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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
17/81

17◆キャッシュレスな街


「では、口座開設の手続きを進めるにあたり、この街の特殊なシステムから説明させていただきますね」


 サマンサさんは真面目な顔で続けた。

 

「大前提として、この街では基本、現金を必要としません」


「えっ」


 驚く俺たちの反応を見届けてから、持ってきたかばんから何かを取り出した。

 

 手のひらサイズの金属板だ。

 

「こちらは『ギリーカード』――通称、『ギリカ』です。街での買い物や食事、商品の買取など、売り手も買い手も金銭のやり取りは、ほとんどの場合これを用いて行われます」


 【解析】でカードの情報を見る暇を与えず、サマンサさんは熱く語る。

 

「お客様の『ギリカ』を取引相手の『ギリカ』に重ね合わせると、ウィンドウが表示され、双方が取引金額を設定し、最終確認を行います」


 このように、と2枚のカードを取り出し、重ね合わせて実演してくれた。

 二つのウィンドウが現れ、手慣れた感じで互いに2,000ギリーを入力する。双方のウィンドウで金額とともに『よろしいですか?』の表示がなされ、どちらも『はい』を押すと、『シャリ~ン♪』と軽快な音が鳴った。

 

 一方の残高が2,000ギリー減り、もう一方が同額増えていた。

 

「これで取引は完了です。簡単ですよね?」


 どうだ、と言わんばかりの得意顔だ。

 

「たしかに便利ですけど、カードを失くすと大変ですね。悪用されそう」


「そこは大丈夫ですっ。『ギリカ』は本人確認機能も備わっていますから、契約者様ご本人でなければ使えません。もちろん失くすと使えませんから、すぐに再発行の手続きをしていただきますが」


「なるほど。なら安心……あれ? それだと、リィルが使えないよね」


 リィル用に別口座を用意しなければならないのだろうか?

 

「そちらのご心配にも及びません。契約者様ご本人の承諾があれば、同じ口座で他者の名義の『ギリカ』が発行できます」


 仲良しの冒険者パーティーは、専用口座を作り、お金を共有している場合もあるのだとか。

 他にもいくつか説明を受けた。 

 

「じゃあ、リィルのカードもお願いします」


「承知しました。では、まずはアリト様のカードからお作りしますね」


 差し出された紙に、名前や年齢など必要事項を記入する。

 

 サマンサさんは別の革袋を用意し、金貨を入れていく。それをかばんにしまうと、代わりに台座みたいなものを取り出した。そこに新たな銀色のカードを置く。登録用紙を確認し、小さくうなずくと。

 

「カードに指を触れてください」


 言われた通りにすると、銀色のカードがまばゆい光に包まれた。やがて消える。

 

「これでご本人様の登録が完了です。入金処理も終わりましたので、ご確認ください」


 カードを持って念じると、ウィンドウが表示され、『残高:5,000,000ギリー』とあった。

 

 続けて、リィルの専用カードを作ってもらう。

 

 俺はその間、興味本位で『ギリカ』を【解析】してみた。

 

===============

名称:ギリーカード(銀)

属性:―

S1:◆◆◆◆◆(聖)[locked]

S2:◇◇◇◇◇ [locked]

S3:◇◇◇◇◇ [locked]

S4:◇◇◇◇◇ [locked]


HP:40/40

性能:D+

強度:E+

魔効:C-


【特殊】

 本人認証

 相互通信ユニキャスト

 コアシステム通信・同期

===============


 ふむふむ………………[locked]ってなんですのん?


 他はちょっと横に置き、疑問の解決を図る俺。項目に意識を集めると、解説が表示された。

 

 スロットに属性付与も解除もできなくする状態で、【アイテム強化】スキルのランクBで[locked]状態にできるとのこと。

 ところが、この状態を解除するには、【アイテム強化】のランクSが必要らしい。

 

 俺はいきなりランクSまで上げたので、どのランクで何ができてできないのか、詳しく知らなかった。

 今後はそのあたりも勉強しないとなあ、と反省しきり。

 

 それはそれとして。

 俺の職人魂に火が点いた。

 

 これ、ロックを外して強化したら、どうなるんだろう?

 

 いちおう強化図鑑に登録があった。

 未強化の状態だと『ギリーカード(銅)』。で、銀の状態でスロット2に【聖】属性をフルチャージすると『ギリーカード(金)』になり、スロット3にも【聖】を付与すれば『ギリーカード(黒)』になるそうな。

 

 ステータス値は強化した分、上がっていくけど、特殊効果はべつに増えない。属性も無属性のままだ。

 たぶん、コンシェルジュサービスのために見た目が変わるくらいなんだろう。

 

 ちなみに【聖】属性以外を付与した場合、しょっぱい特殊効果はつくが、たいした強化にはならなかった。

 

 でもね、【混沌】を付与したらどうなるかは、わからないわけですよ。

 

 うずうず。

 ちょっとやってみたくなった。

 

 サマンサさんの説明では『ギリカ』を強化しちゃダメ、というのはなかった。

 でもわざわざスロットをロックしているのだから、問題があるのかもしれない。

 なので訊いてみた。

 

「あの、『ギリカ』を強化してもいいんでしょうか?」


 ちょうどリィルのカードができあがり、手渡しながらサマンサさんはにこやかに答えた。

 

「強化用のスロットはロックされていますから、ふつうはできません。まあ、口座を解約される場合に『ギリカ』はご返却いただくのですが、そのときに現状のままであれば問題ないです」


 ちょっと呆れぎみな声に聞こえたのは気のせいか?

 もしかして、強化した人が過去にいたのかも。

 ロック解除には【アイテム強化】のランクSが必要で、どんなスキルであれSはなかなかいない。でも都会だし、何人かはいるはずだよな。

 

 とりあえず今ここで、は自重した。

 

 その後サマンサさんと世間話を交えつつ、新居の話になる。物件の条件とか希望とかを伝え、意見をもらい、熱く語った。

 

「では、いくつか候補を選んでおきますね。明日のご予定は? 朝からでも大丈夫ですか?」


「はい。予定はなんにもないです」


「それでは朝の9時、当行の営業開始時間ごろにお越しください」


 サマンサさんはにっこり笑顔で言うと、帰り際にちょっとしたメモを渡してくれた。近場の宿をいくつか記してある。

 見た目ちっちゃいけど、この人なかなかやり手だなっ。そして親切だ!

 

 慣れない都会に来た初日に、こんないい人に当たったのは幸運以外の何ものでもないな。

 

 

 

 気がつけば、もうお昼近く。ずいぶん話し込んでしまったらしい。

 

 リィルと二人、どこでお昼を食べようかと話しながら銀行の玄関を出ると。

 

 大きな道の反対側に、とびきりの美少女がいた。

 

 地面につくほどの長い金色の髪を三つ編みに束ねている。煌びやかな錫杖を手に、ゆったりした白い神官服は清楚そのものだが、それでも隠せない豊満な胸の盛り上がり。

 

 周りには三人の男が彼女を取り囲んでいた。

 見るからに冒険者風。腰に剣を差している者、ローブを着た者、こぶしに硬そうな布を巻きつけた拳闘士っぽい人もいる。

 

 で、少女は神官風なので、バランスの良いパーティーに見えなくもないのだけど……。

 

 あれ、女の子が絡まれてるんじゃない?

 

 剣士っぽい男が話しかける中、他の二人は彼女の後ろや横をふさいでいる。開いているのは通りに面したところだけ。

 美少女さんは笑みを浮かべているものの、ときおり困ったように眉尻を下げていた。

 道行く人たちも気になっている様子だけど、男どもは強引に迫っているわけではなく、なんというか、頼みこんでいるような?

 

 と、金髪美少女さんがこちらを向いた。

 

 ぱあっと美貌に笑みを咲かせると、通りを挟んでこちら側へぶんぶんと手を振るではないか。


 俺は思わず後ろを向いた。誰もいない。というか、扉だ。閉ざされた銀行入り口の重厚な扉。

 すぐさま顔を隣へ向けた。

 

「リィル、お前の知り合いか?」


 ぶんぶんと首を横に振る我が妹。「お兄ちゃんじゃないの?」と逆に尋ねてくる。

 

「聖職者の知り合いは村の神父さんしかないよ」少なくとも今回の人生では。


 再び彼女に目をやれば、周りを囲む男たちにぺこぺこと頭を下げ、通りに飛び出しそうになったところを立ち止まり、右を見て左を見て安全を確認すると、たったかこちらへ駆けてくる。

 

 そんな彼女を前に、俺とリィルは――。

 

 

「どこへ行くんですかっ!?」


 

 二人して、そそくさと左折して歩き出したのだった。

 だって、銀行の入り口前に立っていたら邪魔かなあ、と思ったので。

 

 てか、そっちこそ見ず知らずの俺に何用が? と不審に思う俺でした――。

 


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