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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
24/81

24◆魔神の残滓


 森の中にたたずむ古砦。

 内部には黒い霧が充満し、数メートル先も見えないありさまだ。

 

 砦の中心。

 大広間も例外ではなく、いっそう濃い霧が立ちこめていた。

 

 しかしその中に、半球状に切り取られたかのような、霧の入りこめない安全地帯があった。

 

 錫杖を床に突き立て、目を閉じて集中しているのはセイラ。三神竜の一翼にして、聖を司るセイント・ドラゴンの化身が展開する『聖域』によるものだ。

 

 彼女の足元には、二人の男と一人の女が横たわっている。みな衣服は身に着けておらず、女にはセイラがマントを、男たちにはスカートを破って被せているため、セイラは太ももが露わになっていた。

 

 三人の男女は今でこそ人の姿を保っているが、先ほどまでは巨大な肉の塊だった。

 『膨張の呪い』を受け、この場で生気を徐々に吸い取られていたのだ。

 おそらくは前回、この古砦を調査に訪れた冒険者たち。

 姿は戻ったものの、瀕死であることに変わりはない。あと数時間でも遅れていたら、その生は潰えていただろう。

 

 キィン、と。

 半球状の安全地帯の外で甲高い音が鳴った。黒霧の隙間で火花が散り、続けざま霧を押し破って一人の少女が安全地帯の側に飛んできた。

 

 褐色の肌をした少女。その手には身の丈ほどもある大剣が握られている。

 ふっと息をつき、大剣を握り直すと、正面を睨み据えて叫んだ。

 

「あーもーっ! おーなーかーすーいーたーっ!」


 セイラが目を閉じたまま声をかけた。

 

「ダルクさん、もうすこしの辛抱です」

 

「つってもさー。その子らって死にかけよりヤバい状態だったっしょ? いくらセイラちゃんでも、蘇生レベルの処置にはまだ時間がかかるんじゃね?」


「ぅ、すみません……。『聖域』の維持と並行ですから、どうしても集中できなくて……」


「あー、ゴメン。文句言ったわけじゃないからさ。てか、余裕ぶっこいてほとんど準備してこなかったアタシが一番悪いんだしね」


 調査なんてすぐに終わると高を括っていた。

 しかし到着したら要救助者が三人もいて、しかもこの黒霧を操る敵対者は――。

 

 黒い霧が割れる。

 飛び出してきたのは、漆黒の鎧だった。武器や盾は持っておらず、ダルクに殴りかかってくる。

 

「ったく、なんだってこんなとこにいるかなー?」


 ダルクは大剣でこぶしを受けると、押し返しながら言葉を吐き出した。

 


「魔神、なんてのがさっ!」

 

 

 漆黒の鎧が弾き飛ばされる。

 ダルクはそのまま後を追いかけ、大剣を振り回して横っ腹に叩きつけると。

 

 ガシャンッ!と大きな音を立て、黒い鎧がバラバラになった。

 中には、誰もいない。


「って、本物の魔神だったら、さすがにヤバいよね」


 あの鎧は、おそらく魔神の誰かが使用していたものだろう。使用者の影響を受け、長い時間をかけて『魔素』が蓄積し、自律行動するようになったのだ。

 

 いわば魔神の残滓。

 自然発生する魔物とは出生の異なる魔物だ。

 だから魔神そのものを相手にするよりはよっぽど楽ではある。

 しかし、それはそれで鬱陶しい。

 

 バラバラになった鎧が寄り集まり、瞬時に元の鎧へと戻った。この広間に入って何時間経ったのか、この繰り返しである。


「あー、マジうざい……」


 魔神の鎧は【闇】属性。ダルクも同じであるため、決定打が与えられない。全力を出せば可能ではあるが、無理に破壊しようとすれば、古砦ごと壊しかねなかった。

 

 相克する【聖】属性なら簡単に片付きそうなものだが、セイラは冒険者たちの治療に専念せざるを得ない。彼らを動かせないため、逃げるわけにもいかなかった。

 

 ダルクもセイラも神竜の化身。

 食事を取らずとも死にはしないが、人の姿になる以上、身体機能も似せなければ怪しまれる。

 そのため、食べなければお腹が空いてしまうのだ。

 

 くぅ……。

 

 腹の虫も元気が出ないのか、小さく鳴いた。

 早く街に戻って温かい食事にありつきたい。そうダルクが辟易と肩を落としたときだ。

 

 どかんっ、と大広間の扉が蹴破られた。

 

 鈍色の全身鎧に身を包んだ誰かが、見知った女性を抱っこして突入してきたのだ。

 

 呆気にとられるダルクとセイラの耳に、

 

「うぉっ!? こっちにも(・・・・・)ヤバそうなのがいるっ!」


 なんとも不穏な叫びが届いたところで、すこしだけ時間をさかのぼる――。

 

 

 

~~~




 全身鎧を着こんで、意気揚々と店を飛び出した俺。

 クオリスさんと合流し、いざ呪いの古砦へ! と意気込んだものの。

 

「あの、何をのんびりしてるんでしょうか?」


 クオリスさんはお店からほど近い商店街に入り、屋台やらを物色し始めた。

 今は大きな肉まんを頬張っている。

 

いくさ場へ向かうのだから、腹が減ってはなんとやら、だ。そら、そなたも食すがよい」

「もごっ」


 食べかけの肉まんを口に突っこまれる俺。

 腹ごしらえはたしかに大切だけど、移動しながらでもできるし、北門付近に着いてからでもいいと思うんだけどなあ……。

 あ、でもこれ美味しい。今度リィルにも教えてやろう。

 

 などと考えているうちに、クオリスさんはようやく移動を開始した。

 ところが、である。

 

「忘れものですか?」


 なんと自分のお店に戻ってきたではないかっ。

 クオリスさんは俺の質問には答えず、「ついてこい」とだけ言って看板のない自分の店に入る。

 

 カウンターの横をすり抜け、奥の部屋へ。

 

 俺の店と彼女の店は同じ建物をすっぱり二つに分けた作りになっている。

 だから店の奥は作業スペース的な広間になっているのだが……。

 

 不気味なほど薄暗い中、棚には妖しげな薬品が無造作に並んでいた。大きな瓶にはカエルやらヘビやらが液体の中で浮かんでいて、熊の手っぽいものが転がってもいる。

 

 錬金術って、あんな素材を使うんだっけ……?

 なんとなく『調合師』が使いそうなものだらけだ。『錬金術師』と『調合師』は被る領域があるにはあるけど、そういえばクオリスさん、今まで作ったのは薬品系ばかりだものなあ。

 

 クオリスさんが部屋の隅で立ち止まる。手招きされて彼女のすぐ隣に近寄ると、クオリスさんは床へ手をかざした。

 

 ぼんやりと床に光の筋が浮かび、やがて魔法陣のような模様になった。

 

「これは……?」と尋ねると。


「転移門だ」


 うん、まあ、【解析】で見たところそのような感じのものであるのはわかっていたのですけどね。


「いやいやいやっ! なんでそんなのがここにあるんですかっ!?」


 転移門って作るのにすごく手間暇と技術が必要で、そこらにほいほい構築できるものじゃない。

 大魔導師クラスが特殊なアイテムを用いて複雑な魔法儀式を数日かけて行う、とかそんな感じだったはず。

 

 この街には北門と南門にそれぞれ作られているけど、使うには利用料を払わなければならず、スキルポイントもけっこう消費する。

 また、どこへでも移動できるわけではなく、別の場所にある転移門につなげる作業も必要だ。この街の転移門はみな、周辺のダンジョンの入り口近くにつながっていた。

 

「細かいことは気にするな。偶然、我が作ったとだけ言っておこう」


 偶然でできるもんではないよなあ……。

 この人、魔力は高いし、魔導師でもあるのかな?

 謎は深まるばかりだ。

 で――。

 

 

 

 深い森の中に転移した。

 目印なのか大きな岩がある以外、なんの変哲もない森の中だ。転移門の魔法陣が消えると、ここにあるとは誰も気づかないだろう。

 

「こっちの転移門もクオリスさんが?」


「いや、これは使い古しだ。誰かが作ったものらしいな。いや、無理にこじ開けた(・・・・・・・・)というべきか。それはそれとして、この辺りは良質の薬草も多い。便利に使わせてもらおうと思ってな」


 訊けば、街の周辺にあるほとんどすべてのダンジョンの入り口ともつなげているらしい。

 誰かが間違って店の奥に出てきたりしないのかな?


「あちらの茂みを突っ切ると細い道に出る。そこを道なりに進めば、目的の場所はすぐだ」


 クオリスさんはずんずん進む。

 その後についていくと。

 

 

 やがて黒い霧が周囲に立ちこめた場所についた。

 その中にそびえる、おどろおどろしい建物。

 古い砦だ。

 黒い霧が壁面に貼りつき、風もないのに蠢くように模様を変えていた。

 

「ここからは気を引き締めてゆくぞ。黒霧アレ自体は『魔素』が変質したもので害はないが、『呪い』を隠すのに最適だ。気づかず吸いこめば、ごっそりHPを持っていかれる」


 クオリスさんは言いつつも、俺の全身を包んでいる鎧に目を向けて。

 

「そなたの鎧なら、問題はあるまいがな」


 見た目は『鋼の鎧』と変わらないのに、何か気づいているのだろうか?

 

=============

名称:隼の聖鋼鎧

属性:―

S1:◆◆◆◆◆(聖)

S2:◆◆◆◆◆(風)

S3:◆◆◆◆◆(混沌)


HP:1400/1400

性能:B-

強度:A-

魔効:C+


【特殊】

 破邪の領域

 軽量+

=============

 

 【風】を付与して得られた『軽量+』の特殊効果。革製の胸当て程度にしか感じないほど、軽くなっている。

 そして『破邪の領域』は、セイラさんが持つ錫杖にあった『破邪の聖域』の下位互換だ。といっても、【闇】のダメージを軽減する効果以外はほぼそのままで、鎧を中心に領域展開するから移動しながらも可能。

 

 HPもかなり高くなっているし、ひとこぶオーガが出てきたってどうにかなるかも?

 

 俺はクオリスさんと入れ替わり、先頭に立って砦の中へ突入した――直後。

 

 ゴースト系の魔物に襲われた俺たち。

 いわゆる脚がなくてふわふわ飛んでる感じの魔物なんだけど、黒い色をしているから暗がりと黒い霧でとても見えづらいっ。

 しかもけっこう数が多くて、相手にしていたらキリがなかった。

 

 というわけで。

 

「うむ。いいぞ。実によい。お姫様抱っこというやつだな」


 俺はクオリスさんを抱えて砦の内部を逃げ回っていた。

 なぜ彼女を抱えているのか?

 『あー、我は走るの苦手だなー。きっと追いつかれてしまうなー(棒)』とか言うんだもんっ。

 鎧は軽くなってるけど、女性を抱えて走るほどの体力も筋力も俺にはない。

 それでもどうにか逃げられているのは、追いすがるゴーストさんたちがわりとノロマだからだ。

 

 いやこれ、女性の走力でも十分振りきれるよね?

 

 そんな真理に至った直後、大きな扉を蹴破って入ったところは大広間。黒い霧が充満していて把握しづらかったけど、セイラさんと見知らぬギャルがいた。

 

 

 そして、ギャルと対峙する、黒い大きな影。

 

 

「うぉっ!? こっちにもヤバそうなのがいるっ!」

 

 これ、挟まれましたか? と冷や汗が流れる俺でした――。



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