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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
15/81

15◆絶対秘密を守るアイテム


 お風呂はけっこう広かった。

 二人で入っても狭くは感じない。石鹸もあるし、旅の汚れを一気に落としてしまおう。

 

「ほら、洗ってやるからこっちにおいで」


「はーい♪」


 リィルはすっぽんぽんで跳ねてくる。首から上と尻尾以外に体毛はまったくない。どこもかしこもスベスベでなだらかな小躯だ。

 浴用椅子にちょこんと座り、俺に背を向ける。

 

 俺は石鹸を泡立て、青く澄んだ髪をわちゃわちゃと洗ってやった。

 

 思わぬ大金を得た俺は、リィルのために使ってやりたくて、ひとつの案を思いついた。

 このタイミングで話してしまおう。

 

「なあ、リィル」


「ん~?」


 声をかけると、泡でしみないようにぎゅっと目を閉じるリィルが応じた。

 

「お前って、ゼクスハイムに行ってもやりたいことはないんだよな?」


「? お兄ちゃんと一緒になるんだよ?」


 ふむ。要するに俺と一緒に生活することだけを考えているんだな。でも、なんだろう? こいつの言い方って、妙な引っかかりがあるんだよな……ま、いっか。

 

「俺との生活以外でやることが決まってないなら、学校に通ってみないか?」


「学校?」


 ゼクスハイムは冒険者が集まる街だ。そこには、冒険者を育成する施設――学校がある、と聞いた。

 

 俺は自分自身を鍛える方向を(今回)生まれたときから諦めているので、まったく興味がなかった。

 

 が、リィルは別だ。

 こいつは身体能力の高いワーウルフで、伝説級グランドウルフの血統でもある。【水】と【聖】の二つの属性を持ち、『殴って治せる』拳闘僧(モンク)型の便利性能をすでに持っていた。

 

 鍛えれば、実力でSランクの冒険者になれてしまうのではないか。

 

 集団生活を送れば、人見知りもちょっとは改善するかもしれないし。

 

「冒険者を育成する学校があるんだ。興味ないか?」


「冒険者……」


 リィルは噛みしめるようにつぶやいたあと、

 

「でも学校に通ったら、お兄ちゃんのお世話とか家事とかできなくならない?」


「俺は日中、仕事をしてるからな。お前はその間、学校に通えばいい。家事は二人で分担すれば大丈夫だと思うぞ?」


「うーん……」


 リィルは珍しく悩んでいる。いつもなら俺が言うことには、なんでも素直にはいはい答えるのに。いや、無理強いしたいとは思ってないんだけどさ。

 

 俺がリィルの細い手足や背中を洗っている間も、彼女はうんうんうなっていた。俺は急かすことなく、最後に尻尾をわしゃわしゃしする。

 くすぐったそうに身をよじっていたリィルは、洗い終わったタイミングでがばっと立ち上がった。

 

「うん。リィル、冒険者になるっ」


 くるりと身をひるがえし、両手足を広げる。

 

「前とお尻は自分で洗えよ」


「えー」


 口をとがらせるが、このやり取りはいつものこと。リィルはしぶしぶ胸やら腹やら股やらお尻に泡を塗りたくった。

 その間に俺は自分をささっと洗う。

 

 お湯で泡を流し、二人、浴槽に浸かった。

 背を預けるリィルを、俺が抱っこする感じだ。

 

「なあリィル。学校に通えとは言ったけど、冒険者には無理してならなくてもいいんだぞ?」


「どういうこと?」


「冒険者の育成をするっていっても、社会に出てからの必要な知識も教えてくれる。そこで学んだことや経験したことを元に、自分なりに進路は決めればいいさ」


 リィルは「ふうん」とよくわかってなさそうな返事をしてから、俺の胸に頭をひっつけてきた。

 

「でもリィルは、冒険者になるよ」


 それだけ言って、自分の尻尾をもてあそび始めた。

 

 ま、今はそれでいいか。学校に入って、友だちができて、いろいろ考える機会はあるだろう。……彼氏も、できたりするのかな?

 またも不安になる俺でした。

 

 

 

 お風呂から出て、俺たちはそれぞれ別のベッドで寝た。

 が、明け方になってなんか体が重いなあと思ったら案の定、リィルが俺の布団にもぐりこんで引っ付いていた。いつものことだ。

 

 リィルが目を覚ましてから身支度を整え、トマスさんへ挨拶しに向かう。

 食べきれないほど豪勢な朝食をいただき、その席で俺はトマスさんに尋ねた。

 

 『魔物避けの護符』はこの町でも売っているか、と。

 

「それくらいならこちらで用意しよう」


 というわけで、タダでもらえました。しかも10枚も。余ったのはあとで売ろうかな。

 

 で、トマスさんに別れを告げ、町の外へ出たところで。

 

 俺は『魔物避けの護符』を一枚、取り出した。

 

 これは名前のとおり、魔物を寄せ付けない【聖】属性のアイテムだ。ただし、寄せ付けないのは所有者と同等以下の魔物に限られる。また、危険度A以上には効果がない。

 

 要するに、旅の道中で面倒な戦闘を避けたいときに使うものだ。

 たとえば商隊が旅をするときは、高ランクの冒険者を雇い、持たせておく。身の安全もそうだが、魔物との戦闘で商品がダメになる危険をすくなくするためのアイテムだった。

 

 つまり、俺みたいな貧弱ステータスの旅人が持っていても、あまり効果はない。

 

 というわけで、一枚はリィルに持たせた。こいつはCランク相当の実力があるので、ゼクスハイムまでの魔物は寄ってこなくなるだろう。またはぐれのオーガさんとかが出ない限り。

 

 さて、『魔物避けの護符』を【解析】で調べてみる。

 

===========

名称:魔物避けの護符

属性:聖

S1:◇◇◇◇◇

S2:◇◇◇◇◇


HP:10/10

性能:D+

強度:E-

魔効:C-


【特殊】

 魔物避け

===========

 

 ふむ。ありふれたアイテムだから、ステータスは低いな。でもスロットは2つある。

 

 で、これに【聖】と相克する【闇】を2スロットフルチャージすると、属性なしの『素性隠しのお札』に変化する。自分のステータス情報を、任意で隠蔽できるものだ。

 ちなみに【闇】を1スロットだけにすると、【聖】と【闇】がケンカして『役立たずの護符』になる。いちおう属性は【聖】なんだけど、魔物避けの効果はなくなるそうな。

 

 試しに『素性隠しのお札』を作ってみた。

 自身のステータスを開き、ぴぴぴっと操作すると、なるほど、たとえば属性の項目は、こんな風にステータスを隠蔽できる。

 

==================

属性:火□□□□、土□□□□□□□

==================


 めっちゃ不自然じゃないですかね!?

 

 スキルポイントも万と千の桁を消してみると、『SP:□□□132』ってこれまた不自然。

 白抜きの文字はどうにかならんのか?

 

 そして俺は、スキル項目で重大な問題にぶち当たった。

 

===========

【スキル】 

 □□□□□□□□□

 □□□□□□□

 アイテム強化:□

===========

 

 もうね、『なんかスキルが二つありそう』な不自然さは、大目に見ましょう。

 でも【アイテム強化】のランクを隠そうとしたら、ランクなしに思われちゃうのはどうなのか?

 

 ここ、Cって書き直したいんだよね。

 

 どうしよう? ランクSはそのままにしておこうかな? 『めちゃくちゃスキルと相性がよかった』とか言えば、大きな街だし、Sでも不思議がられたりしない?

 就職にはめちゃくちゃ有利になるとは思うし。

 

 でも、やっぱり、うーん、どうなの? 白抜き文字が怪しすぎるよなあ……。

 

 『素性隠しのお札』は使えない。そう結論付けた俺だが、諦めが悪いので、もうひとつ試そうと思う。

 

 1スロットに、【混沌】をぶちこむのだ。

 

 『銅の剣』はそれで魔剣になった。きっと今回も俺を助けてくれるに違いない、と楽観してもいいかな? ダメかな?

 

 とりあえずS2を空にして、『役立たずの護符』を作る。特殊効果がなくなって本当に役立たずになってしまった。

 

 で、空いたスロットに【混沌】をフルチャージしてみると……。

 

============

名称:素性偽りのお札

属性:混沌

S1:◆◆◆◆◆(闇)

S2:◆◆◆◆◆(混沌)


HP:10/10

性能:B

強度:E-

魔効:B-


【特殊】

 ステータス偽装

============

 

 神はおわしたっ!

 

 〝隠蔽〟効果が〝偽装〟に変わってるぅ!

 

 自身のステータスを表示し、ぴぴぴっと変更したい個所を指でなぞると、どのように変更するかの確認画面が出てきて、自由に操作が可能だった。

 

 で、偽装した俺のステータスはこうなりました。

 

==================

属性:火、土

 

HP:150/150(150)

MP: 30/ 30(30)

体力:E+

筋力:E

知力:E

魔力:E

俊敏:E+

精神:E


SP:700


【スキル】

 アイテム強化:B

==================

 

 まあ、うん。

 スキルランクはBのほうが就職には有利かなって。

 ステータス値も変えようと思ったけど、そこは見栄を張っても仕方ないしね。

 

 というわけで俺は、ちょっと有能そうなアイテム強化職人のステータスを手に入れたのだっ。

 

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ひょうし
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