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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第二章:順風なる職人ライフ
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40◆職人魂に火が点いた


 俺がいつの間にか持っていた限定スキル【強化図鑑】には、様々な強化レシピが登録されている。

 しかし、未知のものは当然載っておらず、俺自身が新たな強化の組み合わせを試さなければならない。

 とはいえ、一般に流通しているものばかりではなかった。

 

 誰かが発見したものの、世に普及せず埋もれてしまったものが、必ずあるはずだ。

 

 冒険者の生還率を上げるような新アイテムを作るため、俺はそこからアプローチをすることにした。

 

 まず、どういった系統のアイテムがよいかを考えよう。

 

 危険なダンジョンで生きて帰るために必要なもの。

 

 『死なない』という点で真っ先に思いつくのは、やはり回復系だろう。

 神々が与えたもうた『HPシステム』があるこの世界では、HPが0にならない限りは死ぬことはない。だからとにかくHPを回復させておけば、生還の可能性はぐんと上がる。

 

 でもなあ、回復系のアイテムってほぼほぼ出尽くしてるんだよなあ。

 

 俺が最近発見した『自動回復薬』が、最後の画期的なアイテムかもしれない。

 この上位を作ることはできるのだけど、効果が高まって得をするのは素のHPが多い高ランクの冒険者だけ。画期的とは言い難い。

 

 ではHPを回復させるのではなく、MPはどうだろう?

 

 同じく、MP回復薬に【混沌】を付与すると、自動でMPが回復するアイテムができる。

 ただしMPの残量管理は冒険者なら必須の技能。HPみたいに予想外に削れることはないから、自動で回復して重宝される場面は少ないだろう。

 ま、これはこれで有用なんだけど、今回は没だな。

 

 それに、【混沌】属性を付与する場合、再現性は俺にしかなかった。

 今回の依頼は、暗に『誰でも作れるもの』という条件がある。

 だから【混沌】を付与しなければならないアイテムは除外しなくてはならなかった。

 

 さっそく行き詰まったな。ちょっと観点を変えてみるか。

 

 HPが減ってしまうのを防ぐ方向ではどうか?

 

 HPが減るのは、魔法や直接的な攻撃を食らってしまったときだ。が、これを軽減するのは防具なり防御魔法やスキルで対応する。

 お守り(アミュレット)系もそうだな。

 

 万能なものが作れればいいけど、【強化図鑑】に登録されているものは、素材的に稀少すぎて苦しい。

 それに、この手の対策は冒険者なら最大限やってしかるべきだし、自身のランクと魔物の危険度を考えて、撤退なりを選択するだろう。

 逆に守りが固いことで慢心し、命を危険にさらしかねない。

 

 となれば、予期せぬHPの減少への対策が考えられる。

 とある女性が頭に浮かんだ。俺が旅の途中で出会った、町長の娘さん――マレーナさんだ。

 彼女は『膨張の呪い』を受け、死に瀕していた。

 

 新ダンジョンには未知の魔物も多いから、状態異常を防ぐ手立てがあれば、生還率も上がる。

 ただ、これも万能的なアイテムは素材が稀少だったり、【混沌】を加えなければならなかったりと、依頼内容には合致しない。

 

「ふぅ、なかなか難しいな……」


 でも、考えるのは楽しい。今までは日々の作業に追われていたから、ここまで真剣に考える機会がなかった。

 依頼を達成できるものにはまだ出会えていないけど、今後に繋がる発見がいくつもあった。

 

 とはいえ、考えすぎて頭がぼんやりしてきた。

 俺はキッチンで紅茶を淹れ、ほっとひと息。頭をすっきりさせる。

 

 次に考えたのは、そもそも魔物と戦わない方向だ。

 

 『魅惑のコースター』は魔物を引き寄せる効果を逆に利用し、魔物を誘導して戦いを避けるアイテムだ。

 そのものズバリ、魔物を追っ払う効果があるアイテムを探してみよう。

 

 【強化図鑑】をほじくり返す。

 『ぼっちガス』なる残念な名前のアイテムを見つけた。強烈な異臭を放ち、相手によっては危険度Sだろうが退散させてしまう超強力なアイテムだ。

 が、弊害が多い。

 使った人に臭いがこびりつき、数日は取れない。命が助かるのは良いとしても、その間は誰とも接触できないからとても困るな。

 強化すれば実用に耐えられるレベルに落とせるけど、本来の効果も低くなってしまう。

 加えて問題なのは、『臭い』であるため、ゴースト系など嗅覚を持たない魔物には効果がない。

 

「やっぱり魔物を追っ払うって、難易度高いよなあ」


 って、待てよ? 魔物を追っ払うんじゃなくて……。 

 俺はひらめいて【強化図鑑】を物色した。


「……この辺、かな?」


 いくつかをピックアップし、俺は急いで出かける支度をしてから外へ飛び出した――。

 

 

 

 北門付近のアイテムショップをいくつか回ったものの、目的のアイテムは見つからなかった。

 そこで俺は、調べ物をするために町の中心部へと向かう。

 

 『モンテニオ銀行』からほど近い場所に、五階建ての立派な建物があった。

 冒険者ギルドの本部だ。


 俺は受付でギルドマスターのリオネルさんに会いたいと告げると、怪訝な顔をされたものの、すぐ奥の応接室へ通された。

 待つことしばらく。

  

「やあ、待たせてしまってすまないね」


「いえ、こちらこそ、急に訪ねてきてしまいまして、すみません」


「そう畏まらなくてもいいさ。例の依頼の件だろう? だったらいつでも構わないよ」


 リオネルさんは気さくな笑みで応じてくれた。

 

「で、僕になんの用かな?」


「実は、『目録』を見せてほしいんです」


 冒険者ギルドには、様々な情報が集まる。

 特に魔物に関する情報の宝庫が、冒険者ギルドだ。

 どこにどんな魔物がどれくらい出現するか。細かな鑑定データや、ドロップ品とその確率に至るまで。

 

 それらをまとめたのが『目録』と呼ばれる資料群だった。

 『目録』は冒険者なら誰でも閲覧できる。逆に言えば、冒険者登録をしていないと見せてもらえないのだ。 


「いいよ。じゃあ、さっそく行こうか」


 やけにあっさり許可が下りた。というか。

 

「リオネルさんも一緒に?」


「君が何を調べるのか興味があってね。邪魔かい?」


「いえ、邪魔ってことはありませんけど、見ていて楽しくはないと思いますよ」


「楽しくなければすぐにいなくなるさ」


 リオネルさんは広いおでこをきらんと光らせた。

 

 

 二階までぶち抜いたくらい高い天井の書庫に案内される。壁面にはその天井までの書棚で埋め尽くされていて、他にも室内には四列の棚が並んでいた。


 大部分は冒険者の報告書を綴じたもので、そこから俺が欲しい情報を探すのはまず不可能。

 魔物の情報がまとめられた『目録』を担当の人に持ってきてもらった。

 

 部屋の両端に閲覧ようの長机があり、そこで『目録』を広げる。

 索引を頼りに、目的の魔物はすぐに見つかった。

 

「ふむ。『エスケープバニー』か。『ボーパルバニー』の下位種だね。だが、危険度はせいぜいCの大した魔物じゃない。これがどうしたんだい?」


 ページには二足歩行の白いウサギが描かれている。

 見た感じはわりと可愛い。


「こいつのドロップアイテムが気になってたんですけど……」


 ドロップアイテムの項目には、いくつか記載されてはいる。

 けれど目的のアイテムには、注釈に『との情報がある』と記されていた。実際にドロップした報告はギルドに上がっておらず、他から取り寄せた未確認の情報らしい。

 

「こいつは弱いが、なかなかに素早いからね。街の周辺ではギルラムでしか確認されていないから、ここでは新種に近い。ドロップアイテムもさして貴重なものがないらしいから、出会った冒険者もあえて深追いせず、ゆえに倒したという報告もごくわずか、といったところか」


 なるほど。だからこの街のアイテムショップに流通してなかったのか。

 

「君は、どのアイテムが気になったのかな?」


「これです」


 俺はドロップアイテムの項目のひとつを指差した。

 

「『脱兎の尻尾』? 特殊効果は『俊敏UP』か。ふむ、俊敏を上げれば魔物の攻撃を回避しやすくはなるが……画期的なアイテムとは言い難いな」


 そりゃそうだ。さすがにそんな程度のアイテムで依頼が達成できるとは考えていない。

 

「このアイテムに【風】属性を一定量付与すると、『エスケープ・ボール』ってアイテムに進化するんです。で、その効果が――」


 俺が簡単に説明すると、リオネルさんが目を丸くした。

 

「『戦線離脱』……? 魔物の認識範囲外へ飛ばしてくれる、だって?」


「はい。まあ、一回こっきりの消費アイテムですけど、閉じこめられているのでもない限り、危険度Sの魔物にも有効です」


 連続使用できない分、予想外の強敵に出くわしたときの緊急回避的な使い方しかできない。

 それでも、数人をまとめて戦闘範囲から離脱させてくれるから重宝はされるはず。

 

 素材自体は入手困難というほどでもない。意識して逃がさないようにすれば、『エスケープバニー』を倒すのはたやすいからだ。

 二つあるスロットの全10チャージ分のうち、5つを【風】でチャージすれば『エスケープ・ボール』に進化するので、俺以外でもわりと簡単に作れてしまう。(俺は二スロットフルチャージさせて性能を上げられるけどね!)

 

「いや、うん。これはいいな。なにせギルラムは特殊なダンジョンで、危険度C程度を相手にしていたら、ひょっこり危険度Aの魔物が現れるような不可思議なところだ。第三階層なんて、下りたすぐ側になんの脈絡もなく階層ボスが居座っていたりもするし、下の階層にいけば似たような場所はまだあるだろう」


 リオネルさんは目を輝かせた。

 

「さっそくアイテム回収の依頼をギルドから発行しておこう。早ければ明日にはいくつか手に入るだろうから、明日の夕方、また来てくれるかな?」


 話はトントン拍子に進み――。

 

 

 明日また冒険者ギルド本部を訪ねる約束をして、俺は家に戻ったわけだが。

 

「さて、行くか」


 明日まで待っていられない。なんだか体がうずうずするのだ。

 なので俺は黒い鎧を身にまとい、『鋼の剣』を携えて。

 

 目指すはギルラム洞窟――現状『エスケープバニー』が確認されている、第七階層だ!

 


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ひょうし
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