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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
16/81

16◆頼れるお姉さん

 

 やってきました冒険者の街『ゼクスハイム』。

 

 高い石壁に囲まれた、人口が30万に迫るとてつもなく大きな街だ。実はこの国の王都より規模が大きかったりする。

 

 街の周りは草原や田畑が広がる平野部で、河川が二本、街を挟むように流れている。一方は大型船も行き来できる大河だ。

 

 周辺は初心者に優しい危険度低ランクの魔物がちらほら。

 街からすこし離れると、森や岩山に行きつき、魔物の危険度も上がっていく。

 

 そしてそこには、洞窟や古城、迷いの森なんてものがあり、その奥深くには危険度Aランクの魔物がごろごろいらっしゃるのだ。

 いわゆるダンジョンというやつだな。最近またひとつ増えたらしい。

 

 というわけで、ゼクスハイムは初心者からベテラン、低ランクから高ランクの幅広い層の冒険者にとって魅力的な街である。

 ゆえに、冒険者が多く集まり、『冒険者の街』とも呼ばれているのだ。

 

 道中、荷運びの馬車が通りかかり、俺とリィルはついでに乗せてもらった。丸二日はかかる予定が、翌朝には到着できたのはよかった。

 

 

 

 衛兵が守る城門をくぐった。

 とくに検問はやっておらず、自由に出入りできるらしい。

 

 俺たちは馬車の荷台の中で、街を観察する。


「ふわ~。お兄ちゃん、すごいね。人がいっぱいだよっ」


 大興奮のリィル。耳と尻尾がぱたぱたしている。

 

「いやあ、ほんと、すげえなあ……」


 俺もここまで大きな街を訪れたのはほとんどなかった。

 

 幅広の通りは馬車が五、六台並んで通れる広さで、露店がそこかしこで開いているのに邪魔にはなっていない。大通りだけでなく、路地も石で舗装されていた。

 建物もほぼ石造りで、三階、四階建ては当たり前。遠くには高い塔がにょっきり生えている。

 

 街の中央付近まで、馬車で運んでもらった。お礼にいくらか支払ったけど、最後まで気さくなおじさんだったな。リィルも別れ際は手を振って挨拶できていたし。人見知りではあるが、親切な人にはすぐ慣れるのだ。

 

 バカ高い塔を見上げる位置で、俺たちは大きな道の端っこに寄ってきょろきょろ歩く。 

 明らかに田舎者の俺たち二人はしかし、浮かれながらも警戒を怠らない。

 

 なにせ俺たちは今、500万ギリーという大金を持ち歩いているのだ。

 

 なので真っ先に向かったのは――。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ~。モンテニオ銀行へようこそ~」


 銀行である。

 お金を預けるところである。

 

 実は荷運びのおじさんに、道中で銀行について尋ねていた。

 いくつか銀行を紹介され、おじさんの目的地に近い銀行のそばまで運んでもらったのだ。ちょうど街で一番大きな銀行というのも幸運だった。

 

「お兄ちゃん、本当に預けちゃうの? 大丈夫かな?」


 リィルは不安そう。まあ、他人に大事なお金を預けるなんて、ふつうは考えられないことだ。

 でも、都会ではそういう仕組みがあると説明した。

 

 俺は冒険者時代、日銭稼ぎがせいぜいだったのでお世話になる機会なんてなかった。が、稼げる冒険者になればなるほど、お金は銀行に預けているのを知っている。

 

「むしろスリや空き巣に盗られないよう、こういう信用できるところに預けるんだよ」


 俺が頭をなでなでしてやると、リィルは安心したように目を細めた。

 

 受付カウンターに近寄ると、中からちょび髭のおじさんが迎えた。

 

「ようこそ、モンテニオ銀行へ。どのようなご用件でしょうか?」


「えっと、お金を預けたいんですけど……」


「ご預金ですね。カードはお持ちですか?」


「へ? カード?」


 なんだそれ? 身分証とかかな?

 ちょび髭のおじさんは俺が困惑するのに気づいたのか、ちょっとだけ眉をひそめた。が、すぐさま笑顔に戻る。

 

「当行のご利用は初めてでいらっしゃいますか?」


「ここっていうか、銀行自体が初めてで……。俺たち、ついさっきこの街に着いたばかりなんです」


 おじさんは「なるほどー」と大げさにうなずいて、

 

「であれば、この街独自のシステムもご存じないのでしょう。それらを含めて、当行のご説明をさせていただきます」


 おじさんは俺とリィルを交互に見て、「少々お待ちください」と後ろを向いた。

 カウンターの奥は事務スペースになっていて、多くの銀行員が机に向かって仕事をしている。

 

「サマンサ君、ちょっと……」


 呼ばれ、端っこの席にいた女の子が顔を上げた。

 

 そう、女の子だ。見た目は8歳くらいの女の子。

 

 栗色の髪を後ろでひとつに束ね、小さな丸眼鏡をかた、素朴な感じの愛らしい顔立ち。ぶかぶかの服を着ている。

 身長は俺の腰くらいで、大きなかばんを肩から提げてパタパタ駆けてくる。

 

 おじさんが耳打ちすると、女の子は俺たちのほうを見て、にっこりと笑った。で、カウンターをぐるっと回って俺たちの側にくる。

 

「初めまして。本日、皆様の担当をさせていただくサマンサと申します。よろしくお願いいたします」


 きっちりしたお辞儀に俺はたじろぎつつ、「アリトです。よろしくお願いします」と頭を下げた。


「私、ホビットなので見た目は小さいですけど、これでも24歳なんですよ」


 どうやら俺が面食らっているのを察したらしく、嫌な顔もせずにそう自己紹介してくれた。

 俺の後ろに隠れていたリィルに、柔らかな笑みを投げる。リィルはてへへとはにかんで応じた。

 

 もしかしてちょび髭のおじさん、俺たちが若く田舎者であるのを理解して、話しやすい彼女を選んでくれたのだろうか? だとしたら有能だ。さすが街一番の銀行の受付職員。

 

 

 サマンサさんは「こちらへ」と俺たちを別室に案内する。

 

 広い部屋にいくつもの仕切りがあって、テーブルひとつ分のスペースで区切られていた。

 ちらほらと人はいるが、俺たちは隣に誰もいないスペースに通される。

 

 俺とリィルが並んで座ると、対面にサマンサさんが腰かけた。小さいので肩から上しか見えない。

 

「ではアリト様、本日は新規での口座開設とのことでよろしいでしょうか?」


「あ、はい。でも俺、なんにも知らなくて……」


「承知いたしました。お手続きを進めながら、説明させていただきますね。では早速ですが、本日ご入金いただく金額を教えていただけますか? もちろん少額でもけっこうですよ」


「えっと、手持ちは500万ギリーあるんですけど――」


「ごひゃっ!? ……こほん。失礼しました」


 サマンサさん、めっちゃ驚いてたな。

 俺が金貨の詰まった革袋をテーブルに置くと、「失礼します」と椅子の上に膝立ちし、「拝見します」と革袋を開いて中身を見た。「ほわぁ~」と感嘆の声を上げている。

 

「あの、なにか問題でも……?」不安になる俺。


「はっ!? いえその……失礼ながら、これほどの大金をお持ちの方とは思いませんでしたので……」


 まあ、15歳のガキんちょが持って歩く額じゃないもんなあ。

 

「こちらの正確な金額を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


 俺が「どうぞ」と促すと、サマンサさんは椅子から降りて持ってきたかばんを開き、テーブルの上に40㎝四方の金属板を置いた。

 また椅子の上によじ登り、革袋から金貨をひとつ取り出すと、金属板の上に置いた。

 なんかこの人、いちいち動作が微笑ましいな。

 

 と、金属板の上に何やらウィンドウが表示された。ここからじゃ内容は読み取れない。

 

 サマンサさんは小さくうなずくと、金貨をじゃらじゃら金属板の上にのっける。

 

「…………確認しました。すべて王国金貨で、金額はきっちり500万ギリーですね」


 どうやらあの金属板、貨幣が本物かどうか、混ぜ物がないかを調べ、正確な金額を計るものらしい。

 サマンサさんは金貨をそのままに、俺に向き直った。

 

「いかがでしょうか? こちらを全額ご入金されますと、『シルバー』のコンシェルジュサービスが1年間、受けられますが」


「コン……なんです?」


「当行ではお金にまつわるご相談、場合によってはお手続きの代行など、さまざまなサービスを有償で提供しております。これをコンシェルジュサービスと呼んでおります」


 そして、一定額以上お金を預けたお客さんは、預金額に応じて無料で使えるのだとか。


「シルバーは500万ギリーからですが、直後に全額お引きだしいただいても、1年間サービスは受けられます」


 へえ。一瞬でも500万を預ければいいのか。なんかお得だな。

 

「ご相談は解決までで1回と考え、シルバーは年間で3回、無料でご利用いただけます」


 サマンサさんは、俺の隣でかしこまっているリィルに笑みを向ける。

 にへらと応じるリィル。警戒心がかなり薄れているな。

 

「アリト様はゼクスハイムに初めてご来訪されたと伺っていますが、もし生活なされるのであれば、住居のご紹介と契約の代行もいたしますよ?」


 マジですかっ!? それは嬉しい。

 

「あの、実はこいつ……妹のリィルを学校に通わせたいんですけど、その辺も相談に乗ってくれたりするんですか?」


 サマンサさん、「妹……?」と小首をかしげる。まあ、種族が違うものね。が、プライベートには立ち入らないのか、「もちろんです」とにっこり笑った。


 ならば迷うことはない。

 

「じゃあ、全額を預けます」


 右も左もわからない都会で、回数制限があるとはいえ相談できる誰かが得られたのは心強い。

  

「ありがとうございますっ」


 愛らしい顔に満面の笑みを咲かせるサマンサさん。

 その小さな体が、とてつもなく頼もしく思える俺でした――。

 


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