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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第二章:順風なる職人ライフ
32/81

32◆ダンジョンデートも悪くない


 山の麓にぽっかりと巨大な穴が開いている。

 以前は何もないところだったのに、なんの前触れも山崩れなどもなく、突如としてこの大口が現れたのだ。

 

 ギルラム洞窟。

 

 入り口は縦十五メートル、横幅も二十メートルはある大穴だ。

 

 巨大ドラゴンに飲みこまれるような怖気を感じながら、入り口に足を踏み入れる。

 

 進むにつれ、高さも幅も狭まってきた。

 真っすぐのようで微妙にうねった道らしく、入り口の光はいつしか見えなくなる。しかし洞窟の壁面がほんのり発光しているので視界は良好だ。

 

 大きな魔物が身を隠す場所はないけど、小さな魔物なら、岩のでこぼこの陰から襲いかかってくる可能性もある。

 

「この辺は魔物は出ないよ?」とダルクさん。


「あ、そうなんですか?」


「でもま、『今までは』だからね。警戒はするに越したことはないんじゃん?」


 そうだよな。何が起こるかわからないのがダンジョンだ。

 びくびくおどおど緊張しっぱなしで進むこと数分。

 

 ぽっかり開けた場所に出た。

 

 これまで誰ともすれ違わなかったけど、ここには数組の冒険者パーティーがいた。

 休息を取る者や、地面に地図を広げて議論するパーティーもいる。

 

 が、俺たちに気づくと、こちらを指差してひそひそ話をし始める。やっぱり注目されてるなあ。

 

「あれ? これって……」


 周囲を観察していると、転移門らしきを発見。

 このダンジョン内に限定された専用の転移門だろう。

  

「第三と第五階層まではこれで行けるよー」


 ダンジョン内では、外と違ってそこかしこに転移門は構築できない。厳密には外も自由には置けないが、制限は緩い。

 一方、ダンジョンの中は魔素の流動が激しく、『溜まり場』のようなところが少ない。加えて魔素が濃すぎると魔物の発生と重なり危険だし、薄いと転移が安定しないため、場所がかなり限定されるのだ。

 転移門の設置は魔物が発生せず、寄り付きもしない安全地帯でなければならない。

 

 だから広いダンジョンでも、数階層に渡って転移門を作れないことがあった。

 

「攻略状況はどんな感じなんでしょう?」


地図化マッピングできてるのは第四階層までだったかな? 到達確認できてるのは、アタシが一昨日、十階層まで行ったのが最高かな?」


 この人、先行探査組だったのか。

 

 ダンジョンを攻略するにあたり、複数のパーティーが協力する場合、主に二つの役割に分かれる。

 

 先行探査組は、ひたすらダンジョンを突き進み、どのくらいの深さで、どの階層にどの程度の魔物が棲息しているかを大雑把に確かめる。

 未知の領域に事前情報なしで突っこむ、極めて危険な役割だ。

 

 先行探査組が持ち帰った情報を吟味し、一階層ずつ丁寧に調査を進めるのが地図化マッピング組だ。

 事前情報があるとはいえ、こっちも危険であることには変わりない。先行探査組が訪れていない場所へも入るので、中ボスクラスに遭遇、なんてこともよくあった。

 

「第一階層はつまんないんだよね。第五まで下りてみよっか?」


「話を聞く限り、第五階層って地図化作業の真っ最中ですよね? 邪魔にならないでしょうか?」


「だいじょぶだいじょぶー。それに、そっちのがぜったい面白いから♪」


 意味深に笑うダルクさんに一抹の不安を覚えつつ、転移門で第五階層に下りてみたところ。

 

 

 

 第一階層と同じく、ぽっかり開けた場所だった。

 上よりも広く、簡易テントがいくつも立てられている。

  

「おい四班、戻ってきたんならとっとと報告しやがれ!」

「11班出発するぞ。野郎ども、気合入れていけよ!」

「支給の『回復薬ポーション』が足りない!? ギルドへ連絡して!」

「南ルートの班が戻ってこないよ!」


 しゅ、修羅場ってる。どうやら、地図化組の拠点のようだ。

 多くの冒険者が忙しなく動き回り、怒号が飛び交っている。

 

 殺伐とした雰囲気の中を、腕を組んで歩くの居たたまれない。

 

 ダルクさんはときおり声をかけられていた。主に『手伝ってくれ』との懇願だったが、『デート中だから』と断り、俺は怨嗟の視線を受け続けてキリキリ胃が痛んだ。

 

 拠点の広場からは道が四つ伸びていて、そのうちのひとつに引きずりこまれた。

 狭かったり広かったりの道を小走りに進んで五分ほどすると、ん? なんか、洞窟の切れ目っぽいところがやけに明るく見えるぞ?

 

 何が待ち構えているのか、期待と不安がない交ぜになってたどり着いたところは――。

 

 

 

「海っ!?」




 白い砂浜の向こうに、青い海が広がっていた。潮の香りが生々しい。

 

「あれ? でもここ、洞窟の中だよな……」


 海の彼方はうっすら白みがかっていてよくわからないが、真上に顔を向ければ、百メートルほどの高さに洞窟の壁面がある。これまでより明るく発光しているようで、まるで真夏のリゾートビーチだ。

  

「ね、すごいっしょ?」


 にんまりしたダルクさんに、俺もつられてにへらと笑う(ただし兜で顔は見えない)。

 

 まあでも、実際すごいよな。

 

 ダンジョンは神様のいたずらなのか、たいていは異界化している。

 大して広そうにない塔がやたら広大だったり、地下空間に森があったりは珍しくない。

 

 けど、海ってのは四度目の人生を送っている俺も聞いたことがない。池や湖なら驚かないけど。

 

 ダルクさんが小走りに波打ち際まで駆けていく。

 俺はのんびりその後を追いながら、辺りを見回す。

 

 誰もいない。

 静かな海だ。プライベートビーチってこんな雰囲気なのかな?

 

 寄せては返す波を、追いかけたり追われたりして、はしゃぎまくりのダルクさんはおもむろに、

 

「脱ぎ始めたぞ!?」


 動揺しまくりの俺を横目に、ダルクさんはシャツとスカートを放り投げた。

 

「じゃーん♪ どう?」


 慌てて目を閉じようとしたものの、その姿に釘付けとなった。

 

 褐色の肌に映える白い布で、胸と股間だけ覆われている。いきなり下着姿になったのかと驚いたが、よく考えたらここは海。ビキニタイプの水着のようだ。

 

「あ、あの……素敵、です……」


「えへへー♪ すっごい見られてる気がするー」


 ふだん飄々としている彼女が、頬を赤らめての照れ笑いは反則だ。

 俺は潮風を浴びながら、ただただ神々しい彼女の姿を見つめていた。

 

「じゃ、泳ごっか」


「えっ。俺、この格好で、ですか?」


 全身鎧のままだと沈んでしまいます。

 辺りに誰もいないが、いつ来てもおかしくはない。正体を隠している関係上、姿を晒すわけにはいかなかった。

 

「ま、いいじゃんいいじゃん。とりまデートだし、楽しもうよ♪」


 ダルクさんに引っ張られ、波打ち際まで連れていかれる。水着からこぼれ落ちんばかりの大きな胸が、俺の腕に押しつけられた。今すぐ鎧を脱いでしまたい!


 足がつくところまで海に入り、きゃっきゃと遊ぶ。

 傍から見たら全身黒鎧の大男が水着美少女と水をかけあっているという、とてもシュールな光景だろう。

 

 気にしたら負け。

 恥を捨てれば案外楽しいものだ。というか、童心に帰ってなんだかめちゃくちゃ楽しい!

 

 ところで、俺はひとつだけ気になっていた。

 

「この辺って、魔物は出ますよね?」


 転移門のあった場所は安全地帯で魔物は発生しないし寄り付かない。

 でも、それ以外のところはいつ魔物に遭遇してもおかしくなかった。

 

 例えば、そう。

 

「でっかいカニがいる……」


 二十メートルほど離れた砂浜の上に、背|(甲羅)をこちらに向けた巨大ガニがいた。ハサミを除いてもダルクさんの身長を超えるほど。

 片側だけ大きなハサミを、俺たちを誘うように揺らしていた。

 甲羅には『(・∀・)』こんな感じの愛嬌のある模様があって、ちょっと近づいてみようかな?なんて思わずにはいられなかった。

 

 しかし、である。


===========

名称:ヒトマネキ

属性:水


HP:600/600(740)

MP: 90/ 90(140)

体力:C+

筋力:C-

知力:D

魔力:D+

俊敏:C

精神:C


【スキル】

 罠作成:D

 誘惑:E

 突進:D

 外殻強化:C

===========


 注目すべきは『罠作成』と『誘惑』のスキル。ランクは低いが、砂浜に穴を掘って隠し、人を魅了して誘き寄せて落とすという頭脳派な魔物だった。

 

 危険度はCってところか。

 素の俺なら全力ダッシュで逃げ出すところだが、『ベリアルの魔鎧』を装備している今なら十分戦える。

 

 せっかくのデートを邪魔しようとする不届き者は成敗するに限る。

 ついでにドロップアイテムももらってしまおう。

 

 しかし、迂闊には近づけない。

 

 奴は自分の周りに落とし穴を張り巡らせているから、殴りかかったところでずぼっと落ちてしまうのだ。

 

「どうするー? 手伝おっか?」


 ダルクさんなら飛びかかって瞬殺だろうな。

 でも今は仮にもデート中。女の子の手を煩わせてはならないと、俺の中の紳士的心が告げている。


「いえ、大丈夫です。任せてください」


 俺はゆっくりと剣を抜いた。

 すぐさま【火】属性を重ねて強化する。『鋼の剣』は『煉獄の鋼剣』に進化し、特殊効果『火炎一閃』が付与された。

 

 『火炎一閃』は炎の帯を撃ち放つ特殊効果だ。これで奴に近づかずに攻撃できる。奴の属性は【水】で、相克する【火】に弱い。

 

 ふっふっふ、覚悟しろ。

 初デートで女の子にいいところを見せたい素人童貞の心意気を見せてやる!

 

「来るよ!」


「ん?」


 俺が『火炎一閃』を撃ち放とうとしたその瞬間、巨大ガニがノーモーションで飛びかかってきた!?

 

 奴はスキル『突進』を使ったらしい。

 砂浜すれすれを滑空し、自身が掘った落とし穴をも飛び越えて、俺へ肉薄した。

 

「ぬお!」

 ガッキーン!

 

 カウンターで剣を打ちつけたが、相手の突進を止めるのが精いっぱい。俺は砂に足を取られ、仰向けに転がった。

 カニさんはさすがにホームグラウンドで戦っているだけはあり、体勢を崩すことなく大バサミを振りかぶる。

 俺は跳ねるように起き上がると、撃ち下ろされた大バサミを剣で弾いた。

 

 あとはもう、殴って殴られての泥仕合だ。

 

 痛いとか言ってる余裕もないのでひたすら剣を振り回していたら。

 

「はあ、はあ、はあ……、勝った……」

 

 ようやく相手のHPが0になり、巨大ガニはハサミを下ろして沈黙した。

 『外殻強化』でかなり硬くなっていたから時間がかかったなあ。鎧のHPが半分持っていかれたぞ。

 

「おー、やったね♪ お疲れちゃん♪」


 ぱちぱちと称賛の拍手をもらったものの、あまりカッコいい勝ち方ではなかったなあと恥じ入る俺。

 

 と、カニからぽわわんと音が鳴り、その体躯が虹色に光った。

 巨躯が消え、大バサミだけがその場に残る。

 

============

名称:誘惑カニハンド

属性:水

S1:◇◇◇◇◇

S2:◇◇◇◇◇

S3:◇◇◇◇◇

S4:◇◇◇◇◇


HP:350/350

性能:C-

強度:C

魔効:C+


【特殊】

 誘惑

============


 振ると対象を誘き寄せる効果を持つ、虹色ドロップアイテムを手に入れました。

 でもこのアイテム、かさばるなあ。抱えるほどの大きさなんだけど……。

 

 


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