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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第二章:順風なる職人ライフ
27/81

27◆ギリカと俺の可能性

新章開始です。


 アイテム強化職人の朝は、それほど早くない。

 朝っぱらから飛びこみのお客さんなんて来ないから、のんびりできる。そもそもお客さんが来たことないけど……。

 

 とはいえ、同居人は早起きだし、朝食は一緒に取りたいとの思いがあるので、俺は微睡みから徐々に覚醒していった。

 

 むにゅりと、柔らかな感触。

 何かに抱き、抱きつかれている格好らしい。

 

 またリィルがベッドに潜りこんできたのかとも思ったが、なんかサイズがでかい。抱き心地もそうだが、俺の顔に押しつけられているであろう物体も、大きく、柔らかかった。

 

「ってぇ!?」


 飛び起きて眼下を見やれば、

 

「ぅ、ん……? おお、目覚めたか」


 そこには、言いながらも眠そうに目を閉じるクオリスさんが。

 薄手の肌着一枚姿で、着崩れて谷間どころか先端が見えそうになってますがっ!?

 

「ななななんでクオリスさんが!?」


「ん~? 昨夜は遅くまで飲んでいたからなあ。泊まらせてもらったのだ」


 徒歩数秒のお隣に住むクオリスさんは、むにゃむにゃと二度寝モードに入ろうとする。

 

 昨日は、俺の秘密を彼女らに告白し、あらためて冒険者で成り上がる決意をした。

 

 それで盛り上がり、けっこう遅くまで騒いでいたんだよな。

 俺とリィルは酔っ払いの相手に疲れたので先に寝てしまったのだけど……。

 

 バンッ、と扉が開かれた。

 

「クオリスさんっ! 何をしているんですかっ!?」


 普段の落ち着いた雰囲気はどこえやら、セイラさんがものすごい剣幕で現れた。

 その後ろからひょっこり顔を出したのはリィルだ。

 

「お兄ちゃん、朝だよ~♪」


 こっちは異常事態にもニコニコと明るい。てとてと寄ってきて、「朝ご飯できてるよ~」と俺の手を引っ張る。

 顔を真っ赤にしたセイラさんはクオリスさんに突っかかっていた。

 

「男性の部屋にあられもない姿で侵入するなんて不謹慎ですっ」

「これでも自重しているのだぞ? いつもは裸で寝ているからな」

「今だって変わりませんよっ」

「かなり変わると思うぞ……?」


 言い争う二人を横目に、俺はそそくさと身支度を整え、リィルと一緒に二階へと下りた。

 

 ダイニングに入ると、ダルクさんが席についていた。

 

「おっはよ~♪ なんだか楽しそうな声が聞こえてきたねー」


 にししと悪戯っぽく笑う。

 この人も泊ったらしく、セイラさんと一緒に寝たとのこと。

 

 げんなり疲れた様子のセイラさんが来て、遅れてクオリスさんがやってくる。

 五人がそろい、わいわいと楽しく朝食をいただいた。

 リィルとセイラさんが作ったご飯は美味しい。リィルもそうだけど、セイラさんも家事スキルが高いんだよなあ。実際には専用スキルを持ってないのに。

 

 

 朝食が終わると、

 

「行ってーきまーすっ」


 リィルはすぐさま家を飛び出した。冒険者を育成する学校へ入学するため、予備校に通っているからだ。

 

 残った俺たちはのんびりゆっくり、セイラさんが淹れてくれたお茶を楽しむ。

 

「そいやアリトくん。キミ、これからどうすんの?」とダルクさんがカップを片手に言う。


「どう、とは?」


「冒険者になりたくて、そのためにアイテム強化で最強の武具を作るんでしょ? でも、それって相応の武具が必要なわけじゃん?」


 俺は『銅の剣』を魔剣に進化させた。しかし元が低ランクの武器だから、魔剣の名を持っても危険度Bの魔物を倒すのがやっとだった。

 より高ランクの武器や防具に進化させるには、そこそこ以上のランクの武具でなければならない。

 

 そして、そこそこ以上の武具は、そこそこよりもずっとお高いのだっ。

 

「まずは地道に資金を貯めようと思います」


 だがな、とクオリスさんが割りこむ。

 

「既製品を仕入れ、強化して売り捌いても利益は高が知れておる」


「それにキミ、素のステータスも上げなきゃだよ? いくら最強の武具をそろえても、今のままじゃ使いこなせないよ」


「その意味では、戦闘系のスキルも覚えたほうがよいですよね?」とはセイラさん。


「となれば、スキルポイントも稼がねばなるまいな」


 三人とも、真剣に俺のことを考えてくれている。

 ちょっとじーんときた。

 

「俺もその辺りは考えています。だからダンジョンとかで素材集めをして、それを強化して売ろうかなって」


 魔物を倒してドロップアイテムを手に入れれば、元手はほとんどかからない。

 成長性が低くても、ランク差がある魔物を倒せばステータスも上がっていくだろう。同時にスキルポイントも貯まる。

 

 そう伝えると、三人は満足そうにうなずいた。

 

「すごいねー。ちゃんと考えてたんだ」

「うむ。さすがであるな」

「わたくし、できる限りお手伝いしますねっ」


 またもジーンと感激する俺。

 四度目の人生にして、これほどいい人たちに巡り合えたのが一番の幸運だと思う。

 

 と、ズボンのポケットがぶるぶる震えた。

 中に入れていた『ギリーカード』――通称『ギリカ』が着信のお知らせをしたのだ。

 

 俺は『ギリカ』を取り出す。銅色をしていた。

 

 ピピっと操作すると、ウィンドウに文字が表示される。

 

『課題の紙を忘れちゃった><』


 リィルからのメッセージだった。

 

 俺は『ギリカ』を強化し、『通話』機能を実現した。遠方の相手とリアルタイムで会話できる機能だ。

 元の『ギリカ』はシルバーで、カードの色を変えるためにスロットがひとつ【聖】で埋まっていたのだが、それを解除し、二つ目の【混沌】で強化したらもっと面白いものができたのだ。

 

===============

名称:ギリーカード(銅)

属性:―

S1:◆◆◆◆◆(混沌)[locked]

S2:◆◆◆◆◆(火)[locked]

S3:◆◆◆◆◆(風)[locked]

S4:◆◆◆◆◆(混沌)[locked]


HP:80/80

性能:C+

強度:D+

魔効:B+


【特殊】

 本人認証

 相互通信ユニキャスト

 コアシステム通信・同期

 通話

 フレンド登録

 メッセージ

===============

 

 最後にある『メッセージ』機能だ。

 文字情報のみをやり取りできる。『通話』だと周りの目が気になっていたのだけど、これなら『ギリカ』をいじくっているようにしか見えないし、ちょっとした連絡にも便利なのだ。

 ちなみに『フレンド登録』は銀の『ギリカ』にもあった機能で、同じ機能を持つ他の『ギリカ』と重ね合わせれば、そのカード情報を登録でき、『通話』と『メッセージ』が行えるようになる。

 

 続くメッセージには、リィルの机の上に置いてあるから、お昼休みの時間に持ってきてほしいとのお願いが記されていた。

 

 俺は席を立ち、リィルの部屋へ。

 いつの間に集めたのか奇怪なぬいぐるみがいくつも配された机の上に、紙っぺらが一枚置いてあった。


 ふむふむ。

 冒険に必要なアイテムに関する問題があり、調べて答える感じみたいだな。最近クオリスさんのところに出入りしていたのはこのためか。

 もっとお兄ちゃんを頼ってもいいのよっ!?

 

 さて、俺は課題の用紙を手にダイニングへ戻った。急ぎではないようだが、忘れたらマズいから目の届くところに置いておこう。

 

 と、三人が俺をじっと見ていた。

 

「ねえ、今のなに?」

「そなたが取り出した『ギリカ』は、どこか妙ではなかったか?」

「わたくしも前から気になっていたのですが、ときどき『ギリカ』で何かしていますよね?」


 そういえば、まだセイラさんにも話してなかったな。

 俺は『ギリカ』を強化して新機能を生み出した話をする。

 

「なにそれすごいっ!」

「見事であるなあ」

「なんという……」


 三者三様に驚いている。

 

「つーか、それってめっちゃ便利じゃね?」

「売り出してみてはどうだ?」

「バカ売れですよね?」


「そう、ですかね?」


 ダルクさんが言う。

 

「でもそれだと、アリトくんの特殊能力がバレちゃうのか」

「なに、やりようはある」

「どうするんですか?」


 なにやらゴニョゴニョ話し始めるお三方。

 俺には結論を語ることなく、「そちらの件はいずれまた」と話を切ってから、クオリスさんがしみじみ言う。

 

「そなた、新たなアイテムを創造する可能性に満ちておるな。そこらのアイテムでもっと試してもよいのではないか?」


 なるほど。

 今までにないアイテムなら、独占販売できるもんな。

 とりあえずいろんなものに【混沌】をぶちこんでみよう。

 

「ねえ、それアタシにも作ってよ」とダルクさん。

「我も、我にもそれを作ってくれっ」

「わ、わたくしもっ」


 三人が自分たちの『ギリカ』を取り出す。全員『ブラックギリカ』だ。この人たちはどんだけ……。

 

「でもこれ、スロットを全部使うので、ブラックカードじゃなくなりますよ?」


 俺はシルバーを持っているのだけど、この通信用はそれとは別に新しく作ったものだ。銀行員のサマンサさんには不思議がられたけど、複数枚持っている人は珍しくないので追及はされなかった。

 

「ちょっち待ってて」

「しばし待て」

「ここにいてくださいね!」


 叫び、三人は飛び出して行った。

 

 


 ぽつんと残った俺は、後片付けをしてから一階に下りた。入り口の札を『営業中』にして、カウンターの内側に座る。

 

 ガラス瓶を取り出した。『回復薬ポーション』だ。

 クオリスさんの言葉を受け、新アイテムが作れないかといろいろ試してみる。

 

 ふむ。ちょっと楽しげなものができあがったぞ。

 

 戻ってきた三人は新しい銅の『ギリカ』を手にしていた。それを強化し、フレンド登録を済ませると、三人はホクホク顔でさっそく『通話』や『メッセージ』を使っていた。

 目の前にいるのに新『ギリカ』を通して会話しているのは微笑ましい。

 

 

 そうしてこうして。

 

 

 やがてお昼になり、俺はリィルへ届け物をするため、店を出た。

 腰の『異次元ポーチ』に、『回復薬』を強化した新アイテムを押しこんで――。

 




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