03◆ドラゴントーク(幕間)
この世の狭間で、巨大竜が相対す。
一方は白銀の、もう一方は灰色のドラゴンだ。
そこへ、漆黒のドラゴンも現れた。
『やーゴメンゴメン。待ったー?』
『いや、我らも先ほど着いたところだ』
『半年くらいでしょうか?』
ドラゴンは気の遠くなるほどの長命であるため、うたた寝で数年の感覚なのだ。
三匹の巨竜は顔を突き合わせ、久々の再会を喜ぶ。
『セイントちゃん、ちょっち痩せた?』
『そう見えますか? えへへ♪』
『ダーク・ドラゴンはまた日焼けしたようだが?』
『わかる? 最近は南の海で暮らしててさー』
わいわいキャッキャと女子トークを繰り広げる。
が、やがて、集合をかけたカオス・ドラゴンが本題を切り出した。
『時に、お主らに尋ねたいことがある』
小首(と呼ぶには大きく長い首)をかしげる他の二竜。
『お主ら、人間をひき殺して転生させたことはないか?』
『わたくし、80年ほど前に一度……。魂に【聖】属性を授けました』
『アタシは40年くらい前かなー? 前をよく見てなかったんだよねー。ちな【闇】属性をあげたよ?』
『我もつい最近、同じことがあってな。【混沌】属性を刻んでやった』
三竜は黙する。
『同じ人……なのですか?』とセイント・ドラゴン。
カオス・ドラゴンが首肯する。
『マジで……?』
再びの首肯。
『そのような偶然があるのでしょうか?』
『いやいや、どんだけ運が悪いのよ』
『我も呪いの類を疑ったが、どうもそうではないらしい。気になって転生後の彼奴の魂を覗いてみたのだが、それ以前に問題があってな』
ん?と二竜はまた首をかしげる。
『魂レベルで低スペックが約束されていた。しかも成長性まで著しく低い』
ゆえに、まるで大成しないまま三度の人生を棒に振った、と付け加える。
『そんな……』
『あちゃー……』
二竜は、属性を与えただけで十分と考えた浅慮を恥じた。
カオス・ドラゴンも同様だ。
『我らには、彼奴の生を奪った責がある。しかも不遇の人生を追加で二回も強いてしまった』
『まだ今回もそうだと決まったわけではありませんよ』
『かもしれん。が、逆に7つの属性を得た彼奴が慢心し、早期に死地へ飛びこむ可能性が高まるとも考えられる』
『たしかに……』
『あるかもねー』
セイント・ドラゴンが決意を瞳に宿して言う。
『仮にも神に連なるわたくしたちが、そのような不始末を放置してはおけません』
『だよねー。でもどうするの? アタシらが人に与えられる恩恵って、一個人に一回だけだよ?』
『厳密には、〝一度の人生で〟ですね。魂を同じくしても、転生した後なら別の人生と考えてよいでしょう。ですから、もう一度だけ与えられるのではないでしょうか?』
『そっか。ならアタシ、なにをあげよっかなー?』
聖と闇の二竜が話すのを、混沌の竜は寂しげに眺めていた。
『そいや、カオスちゃんは今回の人生で恩恵与えちゃったから、もう無理め?』
『……』
『仕方ありませんね。ですが【混沌】属性は本来、人の身には宿らぬもの。すでに破格の恩恵を与えていますから、それでよいのではありませんか?』
『……』
『とりまセイントちゃん、アタシらはどうする? なにあげる?』
『そうですねえ……。これからゆっくり考えます』
『あれ? すぐあげに行かないの?』
『今はまだ生まれて間もないですから、もうすこし大きくなってからがよいのでは?』
『あー、そだね。んじゃ、アタシもそれまでに考えとくかー。あ、でもさ、この姿だとびっくりしちゃわない?』
『そうですね。人に姿を変えなければならないでしょうか』
『あれやるとしばらく元に戻れないんだよねー。力も制限されちゃうし』
『でもわたくし、久しぶりに人の街で暮らしてみたいです』
『だね。わりと楽しかったりするし』
二竜が楽しげに話す様を、カオス・ドラゴンは半眼で眺めている。
(我だけ仲間外れ……)
ちょっとどころではなく、悔しい。
(しかし、『人生で一度きり』の掟を破るには……うーむ……)
カオス・ドラゴンはこれより十数年間、この場で悩み続けるのだった――。