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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第二章:順風なる職人ライフ
43/81

43◆ギルマスへの報告


 翌日の夕方、俺は約束どおり冒険者ギルドの本部――リオネルさんを訪ねた。


「すまないね。現状、届いているのはこれだけだ」


 応接室のローテーブルに、リオネルさんが綿毛の尻尾を二つ置く。

 

「実は俺も、とある人からひとつ入手しまして、さっそく強化して持ってきました」


 俺は強化済みの『エスケープ・ボール』をポーチから取り出した。

 

「ほう、これが……見た目はずいぶん変わるのだね」


 元のふわふわしたウサギの尻尾から、つるつるで弾力のあるボールに変化するのだ。


 リオネルさんはボールを手に取り、上から下から眺めたり、にぎにぎと感触を確かめたりする。

 

「こちらで用意した『脱兎の尻尾』も、すぐに強化できるかね?」


「あ、はい」


 俺はひとつを手のひらに乗せ、もう片方の手をかざした。

 むむむっと集中している感じを出す。


============

名称:脱兎の尻尾

属性:風

S1:◇◇◇◇◇

S2:◇◇◇◇◇


HP:150/150

性能:C

強度:D

魔効:D+


【特殊】

 俊敏UP

============


 眼前に解析用のウィンドウが表示された。

 普段なら指先で操作するのだけど、今日は人前なので、むむむっと今度は本当に集中して強化スロットにチャージしていく。これ、疲れるからやりたくないんだけど仕方がない。

 

 強化スロット二つにそれぞれ【風】をフルチャージすると、名前と見た目が変わった。

 

============

名称:エスケープ・ボール

属性:風

S1:◆◆◆◆◆(風)

S2:◆◆◆◆◆(風)


HP:70/70

性能:B-

強度:D+

魔効:C+


【特殊】

 戦域離脱

============


 ふうっとひと息ついて、すぐさま二つ目に取りかかる。こちらもすぐに強化完了。

 

「見事な手際だね。これほど早く、正確にアイテム強化を行る人を僕は知らない」


「あまり連続では無理なんですけど」


 いちおう謙遜しておく。家に持って帰ってなら、一日に十個や二十個、どうとでもなる。

 

「ま、そこは無理してほしくはない。とはいえ、検証には数が必要だ。今のところギルドにはこのアイテムの情報がまったくないから、検証項目も多くなるだろう」


 そうだよな。作って終わりってわけはないよな。『魅惑のコースター』のときも、けっこう検証して使い勝手を確かめたし。

 

「検証項目はこちらでまとめておこう。君にはこのアイテムの特徴を知り得る限り教えてほしい」


「わかりました」


 紙とペンを用意してもらい、俺はそこに【解析】で得た情報を記していく。


「しかし、君は不思議な男だな」


「へ?」


「ああ、すまない。独り言のようなものだから、気にせず続けてくれたまえ」


 と言われても、俺の話なのだから気になるのは仕方がない。

 情報を書き写しつつ、リオネルさんの話に耳を傾ける。

 

「『エスケープ・ボール』にしろ『魅惑のコースター』にしろ、我ら冒険者ギルドですら持ち得ないアイテムの情報を、君は知っていた。すくなくとも国内において、冒険者絡みのアイテムの最新情報はこの街にすべて集まってくるのにね」


 俺が持つ限定スキル【強化図鑑】には、スキル説明によれば歴史上で人が見つけた強化パターンが網羅されている。この国だけでなく外国のものも含まれるし、長い歴史の中で埋もれてしまったアイテムも、だ。

 だからたぶん、まだまだたくさんあるのだろう。

 

「それに君は、誰も作れない『自動回復薬オートポーション』も卸しているそうだね。入手経路は秘密、とのことだが」


「いやあ、あはは……」


 笑ってごまかすしかない。

 さすがに【混沌】属性を付与できるとは言えないし。

 

 落ち着かない雰囲気の中、俺はせっせと情報を書き写し、

 

「できました。こんな感じです」


 紙を手渡すと、リオネルさんはさらっと読んで「うん、十分だ」と笑みを浮かべた。

 

 この流れ、あまりよろしくないのだけど、あのことも言っておかないとなあ。

 

「あの、実はリオネルさんに折り入ってお話が」


「なんだい? あらたまって」


 俺はポーチから小さな鈴を取り出す。

 

「これ、とある筋から入手したアイテムなんですが、使うと拠点に転移してくれるんです」


「は?」


 リオネルさんはぽかんと口を開け広げる。

 

「えーっと、『郷愁の鈴』というものでして、ダンジョンの奥深くからでも、寝床にしている場所に強制転移してくれる、という帰還用アイテムです」


 リオネルさんが硬直してしまったので、しばらく待つことにする。

 本当はこの場で紹介したくはなかったのだけど、もし『郷愁の鈴』さえあれば『エスケープ・ボール』が必要ない、とかいう事態になったら、検証が無意味になってしまう。

 リオネルさんやギルドの職員さんたちに余計な手間はかけさせたくなかった。

 

「君というやつは、いったいどこからそんなアイテムを手に入れるというんだ……」


「いやあ、あはは……」


 ここも笑ってごまかすしかない。

 

「それも秘密のルートか。ま、だいたい予想は付くがね」


「えっ?」


「これでも僕は冒険者ギルドのギルドマスターだ。この街でギルドに登録しておらず、それでいて稀有なアイテムを調達できそうな秘密めいた誰か、といえば一人しか心当たりがない」


 やばい。どう考えても『謎の黒騎士』のことじゃないか。

 

「ま、これ以上の詮索はしないよ。君とその人物との約束があるのなら、他者が介入してよい話ではないからね」


 ひとまずほっとする俺。

 

「あの、それで『郷愁の鈴』があると、『エスケープ・ボール』は無意味になりますかね?」


「なぜだい? 帰還用アイテムと離脱用アイテムはまったくの別物だ。危機に陥ったからといって毎度拠点に戻されては、冒険業は成り立たないよ」


 あ、なるほど。俺の杞憂だったか。

 

「そちらも僕に預からせてもらっていいかな? 冒険者が使うアイテムは安全性を確認しておきたいからね。もちろん対価は支払おう」


「わかりました。これ一個だけですけど、また手に入れたら持ってきます」


「ああ、よろしく頼むよ」


 というわけで、街の二大ギルドのギルマスからの依頼から始まった話は、便利アイテム二つを開発できるまでに至ったのだった――。

 

 

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ひょうし
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