっっっぜんダメ!」


 バネッサの高らかなダメ出しだ。のっしのっしと三人へ近寄る。

 

「まずはそこのハンマーエルフ」


「ひゃぃ!?」


 名指しされ、飛び上がるほどびっくりするカタリナちゃん。

 

「でかい武器は振り回せばいいってもんじゃないの。戦場を引っ掻き回してどうするのよ? 仲間との連携なんてあったもんじゃないわ。無駄に疲労もするしね」


「れ、れもぉ、あれって見た目ほど、体力は使わないんれすよぉ?」


「すでに目を回してるじゃないの」


 がんばって反論したものの、カタリナちゃんの目はぐるぐるしていた。

 

「今は大丈夫だけど、ジャンボアントは近くに別部隊が待機してることが多いわ。ピンチになったらそいつらを呼ぶし、そのときにすぐ態勢を整えられるの?」


「す、すみません……」


 しゅんと縮こまるカタリナちゃんをバネッサは一瞥すると、今度はリィルに矛先を向けた。

 

「スキルの無駄使い」


 一刀両断である。


「ぁぅ……」


「陣形が崩れて孤立した相手に、いきなりスキルをぶっ放す必要はないわ。実力差を考えれば、スキルを使わなくても速やかに対処できたはずでしょう? それをしなかったのはビビってたから。決着を必要以上に急いだのね」


「……う、うん」


 リィルも図星を突かれ、しゅんとうな垂れる。

 続いてはエリカなわけだが、こちらはすでに覚悟を決めたように直立不動で硬直していた。

 

「あんた、リーダーよね?」


「は、はいっ」


「後衛は全体も見渡せる。どうして指示をしないの? 今の戦闘、あらかじめ手順を決めてたのかしら?」


「そ、その……校内のパーティー戦では、だいたい今のような感じでしたので……」


「はあ? 外じゃどんな魔物がいつ出てくるかわからないのよ? 画一的な連携でどうにかなるとでも思ってるの?」


「それは……ですが、予備校のころからずっと三人でやってきましたので、それぞれの特徴はよくわかっていると言いますか……」


「はあ? 冒険者になってもいないひよっこ未満のあんたらが、阿吽の呼吸とかアイコンタクトで連携が取れるとでも? 十年早いわ」


「ぅ、ぅぅ……」


「泣かない! 上を向く!」


「「「ひぃ……」」」


 いかん。むちゃくちゃ居心地が悪いぞ。俺まで怒られている気になってきた。

 

 でもこれ、いちおう学校側からの指示でもあるんだよな。

 初の野外実習では、生徒たちに実戦の厳しさを教えるのが主たる目的だ。

 苦戦したなら手を貸してやり、『それみたことか、実戦を舐めるな』と叱りつける。

 仮に完勝した場合でも、粗を探して厳しく指導する。

 

 特別野外指導員は基本、嫌われ役を買って出て、冒険者稼業がいかに大変かを身に染みこませるのが役割だった。


「ほら、あんたも何か言ってやんなさいよ」

 

 小声で突っつかれる。

 でも俺が気になった部分は全部言われちゃったんだよなあ。

 

 俺、実戦経験はあまりないし弱かったけど、荷物持ちやなんかで冒険者パーティーにくっついて、その戦いを何千、何万と見てきた。

 だからなんとなく、『こんなときはこうしよう』とか『こういうのはやっちゃダメ』みたいなのがわかるのだ。

 まさか現役バリバリのSランク冒険者と意見が一致するとは思わなかったけど。

 

 で、その経験から、泣くのを懸命に我慢している三人を眺め、俺の口から出たのは。

 

「よくやった、と思う。三人での実戦が初めてということを考慮しなくても、合格点だ」


 ぽかんとする三人。

 バネッサは呆れたような目で俺を睨む。何か言いたげな彼女を手で制し、俺は続ける。

 

「とはいえ、バネッサの指摘はもっともだ。それを踏まえたうえで、今の戦いはどうすべきだったか……エリカ」


「は、はい。ええっと……」


「周囲に魔物はいない。ゆっくり考えて答えればいい」


 エリカはちらりとバネッサを見たが、何も言わないので考えに没頭した。リィルやカタリナちゃんもそれぞれ考え始めたようだ。

 

 やがてエリカが口を開く。

 

「まず、わたくしが矢による通常攻撃で、魔物たちの分断を計ります。一匹が孤立したところで、カタリナとリィルさんが二人してそれに対処。わたくしはその間、残りの二匹を牽制します。そうして各個撃破を目指しますわ」


「メインはカタリナちゃんで、リィルはサポートするのがいいよね?」とリィルも遠慮がちに割って入る。


「そうですね。エリカさまがピンチになったら、素早いリィルちゃんでないと対応できませんし。双方に気を配るのは大変かもしれないですけど……」とカタリナちゃん。


「そこはがんばるっ」


 議論に熱が入ったところで水を差すようであれだが、俺はここで口を挟んだ。

 

「速攻でない以上、仲間を呼ばれる可能性が高いが?」


 答えたのはエリカ。

 

「ジャンボアントは一度に二、三匹しか仲間を呼びませんから、方針はそのままで対応は可能かと思います。十匹以上の連戦になりそうなら、撤退を視野にいれるべきでしょうけれど」


「ああ、それでいい。と俺は思うが、お前はどうだ?」


 バネッサに意見を求めると、むくれ顔ながら「いいんじゃない?」と答えた。

 

「でも実践できるかは未知数ね。次に同じ場面になったら試しましょう」


「「「はいっ」」」


 元気よく返事をした三人は、まだ話し足りなかったのか、細かな連係動作を確認するため議論を再開した。

 その様子を眺めていたら、バネッサがぼそりとつぶやく。

 

「なんか、あたしだけ憎まれ役じゃないの。おいしいとこ全部持っていかれた気分」


 口をとがらせる彼女に、(兜で顔は見えないが)苦笑いする俺。

 

「そうでもないさ」


 小声で告げると、ちょうどエリカたちが寄ってきた。

 

「あの、魔法を撃つタイミングについてなのですけど――」

「このハンマーで小回りを利かせた攻撃方法を――」

「回復している間って――」


 俺ではなく、バネッサへ矢継ぎ早に質問する。

 厳しく叱責されたからといって、不満を溜めてふてくされるようでは冒険者として成功しない。この幼い冒険者の卵たちは、そんな卑屈な者たちではないのだ。


「な、ちょ、一度に言われても答えられないわよ」


 そしてひとつひとつ丁寧に答えるバネッサの愛情は、確実に少女たちに伝わっている。

  

「だろ?」


「はいはい、そういうことにしておくわ」


 頬を赤らめるバネッサを見て、俺とバネッサも指導員としてよいチームになれるかも、と思うのでした――。



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ひょうし
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