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ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
13/81

13◆呪いも強化でなんとかなるなるっ


 町長さんの家は、大通りから外れた場所にあった。石造りの立派なお屋敷だ。

 

 娘さんにかけられた呪いのことが気になって、手持ちの『オーガ水』を【強化図鑑】スキルで調べてみたところ。

 

 なんと【聖】属性を2スロット以上ツッコめば、呪いを解く系のアイテムになることがわかったのだ。

 

 これは、売りこむチャンス。

 しかも呪いを受けたのは娘さんだ。べつに美人とは限らないから、まったく下心なんてないけどね。ええ、まったく。

 

 ただし、『オーガ水』からできる解呪アイテムが有効かどうかは、娘さんの呪いの種類による。

 呪いにかかったことは町全体に広まっているけど、その種類はなぜか公表されていなかった。

 

 だから、まずはそれを確かめに来たのだ。

 

 入り口で大声を張り上げると、使用人の男性が現れた。

 旅の者で、もしかしたら解呪できるかもしれないと告げると、すぐさま俺たちは屋敷の中へ通された。

 見ず知らずの若者二人に縋ろうとするなんて、かなり切羽詰まった状況であるらしい。

 

 応接室に通され、ソファーに腰かけてしばらく待つ。リィルは革張りのソファーなんて初めてで、落ち着かない様子。俺も前世で何度か座ったことがあるくらいだ。

 

 やがて六十代と思しき男性が現れた。白髪頭の老人は、『トマス』と名乗った。町長だ。

 

 俺は、天井を仰いだ。

 

 親が六十代の、娘さん。少なく見積もっても、三十代かあ……。

 

 いや、アリだな。

 

 俺は体こそピチピチの十代だが、心は四十のおっさんだ。百年以上生きてはいるが、死んだのは三回とも40歳なので、精神年齢はその辺りで固定されてるっぽい。

 つまり、アラフォーでも同年代。貧乏冒険者が通える娼館では、たいていそのくらいの人ばかりだったので、わりと慣れている。言ってて哀しい。

 

 などと感傷に浸っていると、トマスさんは座りもせずに俺に近寄ってきた。

 

「君たちか。娘の呪いを解いてくれるというのは?」


 ん? 俺は『解けるかもしれない』としか伝えてないんだけど……。


「いや、俺は――」


「ああ、これぞ神のお導き。見たところずいぶんお若いようだが、うむ、信用しよう。というか、今は藁にも縋る思い。誰であろうと構わない。さあ、さっそく呪いを解いてくれっ」


 俺の手を強引に取ると、「さあさあ」と引っ張る。ちょっとテンパりすぎじゃないですかね?

 

「あの、だから俺は――」


「わかっておる。報酬は弾もう。もちろん、成功したらだがな」


「いえその、ですから――」


「先に言っておくが、娘の呪いは他言無用。誰かに話そうものなら、全財産をつぎ込んでSランク冒険者を雇い、抹殺するっ」


 ええっ!? もしかして首を突っこんだ時点で負けのパターンですか?

 

 俺は激しく後悔しつつ、引きずられていった。

 

 

 

 

 奥まった部屋。

 扉を開けてもロウソクが一本、寂しく灯っているだけで、視界が悪い。

 

 広い部屋のずっと奥に、うっすら天蓋付きのベッドが見える。

 

 

 ――そこに、巨大な何かがいた。

 

 

 ぷしゅー、ふしゅるるるーっ、と奇怪な音を発している。生き物の呼吸音だろうか? はっきり視認できないので【解析】も使えず、恐怖がつま先から頭のてっぺんまで登ってくる。

 リィルが腕にしがみつき、不安そうに俺を見上げていた。

 

 トマスさんが言う。


「念を押すぞ? 娘にかけられた呪いは絶対誰にも話してはならぬ。今の娘の姿も(・・・・・・)、だ」


 うすぼんやりとシルエットが浮かんでいる、あの巨大生物のことを言っているのだと理解した。

 

 俺は、ごくりと生唾を呑みこんで、一歩、二歩と近づいた。

 

 絶句し、立ち止まる。リィルがカタカタ震えるのを腕に感じた。

 

 女がいた。

 人の姿をいちおう(・・・・)保っている。

 

 だが、その体躯は男とか女とか判別不可能なほど、はちきれんばかりに膨れ上がっていた。体重はおよそ三百㎏。寝返りどころか腕を上げるのも難しいほど、ぶくぶくに太っていたのだ。

 

 

 ――『膨張の呪い』。


 

 【解析】で見た、彼女にかけられた呪いの種類だ。

 食べなくてもひたすら体に肉が付き、太り続ける呪い。苦痛はさほどないものの、時間とともにHPはどんどん減っていく。

 HPが0になれば、やがて衰弱死してしまう。

 

 そして醜くなる自身の姿と、身動きが取れなくなる絶望感を伴う厄介な呪いだった。

 

 そこらの解呪アイテムや、Aランクの呪術師でもなければ呪いを解くのは不可能。それくらい強力な呪いだ。

 

「さあ、早く娘の――マレーナの呪いを解いてくれっ!」


 急かされても無理です。

 【強化図鑑】上では、『オーガ水』から強化できるどのアイテムでも、この呪いは解くことができないのだ。

 

「どうした? まさか今さら『解けない』などとは言うまいなっ」


 言いたい。でも言えない。


 どうしよう?

 

 正直なところ、娘さんを助けてお礼に一晩お楽しみ、なんて展開を期待していたのだけど、相手はもはや人を放棄したような姿をしていらっしゃる。

 

 今さら『呪いは解けません』とか言っても、必死すぎる町長が俺やリィルに何をしでかすか……。

 

 俺が迷い悩んでいると。

 

 奇妙な呼吸音に紛れ、かすかな声音が耳に届いた。

 

 

「た、すけて…………」


 

 気のせいかもしれない。幻聴かもしれない。でも、そんな声を聞いてしまったら――。

 

「トマスさん、ちょっと外に出てもらえませんか?」


「なに……?」


「集中するんで。すみませんけど」


 俺は四度の人生で一番の演技をしてみせた。

 トマスさんは焦燥と不安をたっぷりぬりこんだ瞳で俺を見る。

 

「信じて、よいのだな……?」


「お任せください。リィル、お前も外に出てくれ」


 不安そうなリィルを引きはがした。

 トマスさんは俺の覚悟を信じてくれたのか、大きくうなずいて、踵を返した。リィルもあとに続く。

 

 扉が閉まり、俺はマレーナさんと二人きりになった。

 

 ぷしゅるー、ふしゅるるるー。

 

 彼女の奇妙な呼吸音が室内に響く。

 さほど苦しげではないけど、肉に埋もれた目元から流れるのは、紛れもなく涙だろう。

 

 どうにか、したい。

 

 【強化図鑑】には、『オーガ水』から彼女を救う手立ては見つからないけど。

 

 

 ――俺には、『銅の剣』を魔剣に変えた能力ちからがあるっ。

 

 

 確信なんてなかった。ただの勢いだ。それでも予感めいた何かがあったのも事実だった。

 

 俺は『オーガ水』に【聖】属性を2スロットにぶっこみ、3スロット目に【混沌】属性をフルチャージした。

 


============

名称:破邪の神水

属性:聖、混沌

S1:◆◆◆◆◆(聖)

S2:◆◆◆◆◆(聖)

S3:◆◆◆◆◆(混沌)


HP:10/10

性能:A

強度:E-

魔効:A


【特殊】

 邪祓い++

============



 すげえっ!

 

 元が危険度Bの魔物からドロップした虹色呪いアイテムだったからか、【混沌】を混ぜたら超レアな解呪アイテムに生まれ変わったぞ。

 

 究極とか伝説級のアイテムには劣るものの、神様や邪神の呪い以外なら、たいていの呪いが解呪できるアイテムだ。

 もちろん、『膨張の呪い』にも利く。


 俺は肉をかき分け、マレーナさんの口に『破邪の神水』を流しこんだ。


 こくりと、彼女が飲み下すと。

 

 小瓶にたっぷり残っていた『破邪の神水』が空っぽに消えた。アイテムは基本、一回の使用限定だからだ。

 

 ぱあっとマレーナさんの体から光があふれる。 

 それまで時間とともに減っていたHPが、ぴたりと止まった。

 

「ぁ、ぁぁ……」


 マレーナさんが意識を取り戻したようだ。

 おそらく自らのステータスを確認したのだろう。

 

「な、おった……? なおった……っ!」


 俺も確かめた。彼女のステータスから、『膨張の呪い』は消え去っていた。

 

「トマスさん、終わりましたよ」


 扉を開き、手を合わせて祈っていたトマスさんに声をかける。

 

「解呪は成功しました。呪いが解けたので、数日で元の体型に戻ると思います。体重が減るまでは安静にしたほうがいいですけど、食事はしっかりとってください。逆に衰弱しちゃうので」


 解呪の直前、『膨張の呪い』の詳細説明を【解析】で調べたときに得た知識を伝えると、トマスさんは俺を押し退けるように娘の側へ駆け寄った。

 

「とう、さん……、なおった、よ……」


「ぉぉ……、おおっ! よかった、本当に、よかった……」


 トマスさんは娘の巨大な頭に抱き着き、涙を流していた。

 

「お兄ちゃんっ!」


 リィルが俺に突進してきた。ぐぼっと小さな頭が腹にめり込むが気合で我慢。


「すごいねっ! やっぱりお兄ちゃんはすごいね!」


 ふふふ、リィルに称賛されると気分がいい。

 

「でも、どうやって呪いを解いたの?」


「……まあ、いろいろとな。運もよかった」


 こいつには、いずれ俺の秘密を話さなくちゃな。でも今はまだ、誰にも内緒にしておこう。

 

 そう思いつつ、ひとまず俺は、泣きじゃくる町長の後ろ姿を見て、ほっと胸を撫で下ろすのだった――。

 


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ひょうし
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