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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
2/81

02◆ドラゴン転生x3

 

 俺は冒険者に憧れ、その道を必死で生きてきた。

 

 けれど実力が伴わず、40歳を迎えてなお、荷物持ちがせいぜいの有様だ。

 若く血気盛んな冒険者パーティーを転々としては、荷物持ちで小銭を稼ぐ毎日。ちなみに素人童貞だ。

 

 衰える体。

 擦り切れる心。

 

 諦めそうになっては初心を思い出して奮い立たせるも、体と心がなかなかついてきてくれない。

 それでも俺は、冒険者で名をあげたくて、この道で成功したくて、もがき続けていた。

  

 そんな、ある日。

 

 

 

 

 俺はドラゴンに轢かれて死んだ。

 

 

 

 

 たぶん即死だったと思う。痛いと思う前に、意識がぷっつり途切れたのは幸いか。

 次の瞬間には、真っ白な空間にふわふわ浮いていた。

 

 俺の目の前には、白銀の鱗を持つ巨大なドラゴンがいた。ものすごい勢いで俺を轢き殺したドラゴンに間違いない。くそっ、俺の魂までも喰らいに来たというのか。

 

 ところが、である。

 

『ごめんなさい。風の精霊たちとおしゃべりしていまして、貴方に気づかなくて……』


 唸るような声にビビりまくるも、ずいぶん腰の低いドラゴンだなと思う。

 白銀のドラゴンは長い首をうなだれて、申し訳なさそうにしゅんとしている。

 

『刃を向けて挑んでくる者に情けはかけませんが、今回はわたくしの不注意によるもの。我が力の一端をお渡しし、新たなる人生を歩んでください』


 ドラゴンがそう言うと、その巨躯が背景の白に溶けていく。

 

『わたくしはセイント・ドラゴン。あなたの魂に、【聖】属性を授けましょう……』


 声は、だんだんとかすれていき、やがて俺は赤ん坊として産声を上げた。

 

 たしかに俺には【聖】属性が付与されていた。人族では10万人に一人、いるかどうかの激レア属性だ。

 しかも俺は転生前、【火】属性を持っていたのだが、それも残っていた。さらに、新たな生で付与された【風】と併せて三つの属性持ちとなったのだ。

 

 三つの属性持ちはかなりのレア。

 属性が多ければ相性のよい武具やアイテムも多くなり、必然、ステータス値以上の力が発揮できる。

 しかも強力な装備になればなるほど複数の属性を持ち、使用者の属性とぴったり嵌まれば相乗効果でさらに強くなるのだ。


 イケる! と俺は思った。

 

 今度こそ冒険者として名を馳せることができると、信じて疑わなかった。

 

 が、大成しなかった。

 

 子ども時代は将来を期待されながら、まったくもってなんの成果も得られないうちに、俺はまたも素人童貞のまま40歳を迎え、

 

 

 

 

 ドラゴンに轢かれて死んだ。

 

 

 

 

 再びの白い世界。

 今度は真っ黒な鱗に覆われた巨大なドラゴンがいた。

 

『やー、マジゴメン。まさかあんなとこに人がいるなんて思わなくってさー』


 ギャルっぽい口調ながら唸るような声に俺は心底ビビる。でもやっぱり低姿勢だ。

 

『敵なら容赦しないけど、調子に乗って飛ばしてたアタシが悪いんだよね。お詫び?ってほどのもんじゃないけど、アタシの力をちょっちあげるから、それで転生して許してよ』


 漆黒のドラゴンは軽薄に言うと、その巨躯が背景に混ざっていく。

 

『あ、アタシ、ダーク・ドラゴンだよ。キミの魂に、【闇】属性をつけちゃうね♪』


 声はだんだんかすれていき、やがて俺は産声を上げた。

 

 ダークさの欠片もないダーク・ドラゴンの言葉どおり、生まれ変わった俺には【闇】属性が付与されていた。しかも前世の【聖】、【火】、【風】に加え、新たな生には【水】も付与されていたのだ。

 

 5つの属性を持って生まれた人間が、今までにいただろうか?

 周囲が期待に盛り上がる。歴代の勇者、英傑に匹敵する神童が現れたと、それはもう有頂天だ。

 

 今度こそイケる! と俺は思った。

 

 これで勇者級の活躍ができないわけないじゃない?と余裕をぶっこいていた。

 

 

 

 

 そんな俺はまたまたドラゴンに轢かれて死んだっ。

 

 

 

 

 今度はまあ、前世や前前世に比べれば、いくらかマシな活躍はできた。

 でも一流には程遠い、二流のちょっと手前くらい。

 しかもめちゃくちゃ努力して、それこそ娼館に通う暇もなく、今回の人生では完全無欠の童貞のまま、俺はまたも40歳を迎えたところで、非業の死を遂げてしまったのだ。

 こんなことなら十代のちやほやされていたころに、えり好みせず童貞を捨てていればよかったと後悔する。

 

「二度あることは三度あるとは言うけどね。これはちょっとあんまりじゃない?」

 

 今まではひと言も話さず転生されてしまったが、さすがに不満をぶつけたくなった。

 こんこんと三度の人生の不遇っぷりを訴える。

 

『ふむ。一度でも稀少な体験であるのに、三度目ともなれば、これはもはや呪いの類を疑うべきだのう』


 くすんだ灰色の鱗を持つ巨大なドラゴンは、三度目にしてようやくそれらしい口調だった。


『許せ。我もまた前方不注意であった。この力、わずかではあるがそなたに与えよう。次こそは幸多からん人生であることを』


 灰色のドラゴンが重々しく言うと、その巨躯がかすれていく。

 

『我はカオス・ドラゴン。三神竜の一翼として、そなたの魂に【混沌】属性を刻まん』


 声はだんだんかすれていき、俺は産声を上げた。

 

 すぐさまステータスをチェック。

 

=================

属性:火、風、水、土、聖、闇、混沌

=================


 全属性、コンプリートですっ。

 しかも【混沌】属性は魔物やアイテム専用。人族や亜人は持ち得ない属性だ。

 

 こんなの、神様にだっていないだろう。

 7つの属性を持った俺は、まさに神に匹敵する力を得たに違いないっ。


 

 

 ――なんてこと、思うわけないだろっ!

 

 

 

 三度の人生で、悟った。

 

 俺は基本性能がものすごく低いっ。そして成長性も。それが魂レベルで決定されているに違いないっ。

 

 だからといって、俺は冒険者を諦めたくはなかった。

 

 前世も、前前世も、前前前世も、俺は冒険者を目指してがんばってきたのだ。

 仮にカオス・ドラゴンが言ったように、『冒険者になればドラゴンに轢かれて死ぬ』呪いがかけられていようとも。

 

 俺は、冒険者になりたい。絶対になってやりたいっ。それで大成したいっ。

 

 だが現実は非情だ。

 俺には才能がない。冒険者として大成するには、圧倒的に潜在能力が足りていない。

 

 ではどうするか?

 

 俺は生まれたばかりの頭で必死に考えた。

 そうして出した結論は――。

 

 

「オギャアッ!(そうだっ!) オギャアアーーーッ!(アイテム強化職人になろうっ!)」

 

 

 自分自身が弱いなら、武器や防具、アイテムで補えばいいじゃないっ!

 

 それを可能とするのが、アイテム強化職人だ。

 

 剣に【火】属性を付与すれば攻撃力アップ。

 鎧に【水】属性を付与すれば自動回復が付く。

 回復薬ポーションに【闇】属性を付与すれば、呪いの毒薬に早変わり。

 【土】と【聖】を組み合わせると、鉄壁な魔法防御のできあがり。

 

 そして人や亜人では持ち得ない【混沌】属性を付与すれば、まったく新しい効果が得られる可能性大っ!

  

 俺は全属性をコンプリートした。

 属性を付与してアイテムを強化する職人には最適だ。

 

 その技能を極め、いずれは自分にふさわしい伝説級の武器や防具、便利アイテムで武装して、今度こそ冒険者で成り上がってやるっ。

 

 

 ついでに。

 

「オギャアア(脱素人童貞)、オギャアァァ……(できたらいいなあ……)」



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