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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
26/81

26◆あらためての決意

 

 薄闇の中、まどろむ思考に鈍い音がこだまする。

 いつの間にか意識が戻り、まぶたが開いていたと、女は感じた。

 

 大剣を振り回す少女が、次々に魔物を消し飛ばしている様が目に飛びこむ。

 その、すぐ後ろ。

 

 女は恐怖でカタカタと歯を鳴らした。

 

 どす黒い鎧が、中型剣を手に佇んでいたからだ。

 

 自分たちは、アレに取り込まれた。黒い霧に襲われる中、あのどす黒い鎧をはっきりと目にしていた。

 だから再び恐怖に身を竦めたのだ。

 

「大丈夫ですよ」


 柔らかな声が降ってくる。目だけ動かすと、覆いかぶさるように美しい少女がこちらの顔を覗きこんでいた。

 

「彼は、貴女がたを襲った魔物ではありません。その魔物を倒し、鎧を手に入れたのです」


 信じられなかった。

 Aランク冒険者である自分たちが、三人がかりで手も足も出なかった魔物。

 パーティーメンバーの一人を逃がすのがやっとだった相手。

 

 となれば彼は、Sランクに相当する冒険者なのだろうか?

 

 鈍い音は鳴りやまない。

 大剣を振るう少女に対し、漆黒の鎧は彼女を見守る位置で動かなかった。ときおり少女の脇を抜けてきたゴースト系の魔物を、淡々と手にした中型剣で払い落しているだけ。

 

(ああ、でも……)


 女は静かに目を閉じる。

 ゆっくりと意識を沈めていき。

 

(自分は、解放されたのか……)


 いつ終わるとも知れない苦しみから。

 これで安らかに死ぬことができると安堵した彼女だったが、実際には生きて再び目を覚ますことになる。

 

 彼女たちを救ったのは、大剣の少女ダルク、聖職者セイラ、そして。

 

 

 正体不明の、黒い騎士と後に聞かされた――。

 

 

 

 

~~~





 『膨張の呪い』で死にかけていた冒険者三人。彼らを救ったのは、ダルクさんであり、セイラさんだ。

 たぶん、俺が行かなくても彼らは助かっていて、俺はたまたまその場に現れ、『彷徨う魔鎧』なる魔物を倒したにすぎない。

 

 当然、恩に着せるつもりはない。

 情けなくも途中退場したのだけど、もし彼らが目を覚ます瞬間までその場にいたとしても、彼らにあいさつする気はなかった。

 ダルクさんやセイラさんが俺の名を彼らに伝え、仮にお礼に現れたら、『いえいえお気になさらずに』でお終いな話だ。

 

 ところが、である。

 

 古砦の一件から十日ばかり経つと、街では『正体不明の黒騎士』の噂が飛び交っているではないか。

 

 当初こそ『そんなすごい人がいるのかー』とのんびり構えていた俺だったが、断片的な情報が寄り集まり、たしかな形を成してくると、『あれ? それって俺のことじゃね?』と考えるに至ったわけだ。

 

 たしかに俺はそのとき冒険者たちには名乗らなかったし、その後も『ベリアルの魔鎧』を手に入れて気をよくしていたので、報奨金目当てに名乗り出ることもしなかった。(そもそも冒険者登録をしていない俺は報奨金を受け取る権利がないのだけど)

 

 さて、この状況をより把握するにあたり、おそらく噂の出どころであろうセイラさんに尋ねたかったのだが、彼女はダルクさんとしばらく新ダンジョンの探索に出かけていたので不在だった。

 

 ついで、というのは変だけど、そろそろ俺の能力について、同居人には伝えておきたい。

 

 すでにリィルには転生したこと(俺の中身がおっさんであること)以外は伝えてあって、『なんだかよくわからないけどアリトお兄ちゃんはすごいねっ!』とのお言葉をいただいているわけだが、それはそれとしてセイラさんは信用できる人だからね。

 

 

 で、本日夜、無事ご帰還なされたので、ちょっと豪華な夕食を(ほぼほぼリィルが)用意して待ち構えていたところ。

 

「やっほー♪ お邪魔すっるよー♪」


「ふむ。なかなか食欲を誘う料理であるな」


「なんで貴女がたまでっ!?」


 ダルクさんとクオリスさんもやってきたぞ?

 まあ、セイラさんの冒険パートナーだし、お隣さんだし、賑やかなのはいいことだ。

 

 ただ、話がしづらい感じだな。

 

 しかも俺の能力の話は、ダルクさんとクオリスさんにしてよいものか迷う。クオリスさんはいろいろ気づいてそうな雰囲気だけど、どうしよう?

 

「わわっ、お料理足りるかな?」とリィルは困惑。


「これだけあれば十分である。我らはコレもあるしの」


 クオリスさんが酒樽を掲げてみせる。瓶ではなく、樽。どんだけ飲むつもりだ?

 

「言っときますけど、俺とリィルは飲みませんよ?」


 俺は三度の人生を経験した中身おっさんではあるが、今は未成年。それに、もともとお酒は好きじゃない。

 しかも前前世では周りの期待に反してぱっとしない現状を憂い、酒に逃げた時期があり、ちょっとしたトラウマになっているのだ。(前世はストイックすぎて一滴も飲まず、逆に心を病みかけたが)


「なに、強要はせぬ。それよりこの安酒を上等なものにしてもらいたいが、どうか?」


 強化して美味くしろってことかな? 前にエールを強化したことがあるけど、あまり強くし過ぎると酔いが加速するので、俺はちょろっとだけ【火】で強化する。

 

 

 そんなこんなで、ホームパーティー的なものが始まったわけだが。

 

「ん~っ。美味しい~♪ リィルっち、料理上手だねー」

「えへへ♪ ダルクお姉ちゃん、たくさん食べてね♪」

「やーうれしーっ! ギュッてしちゃうっ」

「わ、ちょ、くすぐったいよぉ」


 このギャル、ノリノリである。

 もともと軽い感じだけど、お酒が入ってあられもない方向に進んでやしないだろうか? 褐色肌でわかりにくいが、顔も赤いぞ。

 

「ていうか、ダルクさんって俺と歳はそんな変わらないですよね? お酒なんて飲んでいいんですか?」


「えー? アタシはもう立派に自立してるし? いいじゃんいいじゃん?」


 ダルクさんはリィルに頬ずりしながらそうおっしゃる。

 そして俺の傍らからはぼそりとした声が。

 

「わたくしだって、まだまだ若いです……」


 ぐびーっと杯を空ける聖職者。セイラさんの真っ白な肌は、ピンクに染まっていた。

 

 うーん、このままでは真面目な話ができなくなってしまわないだろうか?

 危惧した俺は、ひとまず『正体不明の黒い騎士』がどうしてこうなったのか尋ねることにした。

  

「セイラさんにお聞きしたいことがあるんですけど」


「なんれすか~?」


 ろれつが回ってないっ!? めげずに質問する俺。

 

「街で噂になってる、正体不明の黒い騎士ってなんなんですか?」


 ほへ?とまぶたを半分下ろしたセイラさんがこちらを向く。

 

「あ~、あれれすか~。わらくひは~、魔物を倒しのは、アリトさんれすっ、てぇ、伝えようとしたんれすけろ~」


 どうやらダルクさんが『誰だかはわからない』と聞かれるたびに答えたとのこと。

 お酒に飲まれている感じのセイラさんからダルクさんへ交代する。

 

「ぶっちゃけ、キミだってバレたら面倒になるんじゃん?って思ったの。だってほら、キミって冒険者登録してないじゃん?」


 たしかに冒険者に登録していない者が、依頼をこなす行為は忌避されている。

 でも禁止されているわけじゃなかった。

 

 旅の途中で依頼対象の魔物に襲われることもあるし、偶然迷いこんだ場所が探索対象のダンジョンだったり、とかね。

 

 とはいえ、冒険者への依頼は命にかかわるものが多いので、実力と覚悟を持った者でなければ向かわせられないという事情がある。

 

 今回の場合はわりとグレーな感じなのだけど、後付けて冒険者登録をして、という方法がないわけではなかった。

 

 ところが。

 

「知らないの? 冒険者が依頼をこなしたら、ギルドへ詳細の報告義務があるんだよ?」


 ダルクさんの話によれば、報告には相手をした魔物の種類、数、その場所、ドロップ品はもちろん、どうやって倒したかも含まれるそうな。

 前世がどうこうというより、この街のルールらしい。知らなかった。てか面倒だな。みんな文句を言わないのかな?


「あれ? でもそうなると、ダルクさんたちは詳細な報告をしていないってことになりません?」


「まあねー。キミ、知られたくないことがあるっぽいし?」


「でも、それじゃあダルクさんたちが依頼の報奨金を受け取れなかったんじゃ?」


「もらったよ?」


「あ、そうなんですか……よかった」


「つっても、審査が長引いたけどねー。で、今日もらってきたんだけどぉ」


 ダルクさんはほろ酔い顔で腰のポーチに手を突っこみ、ドカン、と。

 重そうな革袋をテーブルに置いた。

 

「これ、キミの取り分ね。700万ギール」


「現ナマ!?」


「支払いは『ギリカ』だったけど、さっき銀行から下ろしてきた」


「なんでまたっ!?」


「数字のやり取りだけじゃ、味気ないじゃん? それに、ギリカでのやり取りは履歴が残るから、後々のことを考えれば、ね」


 ぱちんとウィンクする様にちょっとドキドキする俺。

 同時に、気をつかわせてしまったことが申し訳なく。

 

 そうだな。

 ダルクさんは信用のおける人だ。セイラさんがパートナーに選ぶだけはある。

 クオリスさんだって、見ず知らずの俺にいろいろ世話を焼いてくれて、そもそも全部気づいてるっぽい。

 

 俺は三人をぐるりと見回して、告げる。

 

「あの、実はみなさんにお話があります」


 わいわいしてたみんなが、ぴたりと動きを止める。注目を浴びて緊張がMAXになりつつも、俺はたどたどしく、自身の能力について話し始めた。

 

 全属性を持つこと。

 【アイテム強化】スキルがランクSであること。

 固有スキル【解析】を持っていること。

 聞いたこともない【強化図鑑】のこと。

 

 俺が話し終えると、少しの間を挟み。

 

「へ、へえー、そーなんだー、すっごーい」

「な、なるほどー、いろいろ疑問がつながりましたねー」


 二人、めっちゃ棒読みじゃありません?

 クオリスさんに至っては『我、知ってたし?』みたいな顔してるしっ。


「そも、秘密にすることであるのか? 自ら喧伝すれば依頼は殺到、商売は大繁盛ではないか」


「そんなどころじゃない騒ぎになりますよ。それに――」


 俺には夢がある。

 アイテム強化職人は、あくまで通過点。そこで騒ぎになって、誰かに俺の将来をあれこれ干渉されるのは、前世や前前世でこりごりなのだ。

 

 だから、きっぱりはっきり宣言する。

 

 

「俺、冒険者になりたいんです。いつか冒険者として成り上がりたいんですっ」


 

 渾身の告白に、

 

「すごいよ、お兄ちゃんっ!」


 目を輝かせたのは、あれ? リィル一人だけ?

 

 セイラさん、ダルクさん、クオリスさんの三人は、ぴしっとしばらく固まったのち。

 

「「「え゛っ!?」」」


 なんか予想外の驚き方をしていらっしゃるぞ?

 

「ちょっと待ってください、アリトさん。それでは、どうして【アイテム強化】スキルをSまで上げたのですか?」


「俺、素のステータスがめちゃくちゃ低くて、成長性もたぶんダメダメだから、自分に合った最強の装備を作ろうかなって」


 あんぐりするお三方。

 それぞれ目配せしたかと思うと、部屋の隅に集結した。なんだ?

 こそこそ何やら話している。


「聞いてないんだけどっ!? てかアタシ、ちゃんと『アイテム強化職人になりたい』って聞いたんだけどっ!」

「我とて予想外だ。あ、いや、何か変であるな、とは感じていたが……」

「でも、方針としては問題なくないですか?」


 漏れ聞こえる声はだんだん小さくなって、よく聞き取れない。

 

 やがて、話はまとまったようで、三人は立ち上がると。

 

「すごいですね、アリトさん」

「だねー。自分の実力をちゃんと理解したうえで」

「確たる将来設計をしておるのだからな」


 うんうんうん、と俺を褒めつつ納得した顔をしてから、

 

「わたくし、応援しますねっ」

「戦闘技術は教えてあげるよー」

「なんでも訊くがよい」


 とても力強い励ましまでいただけた。

 

「リィル、お兄ちゃんとパーティー組むぅーっ!」


 そんな未来を楽しみにしつつ。

 

「よしっ。俺、がんばるよっ!」


 いずれ冒険者で大成するために、俺はあらためて決意するのだった――。

 

 

 

 

 

 でもね、現実というものは、何が起きるかわからないのですよ。

 そう、ドラゴンに轢かれたりとか。

 

 職人ライフが、やたらと順風満帆に進んでやめられなくなったり、とか……?

 


章立てしてみました。一章はここで終了。次章からオモシロ強化を推し進めてまいります。


また、ここにて発表させていただきますと――。



本作が書籍化することになりました!



ひとえに読者の皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございますっ!

詳細についてはおいおい活動報告などでお知らせしますので、もう少々お待ちください。


引き続きご贔屓にしていただければ幸いです。

面白いと感じられましたら、ブクマ・評価していただけると嬉しいです。

よろしくお願いしますm(_ _)m

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ひょうし
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