04◆5歳の俺、スキルランクがいきなりSに
四度目の人生では、俺は『アリト』という名の平民だった。
何の変哲もない子どもが、7つの属性すべてを持っていると知ったら周囲はどうなるだろうか?
前世や前前世では、所有属性はもっと少なかったが、俺は『神童』扱いされたものだ。特に前世はすごかった。
今回の人生でもちやほやされてみちゃう?
否っ、である。
今回俺は、当初は冒険者になる道を進まないと決めた。
だが、7属性をコンプリートした神のごとき子どもは、おそらく冒険者に仕立て上げられてしまうだろう。そのための英才教育が俺の子ども時代を拘束するに違いない。前はそうだった。
だから今回の人生で、俺は自分の特殊性を秘密にしようと決めた。
あくまで、冒険者になるまでは、だけどね。
幸い生まれた村はド田舎で、稀少スキル【鑑定】を持つ者が訪れるようなところじゃない。俺は全属性コンプリートしていることは誰にも秘密にし、のほほんと育っていた。
5歳になり、俺は村の外で腕組みしながら考えていた。
アイテム強化職人になって、強力な武具やアイテムを俺用にカスタマイズする。
そうして最強の冒険者に成り上がるのだっ。
その野望を実現するため、俺は何をすべきだろうか?
アイテム強化職人になるためには、【アイテム強化】スキルを覚える必要がある。
そしてスキルを覚えるには、相応のスキルポイントを貯め、交換しなければならない。
古き神々がこの世界に与えた恩恵のひとつ、『スキルシステム』だ。
スキルには相性があり、誰でも同じスキルポイントを消費して覚えられるわけではない。
相性が悪ければ多くのスキルポイントが必要で、逆に相性がよければ少なくて済む。
で、俺はといえば。
教会の神父さんに『おおきくなったら、あいてむきょうかしょくにんに、なりたいですっ』と幼子っぽく笑顔を添えて言ってみたところ、【アイテム強化】スキルの必要ポイントを教えてくれた。
E: 1,000
D: 2,000
C: 3,500
B: 7,000
A:15,000
S:45,000
EからSは、スキルランクを表している。
それぞれの数値は、Eならスキルを覚えるのに必要なスキルポイント、他はランクアップに必要なスキルポイントだ。
【料理】とか【鍛冶】とか、職業系のスキルで仕事をこなせると認められるのは、最低でもC。
つまり俺がアイテム強化職人として独り立ちするには、1,000+2,000+3,500の計6,500ptを稼がなくてはならない。
俺はひとまず安心していた。
職業系のスキルだと、相性が悪ければ覚えるだけで数千ptを要し、そこから先はさらなる地獄が待っている。
結果だけ見れば、俺と【アイテム強化】スキルの相性は、『そこそこ良い』くらいのものだった。
スキルポイントは日常生活でもいつの間にかちょびっと増えているので、幼児の俺でも今から意識して稼いでいけば、10歳くらいで最初の1,000ptはクリア可能。
15歳になるころにはDへのランクアップもできるだろう。
その歳になれば、大きな街で弟子入りし、数年でランクCになって独立できる。
あとは全属性を持つ特性を生かし、アイテムを強化しまくって、なる早でAまで上り詰めるのだ。
ランクSなんて無理ゲーだから、俺の冒険者の戦いはそこから始まる。
弱冠5歳にして将来設計がばっちりな俺。
内心でうふふふと気持ち悪く笑いながら小道を歩いていると。
「こんにちは。坊や、何か悩んでいるのですか?」
涼やかな声が俺にかけられた、らしい。
辺りをきょろきょろしても、俺とその人以外、誰もいない。
俺は声の主に顔を向けた。
金髪がきらめく、とびきりの美少女だった。
見た目は17,8歳といったところ。地面につくほどの長い髪を三つ編みに束ねている。白い神官風の衣装はゆったりめだが、はちきれんばかりの双丘がたゆんと揺れていた。
愛らしい笑顔で俺に近づく彼女。
とても清楚だ。後光が差しているような神聖な雰囲気を醸している。
俺はあたふたと落ち着かない。
三度の転生を経た俺は125年ほど生きている計算になるが、これほどの美少女にお目にかかったことはなかったのだ。
「いきなり声をかけて、ごめんなさいね。でも、何か悩んでいるようでしたので、気になってしまって」
俺はバラ色の将来を思い描いてウキウキだったのだが、他人様からだと苦悶の表情に見えたのだろうか?
「いいいいえ、ぼ、ぼくはべべつに……」
近寄ってくる美少女に俺はキョドりまくりだ。
それがまた、彼女に心配をかける結果となったらしい。
「可哀そうに……。きっと将来が不安なのですね」
ん? いくらなんでも5歳のガキが『将来が不安』で悩んでいると、ふつう考えますかね?
このお姉さん、ちょっとズレてるのかな。天然?
などと考えているうちに、お姉さんは俺に肉薄し、屈みこんで――――むぎゅり。
「ッ!?」
「大丈夫ですよ。大丈夫、大丈夫……」
俺を抱き寄せ、たゆんたゆんの胸に顔を押してつけてくれてますけどなんのご褒美っ!?
最初こそ動揺しまくりだったが、極上の柔らかさに心穏やかになっていく。
ああ、幸せだ……。
このまま永遠に、おっぱいに顔を埋めていたい。
脳が蕩けるほどの夢見心地の中、お姉さんの声が反響して聞こえてくる。
「本来、神竜たるわたくしが人に恩恵を与えられるのは一度のみ。ですがあなたは転生したため、今は別人とも言えましょう」
くわんと頭が揺れる。俺は朦朧とし始めた。
「今度こそ、あなたが幸せな人生を送れますように。これは、わたくしからのささやかな贈り物です」
何、を、言って……るんだ……?
「そして、忘れてください。わたくしとの再会は、浮かんで消える泡のようなもの。では、よい夢を……」
だんだんと、俺の意識に靄がかかっていき――
………………………………
「――――はっ!?」
俺は目を覚ました。
あれ? なんで俺、道端で寝てたんだ?
むくりと体を起こし、記憶をまさぐった。でも――思い出せない。誰かに会ったような気がするけど、誰だかは覚えていなかった。
その夜。
今日はどのくらいスキルポイントが貯まったかなー、とステータスをチェックしてみたら。
SP:100,101
「おぉっ! ついに100を超えて…………ん? いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…………じゅうみゃあんいぇおわっ!?」
はあっ!? えっ? なんで? 10万? 一日で?
まったく意味がわからず、とりあえずその日は寝たが、次の朝から数日にかけて何度確認しても、10万の数値が減ることはなかった。
一週間後。
俺は教会に赴いた。
ド田舎の村にある教会はたいして立派ではないが、唯一の石造りの建物だ。兼業農家でもある神父さんは畑に出かけていて不在で、礼拝堂にはお婆さんがうとうとしているだけだった。
俺は主祭壇ではなく、端っこにちょこんと置かれた小さな祭壇へ歩み寄る。
ふつう、スキルを覚えたいときは神父さんにお願いする。
だけど不在がちな神父さんはこの祭壇に『スキル修得術式』を施していた。わりと有能な人である。
ここなら、一人で勝手にスキルが覚えられ、ランクアップもできるのだ。
祭壇に手をかざすと、半透明のガラス版みたいなのが浮かび上がった。ステータスを見るときと同じ感じだ。しかしステータスは自分にしか見えないのに対し、こちらは他人の目にも映る。
俺はきょろきょろと辺りを確認。お婆さん、まだ寝てる。他には誰もいない。
周囲の確認を終え、画面の項目に手を触れると、別の表示になった。操作を続けると。
――【アイテム強化】スキルを覚えますか?(必要SP:1,000)
こんな表示になった。『はい』を選択する。ぴろんと軽快な音が鳴り、俺はびっくりして振り向き、お婆さんをチェック。まだ寝てた。安心して目を戻すと、『完了しました』の文字が。
ステータスをチェックすると、俺のスキル欄に【アイテム強化】が追加されていた。ランクはもちろん、Eだ。
続けて同じ項目を選択する。今度はランクアップするかを問われた。もちろん『はい』を選ぶ。
それを、繰り返して。
ステータスをチェックすると。
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属性:火、風、水、土、聖、闇、混沌
HP:10/10(20)
MP: 3/ 3(10)
体力:E-
筋力:E-
知力:E-
魔力:E-
俊敏:E-
精神:E-
SP:26,605
【スキル】
アイテム強化:S
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俺は、5歳にして【アイテム強化】スキルがランクSになりました。
ついでにスキルポイントが万単位で残っています。
※ステータスの説明はおいおいやっていきます。今は気にしないでください。