表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンに三度轢かれた俺の転生職人ライフ  作者: すみもりさい
第一章:一流の冒険者になるために
1/81

01◆とある職人の野望

【書籍化情報】

UGnovelsさまから小説1巻から3巻が発売中。

ナナイロコミックスさまからコミック1巻が発売しました!


主要キャラクターのイラストをご紹介。左からリィル、ダルク、セイラ、アリト、クオリスです。

挿絵(By みてみん)


 ギルラム洞窟。

 いわゆるダンジョンというところに、俺は単身で潜っている。

 

 最近発見された新しいダンジョンで、冒険者たちがこぞって探索を行っている最中だ。

 今のところ、公式に確認されたのは14階層まで。Sランク冒険者のパーティーであっても、地図を作りながらではなかなか先には進めない。

 それほど広大で、危険なダンジョンだった。

 

 

 で、俺は今、そこより深いところまでやってきた。地下19階層だったっけ?

 

 

 ちなみに、俺は冒険者ではない。

 ダンジョンに潜っているのも当然、攻略が目的ではなかった。だいたい攻略で単身ソロとかあり得ない。まあ俺、基本ぼっちだからパーティーなんて組めないけど。

 

 とにかく、俺の目的は――。

 

  

 

 ぽっかりと開けた場所にたどり着いた。

 洞窟内は壁面から淡い光がにじんでいるので視界は良好だ。

 

 漆黒の全身鎧を身に着け、右手には『鋼の剣』、左手には『鉄の大盾』を装備している俺。

 剣と盾は特殊効果も何もない、Cランク冒険者の標準的な装備品だ。

  

 グールが二十体ほど、俺を見つけてのそりと近づいていた。

 

 動きが遅く、まさしく腐った死体な感じの連中はしかし、わりと強い。見た目は死んでいるのに、べらぼうにHPが高いので、なかなかやっつけられないのだ。

 

 だが連中は火に弱い。火炎系の魔法をぶっ放せば、面白いようにHPが削れる。

 

 ただ残念なことに、俺は魔法が使えない。

 魔力が極端に低い俺は、魔法を覚えてもたいした威力にはならず、役に立たないのだ。

 

 グールが「おばぁ~」とか「ぼへぇ~」とか気持ち悪い声を出して、俺に寄ってきた。走って逃げられる速度に思えるが、ひとたび連中に背を向けると、ありえないくらい元気に走ってくる。ぶっちゃけ馬より速い。

 

 ふふ、でもね。

 逃げるなんて、とんでもない。

 

 だって俺、このグールどもに(・・・・・・)用があって(・・・・・)こんな奥深くまで来たんだもん。


 俺は右手で『鋼の剣』を強く握り、構える。そして――。

 

 

 【火】属性で強化(・・)を重ねる。『鋼の剣』が『煉獄の鋼剣』に進化した(・・・・)。特殊効果『火炎一閃』が新たに付与される。

 

 

 武具やアイテムに【火】【風】【水】【土】【聖】【闇】【混沌】の7属性を付与して強化する。

 それが【アイテム強化】と呼ばれるスキルで、俺はそのランクが最高のS。

 強化された武具やアイテムは、付与した属性の種類によって性能が上がり、特殊効果がつくときもある。で、名前も変わって進化する場合があった。

 

 俺は『火炎一閃』を発動する。

 

 横薙ぎに空気を裂いた剣から、炎の帯が飛び出してグールどもを襲った。

 炎はグール一体一体を絡めとり、メラメラと燃え上がる。連中のHPがどんどん減っていき、やがて炎とともに腐った体が跡形もなく消え去った。

 

 ぽわんぽわんぽわわわわん♪

 

 気の抜けた音がそこらで鳴り響き、グールたちからアイテムがドロップした。


 陶器製の小瓶が多数。中身は『麻痺毒』だ。

 それらの中に、どす黒い色をした鈴が落ちていた。

 これこそ、今回俺が求めているアイテムだった。



 俺はダンジョンを攻略に来たのではなく、たんに素材集めがしたかったのだ。

 

 

 だって俺、『アイテム強化職人』だし。

 

「いきなりドロップするとはラッキーだったな」


 俺は『麻痺毒』の小瓶ともども、鈴を腰の袋へ放りこむ。

 

 『麻痺毒』はひとつだけ手元に置いて、【聖】属性を重ね掛けして強化する。『麻痺毒』は『MP回復薬』に変わった。

 ごくりと飲んでMPを回復。

 俺は魔法が使えないけど、剣や防具の特殊効果を使うにはMPが必要で、俺の最大MPはこれまたしょっぱいので、こまめに回復させないとマズいのだ。

 

 開けた空間の奥、いくつもの穴からグールがのそりのそりと現れた。

 

 俺は『鋼の剣』あらため『煉獄の鋼剣』を握りしめ、さらなる素材回収に暴れ回った――。

 

 

 

 『煉獄の鋼剣』が壊れました。

 

 特殊効果を使いすぎたか。

 ちょうどグールの猛攻もひと段落したことだし、俺はそこらに散乱しているドロップアイテムをかき集め、腰の袋にぽいぽいと入れた。

 袋の容量を明らかに超える数だが、この不思議袋にはまだまだ余裕がある。なので気にしない。

 

 さて、目的は達した。剣も壊れたし、撤収するかね。

 

 グールからドロップするレアアイテム、『怨念の鈴』は7個集まった。

 そのうちのひとつを手にし、俺は【聖】属性と【混沌】属性で強化する。

 

 すると、『怨念の鈴』は『郷愁の鈴』へと成り変わった。

 

 これを、ちろちろりん♪と鳴らすと。

 

 

 ばびゅんっ。

 

 

 景色が一変。

 殺風景な部屋の中に、俺はいた。見慣れたここは俺の自室だ。

 

 手にした鈴がぷるぷる震え、音もなく砕け散る。さらさらと空気に溶け、跡形もなく消え去った。

 『郷愁の鈴』は一回使うと壊れてしまう、儚いアイテムなのだ。

 で、どこにいようと拠点(この場合は俺の部屋)に一瞬で移動させてくれる、超々便利なアイテムなのである。

 

 今のところ、俺が住む街で『郷愁の鈴』は販売していない。『錬金術』ではまだ作成方法(レシピ)が発見されておらず、誰にも作れないからだ。

 

 この激レアアイテムを作れるのは、この世界では(たぶん)俺だけ。

 『アイテム強化職人』であり、そのためのチート能力を兼ね備えた俺にしかできない芸当なのだ。

 

 

 何が言いたいかというと、これを大量に作って販売すれば、大儲けができるはずっ。

 

 

 お金が貯まったら、ちょっと高価なアイテムを買ってみるかな。それを強化したら、どんなアイテムに進化するのか? わくわくが止まらない。

 

 『郷愁の鈴』ができたときは震えたものだ。

 これは売れるっ!と直感したね。

 

 俺は全身鎧を脱ぎ去り、エプロン姿に成り変わる。

 いそいそと営業準備を整え、入り口の札を『準備中』から『営業中』にひっくり返す。

 

 うふふ。今日はどんなお客さんがやってきて、俺の強化で笑顔になって帰ってくれるかな?

 

 不安と期待が入り混じるこの瞬間もまた楽しい。


 『アリト強化工房』。

 

 俺の名を冠した小さなアイテム工房だ。今の俺の肩書は、『アイテム強化職人』。まだ小さなお店だけど、これからどんどん大きくするのが俺の夢。

 

 あれ? でも待って?

 

 そもそも俺が職人になったのは……。

 

 俺は15年前――生まれたばかり(・・・・・・・)のときを思い出していた(・・・・・・・)――。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はいかがでしたか?
上にある『☆☆☆☆☆』を
押して評価を入れてください。


書籍版は好評発売中。おかげさまで1巻重版です! 小説は1巻から3巻まで発売中。
コミック1巻も発売しました!
↓の画像をクリックすると、公式ページに移動します。
ひょうし
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ